保健分野の官民パートナーシップにおける IFC の支援 援助を最も必要とする場での機会創出 ドナーとのパートナーシップ カタルーニャ自治州政府、オランダ、南アフリカ、スウェーデン、スイス、ブラジル開発銀行( BNDES )、 世界実績ベース援助パートナーシップ( GPOBA )、アフリカ開発銀行、米州開発銀行( IDB )、ビル・アンド・ メリンダ・ゲイツ財団、ドイツ投資開発銀行(DEG)、オランダ開発金融公社(FMO)の協力を受けています。 保健分野の官民パートナーシップ における IFC の支援 プライマリーケア、病院、臨床検査、専門医療サービスにおける IFCの活動の概要 局長からの挨拶 良質で安価なヘルスケアにアクセスできることは経済発展と開発にとって不可欠となります。 各国政府が財政赤字の削減に取り組む中、民間の資源と知識を活用して医療にアクセスし易 くすれば、従来の公共セクターのアプローチを補完することができます。その際の課題は、 市民が最大の恩恵を受けるよう、民間パートナーといかに効果的に関わるかにあります。 IFC は、低中所得国でより多くの人々が質の高い医療にアクセスできるよう、各国政府や民 間セクターと協働しています。IFC のアプローチは 2 通りあります。一方は、アドバイザリー・ サービスを通じて、政府による官民パートナーシップ (PPP) の実施を支援すること、そして他 方は、投融資活動を通じて、医療サービスを提供する民間企業に資金供与を行うことです。 本書にはその両方の例が示されています。 保健分野で官民の協力を強めることには数多くの利点があります。民間事業主との契約が適 切に構成されたものであれば、政府は、医療支出をより正確に把握し、予算の効果を高めら れます。一方、市民にとっては、医療基準の向上と維持に伴い、より良質な医療に期待する ことができます。 この「保健分野の官民パートナーシップにおける IFC の支援」の目的は、官民協力の成功例 を示すと同時に、革新的なパートナーシップや、途上国における医療の普及と質向上のため に民間セクターが果たしうる重要な役割について紹介することにあります。 ガイ・エレーナ ローレンス・カーター iii iv 目次 保健医療における課題 2 官民パートナーシップ (PPP) の利点 6 IFCとの協働 7 ifcの経験 12 プライマリーケア 14 専門医療サービス 15 病院 20 臨床検査 26 結び 30 v 低所得国の平均寿命は高所得国より 23 年も下回っています。 所得水準 低所得国 57 低位中所得国 67 高位中所得国 71 高所得国 80 = 生存年数(2 年間)   病死や不慮の死によって何年もの貴重な時間が失われています。 所得水準 低所得国 59% 低位中所得国 27% 高位中所得国 6% 高所得国 8% = 健康な期間 (2%) = 病死/不慮死によって失われた期間 (2%) 低所得国の医療支出の対 GDP 比は高所得国を遥かに下回っています。 低所得国 $ $ $ $ $ 5% 低位中所得国 $ $ $ $ 4% 高位中所得国 $ $ $ $ $ $ 6% 高所得国 $ $ $ $ $ $ $ $ $ $ $ 11% 出所:世界保健機関 (WHO) 1 保健医療における課題 各国政府の財政は、特に保健医療を中心とする公共サービスの支給において一段と切迫して います。医療支出は現在、世界全体で 4  兆ドル(世界 GDP 比 9%)を超えていますが、 1 人当たりの年間支出では、アフリカの一部の低所得国では 3 ドル足らずなのに対し、米国 では 6250 ドル(GDP 比 18%)に達するなど、大きなばらつきがみられます。1 人当たり の年間医療支出が 20 ドル未満の国は 30 カ国を上回ります。 多くの低所得国では、基本的医療サービスや医療品を支給できる施設が不足しています。さ らに、その大半では訓練を受けた医療従事者を必要としています。こうした現状がもたらす 結果は歴然としています。低所得国の平均寿命は高所得国に比べ 23 年も下回っているので す。さらに、高位中所得国や高所得国では、疾病のために貴重な時間が妨げられている国民 の割合は平均 8% 以下であるのに対し、低所得国では 60% に達することもあります。 こうした状況を改善したくても、公的予算だけでは、市民に必要な医療を提供することは往 々にして不十分です。そのため、低所得国の人々の医療費の自己負担の割合は、高位中所得 国での割合に比べ、60% 近くも高くなっています。これは、途上国の市民にとってあまりに 大きな負担です。 官民パートナーシップ (PPP) は、基本的医療サービスの幅広い普及と、既存の医療システム の質改善のうえで有効な解決策の一つとなりえます。