世界開発報告 概観 世界開発報告 仕事 表紙について 世界の大部分の言語には、仕事に関連した様々な言葉が存 在し、それぞれが仕事の異なる側面を強調している。中に は、仕事の中身の性質を示唆し、どのようなスキルや知識 が必要かを連想させるものもある。また、生産に費やされ る人的努力を指すものもあり、働く人の姿と、作業に打ち込 む感覚が伝わってくる。経済活動に携わる大勢の人々と関 アラビア語 マプチェ語 連した言葉もあり、集合的な統計と容易に関連付けること ブルガリア語 マラガシ語 ンランド語 アイスランド語 インドネシア語/マレーシア語 リ トアニア語 ェールズ語 ができるこ ともある。一方、相互義務と安定の程度に関係し タガログ語 バハサ語 フランス語 韓国語 中国語 ガ語 た契約関係が重要であるかのようにみえる場合もある。一 ウ イタリア語 ウルドゥー語 部の言語では、仕事場、少なくとも生産工程の一つを指定 タイ語 ェーデン語 グアラニ語 グルジア語 ギリシャ語 する言葉すらある。これらの言葉の多種性を踏まえると、 ビルマ語 ィ ドイツ語 ヘブライ語 ツワナ語 フ 仕事には様々な側面があり、単一の言葉でその特性を表現 スウ 日本語 クロアチア語 マオリ語 バスク語 したり、単一の指標でそれを測定できないことを明白に示 ポルトガル語 ベンガル語 モホーク語 している。 スワヒリ語 ルーマニア語 ペルシャ語 アフリカーンス語 シ ヒンディー語 ヨルバ語 ポルトガル語 ョナ語 オランダ語 仕事に関連した言葉は、必ずしもある言語から他の言語 ロシア語 ポーランド語 ズールー語 アイマラ語 チベッ ト語 ハンガリア語 に簡単に翻訳できるとは限らない。選択可能な言葉の範囲 タミール語 キルンディ語 ウクライナ語 が言語ごとに異なるかもしれないからだ。言語が思考と密接 ケチュア語 トルコ語 ベトナム語 ロマンシュ語 アルバニア語 に関連しているために、仕事という言葉への言及の仕方が人 ジュバ・アラビア語 ゲール語 タジク語 ロマ語 アムハラ語 によって食い違っているようにみえる時がある。この差は スペイン語 ディンカ語 英語 ロマ語 恐らく、異なる社会で異なる仕事の特性を強調しているせ ガリシア語 いだろう。それはまた、仕事についてのアジェンダがそれ ぞれの国で異なる可能性も示唆している。 多くの言語では、雇用に関連した言葉が、一般的な「名 詞」であるだけでなく「固有名詞」であることもある。 歴史を通じて、例えば、ヒンズー語の「 Vankar 」、日本 語の「服部」、スペイン語の「 Herrero 」、ズールー語の 「Mfundisi」のように、名字が特定の技能や職業と関係してきた。仕事に関連した言葉が 苗字に使われるのは、人々が自分の存在を職業と関連付けていたことを示している。今で は、人々は、自己を啓発し、人生をより有意義なものとするかどうかで職業を選ぼうとす る。さらに、ほとんどすべての言語には、仕事の欠如を表現する言葉がいくつかある。こ れらの言葉は必ずといってよいほど、精神的な窮状に近い否定的な意味をもち、時には不 名誉な要素すらある。いかように見ても、仕事とは単なる生計の手段ではなく、仕事の種 類を超えた意味を言語は伝えている。それは人々の人格の一部なのである。 世界開発報告 仕事 概観 世界銀行 ワシントン © 2012 International Bank for Reconstruction and Development / The World Bank 1818 H Street NW, Washington DC 20433 Telephone: 202-473-1000; Internet: www.worldbank.org Some rights reserved 本書は、外部からの支援を受けつつ、世界銀行のスタッフによって作成された著作物である。ただし、世界銀行は、本書に含まれる内容の 各項目をすべて所有しているわけではない。従って、世界銀行は、本書の内容が使用された場合、第三者の著作権が侵害されていないとい う保証は一切行わないものとする。かかる侵害に起因した訴訟のリスクは利用者のみに帰属するものとする。 本書の中で表明されている結果、解釈、結論は、世界銀行や、その理事会、関係する各国政府の見解を反映したものとは限らない。ま た、世界銀行は、本書に掲載されたデータの正確性を保証するものでもない。本書の地図上に示された境界線、色分け、呼称、その他の情 報は、いかなる領域に関しても、その法的地位についての世界銀行側の判断を示すものではなく、そのような境界線の是認または容認を示 すものではない。 本書には、世界銀行に付与された特権や免除を限定または放棄するとみなされる内容は一切含まれていないものとする。 権利と許可 本書は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示3.0(Creative Commons Attribution 3.0 Unported license (CC BY 3.0))の下で利用可 能である(http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)。このライセンスの下において、以下の条件で、商業的目的を含む、本書の複写、 頒布、転送、改変が許可されている。 表示:本書を参照する際は以下のように表示するようお願いする。「World Bank. 2012. World Development Report 2013 Overview: Jobs. Washington, DC: World Bank. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0」 翻訳:本書を翻訳する場合は、上記の表示とともに、以下の免責項目を掲載するようお願いする。「本翻訳は世界銀行によって作成された ものではなく、世界銀行の正式な翻訳とみなすべきではありません。翻訳の内容、または翻訳上の誤りについては、世界銀行は一切責 任を負わないものとします」 権利およびライセンスに関する問合せ先:Office of the Publisher, The World Bank, 1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA 、 ファックス:202-522-2625、Eメール:pubrights@worldbank.org 写真提供: 1ページ:タジキスタンのザクロ畑で働く農民、© Gennadiy Ratushenko/世界銀行。ベトナムのアパレル工場で働く賃金労働者、© Lino Vuth/世界銀行。アフガニスタン、カブールの露天商、© Steve McCurry/Magnum Photos。メキシコの路上でのトウガラシの乾燥、© Curt Carnemark/世界銀行。 39ページ:インドネシア、ジャカルタの建設現場の労働者、© Sebastiao Salgado/Amazonas̶Contact Press Images。Sebastiao Salgado/ Amazonasの許可を得て利用。禁無断転載。 表紙のデザイン・イラスト: Will Kemp、世界銀行 内部デザイン: Naylor Design 目次 序文  vii 謝辞  ix 概観:仕事を中心に据える  2 仕事の必要性  3 仕事を通じて実現する開発  8 仕事の評価  14 多岐に及ぶが互いに関連する仕事のアジェンダ  17 仕事というレンズを通した政策  21 仕事を中心に据えたが、データはどこにあるのか  34 質問:伝統的な見解が正しいときはいつか  36 脚注  40 参考文献  42 v 序文 今日、仕事は、世界各地の政策担当者や、業界、そして一家の生計を立てるために懸命に 努力している何十億もの人々に深刻な問題をなげかけている。 世界危機からの回復が遅れる中で、世界の失業者数は、25才未満の若者7,500万人を含 め、約2億人に達する。さらに女性を中心とする多数の人々は、労働市場から締め出されて いる。主にアジアとサブサハラ・アフリカで進みつつある就労年齢の人口増加に対応しよう とすると、今後15年間におよそ6億人分の新規の仕事が必要となる。 一方、途上国で働く労働者全体の半数近くは小規模な自作農か自営業者であり、そのよ うな仕事には通常、定期的な賃金や給与、福利厚生などはない。途上国の最貧層の人々が 抱える問題は、仕事がないことでも、また労働時間が短かすぎることでもない。その多く は、複数の仕事をかけもち、長時間働いている。それでいて、彼らは、自分や子供たちの 将来を明るくできるだけの十分な収入を稼ぐことができず、時には、危険な労働条件の下 で、基本的な権利すら与えられずに働くことが頻繁にある。 仕事は、経済と社会の発展のための手段となる。それは、個人の安定した暮らしに不可 欠だが、それ以外にも、貧困削減、経済全体の生産性向上、社会的結束といった、社会の 幅広い目的の数々で中心的な役割を果たす。仕事が開発に及ぼす効果には、技能の習得、 女性のエンパワメント、紛争後の社会の安定化などが挙げられる。こうした広域な目標の 達成に役立つ良い仕事は、それに従事する者だけでなく、開発に資する仕事として社会全 体にとっても貴重となる。 「世界開発報告2013」は、仕事という命題を、開発プロセスの出発点として、そして対 応すべき課題の中心として据え、それに対する我々の考え方を再検討している。本書は、 様々な分野を横断的かつ多面的に捉えることで、開発に資する仕事とそうでない仕事があ る理由を探求している。その結果、開発に最大限の効果をもたらす仕事とは、都市の機能 を向上し、経済を世界市場に連結し、環境を保護し、信頼感と市民との関わりを促し、貧 困を削減するものだと報告されている。ことに重要な点は、こうした仕事がフォーマル・ セクターだけに存在するのではなく、各国の状況によっては、インフォーマルな仕事も変革 的な影響力をもつことである。 この骨組みの下で、本書は、現在の喫緊の課題に関する政策担当者の問いに取り組んで いる。例えば、各国の開発戦略は成長と仕事のどちらを重視すべきか、状況によっては労 働者と仕事のどちらを保護すべきか、開発のプロセスにおいて仕事の創出とスキルの構築 のどちらを優先させるべきか、などが挙げられる。 民間セクターは、途上国の仕事全体の90%を占めており、仕事を生み出すための重要な エンジンとなっている。一方、政府は、民間セクター主導型の強固な成長を促すための環 境整備や、開発に資する民間セクターでの良い雇用の、民間セクターによる創出を妨げてい る障害の低減を通じて重大な役割を果たすことができる。 本書は、こうした政府の目的を支援する際に、3段階のアプローチを提言している。ま ず第 1 に、マクロ経済の安定性、事業環境の整備、人的資本への投資、法による統治と いった政策上のファンダメンタルズは、成長と仕事の創出の両方を確保する上で不可欠と なる。第2に、適切に立案された労働政策は、経済成長を雇用の機会の創出へとつなげる ことに役立つが、仕事を生み出すためには、労働市場を越えた幅広い方策で補完する必要 vii viii   序文 がある。第3に、各国政府は、自国の独自な環境を踏まえた上で、どのような仕事が最も 開発のためになるのかを長期的な視野に立って見極め、民間セクターがそのような仕事を 創出するのを阻止している障害を除去するか減少すべきである。 現下の世界経済では、仕事の環境も急速に変わりつつある。人口動態のシフト、技術の 進歩、そして尾を引く世界金融危機からの影響により、雇用をとりまく世界各国の情勢に も変化が出ている。こうした変化に上手に適応し、仕事の創出という課題に適切に対応し ている国では、生活水準、生産性、社会的結束のあらゆる面で大きな成果を達成することが できる。反対に、それを怠る国では、経済・社会開発がもたらす変革的な効果を実現できな いことになろう。 「世界開発報告2013」は、開発における仕事の役割を総体的に理解する上で重要な貢 献をする。その知見は、世銀グループが今後、様々なパートナーや、仕事という課題に取 り組む途上国と協働していく際の貴重な指針となる。我々は、一丸となって協力すること により、多数の仕事を生み出し、仕事が開発に及ぼす成果を最大限に高めることができる。 ジム・ヨン・キム 総裁 世界銀行グループ 謝辞 本書は、Martín Ramaを長とし、Kathleen Beegle およびJesko Hentschelのチームにより 作成された。その他のコア・チームのメンバーは、Gordon Betcherman、Samuel Freije- Rodriquez、Yue Li、Claudio E. Montenegro、Keijiro Otsuka、Dena Ringoldである。 また、リサーチ・アナリストとして、Thomas Bowen、Virgilio Galdo、Jimena Luna、 Cathrine Machingauta、Daniel Palazov、Anca Bogdana Rusu、Junko Sekine、Alexander Skinnerがチームに加わった。リサーチ支援は、Mehtabul Azam、Nadia Selim、Faiyaz Talukdarが担当した。また、本チームは、Mary Hallward-Driemeier、Roland Michelitsch、 Patti Peteschから終始、有益な協力を受けた。 本書は、開発経済担当副総裁室( DEC )と人的開発ネットワーク( HDN )との共同 で作成された。本書の作成に際し、全般的指導は、Justin Lin前開発経済担当上級副総裁 兼チーフ・エコノミスト、Martin Ravallion開発経済担当副総裁兼チーフ・エコノミスト 代理、 Tamar Manuelyan-Atinc副総裁兼人的開発ネットワーク担当主任が行った。Asli Demirgüç-Kunt開発政策局長とArup Banerji社会保護・労働局長は、本書の作成過程の監 督に当たった。 Robert B. Zoellick 前世界銀行総裁、 Jim Yong Kim 総裁、 Caroline Anstey ならびに Mahmoud Mohieldinの各専務理事におかれては、本書作成中に貴重な知見をご提供いた だいた。さらに、理事会とその事務局にも、様々な会合やワークショップで建設的に関与 していただいた。 また、George Akerlof、Ernest Aryeetey、Ragui Assaad、Ela Bhatt、Cai Fang、John Haltiwanger、Ravi Kanbur、Gordana Matković、Ricardo Paes de Barrosからなる諮問パ ネルからは、本書作成中、鋭い分析やフィードバックをご提供いただいた。 本書の作成に当たり7カ国のケーススタディから情報を得た。バングラデシュでのケー ススタディはBinayak Sen、Mahabub Hossainの両氏をリーダーとしYasuyuki Sawadaが 担当した。メキシコのケーススタディには、Nelly Aguilera、Angel Calderón Madrid、 Mercedes González de la Rocha、Gabriel Martínez、Eduardo Rodriguez-Oreggia、Héctor Villarreal が参加した。モザンビークのケーススタディは、Finn Tarp をリーダーとし、 Channing Arndt、Antonio Cruz、Sam Jones、Fausto Mafambisseが担当した。パプア ニューギニアの場合は、 Colin Filer と Marjorie Andrew がリサーチのコーディネートを 行った。南スーダンのケーススタディはLual DengをリーダーとしNada Eissaが担当した。 チュニジアでの作業は、Ines Bouassida、Mohamed Ali Marouani、Ben Ayed Mouelhi Rim、Abdelwahab Ben Hafaiedh、Fathi Elachhabの参加をえて、AbdelRahmen El Lahga がコーディネートした。さらに、ウクライナのケーススタディは、Olga Kupets、Svitlana Babenko、Volodymyr Vakhitovにより実施された。 本チームは、本報告書の作成につき、ノルウェー政府(同国外務省、マルチドナー「変 革のための学術研究推進プログラム(KCP II)、北欧信託基金)、デンマーク政府(同国 外務省、経済事務局(SECO))、カナダ国際開発庁(CIDA)、スウェーデン政府(同 国外務省)、日本政府(開発政策・人材育成基金)からの寛大なご支援を受けた。それに 対し感謝の意を表する。また、ドイツ経済協力・開発協力省(BMZ)は、同国の国際協力 ix x  謝辞 公社(GIZ)を通じて、開発フォーラムの組成にご尽力いただいた。ベルリンで開催され た同フォーラムには世界各地の著名な研究者が一堂に会した。 さらに、各国ケーススタディの実施に当たっては、オーストラリア国際開発庁 (AusAID)、カナダ国際開発研究センター(IDRC)、デンマーク政府(同国外務省)、 日本の国際協力機構(JICA)研究所、国連大学経済開発研究所(UNU-WIDER)からも 寛大なご支援を賜った。英国の海外開発研究所(ODI)は、様々なセミナーやワークショッ プの組成を通して本チームを支援していただいた。 本チームの活動に終始関与していただいた国際労働機関(ILO)に対し、特に謝意を表 する。このプロセスには、José Manuel Salazar-XiriñachsとDuncan Campbellが議論の調 整に当たり、ILOの多数の方々にご参加いただいた。また、国際通貨基金(IMF)、経済 協力開発機構(OECD)、国連経済社会理事会(ECOSOC)と協議が行われた。さらに、 国際労働組合総連合(ITUC)にも、本チームとの継続的対話を通じて貢献をいただいた。 各国との協議は、バングラデシュ、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、フラン ス、ドイツ、インド、日本、韓国、メキシコ、モザンビーク、ノルウェー、パプアニュー ギニア、シンガポール、スウェーデン、スイス、チュニジア、トルコ、ウクライナ、英国 との間で実施された。どの協議も政府高官を交えたものだった。その他には、学識者、実 業界代表、労働組合指導者、シビルソサイエティのメンバーがほとんどを占めた。加えて、 オーストラリア、オランダ、南アフリカ、スペインの政府高官との間で二国間会合も開か れた。 研究者や学識者との協議は、ケニアにあるアフリカ経済研究コンソーシアム(AERC)、 エジプトの経済研究フォーラム(ERF)、チリにあるラテンアメリカ・カリブ海経済研究 学会(LACEA)のご協力により実現した。労働調査研究所(IZA)には、ドイツとトルコ の研究ネットワークを利用して特別ワークショップを組成していただいた。また、このコー ディネートにはKlaus Zimmermanが当たった。ノルウェーの研究機関Forskningsstiftelsen Fafoは、本報告書で引用された世帯調査を4カ国で実施した。 本報告書の制作と支援は、Brónagh Murphy、Mihaela Stangu、Jason Victorおよび Cécile Wodonの監視の下で進められ、Quyên Thúy Ðinh.も貢献した。Ivar Cederholmは 資源動員のコーディネートに当たった。Irina SergeevaとSonia Josephは資源管理を担当し た。Martha Gottron、Bruce Ross-Larsen、Gerry Quinn、Robert Zimmermannは、本書 の監修を手がけた。さらに、開発データ・グループは、Johan Mistiaenのコーディネート の下で、付表の統計作成に貢献した。 本書のプリント版、ソフト版双方のデザイン、植字、印刷、頒布は出版局がコーディネー トした。とりわけ同局の Mary Fisk、Stephen McGroarty、Santiago Pombo-Bejarano、 Nancy Lammers、Stephen Pazdan、Denise Bergeron,、Andres Meneses、Theresa Cooke、 Shana Wagger、Jose De Buerba、Mario Trubiano、ならびに翻訳・通訳部のCecile Jannotin、 Bouchra Belfqihの各氏に感謝を申し上げる。 本チームは、コーディネートの役割を担っていただいた Vivian Hon および Claudia Sepúlveda、コミュニケーションの指導を担当したMerrell Tuck-Primdahl、ウェブサイト の支援を手がけたVamsee Krishna KanchiおよびSwati P. Mishra、本報告書の映画制作を 支援したGerry Herman、ITサポートを提供したGytis Kanchas、Nacer Mohamed Megherbi およびJean-Pierre S. Djomalieuの各氏にも感謝の意を表する。 その他、世銀の内外の方々からコメントやご意見をいただいた。これらの方々の氏名は 「参考文献」の項に掲載されている。 タジキスタンのザクロ畑で働く農民 © Gennadiy Ratushenko/世界銀行 アフガニスタン、カブールの露天商 ベトナムのアパレル工場で働く賃金労働者 © Steve McCurry/Magnum Photos © Lino Vuth/世界銀行 メキシコの路上でのトウガラシの乾燥 © Curt Carnemark/世界銀行 概観 仕事を中心に据える 仕 事は、経済・社会の発展の基礎であ • 仕事は社会的結束に貢献できるが、政府は る。実際、開発は仕事を通じて実現 仕事創出の支援に取り組む以外に、社会的 する。人々は、暮らしの向上を介して 結束に対して何ができるのか? 貧困や困窮からの脱出を図るべく働く。 また、 • 教育や訓練への投資は、就職するための必 経済成長は、 技能のさらなる向上や、 農業から 須条件か、それとも技能は職場で身につけ 企業への移動、 生産性の高い仕事の創出、 生産 られるものか? 性の低い仕事の減少につれて起こる。 さらに、 社会の繁栄は、 仕事が様々な民族的・社会的背 • 投資環境整備への取り組みは、仕事創出の 景を持つ人々を互いに結び付け、 好機への期待 可能性の高い地域、活動、企業をターゲッ 感が醸成される中で達成される。 従って、仕事 トとすべきか? は、人々の収入、 行動、さらに人格すら一変する • ある国の仕事の創出政策が他国の仕事を犠 力をもつ。 牲にするリスクはどれほどあるのか? ならば、仕事は当然、政策担当者から一般 国民、業界リーダーから労働組合代表、活動 • 大型のショックや大規模なリストラに直面 家から学識者に至るあらゆる人々と地域を対 したとき、人々だけでなく仕事も保護する 象とする開発アジェンダのトップに掲げられ ことが望ましいか? るべきものだ。人口動態の大幅な変化、技術 • 生産性の低い地域や活動から、一段と大き 革新、人々と仕事の国際間の移動、そして仕 な潜在性を秘めた地域や活動へと労働者を 事の性質の根本的変化が進む中で、仕事創出 加速的に再分配する方法とは何か? の機会を把握しようとすると、政策当局者に とって次のような難しい問いが浮上する。 個人にとり、仕事は、収入と福利厚生をも たらすとともに、自己啓発と幸福に資する貴 • 各国の開発戦略は成長中心とすべきか、そ 重な存在である。中には社会に幅広い影響力 れとも仕事の方を重視すべきか? をもつ仕事もある。女性のための仕事は、一 • 企業家精神は、特に途上国の多数の零細企 家の収入の使途を変え、子供の教育や健康に 業の経営者中から育成可能か、それとも企 使う可能性を高める。都市では、仕事の特化 業家精神とは持って生まれた資質なのか? やアイデアの交換が促進されるため、他の仕 仕事を中心に据える  3 事の生産性を高める。グローバル市場に連結 浸透が可能となる。そうなるように、政策環 された仕事であれば、技術や経営管理につい 境は成長の導火線となるようなものでなけ ての新しい知識を自国にもたらす。また、不 ればならない。そのためには、マクロ経済 安定な情勢では、暴力に走る若者に働く機会 安定性、事業環境整備、人的資本の蓄積、 を与え、平和の回復に役立つ。 法による統治に注視する必要がある。 こうした仕事は、生活水準、生産性、社会 • 労働政策:仕事創出の促進とそれを通じた の結束に一段と幅広い影響を及ぼすため、個 開発成果の拡充には、成長だけでは十分に 人よりも社会にとって、いっそう大きな価値 対応できないため、労働政策も必要とな がある。だが、負の波及効果をもつ仕事もあ る。労働政策は効率を損なうことなく、労 る。移転支出や特権で支えられた仕事は、他 働市場の歪みに対処することが可能である 者の負担となったり、人々が求める有益な仕 が、その場合も、都市や世界的バリュー 事の機会をむしばむことになる。環境を破壊 チェーンでの雇用を制限するような歪んだ する仕事はあらゆる人々に犠牲を強いる。そ 介入を避け、弱者のボイス(発言権)と保 のため、開発に資する仕事もあれば、個人の 護を提供する必要がある。 興味をそそるだけでほとんど役に立たない仕 事もある。 • 優先項目の設定:他の仕事に比べ、開発に どの仕事が開発に最大の効果をもたらすか 一段と貢献する仕事があることを踏まえる は環境によりけりだ。どの国も開発レベル、 と、当該国の状況を配慮した上で、開発成 人口動態、資源、制度・機構でそれぞれ異なっ 果を最大化できる仕事のタイプを特定し、 た状況にある。農業主体の社会では、農業生 さらに民間セクターによるそうした雇用の 産性を高め、農外で仕事の機会を創出する必 創出を阻んでいる市場の不完全性や機構の 要性に迫られている。資源の豊富な国では、 欠陥を除去するか、少なくとも相殺する必 政府の移転支出で仕事を支えるのではなく、 要がある。 グローバル市場に連結されるよう、輸出の多 開発の中心に仕事を据えることとは、労働 角化が肝要となる。雇用のフォーマル化を進 政策・制度を開発政策の中心にすることだと めている国では、雇用を犠牲にせずにフォー 解釈すべきではない。途上国での就労人口の マル化が可能となる社会扶助システムを設計 ほぼ半数は農民か自営業者であり、労働市場 する必要がある。 の外で活動している人々である。また賃金雇 仕事の大多数は民間セクターが創出してい 用であっても、労働政策・制度が雇用創出の る。だが政府は、民間セクターによる仕事創 主たる障害になる場合と、ならない場合があ 出を支援することもできるが、妨げとなる場 る。重大な障害が労働市場以外に存在するこ 合もある。「開発は仕事を通じて実現する」 とは頻繁にある。仕事創出の触媒となる政策 という考えに立つと、政府の戦略、政策、プ とは、都市機能を向上し、適切な農業技術に ログラムの立案に新たな視点を見出すことが 農家がアクセスできるようにし、企業の新規 できる。戦略は、ある国の環境の枠内で、ど 輸出開拓を可能にするものである。仕事は開 の仕事が開発成果を最大限に高めることがで 発の基礎であり、開発政策は仕事にとって重 きるかを特定すべきものだ。また政策は、民 要となる。 間セクターでの仕事の創出を阻止している障 害を除去すべきものである。