そのため、多数の政府が公共ヘルス ケアのニーズに対応する手段を民間セクターに求めています。保健分野の官民パートナー シップの実施における草分けとして、IFCは、革新的な民間参加型のソリューションを提供 する、多くの政府にとって信頼のおけるアドバイザーとなっています。 2 アフリカの保健医療に投資 サハラ以南アフリカには世界人口の 11% が 暮らしていますが、疾病が人々とその家計に 及ぼすコストにおいては世界の 24% を占めて います。にもかかわらず、この地域は、世界 の医療支出の 1% 以下、医療従事者数では全 体のわずか 3% を占めているに過ぎません。 この地域で疾病に取り組み、人命を救うに は、特に貧困層を対象とする医療の選択肢を 大幅に改善しなければなりません。ヘルスケ アの国家目標の達成に民間セクターを活用す れば、政府によるこうした目標の達成の助け となりえます。 IFC と世銀の「アフリカ保健イニシアティブ (Health in Africa Initiative)」(10  億ドル) は、非営利及び営利の医療機関が、隔絶され た農村地域や都市貧民街の住民をはじめ、あ らゆる所得水準の人々にサービスを提供で きるような新たな方策に主眼をおいたもので す。その投資の対象としては、物理的な医療 インフラの整備やプロの医療スタッフの増強 などが挙げられます。医療における需要の動 向に基づくと、この地域では、さらに病院の ベッド 50 万台分、医師 9 万人、看護師 50 万 人、そして地元の医療従事者およそ 30  万人 を追加する必要があります。また、近代的な医 薬品や医療備品の生産施設も不足しています。 保健医療をめぐる IFC の長期的な投資戦略 は、1~1.2 億ドルのコミットメントの取り付 けを目指すプライベート・エクイティ・ファン ド「アフリカ・ヘルス・ファンド( Africa 3 Health Fund)」が主軸となっています。こ のファンドは、IFC、ビル・アンド・メリン ダ・ゲイツ財団、アフリカ開発銀行、そして ドイツの開発金融機関である DEG が共同で 立ち上げたもので、そのパフォーマンスは、 金融面はもとより、貧困層に資するビジネス の育成能力も測定の対象となります。第一号 は、ケニアのナイロビ・ウィメンズ・ホスピ タルへの 260  万ドルの投資でした。この病 院の入院患者、外来患者、さらに提供する専 門医療サービスの半数以上は貧困層の女性や 子供たちとなるでしょう。 アフリカ・ヘルス・ファンドは、最新の IFC による報告書「アフリカにおける保健 ビジネス:人々の生活向上のための民間セ クターとの協力 (The Business of Health in Africa: Partnering with the Private Sector to Improve People’s Lives)」の調査に基づくも のです。同報告書によると、サハラ以南アフ リカでは、民間セクターはすでに保健医療 関連の財やサービスのおよそ半分を提供し ており、今後 10  年間の医療需要を満たすの に必要となる 250~300  億ドルの資金の最高 60% を肩代わりできそうだと述べています。 また、IFCと世界銀行は、他のパートナー機 関と共に、民間ヘルスケアの環境整備と強 化のための戦略の一環として、サハラ以南 アフリカでの医療投資環境に関する最初の 報告書を 2011 年初頭までに作成する予定で す。IFC はまた、現地の金融仲介機関を通じ て、医療に携わるアフリカの小規模企業が長 期資金に一段とアクセスできるよう努めてい ます。 44 保健分野における官民パートナーシップの主な利点 • 開発の初期段階より、民間セクターからの投資という形で、資金を調達できる。 • 契約期間に亘り、見通しのきく予算編成が可能になり、予算をより効果的に活用できる。 • システムや建物のライフサイクル・コスト(存続期間中の総コスト)を最小限に抑える、より効率的な設計が可能になる。 • サービスの質の基準が高められ、トレーニング・プログラムの継続的実施が可能になる。 • 民間セクターに集中していたり、入手しにくい臨床技術にアクセスできる。 • 業界のベストプラクティス、より高度な技術、運用管理上の知識、起業経験の豊かな人材にアクセスできる。 • 通常不可能な定期的保守や技術のアップグレードを受けられる。 • PPP 委託契約は競合入札プロセスを経て授与されるため、資金の有効な活用とリスクの最適な分散化が可能になる。 5 官民パートナーシップ (PPP) の利点 官民パートナーシップは、政府が公的財政に負担をかけずに公共ヘルスケア・システムの質 と効率、アクセスを高める際に民間知識を活用するための手段となるうえ、公共セクターに よる医療配給方法を補完することができます。 政府(または公的医療保険機関)は、PPP の下で、インフラの提供や、公的医療保険を有す る患者へのサービスの提供、あるいはその両方を民間企業(営利または非営利)に委託しま す。その際、PPP は、施設の管理や医療以外のサービス(例:食事や洗濯)の提供から、専 門医療サービス(例、検査や血液透析)や、臨床検査サービスを含めた病院全体の経営に至 るまで、具体的なニーズに応じて民間企業の役割を特定することができます。 PPP の主たる利点は、様々なパートナーの異なる技術や資源を斬新な方法で組み合わせて利 用したり、リスクと責任を分担できることです。これにより、政府は、民間セクターの経験 と知識から恩恵を受けるだけでなく、一般管理業務や日常の運営業務を委託することによっ て、本来注目すべき政策や企画、規制に対応することが可能になります。 設計と建設 プライマリーケア 詳細にわたる設計、建物の建設、 プライマリーケア、公共ヘルス、 医療設備敷設、資金調達 予防接種、母子のケア 医療以外のサービス 臨床検査サービス IT 機器及びサービス、保守、食事、 検査室での分析、診断テスト、医療 洗濯、清掃、会計 設備の保守、その他のサポート・ サービス 運用管理 専門臨床検査サービス 施設全体、病院網や診療所網 血液透析、放射線療法、外来外科、 (またはその両方)の運用管理 その他の専門医療サービス 6 IFCとの協働 IFC は、PPP の直接取引についての助言サービスと、一般市民に良質なサービスを効率的に提 供するためのプロジェクトに関する助言を各国政府に行っている唯一の国際機関です。IFC が支援する保健分野の PPP により、各国政府は、医療の立ち遅れた地域にヘルスケア・サー ビスを普及させ、公的資金を効果的に活用してサービスの質と頻度を高めることで、究極的 にヘルスケア・サービスのアクセス向上を図ることができます。 政府への支援に際し、IFC は政府の担当官と緊密に協働しながら、良質の医療保険を安価に 提供できるような取引の特定にあたります。これにより、政府は自国のニーズに最も適した プロジェクトの選定が可能になります。その後、IFC は、一般市民の利益を最大限に高め、 しかも、政府と投資家と患者のニーズがバランスよく活かされた取引となるよう、その構造 をデザインします。さらに、IFC は、ドナーからの資金動員においても有利な立場にあります。 ドナーからの資金は、助言コストの一部や、実施中に発生する費用の支援に充当することが できます。さらに IFC のプロジェクトには、政府(そして患者)が契約通りの質の高いサー ビスを受けられるよう、厳格なパフォーマンス基準と説明責任などが課されます。 IFC はまた、新興国の民間ヘルスケア・セクターに投融資を行う世界最大の国際機関でもあ ります。ヘルスケア・セクターへの投融資を行うことにより、IFC は、貧困層も含めた全て の所得水準の人々が質の高い医療サービスを受けられるよう、その向上に力を入れています。 7 IFC は、保健分野での官民パートナーシップにおいて先駆者として認識されています。 • 客観性、中立性、透明性の面で評価が高い。 • 広範な支持を取り付け、また適格な投資家との間で信頼を強めることができる。 • 政府の目的と患者のニーズ、プロジェクトの収益性の間でバランスを取りつつ、社会的・開発上の目的を達成する能力がある。 • 官民パートナーシップとその関連取引において長期にわたる成功の実績を有する。 8 9 保健分野の PPP における IFC の活動 保健セクターにおける IFC の支援は、途上国のあらゆる 地域に拡大し続けています。2010 年 9 月の時点で、IFC は、新病院 4  カ所の建設、資金調達、管理、さらに専門 的診断治療施設 6 カ所の建設/改修、諸設備の敷設、運営 の面で政府に助言を提供しています。 エジプトでは、教育目的を兼ね備えた 2  件の最新の病院 の建設に当たる、保健分野では初の PPP 設立について の助言を行っています。施設の設計、建設、資金調達、 諸設備の敷設、管理運営に関与するこれらの PPP を通し て、最新の輸血用血液の保管設備を備えたスムハ産婦人 科病院(ベッド数:200 台)と、モワサット神経外科・ 泌尿器科病院(ベッド数:223 台)が建設される予定です。 メキシコでは、トラルネパントラとトルーカで新病院 2  件 (ベッド数:120  台)の建設、資金調達、施設管理に携わ る PPP についての助言を ISSEMyM(公務員医療保険機 関)に行っています。これらの病院は、混雑を緩和し、 人口が急増中の都市部でサービスを提供します。 また、ウズベキスタンでは、保健分野における同国初の PPP を支援しています。