さらに雇用創出 プログラムは、たとえば紛争の影響を受けた 仕事の必要性 国では正当化できるであろう。しかし、これ らの政策やプログラムの費用対効果の分析を 多くの人にとり、「仕事」とは、雇主から定 行って、仕事がもたらしうる正と負の波及効 期的に給与を受け取る働き手を連想させる。 果を配慮しなければならない。 しかし最貧国の労働者の大部分は、こうした もっと実務的なレベルで、開発のための仕 雇主・従業員という関係の範疇にない。世界 事にレンズをあてると、次の3つの層に基づい の就労人口は 30 億人を上回っているが、そ た政策アプローチに到達する。 の職種には大きなばらつきがある。定期的に • ファンダメンタルズ:各国の所得が高まる 賃金・給与を受けている被雇用者は約 16 億 と、仕事を通じて収益増大と社会的恩恵の 5000人いる。農業や家内経営の小事業に携わ 4  世界開発報告2013 16 億人 賃金または給与労働者 15 億人 農業や自営業に従事 77% ベトナム女性の 労働力参加率 28% パキスタン女性の 労働力参加率 39% チリの零細企業の 製造業に占める割合 97% エチオピアの零細企業の 製造業に占める割合 2倍 メキシコのある企業の 過去35年間の雇用の伸び 10倍 米国のある企業の 過去35年間の雇用の伸び 1 億1500万人 危険な環境で 働く子供の数 2100 万人 強制労働の犠牲者 6 億人: 15 今後 年にわたり現行の雇用比率を 保つために必要となる仕事の数 9000 万人:海外で働く 人の数 6 億2100万人:非就労あるいは 非就学の若年層の数 22倍 インドの製造企業のトップ10% と下位10%の生産性格差 9倍 米国の製造企業のトップ10%と 下位10%の生産性格差 1000 万人:サブサハラ・ アフリカでの年間 労働市場参入者数 3000 万人:中国の中等教育 以上の学生数 3% 世界人口に占める 国際移住者の割合 60% クウェート、 おける カタール、アラブ首長国連邦に 外国生まれの人口割合 仕事を中心に据える  5 る者、季節的・臨時の日雇い労働者は15 億人 「労働の基本原則及び権利に関する国際労働 に及ぶ。一方、失業中だが就職先を活発に探 機関宣言」(1998年)を中心とする国際基準 している人(その大多数は若者)は 2 億人に では、基本的人権を、容認すべきでない仕事 達する。また、失業中だが就職を諦めた就労 についての境界線とみなしているが、後者の 年齢の成人は 20 億人近くおり(その大半は女 ILO 宣言ではさらに、中核的な仕事の基準を 性)、就労意欲のある者は計り知れない数に 特定している。以上の異なる視点を合わせる 上る。そこで仕事とは何かを明確にすること と、仕事とは、人権を侵害せずに、現金また は有益な出発点といえよう。 は現物により所得を創出する活動といえる。 人々の生計手段を示すこの言葉は、国や文 化を超えて多種多様な意味をもつ。事務所や 場所によって様々な仕事 工場で働く人を指す場合もある。一方、農民 や、都市の自営業者、さらに子供や高齢者を 仕事の世界は、特に途上国においては多岐に 介護する者を包括した広い意味をもつ場合も 及ぶ。この多種多様性は、労働時間とか求人 ある。その区別は単に語義によるだけではな 数といった先進工業国で用いられる通常の尺 い。こうした様々な意味をもつのは、人々が 度だけでなく、仕事の特性も指す。その特性 「仕事」の異なる側面を重視しているためと の中でも、主に2つの面が際立つ。一つは自営 もいえる。仕事とは何か。これに関する見解 業と農業が主流を占めていることである2。もう は、仕事についての政策の在り方についての 一つは、生存水準の農業や低スキルの仕事か 見解に必然的に影響を与える。 ら、技術を駆使した製造・サービス業、さら 統計学者にとっては、仕事とは、「雇主 には豊富な知識と高度なスキルを要する職業 のため、または自営業者として、一人の人間 に至るまで、伝統的生産と近代的生産という が遂行した、あるいは遂行するはずの一連の 2つの形態が併存していることだ。 仕事と責務」である 1。作業は被雇用者によっ 途上世界における仕事のほぼ半分は労働市 て遂行される。これらは、市場向けに、また 場の枠外にあるが、賃金労働者、農業、自営 は自己の消費のために財やサービスを創出す 業の割合は国によって大きく異なる3。サブサ る人を指す。だが、この統計学的定義は、仕 ハラ・アフリカでは、無給の仕事は、女性の 事とみなすべきでないことには言及してい 仕事の全体の80 %強を占めるが、東欧・中央 ない。「国連世界人権宣言」( 1948 年)や アジアでは20%以下である(図1参照)。 図 1 : 仕事は賃金を伴うとは限らない 男性 女性 100 賃金雇用 雇用全体に占める割合(%) 80 自営業 60 非賃金雇用 40 20 農業 0 ヨーロッパ・ ラテン 南アジア 中東・ 東アジア・ サブサハラ・ 中央アジア アメリカ・ 北アフリカ 大洋州 アフリカ カリブ海 出処:世界開発報告2013担当チーム。 注:データは入手可能な最近年のもの。 6  世界開発報告2013 性の収入は依然として男性より大幅に低く、 図 2 : 若年層では、失業が常に問題というわけではない その違いを教育や、経験、就業先のセクター では十分に説明することができない。学業や 非就学または非就業 訓練に大半の時間を注ぐ15〜24才の若者数は 非求職者 求職者 増えているが、国によっては若者の失業率は 依然憂慮すべき水準にある(南アフリカでは 女性 パキスタン 2008 年初期以来 40 %を超え、スペインでも 2008年 男性 2012年初期に50%を上回った)5。若者の失業 トルコ 2005年 率が低い国ですら、 それは国家平均の 2 倍以上 インド に達している。 加えて、 学業も訓練も受けておら 2009年 ず、 失業中だが職探しも行っていない 「無活動」 インドネシア な若者が6億 2100万人いる。 「無活動組」 の割合 2010年 は国によって差があるが、 15〜24才では10〜50% チリ に及ぶ (図2参照) 6 。また、多数の若者は無償 2009年 で働いており、有償であっても社会保険を受 ブラジル 2009年 けている可能性は少ない7。 ウクライナ 2005年 変わりつつある仕事の世界 ガーナ 2005年 こうした複雑な状況に輪をかけているのが人 タンザニア 口動態の大幅な変化だ。就労年齢人口の就業 2009年 率を一定に保つためには、2005〜2020年の間 0 10 20 30 40 50 60 に、主にアジアとサブサハラ・アフリカでお 15−24歳の人口割合(%) よそ6億人分の新規の仕事が創出される必要が ある。労働力が大幅に増加している国もあれ 出処:世界開発報告2013担当チーム。 ば(中国では 1990 年代半ば以来、毎年 800 万 人が、またインドでは700万人が労働市場に新 たに加わっている)、人口の減少に直面してい る国もある。 例えば、ウクライナの労働人口は年 途上国全体を通じて、インフォーマルな雇 間推定約16万人の割合で減少している8。 用(その定義には企業の登記の欠如によると 急速な都市化により、仕事の構造にも変 か、社会保障の対象外とか、雇用契約の不在 化が出ている。途上国では、 2020 年までに といった基準がある)が幅広く根付いている 人口の過半数が都市や町で暮らすことになる のが特徴だ。インフォーマルな雇用はまた、 見通しだ 9 。その結果、非農業労働者の増加 規模が限られているという理由で労働規制の 率が農業従事者の増加率を大幅に上回ること 管轄外にあるが、そうした規制が意図的に回 になろう。工業化を成し遂げた国では数十年 避されているともいえる。具体的な定義がい もかかったこの構造の変化は、今や途上国で ずれであれ、インフォーマルであることには は一世代のうちに起こっており、そこで暮ら 概して低生産性がつきものである。しかしこ す人々の生活を一変させている。またこの変 れは、フォーマル化を行えば効率が高まるこ 化を通じて効率を著しく改善することがで とを意味するのではない。インフォーマルで きる。途上国の中には、工業が進んだ国との あることは、低生産性の兆候であると同時 生産性の差を急速に縮小した国もある。しか に、低生産性の原因になっているといえる4。 し、追い上げができなかった国もあり 10 、全 ジェンダーと年齢の格差も著しい。世界的 般的に見ると、途上国と先進国の間の格差は には、女性は半数以下しか仕事を持っていな 依然として大きい。 いが、男性はほぼ5 分の 4に達する。パキスタ グローバリゼーションにより、仕事の性 ンでは、労働力に加わる女性は28 %だが、男 質も変わりつつある。先進国では、一次産業 性は82 %を超える。一方、タンザニアとベト や伝統的製造業から、サービス業や知識集 ナムでは、この参加率は男女共に75 %を越え 約的な活動へと中味がシフトしつつある 11 。 る。こうした参加率の著しい格差に加え、女 同時に、技術の進歩と途上国へのアウト 仕事を中心に据える  7 ソーシングにより、中程度のスキルを要する (SOEs)における雇用者数は8000万人だった 仕事が減少している 12 。また製造工程を分割 のに対し、民間セクターでの雇用者数は230万人 して、異なる拠点での生産が可能になった13。 だった22。その20年後、民間セクターでの雇用 多国籍企業では、世界各国の熟練度の異なる 者数は7470万人へと増大し、初めて国営企業 労働者層を利用できるよう統括的バリュー の雇用者数7460万人を上回った(図3参照)。 チェーンを構築してきた 14 。アウトソーシン 世界的な傾向とは対照的に、中東・北アフ グは製造業だけでなくサービス業でも起きて リカの一部の国では、政府が主たる雇主となっ いる。1990〜2008年の間に、世界のサービス てきた。このパターンは、独立後の政治経済 輸出で、途上国が占める割合は 21 %へと倍増 と関係があるが、多額の原油収入にも起因す した15。 る23 。公共セクターは長期にわたり若い大卒 労働者と企業の関係も、技術によって変わ 者を雇用してきた。しかし、公共セクターで りつつある。グローバル市場を含め、これま 雇用拡大を続けられるほどの財政的余裕がな でより遥かに広域な労働市場にアクセスでき くなると、公共セクターの職で「待ち行列」 るからだ。新市場の中にはインターネットを が一般化し、袖の下の就職、学歴軽視、一種 通じて営業する場合や、携帯電話の技術を活 の社会排斥につながった24 。そのため、かな 用する場合もある 16。パートタイム職と臨時 り高度な教育を受けた若者が完全失業者もし 雇用は今や、工業国と途上国の両方で大きな くは不完全雇用者として残り、労働生産性は 特徴となっている。南アフリカでは、臨時雇 停滞した25。 用斡旋機関を通じて仕事を見つけて働く者は 全般的に、各国は仕事の創出に成功して 労働人口の約 7 %を占め、臨時雇用斡旋業を きた。現在、仕事の量はかつてない高水準に 通じて 1 日平均 41 万人が就職している。イン あり、被雇用者の所得も一般に向上してい ドでは、斡旋機関を通じて就職した臨時雇用 る。事実、急速な社会的・経済的変化の中 数は2009年には10%以上、2010年には18%増 で、途上国における貧困は低下してきた。 加した17。 途上国世界で 1 日 1.25 ドル未満(購買力平価 このグローバルな生産への地域的変化に を基準)で暮らす人々の割合は、 1981 年に より、技 能保有者と、有能な人材の世界的 52 %( 19.4 億人)だったのが、 2008 年には 分布がシフトしている。中国とインドは、 22 %( 12.9 億人)に低下した 26。この減少は 技 能の高い人材が極めて多いと評されてお 様々な要因に由来するが、主にアジアを中心 り、魅力的なアウトソーシング先として上位 とする途上国で、より生産的な新規の仕事が を占めている 18 。インドでは、米国にほぼ匹 多数創出されたことが主たる原動力となって 敵する、 2000 万人近くが高等教育を受けて きた27。 いる。さらに中国では、中等教育以上の生徒 しかしながら、仕事は景気後退の影響を受 数は両国を上回る 3000 万人に達する 19。米国 けやすく、公共セクターに比べ民間セクターは は依然、国際的な学習到達度に関する調査 ことに脆弱である。短期的危機により、長年 (PISA)でトップスコアを出す生徒の割合が にわたる進歩が帳消しになることもある。一 高い。だが、韓国はドイツと並び、そのすぐ 国で発生した危機も今では、グローバリゼー 後にロシア連邦が続いている。優秀な生徒数 ションを通じて、地域全体、さらに全世界に は、上海だけでも、ドイツの5 分の 1 、アルゼ 波及する。昨今の金融危機では、 1 年間で新 ンチンの約2倍にも上る20。 たに2200万人の失業者を出した。雇用全体の 伸びは、 2008 年以前は年間 1.8 %前後だった が、2009年には0.5%以下に落ち込み、2011年 民間セクターの役割 になっても危機前の水準には回復していな こうした急速な変化の時代においては、民間 い 28 。経済危機の影響の防止・緩和に向けた セクターが仕事創出の原動力であり、世界中 政策対応は、雇用に重要となりうる様々な施 で10人につき、ほぼ9人の仕事を生み出してい 策を組み合わせたものとなっている29。 る。ブラジルでは、1995〜2005年にかけ、民 人口動態の変化、都市化、グローバリ 間セクターが仕事の90 %を創出し、フィリピ ゼーション、技術の変化、そしてマクロ経済 ンとトルコでは95%に達する21。中国は、民間 危機が重なって、仕事不足の問題への取り組 セクターの成長を通じて雇用拡大を実現した最 みは極めて困難になっている。これに対す も顕著な例だ。 1981年には、同国の国営企業 る取り組みを怠っている国では、労働所得 8  世界開発報告2013 図 3 : 雇用拡大が民間セクター主導で進められてきた中国 110 100 90 80 労働者数、100万人 70 60 50 40 30 20 10 0 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 国営企業 民間企業(従業員8名以上) 個人企業(従業員8名未満) 外資系企業 出処:Kanamori and Zhao 2004. 注:外資系企業の2002年のデータおよび非国営企業の2003年のデータは利用不能。 が伸び悩み、仕事に関連した不満が多数の労 働者の間で鬱積する悪循環に陥る可能性があ る 30 。また、若年層の間で失業者や「無活動 組」が急増し、女性の雇用機会がさらに減少 するかもしれず、経済的・社会的に改善可能 なことが手つかずに終わる可能性がある 31 。 図 4 : 仕事は変革的影響を持つ 生活水準は小刻みな改善を繰り返すだけで、 生産性の伸びも衰え、社会的結束が崩れる状 況が定着しかねない。逆に、こうした仕事の 問題に積極的に取り組む国では好循環を作り 出せる。その結果、社会の繁栄、中流層(ミ 発展 ドルクラス)の拡大、生産性向上、女性や若 年層の雇用機会が拡大され、改善が改善を呼 ぶ「好循環」が可能となる。 社会的 生活水準 生産性 結束 仕事を通じて実現する開発 仕事は、収入や福利厚生を超えた恩恵をもた らす。それはまた、アウトプットを作り出し し、人格や、社会での対人関係をも育成す る。そうした結果を通して、生活水準の向 上、生産性改善、社会的結束の促進が可能に 仕事 なるのである(図4参照)。 出処:世界開発報告2013担当チーム。 仕事を中心に据える  9 生活の糧となる仕事 貧困の動態的変化に関する研究では、労働関 連の出来事が貧困からの脱出のきっかけに 仕事は、生活水準を決定する最も重要な要因で となることが分かった 33 。こうした出来事に ある。大半の人々にとって、特に最貧国では、仕事 は、世帯主の転職から、家族の一員の就職、 が主な収入源となる。多くの家庭では、 家族の一 就労メンバーの所得増大などが含まれる。反 員が失業するか就職するかにより、 貧困に転落 対に、仕事の機会に恵まれなければ、家計の するか、脱出するかが決まる。 農業と自営業を含 生活水準を維持向上することは困難になる34。 め、収入のある仕事の機会こそが、 家族にとって 低所得国で実施された大規模な調査では、人々 の消費増大と生活安定化の手段となる。 農業に が貧困から脱出できた主な理由として就職と おける収量向上、若干の農外活動へのアクセス、 ビジネス開業の2つが挙げられている35。 家族の一員の都市移住、 賃金雇用への転職は、 定量的分析でも、貧困削減に寄与する最 どれも繁栄の道につながる32 。収入が増すと、 大の要因は労働所得の変化だということが確 個人にとっての選択肢も増大する。家族の一 認されている(図6 参照)。ラテンアメリカの 員が就労を辞めたり短縮することで、教育に 18カ国中10カ国では、貧困削減率の 2 分の 1 以 より多くの時間を投じたり、定年後の生活を楽 上、他の5カ国では3分の1以上が、労働所得の しんだり、家族のためにより多くの時間を費 変化に由来する。バングラデシュ、ペルー、 やすことができるようになる。 タイでは、教育や、職務の経験、居住地域を 経済の発展につれ、労働者の収入が増し、 変えることも重要だが、そこから得られる見 仕事に付随する福利厚生も改善される。この 返り(労働収入も含む)が最も重要だった。 関係は自動的ではないが、経済成長が仕事に 途上国の国民の大部分が働いていることを踏 良い影響を与えることは明らかである(図 5 まえると、単に職があるだけでは不十分であ 参照)。確かに、経済がさらに発展すると、 る。貧困脱出に役立つのは、あくまで仕事か 労働者の平均的技能も向上する。ということ ら得られる収入の増大なのだ36。 は、各国の統計データは、同じ質の労働者の 仕事は、所得にとって根本的に重要であり 状況を反映していないため、厳密には対比で かつそれは即座に所得に影響するが、それ以 きないことになる。しかし、経済成長によ 外にも、精神的・身体的な健康といった他の り、たとえ技能が変わらなかったとしても労 側面でも影響を及ぼす。無職であることは、 働者の生活水準は高まるのである。 生活の満足感を奪う。これは特に、賃金雇用 カナダ、エクアドル、ドイツ、南アフリカ が一般化し、雇用機会に恵まれないことが、 といった異質の国々で20 年以上続けられた、 不完全雇用ではなく完全失業を意味する国で 図 5 : 経済発展につれ、仕事は収入と福利厚生を増大させる a. 平均賃金 b. 社会保障の対象範囲 100,000 100 プログラムへの負担者の割合(%) 製造業の平均賃金(米ドル) 雇用全体に占める、社会保障 2005年のPPPを基準とした 80 10,000 60 40 1,000 20 100 0 300 3,000 30,000 300 3,000 30,000 2005年のPPPを基準とした 2005年のPPPを基準とした 1人当たりGDP(米ドル) 1人当たりGDP(米ドル) 出処:世界開発報告2013担当チーム。 注:GDP=国内総生産、PPP=購買力平価。各点は国を示す。 10  世界開発報告2013 図 6 : 仕事は極貧者の減少をもたらす主要因となる 200 150 極貧者数の総変化率(%) 100 50 0 –50 –100 ア ル コ リ バ カ ン ル イ イ ナ ル ア ス マ ル ー ュ ニ ド シ チ ド リ チ ド ア タ ー ジ ビ ラ ナ ー ル シ マ バ キ ル タ ン ア グ ガ ラ ン ュ パ パ ペ デ ー ル メ モ ス ゼ ク ラ ブ ロ ジ ネ ラ ル サ コ ル エ パ コ ン グ ル ア ホ ン エ バ 家族構成の変化 労働所得 非労働所得 消費・所得比率 出処:Azevedo and others 2012, Inchauste and others 2012(共に、世界開発報告2013を目的としたもの)。 注:「家族構成の変化」とは、ある世帯における成人(18才以上)の割合の変化を指す。「労働所得」とは、各成人の雇用および労働による収入の変化を指 す。「非労働所得」とは、移転、年金、帰属家賃など、労働以外の手段から得られた所得の変化を指す。棒グラフの横軸がゼロ以下にある場合は、それによ り貧困が減少せず、むしろ増加したことを示す。変化算出の対象国:アルゼンチン(2000-10年)、バングラデシュ(2000-10年)、ブラジル(2001-09年)、チ リ(2000-09年)、コロンビア(2002-10年)、コスタリカ(2000-08年)、エクアドル(2003-10年)、エルサルバドル(2000-09年)、ガーナ(1998-2005年)、 ホンジュラス(1999-2009年)、メキシコ(2000-10年)、モルドバ(2001-10年)、パナマ(2001-09年)、パラグアイ(1999-2010年)、ペルー(2002-10年)、 ネパール(1996-2003年)、ルーマニア(2001-09年)、タイ(2000-09年)。バングラデシュ、ガーナ、モルドバ、ネパール、ペルー、ルーマニア、タイでの 変化率は、消費ベースの貧困測定法を、他の国では所得ベースの測定法を用いて算出。 はなおさら深刻だ。雇用されていても、仕事 製造業で創出されるが、同様の割合で消滅も の物質的あるいは非物質的特性、あるいは主 起こっている(図7参照)39。 観的特性などのすべてが本人の満足感に影響 経済成長は、生産性の高い仕事の創出と生 を及ぼす37。また、職場の安全性、仕事の安定 産性の低い仕事の消滅に伴って起きるため、 度、学習・昇進の機会、健康保険や社会保障 生産性向上と仕事の創出の関係は直線的では 手当といった他の特性も労働者にとって大切 ない。中期的には、仕事の量の動向は、労働 だ。しかし途上国では、このような特典を伴 力人口の動向と密着して推移する。従って真 う仕事は比較的少ない。 に仕事なき成長というのは極めて稀である。 しかし短期的には、イノベーションにより仕事 が増大する場合と減少する場合がありえる40。 仕事の特質 生産性向上は企業のダウンサイジングによっ 経済成長は、おのおのの仕事の生産性向上のみ て実現するという一般的見方があるが、生産 ならず、生産性の高い仕事の拡大と、 生産性の 性と雇用の両方を拡大できる企業もある 41 。 低い仕事の消滅に伴って起きる。 こうした成長 チリ、エチオピア、ルーマニアでは、うまく は、終局的には、新商品や、新たな生産方法や いった「企業規模拡大」は、生産高と雇用の 輸送の方法、新しい市場の開拓によって達成さ 増加に大きく貢献し、それは時にはその数は れるが、その過程で絶え間ないリストラや、 労働 うまくいった「企業規模縮小」を上回るもの を含めた資源の再配分が起こる38 。仕事の純増 があった42。さらに、経済移行国と中国では、 数だけに着目するだけでは、仕事の総創出と総 1990年代後半と2000年代初期に、民間セクター 破壊という遥かに重要なプロセスを見逃してし の活発な活動と公的セクターのリストラが相 まう。途上国では、年間平均7〜20%の仕事が まって、生産高と雇用の急増につながった43。 仕事を中心に据える  11 雇用規模拡大に成功した企業は、設立後の 年数が浅く、無駄が無く、創造性が豊かであ 図 7 : 仕事の創出と破壊はどの国でも同時に起きている る傾向がある 44。しかし、全般には、大企業 のほうが、創造性と生産性の両方に優れてい 純雇用 粗雇用 粗雇用 創出 創出 破壊 る。これらの企業は、より多くの資金を設備 経済全体 投資に注ぐ。大企業はまた、小企業に比べ、 新商品の開発や、新技術の導入、工場の開設 ラトビア や閉鎖、アウトソーシング、外国企業との合 弁会社設立を行う可能性が遥かに高い 45。さ メキシコ らに、同じ労働を使っても生産量が多く、輸 出の量も多い。また、零細・小企業に比べ、 アルゼンチン 遥かに高額の賃金を支払う(図 8 参照)。だ が、途上国では、多くの人が、零細で、必ず エストニア しもダイナミックな経済単位とはいえない職 場で働いている。 ハンガリー 農業で圧倒的に多いのは「家族農業」と呼 ばれる農家である。サブサハラ・アフリカ、 スロベニア それにとりわけアジアでは、農家の平均耕作 面積はそれぞれ 1.8 ヘクタールと 1.2 ヘクター ルーマニア ルに過ぎない 46 。「緑の革命」は作物の収量 向上だけでなく、技術的に労働集約的である 工業国(平均) ことから、労働投入の増大をもたらした。だ 製造業部門のみ が、その進展状況は地域によってむらがあ り、サブサハラ・アフリカでは大規模な進展 エチオピア は起こっていない。より機械化された農家で は、生産性は向上しているが、土地市場の制 インドネシア 約により、一般に機械化のペースが遅れてい る。さらに、機械化のない場合には、 1 ヘク ブラジル タール当たり収量は小規模農家の方が高い傾 向にある。 チリ 農業以外では、零細企業と自営業がおびた だしい数に上る(図9参照)。上位中所得国に 台湾(中国) おいてすら、こうした小規模企業は雇用創出に 大きな役割を果たしており、エチオピアの製 コロンビア 造業セクターでは雇用の 97 %だが、チリでも 39%を占めている。サービス・セクターではそ ベネズエラ の役割がもっと重要なケースも多い。民間セク ターが誕生してわずか20年の東欧諸国ですら、 工業国(平均) 零細企業は、製造業の雇用の 10〜20%、サー ビス業の雇用の 30〜50%を生み出している。 –5 0 5 10 15 20 大多数の企業の全要素生産性は極端に広く分散 雇用全体に占める割合 (%) している。インドでは、狭義に定義されたセク ター内ですら、この分布の下位10パーセントに 出処:世界開発報告2013担当チーム推計(Bartelsman, Haltiwanger, and Scarpetta 2009b、およ 属する製造業の工場は、上位10パーセントに属 び Shiferaw and Bedi 2010に基づく)。 する工場の22分の1以下の量の生産物しか生産 注:数字は、年間の雇用フローを示す。データは以下の国を対象:アルゼンチン(1996-2001 年)、ブラジル( 1997-2000 年)、カナダ( 1984-97 年)、チリ( 1980-98 年)、コロンビア していない。このパターンはラテンアメリカの (1983-97年)、エストニア(1996-2000年)、エチオピア(1997–2007年)、フィンランド 多数の国にも共通している。これに対し、米国 (1989-97年)、フランス(1989-97年)、ドイツ(1977-99年)、ハンガリー(1993-2000年)、 ではこの比率は9分の1である47。 インドネシア( 1991-94 年)、イタリア( 1987-94 年)、ラトビア( 1983-98 年)、メキシコ (1986-2000年)、オランダ(1993-95年)、ポルトガル(1983-98年)、ルーマニア(1993- 零細企業は、グループの平均的パフォー 2000年)、スロベニア(1991-2000年)、台湾(1986-1991年)、英国(1982-98年)、米国 マンスは低いが、企業の内容は多岐にわたっ (1989-91、1994-96年)およびベネズエラ(1996-98年)。 12  世界開発報告2013 は、 1921 年に 2 人の兄弟がバンコックで小さ 図 8 : 大企業ほど賃金が高い な種子販売店を設立して始まったが、いま やアグリビジネスにおける有数の多国籍複 6 合企業へと発展した。営業拠点は世界 15 カ 国、 100 社に近い企業を傘下に置いている。 また、インドのタタ・グループは、19 世紀後 半にムンバイを拠点とする同族貿易会社から スタートし、現在、 114 の企業と子会社から 4 なる多国籍複合企業へと変身した。その業務 は複数の大陸で 8 つのビジネス・セクターを 推定(%) 網羅している。さらに、温州市の履物製造業 のような、中国で成功を収めた産業集積の多 くも、小さな家族企業が互いに協力しながら 2 発展したものだ 51。 不幸にして、途上国の多くでは、古い大企 業が停滞気味で、新しい小企業が不安定である 傾向が強い。活発でダイナミックなプロセスは 通常見られない。ガーナでは、多くの企業は初 0 めから大型で、15年にわたりほとんど成長して 0 20 50 80 120 いない。対照的に、ポルトガルでは、多数の企 零細企業に対する賃金格差(%) 業が零細企業から出発し、その後大きく成長し た52。インドでは、大部分の企業が小企業とし 小企業 大企業 て発足し、そのまま小型である場合が多く、 企業の存続期間中、従業員の変化もほとんど 出処:Montenegro and Patrinos 2012(世界開発報告2013向けのレポート)。 見られない。ここで興味深いのは、創立35 年 注:上記の数値は、1991〜2010年にかけて33カ国で実施された労働調査(138世帯対象)を利 用。横軸は、労働者特性の差をコントロールして、小企業(従業員10〜50名)と大企業(従業 を迎えた企業の設立当初と現在の規模の比較 員50名以上)が零細企業に比べ、どれほど多くの賃金を支払っているかを推定したもの(すな だ。インドでは、現在の規模が設立当初の規模 わち推定賃金プレミアム)。 より 4 分の 1 縮小した。メキシコでは規模が倍 増した。米国では、10倍の規模に飛躍した53。 企業家精神に満ちた活発な活動や、低生産性 ている。零細企業や自営業は、貧困層の生存 の経済部門から高生産性の部門への労働力の のための手段であり、農外活動へ多様化する 大幅な再配分から生じる潜在的利得は計り知 一つの手段となっている。そこでの経営者の れない 54 。だが、そうした利得を実現するた 収入は平均して多くない 48 。しかし、中所得 めの支援は途方もなく困難な作業だ。 国における零細・小企業の経営者の多くは、 先進国の同様の経営者と同じように、企業家 精神が旺盛である。にもかかわらず中所得国 人格を表す仕事 の零細・小企業のパフォーマンスが低いの 仕事があるか否かを問わず、人々は、仕事を基 は、例えば、信用へのアクセスが限られてい 準に、自分に対する見方や、他人との関係を形 るといった劣悪な投資環境に起因しているよ 成することがある。一部の仕事はエンパワメン うだ 49 。それでも「ガゼル企業」と呼ばれる トを助けることになるが、極端な場合には仕 小数の零細企業は、積極的に投資を行って高 事の機会がないために暴力や社会不安を助長 いリターンを実現している50。 することもある。若者が、仕事を通じて得ら 大企業は生産性が高いが、初めから大企 れるはずの帰属意識やアイデンティティを暴 業だったわけではない。先進国でも、ホンダ 力団に求めることもある。例えば、エクアド 自動車やマイクロソフト社のような一部の ルでは、暴力団に加わった理由として「自分 著名な企業は、個人の家の車庫から創業が始 の家族が与えてくれなかった支援や、信頼、 まった。途上国でも、成功を収めた多数の 結束(すなわち社会的資本)を求めていたこ 企業は、家族経営の企業から発展した。タ とと、地元には他に機会が何もない」という イのチャロエン・ポクファンド・グループ 点を挙げた55 。 仕事を中心に据える  13 図 9: 零細企業での雇用比率が高い途上国 エチオピア エジプト インド ボリビア コロンビア ガーナ メキシコ ベネズエラ アルゼンチン ポーランド トルコ ハンガリー 南アフリカ ウルグアイ チェコ スロベニア チリ ルーマニア ベトナム 工業国平均 0 20 40 60 80 100 雇用に占めるシェア(%) 製造業セクター サービス・セクター 出処:世界開発報告2013担当チーム推計およびEUROSTAT。 注:零細企業とは、正規、非正規を問わず、従業員10名未満の企業を指す。途上国のデータは以下の国を対象:アルゼンチン(2006-10)、ボリビア(2005、 2007)、チリ(2006、2009)、コロンビア(2009)、チェコ(2005-07)、エジプト(2006)、エチオピア(1999)、ガーナ(1991)、ハンガリー(2007-08)、インド(2004、2009)、 メキシコ(2004-10)、ポーランド(2005-07)、ルーマニア(2005-07)、スロベニア(2005-07)、南アフリカ(2005-07)、トルコ(2006-10)、ウルグアイ(2009)、ベネズ エラ(2004-06)、ベトナム(2009)。先進国のデータは以下の国を対象:オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、 イタリア、 ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、英国(いずれも2005-07)。 職場は、新たなアイデアを見つけたり、異 ある社会における仕事の分布と、誰がい 性や異なる民族的背景を持つ人と交流する場 かなる理由で雇用機会にアクセスできるのか となりうる。1990年代後半に実施されたイン についての観念は、将来に対する期待と公正 タビューでボスニア人たちは、「職場は、異 感に影響を与える。子供たちの希望は、両親 民族間の協力を最も支援してくれる場だ」と の仕事の有無や種類に影響される可能性があ コメントした 56 。また、トリニダード・トバ る。「アラブの春」は単に雇用が問題なので ゴの実業家は、様々な民族的背景を持つ人と はなかった。それは、仕事の機会の少なさに 接する機会は、社交的な場より職場の方が多 対する失望と、実力ではなく人脈に基づいた いと述べた 57。しかし、 人脈により他者が排除 仕事の配分への苛立ちが、特に域内の若年層 されることもある。 モロッコでは、父親がフォー の間で広がったためであった。 マル・セクターでの職に就いていなかった人は、 仕事は、自己に対する見方、他者とのやり 自分自身がそうした仕事に就く可能 性が非常 とり、さらに社会における自分の権利の受け に低い58。 止め方に影響を及ぼす59。仕事はまた、社会的 14  世界開発報告2013 図 10: 失業中あるいはやる気になる仕事を持たない人は、社会参加が少ない a. 積極的な市民活動と失業 b. 積極的な市民活動とやる気になる仕事 0.1 –0.02 N 0 N 0.01 N –0.1 N 限界的確率 限界的確率 N 0 –0.2 N –0.3 –0.01 N –0.4 N –0.5 –0.02 –0.6 高所得 上位中所得 下位中所得 低所得 高所得 上位中所得 下位中所得 低所得 出処:Wietzke and McLeod 2012(世界開発報告2013向けのレポート)。 注:縦軸は、9種の団体の1つ以上のメンバーである回答者の所得、教育、人口動態上の特性をコントロールして、これら回答者が団体活動に活発に参加する確 率を示したもの。a図は、失業とリンクした場合の確率を、b図は、知的、創造的、あるいは独立性の高い雇用とリンクした場合の確率を示す。縦の線の長さは 推定確率の95%信頼区間を示す。 な帰結を左右することもある。 それは、社会決 仕事は、国境を超えて仕事をし、紛争を解決 定や様々なグループ間の緊張に対する社会の対 しようとする意欲を生み出す可能性がある。 応とか、 紛争の回避や解決の仕方に影響を与え さらに、現在あるいは将来のいずれかに仕事 る。 しかしこの関係は、 直接的ではなく、また即 の機会が到来するという確信が高まれば、人々 座に生じるわけでもない。 仕事は、平和的に集団 は他者を信頼し、機構や制度にも信認を寄せ の意志決定ができる社会の能力に貢献する一要 る可能性が高まる。究極的には、仕事は、社 素に過ぎない。 一方、社会的結束は、企業家のビ 会的アイデンティティやネットワーク、公正 ジネス決定環境を左右することから、 仕事に影 感に与える効果を通じて、社会的結束に影響 響を与える。 を及ぼす。 自己の民族グループ以外の者に対する信 頼感と市民活動への積極性は、社会的結束を 表す 2 つの指標である。失業すると、信頼感 仕事の評価 と市民活動の両方が低下する(図10 参照)。 その因果関係を確立するのは難しいが、ここ 全ての形態の仕事が容認されるわけではな では単なる相関関係が重要なのではない。 い。労働者を搾取する活動、危険な環境にさ インドネシアでは、2000年には就労していた らす活動、あるいは精神的・身体的健康を脅 が 2007年に失業したという人々の、コミュニ かす活動は、個人と社会の両方にとってために ティ活動への参加率は仕事を続けている者に ならない。児童買春や強制労働は、人間の尊 比べて低めだった。反面、2000年に失業中だっ たが2007年に就職した人々は、引き続き失業 厳に関する原則に背き、個人と集団の健全性 している者より市民活動に参加する可能性が を阻害する。今日、隷属的労働、奴隷、強制 遥かに高かった60。 的売春といった非自発的労働の犠牲者は世界 仕事の性質も重要となる。エンパワメン で2100 万人に上ると推定される 61。 2008 年に ト、支援作り、権利尊重が重視される仕事 は、有害な仕事に携わる5〜17才の子供の数は は、信頼感を高め、市民社会への積極的な参 1億1500万人に達した62 。人権や労働基準に関 加を促す。経済的・社会的な結びつきを作る する国際規約では、強制労働や、有害な児童 仕事を中心に据える  15 労働、差別、労働者の発言権抑止は禁じられ 能な距離にアパレル工場が開設されると、雇 ている。 用機会が増えたと受け取られ、女子の就学率 人権を守るという以外に、仕事の明らか 向上につながった 64 。インド南部の村落の低 な利点は、仕事をもつ者に収入をもたらすこ カーストの間では、女性の年間所得を 90 ドル とだ。こうした収入は、現金や現物であった 増やすことで、子供の就学年数を1.6年延長で りするほか、様々な福利厚生を伴うこともあ きたと推定されている65。 る。その他に仕事の安定性、ボイス(発言 同様に、外国の企業の直接投資( FDI)に 権)、満足度といった特性も仕事をもつ者の よって創出または確保された雇用は、他の雇 主観的な満足度に影響を及ぼす。仕事のこう 用、つまり他の人々にとっても重要となる。 した側面をいくつか盛り込んだ「ディーセン この投資には知識やノウハウが伴う。それに ト・ワーク(人間らしい仕事)」と呼ばれる より、外資系子会社だけでなく、この会社と 概念は、1999年に国際労働機関(ILO)によっ 取引を行ったり、その周辺で事業を展開する現 て導入された 63 。「自由で平等、かつ安全で 地企業の生産性も向上する。低中所得国では、 人間の尊厳を重んじる環境において男女共に こうした知識の波及効果がかなり大きい66 。 人間らしい生産的な仕事を追求するための機 反対に、(納税者や消費者からの)移転支出 会」と定義されるこの概念は、多数の政府が で支えられている保護された産業での雇用は負 仕事に関する政策アジェンダを明確化する際 の波及効果をもたらす。特に、環境に大きな負 に利用されてきた。この概念は、国連やいく 担を強いる、時代遅れの技術を利用している産 つかの国際機関からの信認と多数の国際フォー 業を保護する場合はなおさらである。 ラムの支持を受けている。 仕事はまた、社会的価値観や規範を形成 仕事は、収入やアウトプットを生み出し、 し、異なるグループ同士の共存や緊張への対 アイデンティティに影響を及ぼす中で、仕事を 応の仕方に影響を及ぼすことで、他人に影響 もつ者の福利のみならず、他者の福利にも影響 を与えることができる。ボスニア・ヘルツェ を与える。仕事が開発にどれだけ貢献するかを ゴビナと旧ユーゴスラビア共和国領マケドニ 正しく理解するには、これらの影響、すなわち アでの調査によると、異なる民族的背景をも 仕事の波及効果を評価する必要がある。プラス つ人々と職場を共にしたり、取引を行うこと の波及効果をもたらす仕事では、本人にとって に異存はないと答えた人の方が、学校や地域 の個人的価値以上に社会にとっての価値が大き 社会での異民族間の協力を支持すると答えた いが、マイナスの波及効果の場合は全く逆のこ 人より多いことが分かった67。さらにドミニカ とが言える。こうした幅広い効果に関しては、 共和国では、リスクにさらされている若者を 多くの人が直感的に認識している。中国、コ 対象にした雇用プログラムから、雇用が若者 ロンビア、エジプト、シエラレオネでは、最 の行動を変え、社会にプラスの影響を与える も好ましい職業は何かという質問と、社会に ことが示された。職業訓練や社会的技能を教 とって最も重要な職業は何かという質問に対 える「Programa Juventud y Empleo(若者雇用 し、回答者はそれぞれ異なる回答をした(図11 プログラム)」への参加者は、暴力団との関 参照)。個人的には総じて、公務員か店主が わりや暴力行為、その他の危険な行動を減ら 望ましいと答えたが、社会にとって最も重要 した68。 な職業は、教員と医師だと答えたケースが極 収入や福利厚生は同レベルでも、 仕事がもたら めて多かった。 すプラスの波及効果が高いほど、 仕事の社会的変 誰が職に就くかは、単なる個人の利害を超 革効果も増し、 社会にとっての価値が高まる。 一 えた重要性をもつ。貧困削減に対する関心の 般に、 良い仕事とは、 仕事に従事する者の満足度 高い社会では、困窮からの脱出に貢献する職業 に寄与する。 しかし、 開発に資する良い仕事とは、 は、そうした仕事に従事する以外の人々の精神 社会にとって最大の価値をもたらすものである。 的安堵感を改善するため、プラスの波及効果 仕事から得られるこれらの幅広い成果を理解する を有する。女性の仕事も個人を超えた重要性 ことが、 近年の開発に対する考え方に影響を与え をもつ。一家の中で女性の収入が占める割合 てきた 。 69 が増すと、子供の健康と教育の達成度が向上 仕事の波及効果は、 3つの変革のすべてで見 する傾向がある。多数の女性がアパレル産業 出すことができる (図12参照) 。中には、 他者の で働くバングラデシュでは、村落から通勤可 収入を直接左右するような仕事もある。 政府から 16  世界開発報告2013 図 11 : 自己が望む仕事と最も重要とみなされる仕事は同じではない a. 中国 b. エジプト 50 50 D 40 40 社会的価値観 社会的価値観 30 T C 30 F T 20 20 F D 10 10 C S S 0 0 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 個人的価値観 個人的価値観 c. コロンビア d. シエラレオネ 50 50 D 40 40 D D 社会的価値観 社会的価値観 30 30 20 T 20 F F T C 10 10 CS S 0 0 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 50 個人的価値観 個人的価値観 C D F S T 公務員 医師 農民 店主 教員 出処:Bjørkhaug and others 2012; Hatløy and others 2012; Kebede and others 2012およびZhang and others 2012(全て世界開発報告2013向けのレポート)。 注:数字は自己の望む職業(個人的価値観)を回答した者と社会にとって好ましいと考える職業(社会的価値観)を回答した者の割合。 の移転支出や厳格な規制で守られている仕事 仕事は、それに従事する者のみならず他者 が他者の仕事機会を減少させる場 合などであ の満足感にも影響を与えるため、 2 つの仕事 る。その他の波及効果は人々の 「やりとり」を通 が、個人的視点に立つと全く同一に見えても、 じて生じる。例えば、ジェンダーの平等の場合 社会的観点からは異なる場合がある(図 13 参 は家庭内で、知識やアイデアの共有は職場で、 照)。両者の視点は一致していることも多い またネットワークの場合はより広い社会で波及 ため、個人的視点に立つことが議論の有益な 効果が起こる。さらに、仕事とその配分は、 貧困 出発点となる。インド・バンガロールの情報 削減、環境保護、公正さといった共通の社会的 技術セクターで高給を支払う企業は恐らく、 目標達成に貢献するが、 その際にも波及効果が そこで働く人々のためになるだけでなく、 発生する。 インドの長期的成長にも寄与することから、 仕事を中心に据える  17 国のためにもなる。一方、両者の視点が一致 しない場合もある。例えば、ベトナムでは、 図 12: いくつかの仕事はより開発のためになる 土地を農民に再分配し、農業自由化が行われ た 1990 年代に、貧困率が前例のないスピー 世界市場に ドで低下した 70 。個人的視点に立つと、農業 機能的な 都市での仕事 連結された仕事 環境に優しい 仕事 は、困難な状況で働き、収入も非常に不安定 で、正規の社会保護も受けられない仕事だ。 しかしそれは、多数の人々にとっては貧困脱 開発 出の切札となり、開発に大きく貢献した。反 貧困層のための 公平感を与える 対に、巨大化した政府の公益事業は、そこで 仕事 仕事 社会的 働く公務員に様々な特典を与えることが多い 生活水準 生産性 結束 女性の が、事業自体は、範囲が限られていたり、サー エンパワメントに 社会 つながる仕事 ネットワークに ビスが頻繁に中断されるなど、経済成長と貧 つながる仕事 困削減の障害となっている。このような仕事 は、個人にとっては魅力的でも、社会にとっ 他者に負担を 社会的 アイデンティティを 押し付けない ては魅力が薄い。 仕事 仕事 形作る仕事 出処:世界開発報告2013担当チーム。 多岐に及ぶが互いに関連する仕事の アジェンダ 仕事の問題はどこでも同じというわけではな 益な場合もある。もちろん、開発のレベルも い。仕事の拡大は万国共通の目標かもしれな 重要となる。農業主体の経済と、急速な都市 いが、開発に最も貢献できる仕事の種類は各 化が進む経済とでは、仕事のアジェンダは同 国の状況によって異なる。経済を世界と結び じではない。さらに、フォーマルな経済部内 つける仕事が最も重要である状況もあれば、 の拡大にすでに取り組んでいる国々の間で 貧困削減や紛争解消につながる仕事が最も有 も、雇用のアジェンダは異なる。 図 13: 個人的価値と社会的価値が一致しない仕事がある 世界的バリューチェーンと 連結された都市での女性の 仕事 若者に機会を与える 仕事 集積効果 貧困者にチャンスを 与えるインフォーマルな 波及 社会的 効果 仕事 世界的統合 アイデンティティ 時代遅れの技術を利用する 社会的価値観 保護されたセクターでの 仕事 貧困削減 公平感 男女の平等 個人的 シフトされた 価値観 負担 個人的 環境コスト 価値観 出処:世界開発報告2013担当チーム。 18  世界開発報告2013 だが、開発に資する良い仕事の特性とは、 る。そうした国では、大部分の企業や労働者 1人当たり所得の水準によって単純に決まるもの が、本来の法制度や社会福祉プログラムの対 ではない。 それは、進行中あるいは依然として尾 象となる。しかし、典型的な先進工業国の水 を引く紛争による影響を受けるかもしれない。 準にまで一層のフォーマル化を進めようとす 当該国の立地や自然資源も決定的要素となりえ ると、生活水準、生産性、社会的結束の間で る。小さな島嶼国にも資源の豊富な国にも、 それ のトレードオフを引き起こすことになる。従っ なりの仕事の問題がある。 人口動態も決定的な て、労働をコスト高になり過ぎずにフォーマル 要因となりえるが、 若年失業率の高い国と高齢 化させることができる仕事や、正規の制度の 化の進む国とでは、 問題は共に甚大であっても、 恩恵を受けることのできる企業・労働者と、受 その性質は非常に異なることは明らかである。 けられない企業・労働者の間の壁を低減でき るような仕事は価値が高い。 仕事の問題の種類 国によっては、人口動態や、特定層に影響 各国の開発レベル、制度の頑健性、資源賦存 を与えている特殊な環境によって仕事の問題 度、人口動態により、仕事から得られる開発 の性質が決まってくることもある。 成果が最大の領域とはどこかが決まる。従っ • 若年層の失業率の高い国においては、若者 て、各国の仕事アジェンダは当該国の支配的 はなかなか将来の雇用機会を見通せない。 な特徴によってそれぞれ違ってくる。以下で こうした国の多くでは、若年層の人口が急 は、開発の歩みの中で各国が直面する問題 増して団塊の世代を形成しており、雇用と を、農業国、都市化の進む国、フォーマル化 生計確保に多大な困難をきたす可能性があ の進む国という3つの例で説明しよう。 る。また、多数の国では、教育・訓練制度 • 農業国:国民の大半は依然として農村地域 があるものの、民間セクターが求めるよう に住み農業に従事している。貧困の割合が な技能を育成していない。より綿密に検証 高いため、生活水準を向上させる仕事が大 すると、問題は、供給側より需要側にある きな開発成果をもたらす。集積のメリット 場合が多い。競争が限られているため、と と世界経済への統合の恩恵を得るには、都 りわけ高い技能を要求するセクターで雇用 市の機能を向上させる必要がある。そのた 機会が少ないのである。こうした状況では、 め、いずれはダイナミックな経済都市とす 企業参入や雇用アクセスにおける特権を除去 るための基盤を築くような仕事が開発のた することで、大きな開発成果を上げることが めになる。ただし、最も楽観的なシナリオ できそうである。 の下でも、都市化のメリットを十分に享受 するには数十年かかる可能性があり、農業 • 高齢化社会では、世代間の問題に直面してい の生産性向上を優先させる必要がある。 るが、それは、就労人口の縮小と、高齢者の増 加に伴う世話と介護にかかる高コストに起因 • 都市化の進む国:多数の人々が都市で働い する。就労人口の縮小による影響は、 高技能 ても困ることがないほど農業の生産性が向上 を持つ高齢者を含め、 社会で最も生産的な層 している。一般に軽工業などで女性の雇用 の就労を可能にする「活力ある高齢化政策」 機会を創出することにより、家庭内の労働 を通じて緩和することができる。 年金、ヘルス 資源の振り分けにプラスの影響をあたえる ケア、長期介護のコスト増大の抑止も、 プログ ことができる。都市化を進める国では、特 ラムの構造を改革することで達成できるが、 そ に付加価値の高い輸出セクターの発展を うした改革は社会的緊張を生み出す原因とな 基軸に、世界経済との関係を深化できる りえる。 ような仕事も開発のためになる。ただし 各国で都市化が進むにつれ、人口過密化 立地条件を含めた自然資源、機構や制度 に伴う混雑や公害などがしだいに深刻化 も、独自な仕事の問題を生む。 する。そのため、環境に優しい仕事は特 に開発にプラスの影響を与える。 • 資源の豊富な国は、多額の外貨収入がある が、この富を活用して自然資源採取以外の • フォーマル化の進む国: 都市人口の増加が 産業での仕事の創出につなげることができ 進むと、一般に、その国の経済はさらに発達す ない可能性がある。事実、多額の外貨準備 仕事を中心に据える  19 があるがために、他の輸出活動の競争力が阻 ての優先課題についての手がかりも得られる 害されかねない。中には、こうした富の一部 だろう(図14参照)。 を、移転支出または公共セクターの仕事の補 助金として配分し、単純な仕事は移住労働者 移住と仕事の国際間の移動 に依存している国もある。このようなアプ ローチでは、生活水準を堅持することはでき 人々と仕事の国際間の移動を見ると、仕事の ても、生産性を犠牲にし、社会的結束に悪影 問題は、各国特有のものであると同時に国際 響を及ぼす可能性がある。これらの国では、 性のある問題でもあることがわかる。この移 輸出多角化を支援する仕事が大きな開発成果 動のプロセスは、移住者のを送出国と受入国 を上げることができる。 双方の生活水準と生産性に影響を及ぼし、良 きにつけ悪しきにつけ、家庭やコミュニティ • 小島嶼国は、国土が狭く、遠隔地にあるた 全体の結束を一変しかねない。トレードオフ め、産業集積や世界経済への統合からの恩 が起こるのは不可避であり、受入国のみの対 恵を受けることはできず、観光業に頼る以 策だけでこれに対応するのでは不十分かもし 外にない。従って、生産性に与える仕事の れない。 波及効果が限定的である以上、基本的サー 21 世紀初頭における世界の移住者数は 2 億 ビスと公務員を除くと仕事の機会が限られ 人を超え、うち 9000 万人近くは労働者だっ ている。海外への移住によって生活水準の た。その多くはいずれ自国に帰省する臨時労 向上を図ることは一案であり、海外からの 働者か季節労働者である。一部の国は移住者 帰省者やそのコミュニティが、新たなビジ の受入国か送出国であるが、相当数は移住者 ネスやアイデアを地元の人々に広めること の受入れも送出しも行わない国である(地図1 もできる。 参照)。また、移住者の絶対数が多い受入国 • 紛争の影響下にある国では、社会の結束を もあれば(例:米国)、人口に占める相対的 支援することが緊急の課題である。復員軍 割合が高い受入国もある(例:ヨルダンやシ 人や暴力に加担しそうな若い男子の雇用は ンガポール)。バングラデシュ、メキシコ、 特に重要となる。制度的機構が脆弱で、政 インドでは、世界全体に占める海外移住者数 治的に不安定なため、民間投資の誘致とか の割合が高いが、フィジー、ジャマイカ、ト 世界的バリューチェーンへの連結には当 ンガでは、自国の人口に占める海外移住者の 面、手が届かないかもしれない。だが、貧 割合が高い。一部の比較的小型の国は驚異的 弱な事業環境であっても建設業を盛り上げ な数値を示している。例えば、海外に居住す ることはできる。その上、建設業は労働集 るサルバドル人は人口全体の約5分の1に上る 約的だ。インフラ投資は、その直接的な雇 ほか、クウェート、カタール、アラブ首長国 用効果を通じて社会的結束を支援するだけ 連邦では人口の60%以上が外国生まれだ71。 でなく、民間セクターによる今後の仕事創 海外への移住は、移住者自身の所得だけで 出の下地を整える一歩となりえる。 なく、収入の送金を通じてその家族の所得も 以上の分類は相互に排他的ではない。チャ 高める。調査研究を見ると、その大部分は、 ドやコンゴ民主共和国などは、資源が豊富で 受入国の地元労働者の収入には全く影響を及 しかも紛争の影響下にある。ヨルダンとアル ぼさないか、少々の悪影響しか与えていな メニアはフォーマル化を進めているが若年層 い。また、移住者が自国より海外で高い生産 の失業率も高い。それでも、仕事のレンズを 性を達成している場合(通常のケース)は、 通して種類の異なる国で鍵を握っている特徴 世界全体の生産にも貢献する。さらに、移住 に注視することにより、各々のケースで、開 者と帰省者の間のネットワークを通じて、投 発に最も貢献する仕事の種類とは何かを一段 資、イノベーション、知識の伝播が促進され と明白に判断することができる。