この PPP は、同国首都のタシケン トと、フェルガナ、ナヴァーイ、サマルカンドの各州で、 4 件の診断センターの設計、建設、諸設備の敷設、資金調 達、運営に関与します。これらのセンターは、低所得者 も含め年間およそ 30 万人に、画像診断、臨床検査、専門 医による外来患者の診察を行う予定です。 同様に、モルドバでは、ガン患者のための放射線療法セン ターの建設、設備敷設、運営にあたる PPP と、同国の主 要紹介病院の画像診断センターの改修、設備敷設、運営 に携わる PPP の 2 件を実施しています。これらのサービ スは無料で患者に提供される予定です。 10 11 IFCの経験 IFC は、1989 年以来、87 カ国で、275 件を上回る公共サービスの民間委託プロジェクトに 助言を行ってきました。保健セクターでは、IFC の支援を受け、現在活発に業務を展開して いる官民パートナーシップは、以下のような医療施設やサービスを幅広く手がけています。 • プライマリーケアのクリニック • 血液透析、白内障治療などの専門臨床検査 • 二次医療、高次医療を提供する新規の公立病院 • 臨床検査および診断サービス • その他のサポート・サービス IFC は、2010 年 3 月の時点で、途上国 33 カ国で 86 件の民間ヘルスケア・プロジェクトに 総額 10 億ドル余りの資金を供与しました。これらのプロジェクトの総額は 36 億ドルに上り ます。加えて、IFCの保健セクター向け投融資に対し、参加銀行から 8600 万ドルの協調融資 を動員しました。IFCの保健プロジェクトのうち 27 件 (31%) は国際開発協会 (IDA) の融資 適格国を対象としたものです。さらに新興国では、IFCが支援した一連のヘルスケア施設が 年間約 550 万人の患者を治療し、約 3 万 6000 人を雇用しています。 これより、IFC の最近のヘルスケア・プロジェクトのいくつかをご紹介し、官民協力により、 どちらか一方だけでは達成しがたい、多大な成果をいかにして上げているかを実証するほ か、世界各地のヘルスケアの課題に PPP がどのようにして革新的な解決策を提供できるかを 示しています。 12 13 プライマリーケア レソトの診療所 レソトの首都マセル市にある公営診療所の粗末な状況は、地域の医療システム全体に悪影響 を及ぼしています。これらのコミュニティベースの診療所は、もとはと言えば、主要公立病 院にかかる負担を軽減するために建てられたものですが、今や建物は老朽化し、医療スタッ フや医薬品・備品、さらに作動する設備すら不足している有様で、そこを訪れる住民はます ます減っています。代わって、住民は基本的サービスを受けるのですら主要病院に直接通う ため、すでに多忙な専門外来に大きな負担がかかっています。そのため、患者の病状が悪化 したり、手当てが遅れたために治療可能なはずの病状が深刻化したり、治療費が重んだり、 治療が一段と難しくなることが多々あります。 こうした状況を受け、レソト政府は、IFC の助言の下で、公共診療所を民間の手で運営する、 この地域で初の官民保健パートナーシップを設立し、総工費 1 億ドルをかけて国立病院を建 設しました(20 ページ参照)。これらの施設の設計、建設、資金調達、運営全般を委託する 契約は、南アフリカ最大の医療機関であるネットケアが主力となり、地元の女性所有のビジ ネスや内外の医療提供者、他の投資家などが参加する、Tsepong コンソーシアムとの間で締 結されました。診療所の改修と設備敷設に加え、このコンソーシアムは職員のトレーニング や、公共医療サービスのさらなる強化に向けた様々なサービスへの拡充も図っています。 装いも新たなこれらの診療所は、「世界実績べース援助パートナーシップ (GPOBA)」の支援 を受け、2010 年 5 月に一般患者へのサービスを開始しました。 14 専門医療サービス ルーマニアでの血液透析施設 ルーマニアの国営医療システムは、急増する血液透析サービスへの需要に追いつけない状態 でした。順番待ちの患者が増えただけでなく、訓練を受けた職員が大幅に不足し、陳腐化し た既存施設だけでは間に合わなくなったからです。 そこで IFC とルーマニア政府は 2003 年に、公立病院 8 カ所の血液透析施設を民間管理下に 委ねるための試験的プログラムを開始しました。この PPP 委託契約の下では、民間企業が、 施設の改修と設備敷設、設備の購入・維持・操作、全医療備品の調達、職員の採用・訓練・ 管理、そして新血液透析基準に基づいた患者の治療に対し全面的責任を負います。 その結果、8 カ所の血液透析センター は国際的な大手企業 4  社の手に委ね られました。 