また、標的 るため、移住者の送出国の生産性に貢献する を絞ることにより、特定の状況において、生 ことがある。一方、社会への影響については 活水準、生産性、社会的結束の間でいかなる 一様ではない。プラス面を見ると、移住を通 トレードオフが起こるかについて深化した分 じて、様々な文化的背景をもつ人々の交流の 析が可能になる。さらに、仕事創出を妨げて 輪が広がることがある。マイナス面は、家族 いる障害や、究極的には、政策当局者にとっ や友人と離れているために、精神的苦痛や孤 20  世界開発報告2013 図 14: 開発に資する良い仕事はどこでも同じではない 仕事をめぐる課題 開発に資する良い仕事とは? 農業国 より生産的な小規模農業 世界市場と連結された都市での仕事 紛争の 軍人の復員向けの仕事 影響下にある国 難民の社会復帰向けの仕事 紛争や対立に代わる仕事 都市化の進む国 女性に機会を提供する仕事 輸出振興に役立つ仕事 混雑を悪化させない仕事 農村からの移住者を融合する仕事 自然資源の 輸出多角化を促進する仕事 豊富な国 移転支出を通じた補助金を受けていない仕事 小島嶼国 世界市場と連結された仕事 脆弱な生態系を脅かさない仕事 若年層の 不正な収益(レント)によって支援されていない仕事 失業率が高い国 人脈に基づいて配分されない仕事 フォーマル化の 社会手当の負担が可能な仕事 進む国 社会保護の対象に格差を作らない仕事 高齢化社会 より長期にわたり熟練者を活用する仕事 高齢者へのサービス・コストを低減する仕事 出処:世界開発報告2013担当チーム。 独感に苛まれかねないことだ。また移住によ 仕事の移動からの恩恵を最も受けているの り、受入国で人種差別が生じたり、社会的緊 は明らかに、分離されてアウトソーシングされた 張が高まったりしかねない。ことに移住者が サービス業務や製造業の移動先となった国の労 特定の職業や地域に封じ込まれ、社会的融合 働者と企業家である。この移動により、新技術 がなされていない場合はなおさらである。 や高度な経営管理手法の移転と相まって、生産 仕事もまた移動している。過去 40 年間に 性と生活水準の向上が可能になる。しかし仕事 顕在化したのは、先進工業国から途上国(特 に東アジア)に向けた製造業務のアウトソー の移動による影の「勝組」は世界中の消費者で シングである(図 15 参照)。最近では、同様 ある。労働の国際的分業が一段と進むと、世界 のパターンがサービス業務でも見られる。事 中に出回る財やサービスの総量が増大し、貿易 実、サービス貿易は、世界貿易の中で最も急 からの利益が高まる可能性が増す。仕事の移動 速に伸びている分野である。途上国は今や、 による明らかな「負組」は、製造業とサービス業 輸送や観光といった従来のサービスに加え、 の競争力低下が原因で失業した人々である。失 金融仲介、コンピュータ・情報サービス、法 業者でも熟練労働者の多くは、収入を大きく失 的・技術的サポート、他のビジネス・サービ わずに同種の仕事を見つけることができるが、そ スなど、高い技能を要する現代的なサービス を輸出している。インドはその先駆的存在だ うでない失業者もいる。最も苦しむのは低技能 が、ブラジル、チリ、中国、マレーシアなど の労働者や、特定の産業または職業に特化した 多数の国もこの機会に乗じている72 。 技術の需要喪失に伴って失業した人々である。 仕事を中心に据える  21 地 図 1: 少数の国では移住者が人口の大部分を占めている a. 労働力人口に占める外国人移住者の割合(%) % 0–1.99 2.00–4.99 5.00–9.99 10.00–14.99 15.00–100 データなし b. 現地労働力人口に占める海外移住者の割合(%) % 0–1.99 2.00–4.99 5.00–9.99 10.00–14.99 15.00–100 データなし 本地図は世界銀行のMap Design Unitが作成。本地図 における国境、色分け、呼称、その他のいかなる情 報も、世界銀行グループにおける、いかなる領域の 法的地位についての判断、あるいはそうした国境に ついての認定や承認を意味するものではない。 出処:世界開発報告2013担当チーム(2000年前後の国勢調査のデータを用いたÖzden and others 2011およびArtuc and others 2012に基づく)。 仕事というレンズを通した政策 向けの一時的な雇用プログラムも特定の状況で は適切である。しかし、仕事の創出は一般に、 仕事を直接創出するのは、政府の役割ではない 民間セクターが担うのが原則だ。政府の役割 ものの、政府の機能は安定した雇用創出に欠か は、民間セクター主導による力強い仕事の拡大を せないものである。公的サービスの質は開発に 確保するための条件を整え、開発のためになる仕 とって極めて重要であり、技能育成に携わる教 事が十分でない理由を突き止め、 さらにそうした 師、農業の生産性向上に努める研究者、機能的 仕事の創出を妨げている障害を除去し緩和する な都市の設計者などがその例である。復員軍人 ことにある。 22  世界開発報告2013 政府は、次のような 3 層からなる政策アプ 図 15: 高所得国から移動した製造業雇用の推移 ローチを通じてこの役割を果たすことができ る(図16参照)。 a. 高所得国 • ファンダメンタルズ:開発に伴う仕事の改 45 善で、国が豊かになると、収入や福利厚 生も向上する。そうなるように成長に資する 40 政策環境を事前に整備することが必須とな 35 る。マクロ経済安定化、事業環境の整備、 人的資本の蓄積、法による統治などはファ 30 % ンダメンタルズの例である。マクロ経済の 25 安定性確保の面では、ボラティリティの抑 20 止や相対価格の大幅な不整合の回避が挙げ られる。十分なインフラ整備、金融アクセ 15 ス、健全な規制は、事業環境の重要な要素 1970 1980 1990 2000 2008 である。良好な栄養、保健、教育が行き届 GDPに占める製造業の割合 けば、人々の生活水準の向上のみならず生 雇用全体に占める製造業の割合 産的な仕事に就く基礎を与えることができ る。容認すべきでない雇用が経済成長と併 b. 日本と韓国 存するような状況を防ぐため、財産権を保 45 護し、労働者の権利を積極的に強化してい 40 くことも法による統治の例である。 35 • 労働政策:経済成長によって仕事が自動的 30 に生まれるわけではないため、補完的対策 % 25 として、仕事の創出の妨げになるのではな く、仕事から得られる開発成果を強化でき 20 るような労働政策が必要となる。だが、労 15 働市場の不完全性に対処するのに、制度的 1970 1980 1990 2000 2008 破綻を伴ってはならない。むしろ、効率へ GDPに占める製造業の割合(日本) のマイナスの影響がわずかである「高台」 雇用全体に占める製造業の割合(日本) の範囲にとどめるべきである。労働政策は GDPに占める製造業の割合(韓国) 2 つの「崖」を避ける必要がある。すなわ 雇用全体に占める製造業の割合(韓国) ち、都市や世界的バリューチェーンで雇用 創出を阻んでいる歪んだ規制と、賃金労働 c. その他の東アジア諸国 45 者か否かを問わず、最も弱い立場にある労 働者のボイス確保と保護のためのメカニズ 40 ムの不在の二つである。前者は、集積のメ 35 リットや世界経済への統合から得られる開 発成果を阻害し、後者は、生活水準の低下 30 % と社会的結束の崩壊を招く。 25 • 優先項目の設定:仕事の中には、開発に資 20 する仕事と、それほどではない仕事があ 15 るため、各国の状況に応じて開発のために 1991 1995 2000 2005 2008 なる良い仕事がどこにあるのかを把握する GDPに占める製造業の割合 必要がある。インセンティブシステムの歪 雇用全体に占める製造業の割合 みのために仕事が非常に少なくなっている 場合には、より選択的な政策介入が正当化 出処:世界開発報告2013担当チーム推計(国連工業開発機関(UNIDO)および国連統計局のデー される。そのような場合、民間セクターに タに基づく)。 注:日本はa図に含まれない。GDP=国内総生産 よる、開発に資する良い仕事の拡大を阻止 仕事を中心に据える  23 している市場の不完全性や制度的欠陥を政 策によって除去すべきである。さらに、欠 図 16: 明確な3層の政策が必要 陥や不完全な箇所を明確に特定できない場 合、あるいは容易に除去できない場合は、 それを相殺するような策を考えるのも一案 だが、その際は、費用対効果を慎重に評価 優先項目 仕事の問題を把握する する必要がある。 の設定 障害の除去または相殺 ファンダメンタルズ:基礎を固める マクロ経済の安定性:ボラティリティはしばし 「効率の高台」に留まる 誤った介入の回避 ば、雇用と労働所得に直ちに影響を与える。 労働政策 ボイスの確保と保護の拡大 最近の推計によると、国内総生産(GDP)が 1.0%落ち込むと、失業率が、日本では0.19ポ イント、米国では0.45ポイント、スペインでは 0.85ポイント上昇するといわれる73。農業と自 マクロ経済の安定 営業が広く根付き、収入不足を公的に支えるメ 事業に適した環境づくり 人的資本 カニズムが限られている途上国では、不安定な ファンダメンタルズ 法による統治と権利尊重 マクロ経済が及ぼす短期的影響は、失業率より も仕事の収入の方に大きく響く74。 ボラティリティは、国内で発生する場合と 出処:世界開発報告2013担当チーム。 外的ショックに由来する場合がある。国内の 場合は、持続不可能な赤字予算とか放漫な金 融政策によるところが大きい。だが、緊縮予 り、過去数年にわたる商品相場の活況によ 算や、金融政策面で厳格な規則を施行すれば り、この圧力は増大の一途をたどっている。 万事がうまく収まるわけではない。赤字予算 また、意欲的な開発の始動をめざしたり、自 を憂慮すべきか否かは、経済成長のスピード 然災害対策や紛争後の回復促進に向けて多額 にかかっているほか、中央銀行の独立性につ の対外援助を必要としている国でも、通貨の いては、当該国の開発戦略の全般的一貫性と 過大評価が生じる可能性がある。途上国83 カ の間でバランスをとる必要がある。マクロ経 国を対象に1970〜2004年に実施された分析で 済管理の健全性を評価する際は、財政・金融 は、援助は成長を促進するが(成長率は次第 政策が経済成長に及ぼす影響を配慮しなけれ に下落)、通貨の過大評価を誘発し、輸出の ばならない75。 多角化にはマイナスの影響を及ぼすことが確 また不安定な状況が自然災害、海外発の 認されている77。 危機といった外的ショックに起因する場合も 事業に適した環境づくり: 金融、インフ ありえる。予防的政策は、こうしたショック ラ、事業規制は、投資環境の質を決定し、民 が発生した際にはクッションとなりえる。ま 間企業による雇用創出に影響を与える。金融 た、短期的な刺激策や調整パッケージの実施 アクセスの不足は、どの開発段階の国におい も急務となるが、乗数効果の低い途上国で ても事業拡張上の主要な障害であるが、低・ は、そのような対策の有効性が先進国より劣 上位の中所得国においては障害リストのトッ るきらいがある76。 プに掲げられている(図 17 参照)。金融市 活発な輸出セクターを持続的に発展させ、 場は、資源をより生産的な利用へと配分し、 ひいては国際市場や世界的バリューチェーン 政治的人脈を持つ者や単に経済力のある者に と結びついた仕事を創出するには、為替レー 資源が回るのを防ぎ、貧困層を配慮した金融 トが正常な範囲から逸脱するのを避ける必要 を拡大する可能性を有している。しかし、透 がある。ある国の外貨準備高が急増すると、 明性と競争に基づく資金配分を確保するため 当該国通貨が過大評価され、輸入は有利にな には、規制面の監督が必要となる78。 2008 年 るが、輸出は不利になる。資源の豊富な国で の金融危機は、金融セクターに適した規制の は同様の自国通貨の上昇圧力にさらされてお あり方や、プルーデンスと安定性、イノベー 24  世界開発報告2013 図 17: 金融と電力はフォーマル・セクターの民間企業が直面する主要な制約要因 企業規模 所得水準 低位 上位 制約条件 小規模 中規模 大規模 低所得 中所得 中所得 高所得 全体 金融へのアクセス 電力不足 技能不足 インフォーマルな競争 税率 最も深刻 2番目に深刻 3番目に深刻 出処:IFC 近刊 注:分析は世界銀行が106カ国の46,556企業を対象に行った企業調査による。小企業は従業員20人以下、中企業は21-99人、大企業は100人以上。 ションと貧困層への配慮の面でバランスをと の設立数の多いセクターではその効果がさら る必要があるといった論議を再燃させた。 に増幅される 82 。メキシコでは、参入規制の 経済的で質の高いインフラにアクセスでき 緩和により、事業登記数と雇用が増えた。 ることは、企業経営成功の必須条件となる。 インフォーマルな企業のフォーマル化はなかっ 電力不足は、企業の発展と雇用創出を阻む第 たが、新企業の設立を通して生産が増え、消 二の障害だと世界各地の企業家が指摘してお 費者物価が低下した83。 り、低所得国では第一の障害となっている。 人的資本: 良好な栄養、保健、教育の達 また、通信の改善により、サプライヤーや顧 成は、人々の生活を直接改善するため、それ 客との情報交流が活発化し、インターネット 自体が開発目標となっている。しかし、それ やモバイル技術を通して、新しいアイデアが らは生産的な仕事や雇用機会を得るための 普及する。さらに道路の改善により、市場、 手段ともなる。人的資本は、この経路を通じ 港湾、空港へのアクセスが拡大する 79 。イン て、経済的・社会的な進歩の推進力となって フラの規制方法も重要である。不適切な価格 いる。就学年数を1 年追加するだけで収入が 政策と規制は、インフラ・サービスの不足を 大幅に増加したり、教育によって収入に対す さらに助長するかもしれない。多くの国で るプレミアムが生まれることは、高い教育を は、政治的人脈を利用した寡占が蔓延し、そ 受けた労働者の生産性向上を反映したものだ のために料金が高いにも拘らずインフラ・ ということが、世界各地で多数実証されてい サービスの量と質が低くなっている 80。 る84 。栄養、保健、教育がうまくかみあうと 事業規制は、ビジネスの成長と雇用創出 人的技能・能力の形成につながり、中期的・ の機会にも影響を与える。規制は、経済的に 長期的には生産性の伸びと貧困削減に強く結 も、またそれを遵守することに費やす時間の びつく 85 。もちろん健康が改善されると労働 面でも、事業の運営コストを増加させうる。 生産性は直接向上する。かくして、人的資本 規制の要求基準を満たすための手続きや手数 は望ましい仕事の基本的要素となっているの 料支払いに費やされる手間は、許可やライセ である。 ンスなどの取得をめぐる恣意的な決定や遅延 人的資本は徐々に積み重ねて蓄積していく に伴う手間と同様に、事業の負担となる。規 ものだ。中でも非常に大切なのは、懐妊から 制遵守や許可取得に要する時間は、同じ場所 2才までの「最初の1000日」間に子供の健康と でも、企業によって大きく異なる 81 。事業規 栄養を確保することにある。この期間の脳の 制はまた、競争力にも影響を及ぼすため、イ 発達により、子供の身体の健康、学習能力、 ノベーションや生産性向上に影響する。どの 社会的行動が人生を通じて影響を受ける86 。 国においても、企業の参入規制と、生産性や この初期の期間に栄養と健康に留意し、支援 企業設立数の間には逆相関が成り立ち、企業 的環境で認知機能の活性化を図れば、後に 仕事を中心に据える  25 なって子供に投じた努力が大きく報われる87。 を資することで、民間セクターの成長と雇用創 子供の能力の基礎は初期に築かれるが、人的 出に貢献する。 また司法制度を通じて、契約 資本と技能の形成は若者に成長するまで続 の履行、企業の取引コストの軽減、安全で予 く。さらに、ティーンエイジ( 19 才)が終 測可能な事業環境づくりが可能になる96 。さ 了するまで学業に励むことは、認知能力と社 らに有効な裁判所があれば、企業の投資意欲 会的技能のさらなる発達の基盤となる。社会 が高まる97。 的技能は、思春期から成人初期に至るまで続 権利を尊重する制度環境を整備すること けて鍛えられる 88 。若者は高等教育を含め特 は、法による統治の重要な要素であり、開発 殊な技能形成を継続して進めることができる に資する良い仕事の基礎となる。ILOの中核的 が、これに成功するかどうかは、異なる作業 労働基準は、児童労働、強制労働、差別、結 や問題解決を迫られる環境に適応していくた 社の自由、団体交渉の分野での下限を明記して めの一般的技能が取得されているかどうかに いる98 。職場における健康と安全性も政府や雇 よって決まる。こうした一般的技能は、いっ 用主に求めている。こうした基準を実務で適 そうダイナミックになっている経済環境では 用するには、労働者と雇用主の双方が情報に 特に重要となる。 アクセスできるようにしなければならない。 残念ながら、多数の国では、子供や若者 それはまた、正規の法規の枠外でも、労働者 の人的資本の蓄積に成功していないことが明 の雇用に関連した法的保障を拡大しなければ らかになっている。これを提供するシステム ならないことを示唆している。インフォーマ の質が、基本的社会サービスへの需要の拡 ル・セクターで働く労働者の団体が、彼らの 大ペースに追いついてこなかった場合が多 権利を周知させ、合法的メカニズムの利用を支 い。2009年の国際的学習到達度に関する調査 援し、集合的ボイスを助けることができる99。 ( PISA )に参加した途上国の大多数では、 15歳児の少なくとも5分の1が機能的に識字不 労働政策:2つの「崖」の回避 能( PISA の読解力評価で最低でもレベル 2 に 達していない状態)だった89。 正しく機能していない労働市場では、 経済成長 法による統治:財産権を保護する制度が存 を通じて、良好な仕事が多数創出されないこと 在し、法規を施行し、汚職や不正を取り締まる がある。これまでの分析は、 途上国における仕 国では開発レベルも高いという関係が万国を 事の不足、あるいは、賃金が支払われる仕事の 通じて成り立つ 90 。財産権が民間セクターの 不足についての理由を説明する際に、 労働市場 成長を促しているのは、財産権があるからこ の需要と供給とその一致の程度にばかり焦点を そ企業が自社資産の盗難や没収を恐れずに投 当ててきた。確かに労働市場の不完全性を矯正 資を行えるからだ 91 。契約の履行を保証する せず、むしろ逆に不完全性すら生み出すような労 制度があれば、個人的人脈に頼らずに信頼を 働政策は、仕事の創出の深刻な妨げとなりうる。 確立できるため、見込みのあるサプライヤー しかし、変革的効果をもたらす仕事の創出を阻 や顧客の輪を広げることができる 92 。法によ んでいるのは、多くの場合、労働法規に関連し る統治は企業の成長と雇用拡大に直接的な影 たものではない。農業中心の経済で小規模な自 響を及ぼす。財産権が保証されていると確信 作農の生産性が低いのは恐らく、 農業の調査研 する企業家は、そうでない企業家より、利益 究や普及システムが充分でないことに、より密接 の多くを再投資している 93 。反対に、犯罪や に関係する。また、若年層の失業率が高い国で 暴力が横行していると、企業は遠のき、国 は、熟練者の需要を高めるはずの高度な技術的 内・対外投資の意欲もそがれてしまう 94 。さ 活動での競争が欠けているが、 これはもとをた らに、投資環境に関する調査でも、犯罪と汚 だせば、えこひいきとか政治的駆け引きに起因し 職が常に事業運営の障害となっていること ている場合が多い。 が、どの国でも判明している95。 労働政策の内容の望ましい在り方について 有効な司法制度は、財産権の保護と犯罪・ はコンセンサスが得られていない。基本的信 汚職の削減のカギとなる。説明責任をわきま 念の相違を反映して、見解は両極端に分かれ えた公正で独立した司法機関は、取引上の規 ている。一方の論者にとって、労働市場の規 定を執行し、成長のコストと利益の公平な分配 制と団体交渉は、生産量と仕事の減少を招く 26  世界開発報告2013 非効率性の元凶であり、他者を犠牲にして内 のの、少数ながら生産性に関する実例を検討 部の人間だけを保護するものと見る。この見 すると、あまり確定的なことはいえないこと 方によると、失業保険とか積極的な労働市場 がわかる103。 プログラムは、仕事の意欲をくじき、お金の 途上国においては、団体交渉は、公共セク 無駄だという。他方は、労働政策は、威圧的 ターとか、規制に守られて収益(レント)が な雇用主や予測のつかない市場の変動から労 山分けされている寡占的活動の枠外では、大 働者を保護するために必要とみる。さらに、 きな影響力をもたない104 。労働組合は労働者 労働政策は、情報を改善し、リスクに対して の賃金の一律引上げを行う。研究によると、 備え、労働者と企業の両方が長期的投資を行 この引上げ率は、メキシコでは5〜15%、韓国 える環境づくりを行うことで経済効率化にも では約5%、南アフリカでは10〜20%の範囲と 貢献できるとも考えられている。 なっている 105 。しかし、雇用削減に伴うコス 双方ともに、自己の見解を支持する事例を トはそれほど明確ではない。すべての国では 挙げている。労働政策・制度が問題の一部だ ないが、一部では、雇用削減で妥協する場合 と見る者は、労働市場への介入が限られてき があるようだが、その程度は比較的小幅であ た国、すなわち米国の、長期にわたる優れた る。労働組合が生産性に及ぼす影響について 雇用創出記録を指摘する。彼らはまた、北ア は、実例の数が限られているものの、結果は フリカと欧州南部の多くの国で若年層の就職 やはり一律ではない106 。ここでの重要な課題 を阻害している保護的な雇用保障規定も引き は、農家や零細企業が直面する障害に取り組 合いに出している。一方、労働政策が解決策 めるよう賃金労働者以外の者のボイス(発言 の一環だと見る者は、金融危機への対応で比 権)を拡大し、かつ生産性を高める形で団体 較的成功を収めたドイツのワーク・シェアリ 交渉ができるようにすることだ。 ングが断固たる望ましい対策だと指摘する。 訓練、職業斡旋、賃金補助金、公共土木事 途上国における労働政策の実際の影響を綿 業といった積極的な労働市場プログラムの成果 密に調べると、その結果は一様ではない。ほと も一様ではない107 。それらが労働市場のニー んどの研究は、論議の中で示唆されたような強 ズや現実に則していない場合や、行政管理が粗 烈な影響ではなく、一段と穏やかな影響しかな 雑で透明性に欠ける場合は、価値がないばかり かったと結論づけている 100。企業規模や各国 か、悪影響すら及ぼす。一方、プログラムが の開発レベルを問わず、労働政策と規制は総じ 適切に立案され実施されれば、それはジョブ・ て、フォーマル・セクターの民間企業が直面す マッチングを促したり、景気後退による悪影響 る3大障害の中には含まれていない。労働市場 を緩和したり、訓練に資金を投じていない雇用 の規制は、行き過ぎでも不足していても生産性 主と訓練不足の労働者の橋渡し役となったりす を低下させる。しかし、その両極端の中間に、 効率向上と効率低下の効果が挿入しあい、利 ることができる(図18参照)。ただし、それが 益の再分配だけがおこっている「高台(安定領 実現したとしても、効果は穏やかにとどまりが 域)」を見出すことができる。ただし、この政 ちであり、積極的な労働市場政策の効用につい 策の影響は概ね(事業主、女性、若年労働者で て大きな期待を抱くべきではない。 はなく)中年層の男性労働者に優位な形の再分 社会保険の対象範囲は、 最もフォーマル化 配をもたらしている。 の進んだ途上国ですら限定されている。 失業保 大半の調査対象国では、雇用保障規定や最 険は、労働者が失業の危険に備える点で役立つ 低賃金が総雇用にさしたる影響を与えていな が、反面、 就職探しの努力に水を差すこともあ い。これらの規定は、受益者には恩恵を与え る。失業保険、 年金、医療保険などの資金が人件 るが、若年層、女性、未熟練労働者に集中的 費で賄われている場合は、 高い負担率は雇用の に負の影響を及ぼすきらいがある。コロンビ 意欲を損なわせる可能性がある。 フォーマル・セ アとインドネシアでは、最低賃金の引上げが クターが発達していない途上国では、 こうしたプ 全体的に穏やかな影響しか与えなかったが、 ログラムの資金を一般課税で賄うことがますま 若年層の雇用には強い影響を与えた 101。規制 す検討されているが108 、いかなる租税も歪み は雇用のフローに確実に影響し、労働市場の を生み出す。結局、労働者が重宝するような 「硬直化」をもたらし、労働の移動のペース 安価な社会保護手当の代案は見つかっていな が鈍化する 102。これは経済効率を阻害するも い。ここでの重要な課題は、重複と不足を最 仕事を中心に据える  27 小限に押さえる形で、社会保護と社会扶助を 首尾よく調整することにある。 図 18: 仕事と訓練を組み合わせることでプログラムの 要するに、労働政策・制度は、労働市 成功率が上昇 場の情報改善、リスク管理、ボイス(発言 権)の改善に役立つ。しかし、こうした利 0.15 点には欠点が伴う。例えば、労働市場の活 力低下、雇用創出や職探しの意欲減退、さ 0.10 らに給付を受ける者と受けない者の格差拡 0.05 大が挙げられる。難しいのは、規制と制度 成功指標 の効率を下げずに、労働市場の不完全性に 0 少なくとも部分的に取り組むことのできる 領域、すなわち、前述の「高台」で労働政 –0.05 策を策定することにある。労働市場の規定 が弱すぎたり、そうした市場を対象とする –0.10 プログラムが穏やか過ぎたり、存在しない 場合には、情報不足、交渉力の不均衡、リ –0.15 授業内 企業内 授業内 授業内・ スク管理不足の放置といった問題を引き起 訓練のみ 訓練のみ 訓練と企業内 企業内訓練に こしかねない。反対に、厳格過ぎる規則や 訓練の その他の 組み合わせ 支援をプラス 非常に曖昧なプログラムは、市場の不完全 性をいっそう悪化しかねない。 出処:Fares and Puerto 2009. 開発に資する良い仕事に的を絞ること 注:数字は訓練の種類とプログラムの成功例との間の相関係数を示す。成功とは効率的な雇用 で、「高台」の端、すなわち「崖」の所在地 の改善もしくは所得の改善をいう。 を突き止める際の知見を得ることができる。 高台の一方の淵には、都市や世界的バリュー チ ェ ーンでの雇用創出を減速させ、集積の 優先項目の設定:仕事から得られる 効果や知識波及効果の促進に役立つ雇用機会 開発効果の実現 を見逃させるような労働政策がある。都市化 ファンダメンタルズが成長を支え、労働政策 や世界経済への統合から得られる開発成果を が十分であることのほかにも、政策決定者は 見逃ごすことは、「崖」から転落することに 仕事から得られる開発の成果を現実のものと ほかならない。だからといって最低限の規制 することできる。それは、仕事の中には、生 を擁護しているわけではない。団体交渉に関 活水準、生産性、社会的結束に一段と貢献す する中国の最近の経験が示すように、連携を るものがあるからである。こうした仕事が何 強化して効率を高めるような取極めを結ぶ余 であるかは、開発レベル、人口動態、資源や 地はある。 高台の他方の淵には別の懸案がある。それ 立地、機構など各国の状況によって異なる。 は、雇用されていない者やインフォーマル・ 場合によっては、開発のための良い仕事が何 セクターで働く者のボイスと保護を支えるメ の支障もなく生み出され、具体的政策を必要 カニズムの不在だ。最貧生活を強いられてい としないこともある。一方、政府は、民間セ る労働者にボイスを提供すれば、生活水準の クターがこのような仕事を多数創出できるよ 向上が可能になるだろう。就職斡旋業者の乱 う支援することもできる。時には、開発効果 用を制限することで効率が向上し、さらに貧 の高い仕事の創出を阻んでいる障害を除去す 困層を配慮した社会保護システムを構築すれ ることで、この目的を達成できる。これが不 ば社会的結束も高めることができる。インド 可能な場合でも、社会的効果が費用を上回る の「女性自営業者協会( SEWA )」とベトナ 限り、先見的な政策を策定して障害を回避す ムの貧困層を対象とした医療保険プログラム ることが可能である。 は、この点において有望だ 109。この崖は、労 政策の優先順位の設定に際しては、次の 働市場の過剰規制ほど目立たないが、確実に 5つの手順に従った簡単なアプローチが考えら 実在する。 れる(図19参照)。 28  世界開発報告2013 図 19: 優先順位の設定を支援するフローチャート 介入は 必要ない 制約条件を 除去する 手順 4 手順 1 制約条件は はい 開発に資する良い 除去可能か 仕事とは何か 制約条件の いいえ 相殺 これらの仕事は はい 制約条件は はい 制約条件は はい 十分あるか 特定可能か 克服可能か 介入戦略の いいえ いいえ いいえ 立案 手順 2 手順 3 手順 5 出処:世界開発報告2013担当チーム。 • 手順1:開発に資する良い仕事とは何か。優 は政府介入を正当化するのは難しいかもし 先課題の特定における最初のステップは、 れない。 当該国の状況に基づいて仕事から得られる開 仕事に対する個人の価値と社会的価値 発成果を評価することにある。こうした仕 にギャップがあることが分かれば、インセ 事の性質は、開発段階、人口動態、 資源や ンティブシステムの欠陥を特定するために 立地、制度といった各国の特徴によって異 データや分析を用いることができる。この なる。仕事の問題は、農業国、資源の豊富な ギャップに取り組む研究分野はいくつか 国、紛争の影響下にある国、若年層の失業率 ある。例えば、財政学のツールを用いて、 の高い国の間で同じではない。さらに、最大 資本と労働に関わる税の負担を測定し、個 の開発成果を上げる仕事も国よってまちまち 人間あるいは企業間の相互補助の関係につ であり、その結果、仕事のアジェンダも多岐 いて評価することができる。労働経済学の にわたる。 ツールを駆使すれば、特定の労働者グルー プの実際の収入と可能な収入の差や、就学 • 手順 2 :こうした仕事は十分にあるか。 開 がもたらす社会的恩恵と個人的恩恵の違い 発に資する良い仕事の創出に当たり、障害 を見出すことができる。また貧困に関する に直面する国と直面しない国がある。例え 分析は、貧困層に機会を与える可能性の高 ば、軽工業に属する製造業は女性のための い仕事の種類や、貧困削減に一段と大きな 雇用機会を作り出し、貧困に大きな影響を 影響を及ぼす仕事の場所の特定に役立つ。 与える。好況下における新しい製造業での 雇用は開発価値をもつかもしれない。しか 生産性に関する研究では、外資系企業や都 し、例えば、都市化政策が不十分で企業の 市での雇用の波及効果を定量化できる。ま 新規設立が限られている場合には、そうし た、環境に関する研究により、各種の仕事 た価値はないかもしれない。さらに、この から排出されるカーボン・フットプリント 種の欠陥がない状況では、ファンダメンタ や汚染についての手がかりがつかめる。価 ルズの構築、十分な労働政策の導入以外に 値観に関する調査では、どのような仕事が社 仕事を中心に据える  29 会的ネットワークや社会的アイデンティティ を強化し利害関係者による引き受けなども含め に貢献するかを把握できる。 た介入戦略が必要となる。 障害の除去・相殺のための政策は、選び • 手順3:根底に潜む障害は特定可能か。特定 ぬかれた正しい公共財政の原則に支えられた のタイプの仕事に対する個人的価値と社会的 ものでなければならない。政策の各選択肢に 価値の間に相違がある場合は、潜在的に実現 つき費用対効果の評価を行う必要があるが、 可能な仕事の波及効果が存在することがわか 全体的な開発効果を達成することが目的であ る。この相違は通常、市場の不完全性と制度 る場合は、費用対効果の算出方法は違ってく の失敗に起因して発生するが、それにより、 る。紛争の影響下にある国での復員軍人向け 人々が社会的に最適ではない職に就く原因と 雇用プログラムであれば、参加者の収入増加 なったり、企業がさして開発のためにならな がプログラム・コストを上回るかを基準にし い雇用を生み出したり、仕事を通じた社会的 て評価することができるように思われるが、 に望ましい人的交流が行われなくなる。しか 本当は社会復帰や平和構築から得られる潜在 し、こうした障害を特定化するのは必ずしも 的な正の効果を盛り込んだ総合的評価も考え 容易ではない。例えば、 文化的、社会的、経 なければならない。コンゴ民主共和国では、 済的な幅広い効果が作用して、 女性のための 復員軍人の社会復帰プログラムのコストは受 雇用機会が不十分となることもある。同様に、 益者1人当たり約800米ドルだった110。従来の 都市での雇用拡大を阻む障害は、 土地市場に 基準に立つと、このプログラムはコスト効率 起因していたり、都市開発の連携のための制 が悪いと判断されるだろう。それでも、この 度的取極めの不備や、インフラの資金となる プログラムの実施価値があるかどうかは、社 収入が不十分であることなどがある。 会的結束に及ぼす恩恵という価値を政策担当 • 手順4:障害は除去可能か。インセンティブ 者が重視するかどうかにかかっている。そう をねじまげている制度の失敗や市場の不完 した恩恵は、透明性を期するために政策決定 の中に明示されるべきである。 全性を特定できるのであれば、それを改革 することを考慮すべきである。問題の根源 である欠陥や不完全性に改革の的を絞るこ 多様な仕事アジェンダ、多岐に渡る とは、良い経済原則である。改革が技術的・ 優先的政策 政治的に実施可能である場 合、政 策担当者 一部の国では、他の国への模範となるような は、開発に資する良い仕事を民間セクターがよ 政策を設定して、仕事から得られる開発成果 り多く創出できるよう、主要な障害の除去に の実現に成功している。 直接取り組むべきである。 農業国のベトナム は、 1990 年代に農業の • 手順5:障害は相殺可能か。改革が技術的・ 生産性向上に集中的に取り組み、余剰労働者 政治的理由で実施不可能な場合がある。ある を農外雇用に就かせ、随時、彼らの都市への いは、仕事を阻んでいる障害を特定できない 移住を支援した。1993年当時、農業従事者は こともある。そのような場合の代替策となる 雇用全体の70%以上を占め、人口の58%が貧 のは、問題を相殺する政策を用いて、仕事の しい生活を送り、飢餓は依然として現実の問 創出のためのインセンティブの回復を図る 題だった111。それから20年後、ベトナムは、 ことである。例えば、 女性の就労を難しくし コメとコーヒー豆の輸出では世界 2 位、黒コ ている信条や信念が根強い場合、 社会的、物 ショウとカシューナッツでは世界最大の輸出 理的インフラへの投資を集中することで、 女 国となり、紅茶、ゴム、海産物でも有力な輸 性の雇用の適正度を高める取り組みが可能だ 出国となった。貧困は大幅に低下している。 農業の試験研究、土地改革、規制撤廃を特に (ボックス1参照)。同様に、政治色の強い規 強調したことが相まって、零細農家の農業生 制により、生産性の高い活動への労働配分が 産性が急速に伸びた。こうした政策は、ベ できない場合、都市のインフラや流通支援を トナムを中央統制経済から社会主義を残した 通じて、都市での雇用や世界市場と連結した ままの市場経済へと移行させた「ドイモイ 雇用の魅力を高めることができる。 政策」の幅広い改革パッケージの一環だっ しかし、障害が除去もできず、相殺もできな た 112 。また、農外雇用の機会創出を目指す政 い場合がある。その場合には各種選択肢の分析 策も進められた。同国は、まず自然資源採取 30  世界開発報告2013 ボックス1:女性の労働参加率をいかに高めるか? 途上国の中には、比較的短期間に女性の労働参加率をあげるよ することで女性の労働参加率と所得を改善できることも示唆さ うな重要な改善を行った国がある。ラテンアメリカ諸国は他国 れている。これらの投資は3つのグループに大別できる。それ に先駆けてこの変革を行った。1980年代以来、7000万人以上 らにより、女性を市場活動ではなく家事に縛り付けているサー の女性が労働力に加わり、女性の労働参加率は 36 %から 43 % ビス産業の不足(例:電力やデイケア施設の不在)に対処する に向上した。コロンビアでは、1984年に47%だった参加率が ことができる。また、女性による教育、資本、土地などの生産 2006年には65%に増大した。反面、中東・北アフリカでは、 的資産の蓄積を容易にして、女性が生産性の高い市場活動に参 過去30年間に、女性の労働参加率が年間わずか0.17ポイントし 入することを助ける。さらに、女性にとっての平等な仕事の機 か向上していない。 会を阻んでいる偏見や差別的慣行を示唆する規準・規制といっ 最近の研究によれば、労働参加率の急変は、人口動態、教 た制度的障害を取り除くことが可能となる。 育、景気循環によるものではなく、既婚女性や男性と同居す こうした3種類の対象に絞った介入による成功例がある。公 る女性の間で参加率が増大したためだとされている。この変 共または補助金を受けた育児施設があれば、市場で働く女性の 容ぶりは社会的属性の変化に一部起因しているが、これは複 自宅での費用を軽減できる。そうしたデイケアの例としては、 雑な分野で、直接的な政策介入ができる範囲、そしてその正 メキシコの「Estancias Infantiles」、コロンビアの「Hogares 当性は限られている。例えば、ヨルダン川西岸とガザ地区で Comunitarios」をはじめ、アルゼンチンやブラジルでも同様 は、女性、特に既婚女性の労働参加率が非常に低い。だが、そ のプログラムがある。 給水や電力を中心とするインフラ・サー れが宗教のせいだと単純に決め付けられない。インドネシアの ビスの向上を通じて、女性を家事や介護に費やす時間から解放 ような国では女性の参加率が高いからだ。女性に働く意欲と能 することができる。例えば、南アフリカでは、農村電化により 力があっても、他の社会的規準や規制によって参加が妨げられ 女性の労働参加率が約9%向上した。政府による土地配分・登 ている場合もある。 記制度など、サービスを供給する際の制度上の偏見を是正する 社会的行動に影響を及ぼす範囲は限られているが、実例を ことで、女性の資産保有や相続が可能になる。さらに、積極的 見ると、公共政策とその他の分野におけるプログラムが重要な な労働市場政策の活用、社会ネットワークの促進、差別的規制 役割を担うことが示唆されている。また、ターゲットをしぼっ の除去も女性にとって報酬の高い仕事をつくり出すとするため た投資と社会的・物理的インフラへの介入を組み合わせて実施 に重要である。 出処:Amador and others 2011, Chioda 2012, および世界銀行2011dに基づく世界開発報告2013担当チーム。 と軽工業の市場を外国投資家に開放し、その 住 民 は 85%にも上った 115 。ルワンダの人口 後、2007年の世界貿易機関(WTO)への加盟 1000万人と比べると復員軍人の割合はわずか に伴い、市場を一段と自由化した。外国投資 に過ぎないが、彼らの社会的復帰は社会的結 企業による登録数は 1992 〜 94 年にかけて 4 倍 束に効果を上げた。ルワンダはこの快調なス に増え、過去 5 年間に海外からの直接投資フ タートを礎に、制度の改革や事業規制改革を ローはGDPの8%を超えた113。 進めて民間セクターの活性化を図った116 。こ 紛争の影響下にあるルワンダ は、 1990 年 れにより、コーヒー産業では何千という新規 代半ばの民族紛争と荒廃から立ち直った。紛 の仕事が創出された117。 争停止と積極的な改革パッケージの実施によ 資源の豊富な国、チリ は、資源以外のセ り、 2000年までには、ルワンダ経済は紛争以 クターで仕事の創出を実現できるように豊富 前の水準にまで回復した 114 。その後も成長が な銅をうまく利用してきた。世界の銅埋蔵量 続き、2011年には推定8.8%の伸びを達成した の4 分の 1 以上を有するチリでは、通貨の切上 ほか、2005〜10年にかけ貧困率も12ポイント げやインフレといった資源に関連するリスク 低下した。終戦に伴い、政府は、 5 万 4000 人 を効果的に管理しながら、輸出と経済の多角 以上もの軍人の復員と社会復帰を支援した。 化を進めた。それにより、1980年代初期に約 2012年に社会復帰に満足していると答えた復 20 %だった失業率は一ケタ台に低下した 118 。 員軍人は全体の 73 %に達し、復員軍人と帰省 資源安定化基金(1987 年以後) と透明な財政 先の地元住民の間で信頼感があると答えた ルール (1999 年以後)の施行により、 同国は困 仕事を中心に据える  31 難な時期の到来に備え、 競争力の喪失を防ぐこ 農業技術やコンピュータに関する知識向上、 とができた。公共セクター管理全域でガバナ 英語の学力育成に努めてきた125。また、 ブラ ンス改革を実施して、説明責任と透明性を促 ジル は フォーマル化 が急速に進む国の一例 した。さらに、外国投資を歓迎するなど輸出 だ。フォーマル・セクターでは、ここ 10 年ほ 志向型の積極的な成長政策を推進して、世界 どで、インフォーマル・セクターの3倍の勢い 市場と結びついた仕事から得られる生産性の で雇用が創出された。危機に至るまでのわず 拡充を後押しした。鉱物以外の輸出セクター か 5 年間で、仕事全体に対するフォーマル・ を対象とした競争力強化促進イノベーション セクターのシェアは約5ポイント増大した126。 基金により、特にアグリビジネスを中心に輸 小企業向け税制簡素化プログラム「Bolsa 出基盤が拡大された119。また、公共予算にお Familia」のような、負担義務のない社会保護 ける教育支出も 1990 〜 2009 年にかけてほぼ プログラムの施行、従業員の正社員化を行う 倍増し、前例にない中等・高等教育の拡大に 企業のインセンティブ向上、税制や労働規制 つながった120。 の適正な執行が、こうした成功に貢献した。 スロベニア は、 若年層の高失業率 の取り 高齢化が進むポーランドでは、雇用されてい 組みに成功し、 1990 年代には、若年層の失 る労働者の比率が 2006 年には 60 %だったの 業率は成人の失業率の 3 倍だったのが、今で が 2009 年には 65 %に向上した。これは、身 はおよそ 2 倍に減少した 121 。若年層の失業率 体障害者向けの年金の適用資格を変更したこ の削減に成功したのは、積極的な労働市場プ とと、寿命の延びに伴う受給レベルの調整と ログラムへの支出によるものでも(移行国と いう年金改革を進めたことによるものだ。さ してはほぼ平均)、労働市場の自由化による らに2012年には、一連の新年金改革により、 ものでも(途上国の規制の平均より依然とし それまでの男性65才、女性60才の退職年齢を て厳格)、最低賃金が低い(いまだに高め) 67才(男女共通)に引き上げた127。 からでもない 122 。こうした政策から生じる 潜在的歪みは、幅広い範囲の労働組合と雇 相互に連結された仕事のアジェンダ: 用者の間で、マクロ経済の動向とセクター 仕事のためのグローバル・パートナー の生産性に適切に対応できる賃金を設定す シップ るというコンセンサス・ベースの意思決定 システムを適用することで、相殺されたよう 仕事に関するある国の政策が、良きにつけ悪 に思われる 123 。世界経済危機前の持続的成 しきにつけ、他国に波及することがある。こ 長は、究極的にはスロベニアの若年層の失業 こでの重要な課題は、国際的な協調メカニズ 率低下に起因するところが大きい。さらに欧 ムが、正の効果を高め、負の効果を緩和する 州市場への統合を受け、同国は輸出セクター ように各国政府の決定に影響を及ぼすことが の再編にも成功した。また、首尾よく整備さ できるかどうかである。いくつかの分野で、 れたインフラと比較的熟練した労働力の存在 こうした協調の強化が改善に役立つ。 も役に立った。 権利と基準:基準を設定し、権利の遵守を 政策の成功例は、 8 つのタイプの仕事の問 改善する手段として、国際的なメカニズムが 題に直面する国々で実際に見出すことができ 存在する。 ILO 条約は、国内の法律に影響を る(図20 参照)。都市化の進む韓国では、農 与えると共に、自営業者と国内労働者のため 業から軽工業、そして付加価値の高い工業へ の条約の導入過程にも示されるように、人々 と仕事を移行するのにあわせて政策を慎重に のボイスを反映し、国際協調を図る手段となる 立案し、それを段階的に進めてきた 124。まず ことができる。1998年の「労働における基本的 土地開発プログラムが確立され、それから、 原則及び権利に関する宣言」に掲げられた 土地利用規制システム、そして総括的な都市 「中核的労働基準」が支持されたことは、各国 計画が進められた。また、住宅・運輸政策に が国際社会からの圧力に反応していることを より、都市化に伴う不経済性を抑止した。 小 示している128 。だが、圧力にも限界がある。 島嶼国であるトンガ では、海外移住を通して 強制労働や、有害な環境で働く児童、差別が 雇用機会を作り出すため、 2007 年にニュー 依然として消えず、ボイスが反映されていない ジーランドで導入された「認定季節雇用者」 現状を踏まえると、批准だけでは不十分なこ プログラムを積極的に活用して、送金拡大、 とが示唆される。 32  世界開発報告2013 図 20 : 仕事上の問題に関する各国の取り組みの成功例 仕事上の課題 国名と政策 農業国 ベトナム 土地改革、農業の調査研究、市場インセンティブ 紛争の ルワンダ 影響下にある国 復員軍人の復帰、企業改革 韓国 都市化の進む国 土地利用政策、総括的都市計画 チリ 資源の豊富な国 財政安定規定、輸出志向型政策 トンガ 小島嶼国 帰省労働者の積極的活用の取極め 若年層の スロベニア 失業率が高い国 貿易統合を通じた商品市場での競争力強化 フォーマル化の ブラジル 進む国 拠出義務のないプログラム、規則の簡素化と執行 ポーランド 高齢化社会 障害者手当て・年金改革、退職年齢の引上げ 出処:世界開発報告2013担当チーム。 貿易協定は、権利に関する国際協調のため ル工場での労働環境を監視するための能力構 の手段となりえる。こうした協定には、貿易 築と、集団労働訴訟の解決に当たる裁定審議 へのアクセスを、労働法や労働基準の導入・ 会の支援という2つのプロジェクトが付随して 施行と結びつけることで、ボイスや労働条件 いる129。 の改善度を高めるインセンティブを盛り込む 条約や貿易協定を通じた政府のイニシア ことができる。労働者の権利を貿易に結び付 ティブ以外では、民間セクターの説明責任を ける協定が結ばれても、実際に各締約国の労 はじめ、社会・環境上の関心事に自発的に取 働環境の向上につながるかどうかは、それほ り組む企業の幅広い社会責任(CSR )といっ ど明白でない。また、労働規約が保護主義の たアジェンダも次第に強調されるようになっ 理由として利用され、途上国での貿易と雇用 てきた 130 。欧州連合と北米に本拠を置く企業 機会が阻害されことがある。さらに、遵守状 では、社会的行動規範を取り入れていること 況をモニターし徹底させる能力と制度が不在 が多く、サプライヤーとの取引条件として労 な場合は、貿易協定自体が弱い手段にしかな 働基準にも活発に関っている。しかし、行動 らない。カンボジアでの成功例として米国と 規範を設けることによって基準遵守がどの程 の二国間貿易協定がある。これには、アパレ 度改善されるかという点については、限られ 仕事を中心に据える  33 た実例しかない。また、グローバル・サプラ ては良い面ばかりとは言いがたい。明らかに良 イチェーンが複雑なため、季節労働者や臨時 い影響を与えているのは,携帯電話が人々(特 労働者は CRS 枠の組みの対象外に置かれてい に貧しい人々)を商品市場と結びつけ、雇用機 る。 また、グローバル・サプライチェーンの枠 会を見出し、政府サービスも利用できるように 外におかれた労働者も対象外である 131。 CSR している場合である。反面、小売業者の消滅に が効果的であるためには、 現地企業の規範遵守 よって都市のもともとの中心部が荒廃したり、 能力や労働監督当局の執行能力を高めることに 別の仕事先を見つけにくい高齢の店主の家計に もっと努力が傾注される必要がある。 影響を及ぼす場合には負の影響がある。こうし 貿易および投資: 物資の国際貿易は徐々 た正と負の影響の間で折り合いをつけ、その過 に自由化されてきた。一段と自由化された貿 程で途上国の問題に取り組むには、サービス自 易が双方の取引当事者に恩恵をもたらすとい 由化を適切な順序で進め、国内の規制改革を行 う考えは今や広く普及している。しかしなが う必要がある136。その際、国際的な協力を通じ ら、多くの途上国では、いまだに世界経済へ て、知識を補い、実施を促すことができる137。 の統合の恩恵を享受するだけの競争力に欠け 国際協定は地球的規模の公共財の促進にも ている。従って、流通関係のコスト削減や 役立つ。その一例としてジェンダーの平等が 企業と農家の競争力向上への直接的援助が優 挙げられる。貿易はジェンダーに中立的では 先課題となっている。貿易向け援助は大幅に ない。つまり、貿易の自由化で、女性の雇用 増大し、今では途上国向け援助全体の約 3 分 へのアクセスが一変するのである。元来、男 の 1 を占めている。しかし、被援助国が直面 性の仕事は力を要する「身体的仕事」が多 する特定の雇用問題の対応に最も適した輸出 かった。一方、裁縫からデータ処理にいたる 活動に的を絞るなど、援助の有効性を改善す まで、器用さ、細かい点への配慮、意思伝達 る余地は残されている。民間セクターの関与 といったことが関わる「頭脳的な仕事」は、女 を増すことも、援助の有効性向上につながる 性にとっての格好の雇用機会となってきた。 だろう132。 インドのデリーやムンバイにあるコールセン 財の貿易とは対照的に、サービスの自由化 ターには、 100 万人以上が雇用されており、 は、国際レベルと地域レベルの両方で進展が その大半は女性だ。そのため、先進国が「頭 遅れている。現在交渉中のドーハ・ラウンド 脳的な仕事」の多いセクターからの輸入に優 では、市場アクセスがこれまで以上に確約さ 先的なアクセスを認めれば、ジェンダーの平 れると期待されてはいるが、現状の政策に比 等にほど遠い国の女性のために雇用機会を創 べ、追加的な自由化策が実施されるに至って 出することが可能である 138 。だが、各国が いない 133 。サービスには、インフラでのネッ 世界的バリューチェーンでの地位を高めるに トワーク外部効果から、情報の非対称性、金 つれ、ジェンダー別雇用機会は変化しうる。 融におけるモラルハザードまで、一般によく マレーシアでは、製造業で働く女性の割合が 知られた市場の不完全性がつきものである。ま 1980年代央に低下した139。 たサービスの貿易自由化には適切国内規制が必 移住: 財とサービスの国際的移動とは対 要となる。電力市場を確立したり、大手流通業 照的に、一般的な移住、とりわけ労働者の移 者が地元の小売商に及ぼす社会的影響を緩和す 住に関する国際協定はほとんどない。既存 るのは難しい作業である134 。そのため、途上国 のものは問題の一部しかカバーしていない。 ではサービスの自由化が先進国より遥かに遅れ 1952年と1978年にそれぞれ実施されたILO移 ているのは驚くに当たらない135。 住労働者条約の改正第97号と補足規定第143号 サービスの自由化が生産性に与える恩恵は は、移住労働者に対する差別と酷使の防止に 計り知れない。多くのサービスは製造プロセス 関するもので、労働者の密入国や不法入国を へのインプットとなる。電力、金融、通信、貿 促進する者に対する罰則や制裁を求めたもの 易はどれも、事業コストに直接的影響を与え、 だが、各々の批准国は49カ国と29カ国に過ぎな その川下にあるセクターの競争力に影響する。 かった。「サービス貿易一般協定(GATS)」 こうした生産性の向上を通じて、雇用創出、労 の第4モードに規定された、自然人によるサー 働者の収入増大に拍車がかかるため、生活水準 ビス提供の自由化は、先進国か途上国かを問 の改善にもつながる。一方、社会的影響につい わず、多くの国のアジェンダには含まれてい 34  世界開発報告2013 ない。さらに、2003年に実施された移住労働 仕事を中心に据えたが、データはどこに 者及びその家族の権利保護に関する国連の国 あるのか 際条約は、わずか22 カ国が批准しただけで、 データや研究に関するアジェンダは今後大幅 その大半は移住者を送り出す側だった。 に増えるだろう。貧困線を上下する家計の動 移住は国境を越えたものだが、立法活動 きと仕事の関係、インフォーマル・セクター のほとんどは各国独自の法律に基づいてい における零細・小企業の動的変化、人間の行 る。この分野でもグローバルな視点を取り入 動・規範と仕事との関連については、さらな れるべきだが、その対策についての意見は る分析が必要である。また、仕事が与える波 様々だ。その一つは、各国間における収入の 及効果の大きさに関する研究により、各国の 大きな格差に注目したもので、労働力の自由 状況に見合った開発のための良い仕事を特定 な移動を実現すれば、世界的な生産性向上と できるかもしれない。もう一つの重要な研究 分野は、認知能力と非認知能力が仕事に及ぼ 貧困削減を大幅に加速できるだろうと主張し す影響や、その影響が仕事の性質と仕事をす ている 14 0 。一方、別の視点は、国家の安全 る人の性格によってどう違ってくるのかに関 保障と地域社会・文化の保護に傾注するもの するものだ。同様に、特徴の異なる都市ご で、移住を抑えるには防壁を築く必要がある とに、生産性に及ぼす仕事の波及効果を示 と示唆している。さらに別の見解は、移住労 す実例を増やすことも、開発政策にとって価 働者の人権を守ることは、合法的か違法かを 値が高いだろう。環境に及ぼす各種の仕事の 影響についての推定は現在、稀にしかない。 問わず道徳的に不可欠だとし、いかなる形の 労働政策の分野では、各国の状況に基づき、 迫害からも保護する必要があるとみる 141。だ 「高台」の淵に関する実証的分析がさらに必 が、いずれの見解も十分ではない。