同 国 の 血液透析患者の 4  人に 1  人 がサービスを受 けるこの プロジェクトを独立評価した結果、民 営のクリニックは、公的管理下のクリニ ックより良質のサービスを安価に提供 できることが分かりました。さらに、こ の PPP のおかげで、血液透析による治 療と診療所への投融資として 2860 万ユ ーロを民間から調達しました。 15 マグラビ病院: エジプトでの白内障の治療 白内障は、失明の一因として世界的に知られて います。紫外線の強い中東地域の多くの途上国 では、白内障は特に多い眼疾患です。この地域 の遠隔の農村に住む多数の人々にとって、手術 は高額で高嶺の花である場合が多いのです。 IFC とサウジアラビアのマグラビ病院は、良 質の眼科治療が全ての所得層の人々に早急に 必要であることを認識し、白内障治療など、 世界クラスの眼科サービスをエジプトの農村に 住む貧しい人々に提供するための独自のパート ナーシップを形成しました。IFC  から 4500  万 ドルの融資パッケージを受け、マグラビ病院 は、週に 3  回、医療班を遠隔地の村々に派遣 し、数百人もの貧しい患者に検眼と診断を行っ ています。各村を定期的に訪れるこの「巡回」 眼科キャンプの主眼は、白内障のような眼疾 患を早期に発見して失明を防ごうというもの です。医薬品は無料で配布され、手術が必要 な場合は、カイロにあるマグラビ眼科病院に 紹介されます。 IFC  の融資パッケージはまた、低コストで治療 を受けられる眼科病院 3 カ所と眼科紹介セン ター 4 カ所を同国内に建設するための支援も 行いました。これらの新病院では、年間 50 万 人の検眼と 5  万人分の手術を行える一方、経 験豊富な医療スタッフ  1000 人を雇用します。 このプロジェクトは、より多くの人々が民間眼 科医に安価にかつ容易にかかれるようにする ことで、公的医療システムに負担をかけずに 地域の民間眼科サービスを改善するモデルと なっています。 16 1717 視力を取り戻す エジプトで鍛冶屋を営むサレー・ザキ・ハリファ (49  才)は昨年、両眼を白内障と診断されました。視力 の衰えと共に、ハリファは、3  人の幼い子供たちを養う こ ともままならなくなりました。ここ 8 カ月間働いて家計を 助けてきた妻のわずかな月給(70 エジプト・ポンド=約 12.5  ドル)も、カイロの北の小村にあるアパートの家賃 をやっと払える程度にしかなりません。 「働けないだけじゃありません。独りで歩くことすらで きないんです。12 才の息子、ムスタファに手を引いても らう有様です。」とハリファは言います。ムスタファは 父の手助けをする一方、夏季休暇中は、家計を助けるた めに自分も働き始めました。 最初に白内障と診断されたとき、ハリファは、病院に行 きましたが、2060 エジプト・ポンドもかかる手術費を とうてい払える余裕などありませんでした。 そんな彼を助け てくれたのは、IFC の支援を受けたマグラビ病院(16 ペ ージのプロジェクト参照) でした。 この病院の巡回アウトリーチ・プログラムの下で検眼を 受けた後、ハリファは同病院に行きました。このプログ ラムは、20 人ほどの医療班が、週に 2 回、各地の貧しい 村々を巡回し、一カ所で 300~400  人の検眼を行うという ものです。その目的は、失明に至りそうな眼疾患を治療 することです。マグラビ病院の医師団は、ハリファを検眼し た結果、両眼とも手術で治療が可能だと確認しました。 「視力を取り戻せるかもしれないと知ってホッとしまし た。他人から施しを受けて暮らしてきた生活に終止符を打 ち、家族を再び養うことができるからです。」とハリファ は言います。 18 19 病院 レソトの国立病院 レソトの主要公立病院「クイーン・エリザベス 2 世病院」では、医療スタッフや備品が常習的に 不足し、整備も疎かにされてきました。IFC  のベースライン調査によると、同病院のサービ スは予想以上に悪化し、重症患者のほとんどが最も基本的な治療すら受けていないことが判 明しました。 レソト政府は、IFC の支援を得て、マセル首都圏に広がる診療所網に支えられた新国立病院 (ベッド数:425 台)の建設と運営に携わるアフリカで初の終始一貫した保健医療の PPP を 実施しています(14 ページ参照)。この施設の設計、建設、資金調達、そして運営(臨床検 査と医療以外のサービスの両方を提供)を手がけるのは、南アフリカ最大の医療機関である ネットケアが主力となり、地元の女性所有のビジネスや内外の医療提供者、他の投資家など が参加する、Tsepong コンソーシアムです。 先端技術を駆使した総工費 1 億ドルのこの病院は、同国人口の 3 分の 1 にサービスを提供し、 臨床研究の主な教育機関としても利用されるこ とになります。