政策立案 要だ。国際貿易や、国境を越えた投資、国際 の際に、どの見解も単一では移住を巡る複雑 的移住が、各国の仕事の構成にどう影響する なトレードオフに対応できないからだ。 のかといった研究ももっと必要とされてい る。さらに、サービス貿易に関連した国際的コ 多くの場合、受入国と送出国の双方が協 ミットメントと国内政策をいかに順序付ける 調すれば、両国ともに移住の恩恵を受けるこ かについてのより確実な知識が増えれば、自 とができる。密輸者や、企業、労働者によっ 由化の推進に消極的な途上国により適切に対 て引き起こされる虐待のほとんどは、不法移 応することができ、世界経済への統合から利 住者の流れと関係したものだ。そこで、この 益を得ることができるだろう。 流れを「正式に認知」することが移住労働者 仕事に関する政策の優先順位の決定は、 信頼のおけるデータに基づいて行われなけれ の権利を守る基本的ツールとなる。この正式 ばならない。途上国では、非賃金労働者が就 な認知は、移住者の受入れ側と送り出す側の 労人口の大半を占め、フォーマル・セクター 双方の国の機関の協力がなければ実施不可能 で働く者はさらに少ない。この状況を踏まえ だ。だがらこそ、職種別、産業別、地域別、 ると、仕事の量的な測定は困難な作業だ。貧 滞在期間別にクォータ(割当)を設けた二国 困削減に最大の成果をもたらす仕事を判別す るには、家計の収入または消費に関する情報 間協定が必要となる 142 。さらにこの協定に と、家族のメンバーの仕事に関する情報とを は、労働者の一時的移住と、永住条件などの 結びつける必要がある。どの経済単位が、よ 手続きを別途に規定することができる。それ り多くの仕事を創出するかとか、労働の再配 には、納税、社会保障、教育ローン(特に優 分を通じて、堂々巡りの停滞ではなく大幅な 秀者の移住に伴う特別の関心事)などついて 成長を生み出せるかを理解するには、非常に 多様な生産組織のインプットとアウトプット の配慮を含めることができる。さらに受入国 の情報が必要となる。また、雇用の構成が信 と送出国の双方の関係者が、協定の施行に関 頼感と社会への参加意欲にどう影響するかを 心をもつようなインセンティブを盛り込むこ 評価するには、個人の価値観と行動に関する とも可能だ143。 情報が必要となる。 仕事を中心に据える  35 世界危 機が途上国の仕事に与える影響に も含める必要がある。こうしたアプローチを ついての実証的分析が不足し、インフォーマ とることにより仕事が関心事項の中心に据え ルな仕事への対策の各国間の比 較 が困難な られるようになろう。 のは、データの質的かつ量的不足が依然とし て政策決定上の制約であることを示唆してい る。また、失業率の頻繁な測定に大きな努力 * * * が注がれているが 14 4 、定期的な俸給を得て いる従業員数がわずかである国では、失業率 各国は、人口動態、構造の変化、技術進歩、 はあまり意味のある指標とはいえない。貧困 そして周期的なマクロ経済危機に起因する仕 撲滅に関するミレニアム開発目標では、「女 事の問題に対応して、種々の対策を選択する 性、若者を含めたすべての人々の、完全かつ ことができる。ひたすら成長を追及し、労働 生産的な仕事、そしてディーセント・ワー 市場がうまく機能するよう努力して、その後 クの提供を達成する」とうたわれ、 仕事に関 に仕事の拡大が続くものと期待することもで するターゲットの進捗状況を追跡する指標が きる。あるいは、成長の追及だけでは仕事は 4 つ掲げられている。しかし、これらの指標 自動的に創出されないと認識することもでき も、途上国における仕事の量と質の進展を部 る。女性のための仕事、都市や世界的バリュー 分的にしか捉えていない145。 チェーンでの雇用、社会の弱者にボイスと保 労働統計に関する現在の課題を大別する 護を提供する仕事を筆頭にあげることもでき と、データ不足、データの質の問題、そして る。仕事をめぐる問題の特性は、当該国の立 企画・連携・コミュニケーションの問題とい 地、資源、機構、開発レベルによって異な う 3 点がある。データ不足は、労働統計が皆 る。一方、全ての国に共通しているのは、民 無であるか、まばらにしか集計されない国に 間セクターによる、開発のためになる仕事の 関係する。このような統計があったとして 拡大を阻止している制度的失敗や市場の不完 も、データの質についての問題は、適切な 全さに対応する必要があることだ。各国はこ 定義の使用からアンケートの設計、サンプル れを通して初めて、冒頭の難しい問いに取り の抽出方法から面接プロセス、さらにデータ 組むことができる。これらの問いの一つひと 入力・コーディングから認証・推計手続きに つには、実務者らが常に賛成するわけではな 至るまで、統計作成の過程全体に及ぶ。さら いが、広く受け入れられた伝統的な見解が存 に、データの収集機関と配布機関が異なる場 在する。仕事というレンズを通して開発課題 合は、企画・連携・コミュニケーション上の を見つめることは、こうした伝統的な見解を 問題が発生する146 。 にべもなく否定するのではなく、むしろ有意 25年ほど前に、貧困削減を改めて開発政策 義な見解とそうでない見解を見極めることに の主要目的として強調する一環として、長期 つながるであろう。 的データの収集が始まった。標準的アンケー 端的に言うと、各国は、生活水準のわずか トを用いて世帯の生活水準についての情報が な向上、生産性の減速、分断された社会とい 世界各地で収集された。サンプルの抽出方法 う状況に甘んじることもできる。あるいは、 や定義は必ず報告された。そうして収集され 仕事の問題に取り組むことにより、豊かな暮 たデータや記録が研究者や実務家に可能な限 らし、高生産性、そして仕事の機会の拡大と り配布された。雇用については、貧困分析に 仕事への公正なアクセスを通して実現できる、 利用するための世帯調査に添付された雇用アン より力強い社会的結束に向けた、改善が改善 ケートは標準化する必要があり、事業所向け を呼ぶ「好循環」のパターンを享受すること 調査には、インフォーマルな企業や零細企業 もできる。 36  世界開発報告2013 質問 伝統的な見解が正しいときはいつか? 成長志向の戦略か、それとも仕事中心の戦略か? これまで 政策は社会的結束に貢献できるか? 伝統的な見解による の伝統的な見解によると、生活水準を向上し、社会的結束 と、仕事がないことは社会的結束に悪影響を与えるが、政 を強化するには成長を重視することが前提だと言われてき 府は、完全雇用を確保すること以外に、できること、ある た。しかし、生活水準、生産性、社会的結束という3つの変 いはすべきことはほとんどないと言われてきた。だが多数 革の間で時間的なずれやアンバランスが生ずることは珍し の国では、失業率だけが大きな問題なのではなく、仕事の くない。成長が貧困削減に及ぼす影響は国によって大きな 特性も重要となる。全ての仕事が社会的結束に正の効果を 差がある。時には、成長を通じて一部の人々の間で貧困が もたらすわけではないが、仕事を通じて、特に取り残され 減り生活水準が向上しても、社会的結束が高まらず、それ てきた人々に社会的アイデンティティを与え、社会ネット 以外の人々の期待が満たされないまま残ることがある。ま ワークを構築し、一段と公平に扱うことができれば、緊張を 緩和し、集合的意思決定を冷静に行うことに役立つだろう。 た、様々なセクターでの労働集約度や仕事の機会への公正 また、貧困層に配慮し、ボイス(発言権)と権利を確保 なアクセスも重要となる。従って、これらの3つの変革の全 し、労働市場における透明性と説明責任を高めるような施 体に対応できるのは仕事にほかならない。 策であれば、人々は自分も社会の一翼を担っているのだと 生活水準の改善、生産性向上の加速化、社会的結束との いう意識を向上することができる。こうした意識は、若年 間に生ずるトレードオフは恐らく、実際にどれを選択する 層の高失業率や対立により社会不安が生じる危険性が高い かというより、測定上の問題を示したものとである。成長 場合には特に重要となる。雇用プログラムは、ガバナンス に関する指標が、貧困削減や社会的結束の向上など、目に が粗雑であったり、標的が差別的である場合は社会的結束 見えない社会的利益を捉えたものならば、成長戦略と仕事 を損なうが、適切に設計されたものであればプラスの効果 の戦略は同等だといえる。しかし、成長戦略は、女性の雇 をもたらすことができる。高リスクの若者を対象とした仕 用、二次的な都市での雇用、あるいは無活動な若者などに 事の政策には、紛争解決のためのカウンセリングや訓練を 十分留意していない可能性がある。仕事を通じて重要な波 盛り込むことができる。公共事業プログラムは、市民と地 及効果を達成できないのであれば、仕事中心の戦略から有 元当局が地域社会に参加し関わり合うことに役立つ。従っ 用な知見が得られるはずだ。 て、政策の焦点は、仕事の数だけではなく、取り残されて きた人々のために仕事の機会を広げることにも向けられる 企業家精神は育成可能か? これまでの伝統的な見解では、 べきである。 途上国の大半の零細・小企業は生存するのがやっとで、成 長の可能性は限られていると言われてきた。途上国では自 技能と仕事のどちらを優先すべきか? 伝統的な見解による 営業が仕事の大きな部分を占めている。その中のたとえ一 と、技能に投資をすれば、仕事の創出や生産性の向上、労 握りの者がビジネスの発展に成功したとしても、生活水準 働所得の増大につながると言われてきた。失業率が高く、 と生産性に与える総体的影響は計り知れないものがある。 求人側の求める技能と求職側の技能が整合していないの また、途上国の大企業は、政府の支援を受けたり、金融や は、教育や訓練システムの欠陥によるところが大きい。だ 情報へのアクセスで優遇されることが多く、設立当初から が、実際には、市場の歪みに起因している場合もあり、その 大型であることが多い。こうした特権や優遇を打開するた ようなときは、教育システムを間違った方向に導いたり、ダ イナミックな民間企業の育成につながらないことになる。 めにも、零細・小企業の成功は非常に重要となっている。 こうした状況では、世界のあちこちでも見られるように、 中小企業であっても、経営の実務は事業の生産性を高め 訓練システムに巨額の資金を投じても、期待通りの就業を る上で大切となる。スキルを習得し、それをビジネスに応 達成できず、不本意な結果に終わる可能性がある。 用する能力は、企業家を成功に導く最も重要な資質の一つ 認知能力と社会的スキルの両方を含めた一連の基本的 である。しかし市場は企業家の育成には積極的ではない。 スキルは生産的な仕事に携わる上で不可欠だが、それは職 それというのも、知識の模倣を通じて、新たな経営管理の 場で習得できるものではない。このような基礎能力をもた 知識を習得し開拓した者が受ける利益の一部は、他者の利 ない場合、雇用機会や収入を改善できる見通しは薄い。付 益となってしまうからだ。さらに、経営の実務をどれほど 加価値の向上に努める国にとってもスキルは極めて重要と 習得できるかは、訓練を受けた人によって大きな差があ なる。スキルがあれば、イノベーションを促し、互いに学 る。小事業主の観察可能な特徴は、企業家としての潜在的 ぶことが可能になり、ひいては仕事の創出につながる。し 可能性を示している。また、彼らの経営能力を高めるため かも、その間にも仕事を通じて多くを学ぶことができる。 のプログラムは功を奏していることが分かっている。その 仕事の機会があれば、社会的スキルの醸成に役立つほか、 ため、有力な小事業主を標的とした研修プログラムを実施 教育や訓練に対する需要を生み出す。仕事を通じて学ぶ場 すれば、生活水準と生産性を大きく改善することが可能と 合も、多くの状況では、収入の大幅な増大につながる。職 なる。 場で1年間の経験をつけると、学業を1年間継続するごとに 仕事を中心に据える  37 得られる報酬のおよそ3分の1から2分の1を受けることがで 労働者と雇用のどちらを保護するのか? 伝統的な見解によ きる。 ると、人々を保護する政策は、私的厚生の損失を軽減する と同時に、労働力の再配分を可能にし、創造的破壊を促進 標的を絞った投資環境の整備を行うべきか? 従来の見解に することから、望ましいものだと言われてきた。政府の移 よると、政府には「勝者」を選べるだけの十分な情報がな 転支出や雇用保護法により経済性の低い雇用を保護するこ い上、権益団体の圧力で標的が決まってしまう可能性があ とは、資源の配分を非効率的な状態のままで凍結してしま るため、公平な環境を整備することが望ましいとされてき う。雇用の保護はまた、対象者の私的利益の保護につなが た。しかし、途上国では、往々にして財政的な余裕がな りがちである。その結果、非生産的な雇用を永続させ、技術 く、行政能力にも限りがあるため、全ての分野でビジネス 進歩を阻害し、構造の変革を妨げ、やがては成長に悪影響 に適した環境づくりを進めることは困難であり、従って、 を与えかねない。 いかにして政策の優先順位を設定するかが重要となる。従 しかし、一度に多くの仕事が失われたり、その危険性が 来の見解では、過去の産業政策で失敗した経験があること 高まるときや、新しい仕事がほとんど生み出されないとき から、標的を絞り込むことに懐疑的である。だが、産業セ がある。また、生産性の波及効果が大きい仕事もある。こ クターだけに照準をあてる必要はない。女性の雇用率の高 のような仕事が大量に失われると、町がゴーストタウンと いセクターで仕事を創出したり、小規模な自作農の生産性 化し、地域に不況が襲うこともある。失業者の発生が局地的 を高めたり、世界的バリューチェーンに連結された仕事を かつ限定的であり、しかも離職率も通常と変わらないよう 増加するための支援は、各国の状況しだいでは、高い開発 な、特異なショックに見舞われた場合には、人々の保護が優 成果を発揮できる。 先されるべきである。一方、システミックな危機や経済の大 開発に資する良い仕事が明らかに存在し、これらの仕事 規模な変化が生じたときは仕事を保護することが妥当といえ の創出を支えるための情報が十分にあるのならば、標的を よう。ただし、雇用の保護政策は、永続的な非効率性を生み 絞った投資環境の整備は正当化できよう。ただし、その際 出す可能性がある。ことに機構が脆弱な国では、保護の範 の的を絞った介入は、権益団体からの圧力に屈することがな 囲と規模を定めるトリガールールやいつそれをやめるかの いように設計されていなければならない。また、農家、都市 サンセット条項を確立することが必須となる。 のビジネス、女性の零細企業家など、受益者の数が膨大で あれば、特定の権益団体からの圧力に屈するリスクが減 労働者の再分配をいかに加速させるか? 従来の見解による る。伝統的産業政策の場合、このリスクは非常に高い。 と、生産性の低い企業や分野で働く労働者を堅持するよう な労働市場の硬直性を排除する政策が重視されてきた。だ 仕事をめぐり競争が起こるのか? 従来の見解によると、仕 が、そうした改革は常に政治的に実施可能とは限らない。 事の数は限定されているわけではないので、ある国の仕事 インドでは、複雑で煩雑な労働市場制度が経済的効率に明 の政策が他国に危害を及ぼすことはないと言われてきた。 らかにマイナスの影響を与えてきたが、このような制度は 確かに、中期的・長期的には、雇用総数は概ね労働人口の 実に60年間も手付かずのままだった。 規模で決まる。しかし、こうした政策は、世界貿易、投 歪みのある規制を無効にしたり回避したりすることは、コ 資、そして移住者の流れを変える可能性があり、仕事の構 スト抑止に役立つかもしれないが、ダイナミックな活動に 成に影響を及ぼしかねない。ここでの懸念は、開発に資す はつながらない。インドでは、煩雑な労働規制は無視すれ る良い仕事の割合がある国で減り、別の国で増えるかもし ばいいという考えが幅広く浸透してきた。しかし、同国の れないことだ。生産性に最大限の効果を及ぼし、仕事の世 経済全般が好調であるにもかかわらず、労働集約的な生産 界シェアの拡大を目指す政策の場合、自国を含む世界全体の セクターでは不振が続いている。同じような厳格な規制上 経済水準を増大させたとしても、他国の経済水準を低下さ の障害が存在する他の国々では、こうした規制の効力を和 せることがありえる。 らげるために、工業団地、躍動する都市、あるいは世界的 とはいえ、仕事の創出を支えるための取組みがすべて、 バリューチェーンで創出された仕事の生産性の波及効果を 近隣窮乏化政策につながるわけではない。そうなるかどう 上手に利用して、効率向上に役立つ労働力の再配分を実現 かは、採用する政策手段の種類と、仕事から生まれる波及 してきた。スリランカでは、輸出加工区(EPZs)の開発を 効果の性質にかかっている。ここで重要なのは、政策がど 通して、アパレル産業が開花した。ブラジルでは、国内で のような目的をもつかである。強制労働や危険な児童労働 の移住者数が急増しているが、このことは、同国による世 の取締りを通じて、権利に対する遵守状況の改善を目的と 界経済への統合の継続と、工業団地や産業集積を優遇する する政策であれば、世界的な公益に資することになろう。 開発政策に密接に関係している。中国では、労働力は、地 一方、生産の外部効果を促進するような政策は、特に、そ 域的な競争と試行錯誤のもとで、競争力のある都市に流れる れがオープンな貿易システムを阻害したり、自国のダイナ 傾向がある。 つまり、都市化や世界経済への統合を通じて、 ミックな比較優位とかみ合っていない場合には、他国に悪影 仕事がもたらす生産性の波及効果を高める戦略を重視する 響を及ぼす可能性がある。 ことで、労働市場の硬直性を克服できるのである。 38  世界開発報告2013 仕事は開発の 仕事は経済成長の付け足し 推進力である として考えるべきではない 仕事の数だけが 開発効果の高い 問題なのではない 仕事もある 仕事は民間セクターに 公的施策は下地の整備に よって生み出される ある 途上国での仕事は農家や インフォーマルが 零細企業である場合が多い ノーマル 容認すべきでない 人権を無視しては 仕事もある ならない 画一的な対策は 仕事をめぐる問題は ありえない 国によって様々である 政策上のファンダ どのような仕事の 問題にも重要となる メンタルズを固めるべきだ 仕事の創出を阻む 労働政策は思った 問題は他にあるかもしれない より重要ではない 政策の優先 大きな開発効果をもたらす 順位を設定せよ 仕事に標的を絞ることが大切 クロスボーダー型投資や移住に関する 仕事のためのグローバ データと協調が不足している ル・アジェンダが必要 インドネシア・ジャカルタの建設現場で働く作業員 仕事を中心に据える  39 © Sebastiao Salgado / Amazonas—Contact Press Images 40  世界開発報告2013 脚注 25. Mryyan 2012 ;Gatti and others 2012; Stampini and Verdier-Choucane 2011;   1. ILO 2007 第2条。国際連合2009も参照。 ILO 2011.   2. Ghose, Majid, and Ernst 2008. 26. WDRチームによるChen and Ravallion (2010)   3. Gindling and Newhouse 2012(世界開発報告 のアップデート版に基づく。 2013向けのレポート)。 27. 世界銀行 2011a.   4. Kanbur 2009. 28. ILO 2012a.   5. 国際労働機関 (ILO) 統計局(http://laborsta. 29. ILOおよび世界銀行2012. ilo.org/sti/sti_E.html.) 30. Bell and Blanch ower 2011; Farber 2011.   6. Lyon, Rosati, and Guarcello 2012(世界開発 31. 世界銀行 2011c. 報告2013向けのレポート)。 32. Ravallion 2009.   7. 世界銀行2006b. 33. Inchauste 2012(世界開発報告2013向けの   8. ILO ( http://laborsta.ilo.org/applv8/data/ 。 レポート) EAPEP/eapep_E.html)および世界開発指標 34. Baulch 2011; Fields and others 2003. (http://data.worldbank.org/data-catalog/ 35. Narayan, Pritchett, and Kapoor 2009. world-development-indicators )のデータ 36. Azevedo and others 2012(世界開発報告 に基づく世界開発報告 2013 担当チームの 2013 向けのレポート)。本レポートでは 推計。 Paes de Barros and others (2006)および   9. 国際連合2011. Bourguignon and Ferreira (2005)などによ 10. Lin 2012; Pagès 2010; 世界銀行1992. り開発された手法を使用。 11. 欧州職業訓練開発センター2008. 37. Blanch ower and Oswald 2011. 12. Autor and Dorn 2011; Gratton 2011; Holzer 38. Haltiwanger 2011; Nelson 1981; Schum- and Lerman 2009. peter 1934. 13. Feenstra 2010. 39. Bartelsman, Haltiwanger, and Scarpetta 14. Brown, Ashton, and Lauder 2010。世界開 2009; Davis, Haltiwanger, and Schuh 1996. 発報告2013向けのSelim 2012参照。 40. Bartelsman, Haltiwanger, and Scarpetta 2009. 15. Goswami, Mattoo, and Sáez 2011. 41. Baily, Bartelsman, and Haltiwanger 1996. 16. 一例:oDesk, https://www.odesk.com/; 42. 世界開発報告2013担当チームによる推定。 Babajob, http://www.babajob.com/; 43. Bartelsman, Haltiwanger, and Scarpetta 2004; Google Trader (例:http://www.google. Brandt, Van Biesebroeck, and Zhang 2012; co.ug/africa/trader/search?cat=jobs); Lin 2012, Rutkowski and others 2005. SoukTel, http://www.souktel.org/. 44. 世界開発報告2013担当チームによる推定、 17. TeamLease 2010. およびDutz and others 2011. 18. A.T. Kearney 2011. 45. Ayyagari, Demirgüç-Kunt, and Maksimovic 19. UNESCO 統計研究所、http://stats. 2011; IFC 2012近刊。 uis.unesco.org/unesco/TableViewer/ 46. 南アフリカは、例外的であるため(農家の tableView.aspx?ReportId=175. 平均面積: 288 ヘクタール)、この推計か 20. 15歳児を対象にした2009年の国際的学習達 ら除外された。 成度に関する調査で、上位20%にランクさ 47. Hsieh and Klenow 2009; Pagés 2010. れた生徒についての WDR 担当チームによ 48. Banerjee and Du o 2011; Fox and Sohnesen る推定。参照: http://www.pisa.oecd.org. 2012; Schoar 2010; Sutton and Kellow 2010. 21. 労働統計に関する国際労働機関データベー 49. de Soto 1989; Perry and others 2007. ス、Laborsta, http://laborsta.ilo.org/e. 50. Grimm, Kruger, and Lay 2011; McKenzie 22. ここでの民間セクター雇用とは、中国の公 and Woodru 2008. 式分類による「民間企業」と「個人」を指 51. Mertens 2011; Witze 2010. す。前者は、自然人により投資され設立さ 52. Sandefur 2010. れた営利事業、または、労働者8名以上を使 53. Hsieh and Klenow 2011. 用する者により支配される営利事業と定義 54. Bartelsman, Haltiwanger, and Scarpetta 2009; される。後者には、8名未満の労働者を雇う Haltiwanger 2011; Hsieh and Klenow 2009; 事業が含まれる。外資系企業や共同体は、 Syverson 2011. 公式統計では民間セクターに含まれない。 55. Moser 2009, 240. 詳細は以下を参照:Kanamori and Zhao 56. Dani and others 1999, 3. (2004). 57. Kilroy 2011. 23. Nabli, Silva-Jáuregui, and Faruk Aysan 2008. 58. Gatti and others 2012. 24. Assaad 2012; Assaad and Barsoum 2007. 59. Akerlof and Kranton 2010. 仕事を中心に据える  41 60. Giles, Mavridis, and Witoelar 2012(世界開 98. ILO 1998. 発報告2013向けのレポート)。 99. Chen and others 2012(世界開発報告2013 61. ILO 2012b. 向けのレポート)。 62. ILO 2010. 100. Betcherman 2012. 63. ILO 2002. 101. Alatas and Cameron 2003; Arango and Pachón 64. Heath and Mobarak 2011. 2004; Rama 2001; SMERU Research Institute 65. Luke and Munshi 2011. 2001. 66. Alfaro and Chen 2011; Romer 1993. 102. Haltiwanger, Scarpetta, and Schweiger 2008. 67. UNDP 2003a; UNDP 2003b. 103. Betcherman 2012(世界開発報告2013向け 68. Ibarraran and others 2012. のレポート)。Freeman 2009; OECD 2006. 69. 様々な状況における仕事の波及効果について 104. Aidt and Tzannatos 2002. は、以下の世界開発報告を参照:若年層(世 105. Freeman 2009. 界銀行2006b)、地理(世界銀行2009b)、紛 106. Aidt and Tzannatos 2002. 争(世界銀行2011a)、ジェンダー(世界銀 107. Card, Kluve, and Weber 2010; OECD 2006; 行2011c)。 Almeida and others 2012(世界開発報告 70. Glewwe 2004. 2013向けのレポート)。 71. IOM 2010. 108. Bird and Smart 2012; Levy 2008. 72. Goswami, Mattoo, and Sáez 2011. 109. Bhatt 2006; Chen and others 2012(世界開 73. Ball, Leigh, and Loungani 2012. 発報告2013向けのレポート)。 74. 世界銀行(2012, various issues. 110. 世界銀行 2010. 注:このコストは「多数国 75. 成長開発委員会2008. 軍人復員・社会復帰プログラム」の総コス 76. Kraay 2012. トを示し、雇用だけでなくあらゆる形の社 77. Elbadawi, Kaltani, and Soto 2009. 会復帰支援も含まれる。 78. King and Levine 1993; Levine 2005. 111. Glewwe 2004. 79. IFC近刊. 112. Rama 2009. 80. Foster and Briceño-Garmendia 2010. 113. 世界開発指標2012、世界開発指標、世界銀 81. Djankov, Freund, and Pham 2010; Hallward- 行、ワシントンDC、http://data-worldbank. Driemeier, Khun-Jush, and Pritchett 2010. org/data-catalog/ 82. Klapper, Laeven, and Rajan 2006. world-development-indicators. 83. Bruhn, 2008. 114. 世界銀行2007. 84. 以下の例参照:Psacharopoulos and Patrinos 115. Rwanda Demobilization and Reintegration (2004); Montenegro and Patrinos 2012(世 Commission 2012. 界開発報告2013向けのレポート)。 116. ルワンダは、「ビジネス環境の現状2010」 85. 以 下 の 例 参 照 : 生 産 性 に 関 す る リ ン で有力な改革推進国として指定された。 ク:Hanushek and Woessmann (2008)およ びCommander and Svejnar (2011). 構造変 117. Dudwick and Srinivasan 近刊; 世界銀行 化および貧困に関する検討についてのリン 2011a. ク:Lee and Newhouse (2012)(世界開発報 118. 世界開発指標2012、 世界開発指標、 世界銀行、 告2013向けのレポート)。 ワシントンDC、http://data-worldbank.org/ 86. Engle and others 2007, Grantham-McGregor data-catalog/world-development-indicators. and others 2007; Heckman 2008; Walker and 119. Consejo Nacional de Innovación 2008; 世界 others 2007; Young and Richardson 2007. 銀行 2008b. 87. Engle and others 2007. 120. 世界銀行 2006a; 世界開発指標2011、世界開 88. Heineck and Anger 2010; Cunha, Heckman 発指標、世界銀行、ワシントンDC、 and Schennach 2010. http://data-worldbank.org/data-catalog/ 89. OECD PISA 2009 (http://www.pisa.oecd.org). world-development-indicators. 90. IMF 2003; Rodrik 2000. 121. OECD 2010. 91. Keefer 2009; North 1981, 1990. 122. OECD 2009. 92. Acemoglu, Johnson, and Robinson 2001; 123. OECD 2009. North 1990; Rodrik, Subramanian, and 124. Yusuf and Nabeshima 2006; Park and Trebbi 2004. others 2011. 93. 世界銀行2004. 125. 以下を参照:世界銀行 2010; Gibson, 94. 世界銀行2010. McKenzie, and Rohorua 2008. 95. 世界銀行2004. 126. Fajnzylber, Maloney, and Montes-Rohas 96. 世界銀行2004. 2011; OECD and ILO 2011. 97. Laeven and Woodru 2007. 127. 世界銀行2011d. 42  世界開発報告2013 128. Chau and Kanbur (2002)では、ある国が条 Development: An Empirical Investigation.” Ameri- 約を批准するかどうかは、同じような状況 can Economic Review 91 (5): 1369–401. 下にある他国の批准数に左右されるという Adler, Daniel, and Hans Hwang. 2012. “From Law on 「ピア効果」の実例が指摘されている。 the Books to Law in Action: A Note on the Role 129. Adler and Hwang 2012(世界開発報告2013 of Regulation in the Production of Good Jobs in 向けのレポート)。 Cambodia’s Garment Sector.” Background paper 130. Levi and others 2012(世界開発報告2013向 for the WDR 2013. けのレポート)、Newitt 2012(世界開発報 Aidt, Toke, and Zafiris Tzannatos. 2002. Unions and 告2013向けのレポート)。 Collective Bargaining: Economic Effects in a Global 131. Locke近刊; Locke, Quin, and Brause 2007. Environment. Washington, DC: World Bank. 132. Hoekman 2011. Akerlof, George A., and Rachel E. Kranton. 2010. 133. Borchert, Gootiiz and Mattoo 2011. Identity Economics: How Our Identities Shape 134. François and Hoekman 2010. Our Work, Wages, and Well-Being. Princeton, NJ: 135. Hoekman and Mattoo 2011. Princeton University Press. 136. Fink, Mattoo, and Rathindran 2003; François Alatas, Vivi, and Lisa Ann Cameron. 2003. “The and Hoekman 2010. Impact of Minimum Wages on Employment in a 137. Hoekman and Mattoo 2011. Low Income Country: An Evaluation Using the 138. 世界銀行2011c. Difference-in-Differences Approach.” Policy 139. Randriamaro 2007. Research Working Paper Series 2985, World Bank, 140. 以下の例を参照:Winters and others (2002); Washington, DC. 世界銀行(2005). Alfaro, Laura, and Maggie Xiaoyang Chen. 2011. 141. 以下の例を参照:EFRA (2011) and “Selection, Reallocation, and Knowledge Spillovers: Angenendt (2012). Identifying the Impact of Multinational Activity 142. 欧州連合のシェンゲン地域のような地域協 on Aggregate Productivity.” Paper presented at the 定には移住労働者の査証や社会保障といっ World Bank Conference on Structural Transfor- た特定分野を盛り込むことも可能。一部の mation and Economic Growth, Washington, DC, ラテンアメリカ諸国、スペイン、ポルトガ October 6. ルは、社会保障を受ける移住者の権利や規 Almeida, Rita, David Margolis, David Robalino, and 制に関する共通の原則を策定している。 Michael Weber. 2012. “Facilitating Labor Market 143. これに関する議論は以下を参照:Pritchett Transitions and Managing Risks.” Background (2006). paper for the WDR 2013. 144. 月間または四半期ごとに労働調査を行って Amador, Diego, Raquel Bernal and Ximena Peña 2011. いるのは 65件だけだが、年次調査を行って “The Rise in Female Participation in Colombia: いるのは116件。 Fertility, Marital Status or Education?” Background 145. 4つの指標とは、雇用者1人当たりGDP(生 paper for the World Development Report 2012. 産性の尺度)、人口に対する雇用者比率、 Angenendt, Steffen. 2012. “Migration and Social 1日1.25ドル未満で暮らす雇用人口の割合(い Inclusion–Looking through the Good Jobs Lens.” わゆる「ワーキング・プア」)、雇用人口に In Moving Jobs to the Center Stage, BMZ (Bundes- 占める自営業者と無償労働者の割合(いわゆ ministerium fuer Wirtschaftliche Zussamenarbeit), る「脆弱な労働者」)を指す。国連開発計画 Berlin Workshop Series. Berlin. 2010参照。 Arango, Carlos, and Angelica Pachón. 2004. “Mini- 146. ILO 2012c.労働分析および政策立案におけ mum Wages in Colombia: Holding the Middle るデータの重要性に関しては Kanbur and with a Bite on the Poor.” Borradores de Economía Svejnar (2009)を参照。 Serie 280, Banco de la República de Colombia, Bogotá. Artuc, Erhan, Frederic Docquier, Caglar Özden, and 参考文献 Chris Parsons. 2012. “Education Structure of Global Migration Patterns: Estimates Based on Census Data.” ここでの「processed」という表現は、形式にこ World Bank, Washington DC. Processed. だわらずに再出版された文献を指し、通常、図 Assaad, Ragui. 2012. “The MENA Paradox: Higher 書館では扱われていない。 Education but Lower Job Quality.” In Moving Jobs to the Center Stage. BMZ (Bundesministerium fuer A.T. Kearney. 2011. Offshoring Opportunities amid Wirtschaftliche Zussamenarbeit), Berlin Workshop Economic Turbulence: A.T. Kearney Global Ser- Series. Berlin. vices Location Index, 2011. Chicago: A.T. Kearney ———. 1997. “The Effects of Public Sector Hir- Global Services Location Index. ing and Compensation Policies on the Egyptian Acemoglu, Daron, Simon Johnson, and James A. Rob- Labor Market.” World Bank Economic Review 11 inson. 2001. “The Colonial Origins of Comparative (1): 85–118. 仕事を中心に据える  43 Assaad, Ragui, and Ghada Barsoum. 2007. “Youth Andrew Young School of Policy Studies, Georgia Exclusion in Egypt: In Search of ‘Second State University, Atlanta. Chances.’ ” Middle East Youth Initiative Working Bjørkhaug, Ingunn, Anne Hatløy, Tewodros Kebede, Paper Series 2, Wolfensohn Center for Develop- and Huafeng Zhang. 2012. “Perception of Good ment, Dubai School of Government, Dubai. Jobs: Colombia.” Background paper for the WDR Autor, David H., and David Dorn. 2011. “The Growth 2013. of Low-Skill Service Jobs and the Polarization of Blanchflower, David G., and Andrew J. Oswald. 2011. the U.S. Labor Market.” Massachusetts Institute of “International Happiness.” Working Paper Series Technology, Cambridge, MA. Processed. 16668. National Bureau of Economic Research, Ayyagari, Meghana, Asli Demirgüç-Kunt, and Vojislav Cambridge, MA. Maksimovic. 2011. “Firm Innovation in Emerging Borchert, Ingo, Batshur Gootiiz, and Aaditya Mattoo. Markets: The Roles of Governance and Finance.” 2011. “Services in Doha: What’s on the Table?” In Journal of Financial and Quantitative Analysis 46 Unfinished Business: The WTO’s Doha Agenda, ed. (6): 1545–80. Will Martin and Aaditya Mattoo, 115–44. London: Azevedo, João Pedro, Gabriela Inchauste, Sergio London Publishing Partnership. Olivieri, Jaime Saavedra Chanduvi, and Hernan Bourguignon, François, and Francisco H. G. Ferreira. Winkler. 2012. “Is Labor Income Responsible for 2005. “Decomposing Changes in the Distribution Poverty Reduction? A Decomposition Approach.” of Household Incomes: Methodological Aspects.” Background paper for the WDR 2013. In The Microeconomics of Income Distribution Dy- Baily, Martin Neil, Eric J. Bartelsman, and John Halti- namics in East Asia and Latin America, ed. Fran- wanger. 1996. “Downsizing and Productivity çois Bourguignon, Francisco H. G. Ferreira, and Growth: Myth or Reality?” Small Business Econom- Nora Lustig, 17–46. Washington, DC: World Bank. ics 8 (4): 259–78. Brandt, Loren, Johannes Van Biesebroeck, and Yifan Ball, Laurence, Daniel Leigh, and Prakash Loungani. Zhang. 2012. “Creative Accounting or Creative Forthcoming. “Okun’s Law: Fit at 50?” Working Destruction? Firm-Level Productivity Growth in Paper, International Monetary Fund, Washington, Chinese Manufacturing.” Journal of Development DC. Economics 97 (2): 339–51. Banerjee, Abhijit V., and Esther Duflo. 2011. Poor Eco- Brown, Philip, David Ashton, and Hugh Lauder. 2010. nomics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Skills Are Not Enough: The Globalization of Knowl- Global Poverty. New York: Public Affairs. edge and the Future of the UK Economy. Wath upon Bartelsman, Eric, John Haltiwanger, and Stefano Dearne, U.K.: U.K. Commission for Employment Scarpetta. 2004. “Microeconomic Evidence of ­ and Skills. Creative Destruction in Industrial and Develop- Bruhn, Miriam. 2008. “License to Sell: The Effect of ing Countries.” Discussion Paper Series 1374, Business Registration Reform on Entrepreneurial Institute for the Study of Labor, Bonn. ———. 2009. “Measuring and Analyzing Cross- Activity in Mexico.” Policy Research Working Pa- Country Differences in Firm Dynamics.” In Pro- per Series 4538, World Bank, Washington, DC. ducer Dynamics: New Evidence from Micro Data, Card, David, Jochen Kluve, and Andrea Weber. 2010. ed. Timothy Dunne, J. Bradford Jensen, and Mark “Active Labour Market Policy Evaluations: A Meta- J. Roberts, 17–76. Cambridge, MA: National Analysis.” Economic Journal 120 (11): 452–77. Bureau of Economic Research. Chau, Nancy H., and Ravi Kanbur. 2001. “The Adop- Baulch, Bob, ed. 2011. Why Poverty Persists: Poverty tion of International Labor Standards Conventions: Dynamics in Asia and Africa. Cheltenham, U.K.: Who, When and Why?” In Brookings Trade Forum: Edward Elgar. 2001, ed. Nancy H. Chau, Ravi Kanbur, Ann E. Bell, David N. F., and David G. Blanchflower. 2011. Harrison, and Peter Morici, 113–56. Washington, “The Crisis, Policy Reactions and Attitudes to Glo- DC: Brookings Institution. balization and Jobs.” Discussion Paper Series 5680, Chen, Martha, Chris Bonner, Mahendra Chetty, Lucia Institute for the Study of Labor, Bonn. Fernandez, Karin Pape, Federico Parra, Arbind Betcherman, Gordon. 2012. “Labor Market Institu- Singh, and Caroline Skinner. 2012. “Urban Infor- tions: A Review of the Literature.” Background mal Workers: Representative Voice and Economic paper for the WDR 2013. Rights.” Background paper for the WDR 2013. Bhatt, Ela. 2006. We Are Poor But So Many: The Chen, Shaohua, and Martin Ravallion. 2010. “The Story of Self-Employed Women in India. New York: Developing World Is Poorer Than We Thought, but Oxford University Press. No Less Successful in the Fight against Poverty.” Bird, Richard M., and Michael Smart. 2012. “Financ- Quarterly Journal of Economics 125 (4): 1577–625. ing Social Expenditures in Developing Countries: Chioda, Laura. 2012. Work and Family: Latin America Payroll or Value Added Taxes?” International Cen- and Caribbean Women in Search of a New Balance. ter for Public Policy Working Paper Series 1206, Washington, DC: World Bank. 44  世界開発報告2013 Commander, Simon, and Jan Svejnar. 2011. “Business European Centre for the Development of Voca- Environment, Exports Ownership, and Firm Per- tional Training. formance.” Review of Economics and Statistics 93 Fajnzylber, Pablo, William F. Maloney, and Gabriel (1): 309–37. V. Montes-Rojas. 2011. “Does Formality Improve Commission on Growth and Development. 