必要資金は、南アフリカ開発銀行か らの商業融資と政府からの拠出で賄われます。GPOBA  もまた 625  万ドルのグラント(無償資 金)を供与して、新病院のサービスと新しい診療所の外来患者向けサービスを支援しています。 このプロジェクトのおかげで、ヘルスケア、医療サービス、建設方面で 1000  人以上の雇用 が創出されつつあります。また、地元経済に長期的に貢献できるよう、このコンソーシアム には、プロジェクトの持分、管理、下請け、コミュニティ開発で地元の参加を促すため、具 体的な目標を定めるよう義務付けているほか、こうした目標をコンソーシアムの契約中を通 じて所定の割合で増加していくよう規定しています。そのパフォーマンスは四半期ごとに独 立したモニタリング機関により検査され、基準に至らなかった場合は予め設定された罰則が 適用されます。 20 インドのアポロ・ホスピタルズ社 インドの農村地域に住む 7  億人に近い人々にとって良質のヘルスケアは夢のような話で す。同国では病院の 80% が大都市に集中しているからです。インド最大の医療機関で あるアポロ・ホスピタルズ・エンタプライズ社は、IFC  から 5000  万ドルの融資パッケー ジを受けて、小都市や半農業地域に専門医療サービスを提供するため、自社の病院ネッ トワークの拡充に乗り出しました。 同社は現在、医療の立ち遅れた地域で、腫瘍科、放射線科、神経外科、その他の最新技 術を駆使した医療サービスを提供する、高次医療施設を 15  カ所に建設中です。「アポ ロ・リーチ」と呼ばれる低コストで治療を受けられる新病院チェーンでは、低所得層と 高所得層の両方の患者の治療に当たり、富裕な患者から支払われた、より高額の治療費 が病院の利益となる仕組みになっています。 アポロ・リーチは、医療サービスを必要とする人々全員に良質のケアを提供する、有望 なビジネスモデルとなっています。大都市の病院よりも最大で 30% 安価にサービスを 受けられるアポロ・リーチにより、医療の行き届いていない地元コミュニティに経験豊 富な医師や看護師が配備されるようになりました。また、この病院網のおかげで、医療 スタッフ、技師などに雇用の機会がもたらされています。 ナイジェリアのハイジア・ナイジェリア社 総合医療ケアを提供する西アフリカの有力会社、ハイジア・ナイジェリア社は、民間医療 サービスの質とアクセスを向上するため、IFC、サティア・キャピタル社、アフリカ保健投 資ファンド (IFHA)、オランダ開発金融公社 (FMO) と戦略的金融パートナーシップを結び ました。 この種のものとしてはナイジェリアで初のこのパートナーシップにより、既存病院 3 カ所で専 門医療サービスの収容力と水準を高めるための資金 2600 万ドルがハイジア・ナイジェリア 社に供与されました。さらに、このプロジェクトは同社の健康管理機関 (HMO) の情報 技術インフラを拡充する支援も行います。 医療支出の 74% が個人負担というナイジェリアで、良質な医療サービスを提供するこ とは急務となっています。このようなシステムは、医療保険を持たない人々をますます 貧困に陥れています。ハイジア社に対する IFC の支援は、医療へのアクセスを拡大し、 一般管理と患者介護のベストプラクティスを示すことになるでしょう。 21 22 23 ブラジルのスブルビオ病院 ブラジル・バイア州政府は、ここ10  余年にわたり、医療への取り組みに 斬新なアプローチを用いる先駆的存在となってきました。バイア州(及び サンパウロ州)政府は 1990 年代に、5 年間の契約で、州政府が建設し設 備を敷設した一連の新病院の運営を非営利企業数社の手に委ねたのです。 このモデルはよい成果を上げたものの、長期契約の締結を阻む法的制限に より、新たな公営施設や設備への民間投資を誘致できない状態でした。 2004  年に連邦政府が設定(後に州政府が追従)した PPP  の法的枠組み により、長期的な PPP 契約を結ぶことが可能になりました。その結果、 バイア州政府は、スブルビオ救急病院の建設の際に、ブラジルで初の保 健医療の PPP を立ち上げたのです。 この PPP の下では、外科、外来クリニック、医療検査、理学療法部門、 薬局を含む、 収容ベッド数 298  台の病院の設備敷設と運営が民間事業体に 任されます。また、同病院は、従来の救急医療に加え、トラウマ、救急整 形外科、その他の複雑な外傷に対する専門治療も行っています。 この PPP 契約は、プロメディカ・ダルキア社のコンソーシアムに授与さ れる予定で、このコンソーシアムにより病院の設備費としてし 3200 万ド ルの投資が行われるものと期待されています。 スブルビオ病院への投資は、保健方面への投資としては同国で 20 年ぶり の大規模なもので、同国の最貧層の人々に質の高い医療サービスを提供す る新ビジネスモデルの草分け的イニシアティブとなっています。IFC は、 ブラジル開発銀行 (BNDES) と米州開発銀行 (IDB) の協力を得て、この契 約についての助言をブラジル政府に提供しました。 24 25 臨床検査サービス ルーマニアの放射線および臨床検査サービス ルーマニアでは 2002 年に、同国の医療システムに民間参加を促すための改革を実施するため、 就任したばかりの保健相が IFC の支援を要請しました。これを受け、IFC は、幅広い医療サー ビスと施設での PPP 実施、病院の余剰能力の合理化とパフォーマンス向上のための政策・ 制度改革導入、民間医療保険の促進に向けた法的・行政措置の設定、という 3  部にわたる戦 略を作成しました。 この戦略の最初に挙げられた保健医療の PPP の実施では、ブカレストの主要公立病院である コレンティナ病院の放射線科と内部検査室が対象となりました。この病院は神経科と神経外 科を専門とし、年間 4 万人の患者の治療と 60 万件の検査を実施しています。しかし、画像設 備やレントゲン機器は古く、需要に対応できない上、内部の検査室では備品や近代的な設備が 不足しています。 この PPP の下で各種の放射線・画像設備が完備された結果、サービスが向上し、病院のコス ト低減に役立ちました。またこの PPP のユニークな点は、民間事業体が公務員患者と民間患 者の両方に画像サービスを提供できることです。公務員患者(公立病院が費用を負担)は、病 院を通じて優先的な治療が保証される一方、民間患者は、外部にある別の入口からレントゲン センターに入ります。このシステムにより、保健省のコストを削減し、しかもより多くの患者 にサービスを提供できるようになったのです。 また二つ目の PPP では、検査室のグレードアップと設備の交換、職員の訓練に多額の資金が 投じられた結果、病院の臨床検査サービスの精度と効率が改善されました。 26 インド・アンドラプラデシュ州 での診断サービス インドのアンドラプラデシュ州(人口 7500  万人強)で は、様々な民間医療機関の大規模なネットワークが存在 します。しかし、民間セクターが対応できる貧しいコミ ュニ まだ手付かずの分野があります。 ティでの医療ニーズには、 同国の保健家族福祉省は、IFC に対し、4 カ所の州立医科 大学付属病院の診断サービスを改善するため、民間の パートナーに働きかけるよう要請しました。加えて、IFC は、 保健医療における今後の官民パートナーシップの在り方 を示す総括的な政策枠組みも策定する予定です。 このパイロット・プログラムは以下の目的を掲げています。 • カキナダ、クルヌール、ヴィシャーカパトナム、ワランガ ルの各市にある大学付属病院の診断能力と専門職員の トレーニング強化。 • 官民パートナーシップがコスト削減に役立つことの 実証、医療における斬新な解決策の提供、強力な紹 介ネットワークの育成、進化する社会医療保険の枠 組みへの組み入れ。 • 民間パートナーに関心があり、他の州立大学付属病院 で繰り返し実施可能な官民パートナーシップ開拓上の グッドプラクティスの設定。 こうした総括的な政策枠組みの中で、優先的サービス分 野の特定、医療サービスの支給において民間投資家の指 針となるべき戦略の策定、PPP イニシアティブのための ガイドラインの設定が行われます。 27 28 29 結び 本書は、保健分野の官民パートナーシップにおける IFC の先進的な役割について述べたもの です。医療サービスの支給では、民間の参加がますます重要な要素となっています。PPP は、 国民に提供する医療サービスの質と種類の向上を目的に、資金面と知識面で政府を支援する ことができます。 保健分野での PPP は比較的新しい動きでもあります。IFC はその中で先駆者として斬新な役 割を担っています。ここでご紹介した様々な例は、施設の建設から運営、基本的サービスか ら専門医療サービスまで、保健医療の PPP の成功に寄与した IFC の幅広いサービスを示す ものです。しかし、保健医療の PPP はこれらの領域だけに限られるわけではありません。医 薬品やサプライチェーンの管理、医療廃棄物処理、ならびに輸送(救急車、車両の管理と配 送)などは、こうした新しい領域の PPP の一例です。 それらが円熟した領域であっても、まだ未開発の領域であっても、IFC は、各国政府のニー ズに応え、援助を最も必要としている人々の利益となるような取引を通じて、保健医療のイ ニシアティブが及ぼす社会への影響を高めるため、これからも尽力し続ける所存です。 30 クレジット 筆者および寄稿者 Catherine O’Farrell、Carla Faustino Coelho、Shirley Geer、Ludwina Joseph 写真 Anatoliy Rakhimbayev/世界銀行 — ウズベキスタンの看護婦 表紙 AGECOM/Vaner Casas — スブルビオ病院の建設、ブラジル " Night Eulen/Flickr i Ami Vitale/世界銀行 ii-iii IFC — トラルネパントラのクリニック、メキシコ iv-v Rogue Angel/Flickr — レソトのクリニック 3-4 IFC — レソトの新クリニック:オープニング前 5-6 Serik Sarapov/IFC — ウズベキスタンの診断センター 7-8 Scott Hirko/istockphoto 9-10 Simone D. McCourtie/世界銀行 11-12 Emmanuel Nyirinkindi/IFC — レソトの新医療クリニック 13 Jimmy Sylvester/IFC — ルーマニアの新しい血液透析センター   15 IFC — マグラビ巡回眼科キャンプ 16 Ryan J. Lane — エジプトの鍛冶屋 17-18 IFC — レソトの国立病院の建設現場 19 IFC — ハイジア社、ナイジェリア 21-22 AGECOM — ブラジル・バイア州でオープンしたスブルビオ病院 23-24 Andreia Radu/IFC 25 iwishmynamewasmarsha/Flickr 27-28 Simone D. McCourtie/世界銀行 29-30 デザイン Jeanine Delay 31 連絡先 ワシントン本部 東アジア・太平洋地域 ワシントンDC(米国) 香港(中国) 2121 Pennsylvania Avenue NW 14/F, One Pacific Place, 88 Queensway Road 電話:+1 202 473 1000 電話:+852 2509 8100 ヨーロッパ・中央アジア地域 モスクワ(ロシア連邦) ベルグラード(セルビア) 36, Bldg. 1, Bolshaya Mochanovka Street, Bulevar Kralja Aleksandra 86-90 3rd Floor 11000 Belgrade 電話:+7 495 411 7555 電話:+381-11 302-3750 ラテンアメリカ・カリブ海地域 サンパウロ(ブラジル) Edificio Torre Sul, Rua James Joule 65, 19 andar, Cidade Monções 電話:+55 11 5185 6888 中東・北アフリカ地域 カイロ(エジプト) ドバイ(アラブ首長国連邦) Nile City Towers, 2005 Corniche el Nil The Gate DIFC North Tower, 24th Floor, Boulac West 10th Floor, Sheikh Zayed Road 電話:+20 2 2461 9140/45/50 電話:+971 4 360 1004 南アジア地域 サハラ以南アフリカ地域 ニューデリー(インド) ヨハネスブルグ(南アフリカ) 50-M, Shanti Path, Gate No. 3 14 Fricker Road, Illovo, 2196 Niti Marg, Chanakyapuri 110 021 電話:+27 11 731 3000 電話:+91 11 4111 1000 ウェブサイトおよび電子メール www.ifc.org/infrastructureadvisory infrastructureadvisory@ifc.org 32 IFC のビジョン 貧しい人々にも貧困から脱却し生活の向上を図るチャンスがあるべきです。 IFC の中心となる価値観 • 優秀さ • コミットメント • 倫理観 • チームワーク IFC の目的 人々が貧困から脱却し生活向上を図れるよう、以下の形で機会創出に励みます。 • 開放的で競合的な市場の育成を途上国で促進する。 • 不平等や格差が生じたときに企業や民間部門の他のパートナーを支援する。 • 開発の立ち遅れた地域で生産性の高い雇用の創出と基本的サービスの提供を支援する。 • 民間企業の発展を目指し、資金動員の触媒となったり、他の資金を動員する。 この目的を達成するため、IFC は、個々の企業への介入(直接投資、アドバイザリー・サービス、アセット・マネージメント社)、基準設定、事業環境整備と いった業務を通じて、開発成果を高める解決策を提供します。 ifc.org 2010 年