2008. The Micro-Firm Performance? Quasi-Experimental Growth Commission Report: Strategies for Sustained Evidence from the Brazilian SIMPLES Program.” Growth and Inclusive Development. Washington, DC: Discussion Paper Series 4531, Institute for the Commission on Growth and Development. Study of Labor, Bonn. Consejo Nacional de Innovación. 2008. Hacia una Farber, Henry S. 2011. “Job Loss in the Great Reces- Estrategia Nacional de Innovación para la Competi- sion: Historical Perspective from the Displaced tividad. Santiago: Consejo Nacional de Innovación. Workers Survey, 1984–2010.” Discussion Paper Se- Cunha, Flavio, James J. Heckman, and Susanne Schen- ries 5696, Institute for the Study of Labor, Bonn. nach. 2010. “Estimating the Technology of Cogni- Fares, Jean, and Olga Susana Puerto. 2009. “Towards tive and Noncognitive Skill Formation.” Economet- Comprehensive Training.” Social Protection rica 78 (3): 883–931. Discussion Paper Series 0924, World Bank, Dani, Anis, Sarah Forster, Mirsada Muzur, Dino Djipa, Washington, DC. Paula Lytle, and Patrizia Poggi. 1999. A Social Feenstra, Robert C. 2010. Offshoring in the Global Assessment of Bosnia and Herzegovina. Economy: Microeconomic Structure and Macroeco- Washington, DC: World Bank. nomic Implications. Cambridge, MA: MIT Press. Davis, Steven J., John C. Haltiwanger, and Scott Schuh. Fields, Gary, Paul Cichello, Samuel Freije-Rodriguez, 1996. Job Creation and Destruction. Cambridge, Marta Menendez, and David Newhouse. 2003. MA: MIT Press. “Household Income Dynamics: A Four-Country de Soto, Hernando. 1989. The Other Path: The Invisible Story.” Journal of Development Studies 40 (2): 30–54. Revolution in the Third World. New York: Harper & Fink, Carsten, Aaditya Mattoo, and Randeep Rathin- Row. dran. 2003. “An Assessment of Telecommunica- Djankov, Simeon, Caroline Freund, and Cong S. tions Reform in Developing Countries.” Informa- Pham. 2010. “Trading on Time.” Review of Eco- tion Economics and Policy 15 (4): 443–66. nomics and Statistics 92 (1): 166–73. Foster, Vivien, and Cecilia Briceño-Garmendia, eds. Dudwick, Nora, and Radhika Srinivasan, with Jose 2010. Africa’s Infrastructure: A Time for Transfor- Cueva and Dorsati Madani. Forthcoming. Creat- mation. Washington, DC: World Bank. ing Value Chains in Africa’s Fragile States: Are Value Fox, Louise, and Thomas Sohnesen. 2012. “Household Chains an Answer? Directions in Development Enterprise in Sub-Saharan Africa: Why They Series. Washington, DC: World Bank. Matter for Growth, Jobs, and Poverty Reduction.” Dutz, Mark A., Ioannis Kessides, Stephen O’Connell, Policy Research Working Paper Series 6184, World and Robert D. Willig. 2011. “Competition and Bank, Washington, DC. Innovation-Driven Inclusive Growth.” Policy Re- François, Joseph F., and Bernard Hoekman. 2010. search Working Paper Series 5852, World Bank, “Services Trade and Policy.” Journal of Economic Washington, DC. Literature 48 (3): 642–92. EFRA (European Union Agency for Fundamental Freeman, Richard. 2009. “Labor Regulations, Unions, Rights). 2011. Fundamental Rights of Migrants in an and Social Protection in Developing Countries: Irregular Situation in the European Union. Luxem- Market Distortions or Efficient Institutions?” In bourg: Publications Office of the European Union. Handbook of Development Economics, Volume 5, Elbadawi, Ibrahim, Linda Kaltani, and Raimundo ed. Dani Rodrik and Mark Rosenzweig, 4657–702. Soto. 2009. Aid, Real Exchange Rate Misalignment Amsterdam: Elsevier. and Economic Performance in Sub-Saharan Africa. Gatti, Roberta, Diego Angel-Urdinola, Joana Silva, Santiago: Universidad Católica de Chile. and Andras Bodor. 2012. Striving for Better Jobs: Engle, Patrice L, Maureen M. Black, Jere R. Beh- The Challenge of Informality in the Middle East rman, Meena Cabral de Mello, Paul J. Gertler, and North Africa. Washington, DC: World Bank. Lydia Kapiriri, Reynaldo Martorell, and Mary Em- Ghose, Ajit K., Nomaan Majid, and Christoph Ernst. ing Young. 2007. “Strategies to Avoid the Loss of Developmental Potential in More than 200 2008. The Global Employment Challenge. Geneva: Million Children in the Developing World.” Lancet International Labour Organization. 369 (9557): 229–42 Gibson, John, David McKenzie, and Halahingano European Centre for the Development of Vocational Rohorua. 2008. “How Pro-Poor is the Selection of ­ Training. 2008. Future Skill Needs in Europe, Seasonal Migrant Workers from Tonga Under New Medium-Term Forecast, Synthesis Report. Brussels: Zealand’s Recognized Seasonal Employer Pro- 仕事を中心に据える  45 gram.” Working Paper Series 4698, World Bank, vestment: Evidence from Garment Sector Jobs and Washington, DC. a Girls’ Schooling Subsidy Program in Bangladesh.” Giles, John, Dimitris Mavridis, and Firman Witoelar. Yale University, New Haven, CT. Processed. 2012. “Subjective Well-Being, Social Cohesion, Heckman, James J. 2008. “The Case for Investing in and Labor Market Outcomes in Indonesia.” Back- Disadvantaged Young Children.” In Big Ideas for ground paper for the WDR 2013. Children: Investing in Our Nation’s Future, 49–58. Gindling, T. H., and David Newhouse. 2012. “Profiling Washington, DC: First Focus. the Self-Employed in the Developing World.” Back- Heineck, Guido, and Silke Anger. 2010. “The Returns ground paper for the WDR 2013. to Cognitive Abilities and Personality Traits in Glewwe, Paul W. 2004. “An Overview of Economic Germany.” Labour Economics 17 (3): 535–46. Growth and Household Welfare in Vietnam in the Hoekman, Bernard. 2011. “Aid for Trade: Why, What, 1990s.” In Economic Growth, Poverty and House- and Where Are We?” In Unfinished Business? The hold Welfare in Vietnam, ed. Paul Glewwe, Bina WTO’s Doha Agenda, ed. Will Martin and Aad- Agarwal, and David Dollar, 1–26. Washington, itya Mattoo, 233–54. London: London Publishing DC: World Bank. Partnership. Goswami, Arti Grover, Aaditya Mattoo, and Sebastián Hoekman, Bernard, and Aaditya Mattoo. 2011. Sáez, eds. 2011. Exporting Services: A Developing “Services Trade Liberalization and Regulatory Re- Country Perspective. Washington, DC: World Bank. form: Re-invigorating International Cooperation.” Grantham-McGregor, Sally, Yin Bun Cheung, San- Policy Research Working Paper Series 5517, World tiago Cueto, Paul Glewwe, Linda Richter, Barbara Bank, Washington, DC. Strupp, and the International Child Development Holzer, Harry, and Robert Lerman. 2009. The Future Steering Group. 2007. “Development Potential in of Middle-Skill Jobs. Washington, DC: Center on the First 5 Years for Children in Developing Coun- Children and Families, Brookings Institution. tries.” Lancet 369 (January): 60–70. Hsieh, Chang-Tai, and Peter J. Klenow. 2009. “Misal- Gratton, Lynda. 2011. The Shift: The Future of Work location and Manufacturing TFP in China and Is Already Here. London: HarperCollins. India.” Quarterly Journal of Economics 124 (4): Grimm, Michael, Jens Kruger, and Jann Lay. 2011. 1403–48. “Barriers to Entry and Returns to Capital in Informal ———. 2011. “The Life Cycle of Plants in India and Activities: Evidence from Sub-Saharan Africa.” Mexico.” Chicago Booth Research Paper 11-33, Review of Income and Wealth 57 (S1): S27–S53. Booth School of Business, University of Chicago. Hallward-Driemeier, Mary, Gita Khun-Jush, and Lant Ibarraran, Pablo, Laura Ripani, Bibiana Taboada, Juan Pritchett. 2010. “Deals Versus Rules: Policy Imple- Miguel Villa, Brigida Garcia. 2012. “Life Skills, Em- mentation Uncertainty and Why Firms Hate It.” ployability and Training for Disadvantaged Youth: Working Paper Series 16001, National Bureau of Evidence from a Randomized Evaluation Design.” Economic Research, Cambridge, MA. IZA Conference Paper, May 12, 2012. Processed. Haltiwanger, John. 2011. “Globalization and Economic IFC (International Finance Corporation). Forthcom- Volatility.” In Making Globalization Socially Sus- ing. IFC Job Study: Assessing Private Sector Contri- tainable, ed. Marc Bacchetta and Marion Jansen, butions to Job Creation. Washington, DC: IFC. 119–46. Geneva: International Labour Organiza- tion and World Trade Organization. ILO (International Labour Organization). 1998. Dec- Haltiwanger, John, Stefano Scarpetta, and Helena laration on Fundamental Principles and Rights at Schweiger. 2008. “Assessing Job Flows across Work. Adopted by the International Labour Con- Countries: The Role of Industry, Firm Size, and ference at its 86th session, ILO, Geneva, June 18. Regulations.” Working Paper 13920. National ———. 2002. Decent Work and the Informal Economy. Bureau of Economic Research, Cambridge, MA. Geneva: ILO. Hanushek, Eric A., and Ludget Woessmann. 2008. ———. 2007. Resolution Concerning Updating the “The Role of Cognitive Skills in Economic Devel- International Standard Classification of Occupa- opment.” Journal of Economic Literature 46 (3): tions. Adopted by the Tripartite Meeting of Experts 607–88. on Labour Statistics on Updating the International Hatløy, Anne, Tewodros Kebede, Huafeng Zhang, Standard Classification of Occupations, ILO, and Ingunn Bjørkhaug. 2012. “Perception of Good Geneva, December 6. Jobs: Sierra Leone.” Background paper for the ———. 2010. Accelerating Action against Child Labour. WDR 2013. Geneva: ILO. Heath, Rachel, and Mushfiq Mobarak. 2011. “Supply ———. 2011. Global Employment Trends for Youth. and Demand Side Constraints on Educational In- Geneva: ILO. 46  世界開発報告2013 ———. 2012a. Global Employment Trends 2012: Lending.” Quarterly Journal of Economics 127 (2): Preventing a Deeper Jobs Crisis. Geneva: ILO. 1–59. ———. 2012b. ILO Global Estimate of Forced Labour: Laeven, Luc, and Christopher Woodruff. 2007. “The Results and Methodology. Geneva: ILO. Quality of the Legal System, Firm Ownership, and ———. 2012c. “What Are the Key Challenges Facing Firm Size.” Review of Economics and Statistics 89 Labour Statistics Today?” ILO, Geneva. Processed. (4): 601–14. ILO and World Bank. 2012. Inventory of Policy Re- Lee, Jean, and David Newhouse. 2012. “Cognitive sponses to the Financial and Economic Crisis: Joint Skills and Labor Market Outcomes.” Background Synthesis Report. Washington, DC: ILO and World paper for the WDR 2013. Bank. Levi, Margaret, Christopher Adolph, Aaron Erlich, IMF (International Monetary Fund). 2003. “Growth Anne Greenleaf, Milli Lake, and Jennifer Noveck. and Institutions.” In World Economic Outlook: 2012. “Aligning Rights and Interests: Why, When, April 2003; Growth and Institutions, 95–128. and How to Uphold Labor Standards.” Background Washington, DC: IMF. paper for the WDR 2013. Inchauste, Gabriela. 2012. “Jobs and Transitions out of Levine, Ross. 2005. “Finance and Growth: Theory Poverty: A Literature Review.” Background paper and Evidence.” In Handbook of Economic Growth, for the WDR 2013. ed. Philippe Aghion and Steven Durlauf, 865–934. Inchauste, Gabriela, Sergio Olivieri, Jaime Saavedra Amsterdam: Elsevier. Chanduvi, and Hernan Winkler. 2012. “Decom- Levy, Santiago. 2008. Good Intentions, Bad Outcomes, Social Policy, Informality, and Economic Growth in posing Recent Declines in Poverty: Evidence from Mexico. Washington, DC: Brookings Institution Bangladesh, Peru, and Thailand.” Background Press. paper for the WDR 2013. Lin, Justin Yifu. 2012. Demystifying the Chinese Economy. IOM (International Organization for Migration). Cambridge, U.K.: Cambridge University Press. 2008. World Migration Report 2008: Managing Locke, Richard. Forthcoming. Beyond Compliance: Labor Mobility in the Evolving Global Economy. Promoting Labor Justice in a Global Economy. New Geneva: IOM. York: Cambridge University Press. ———. 2010. World Migration Report 2010. The Fu- Locke, Richard, Fei Quin, and Alberto Brause. 2007. ture of Migration: Building Capacities for Change. “Does Monitoring Improve Labor Standards? Geneva: IOM. Lessons from Nike.” Industrial and Labor Relations Kanamori, Tokishi, and Zhijun Zhao. 2004. Private Review 61 (1): 3–31. Sector Development in the People’s Republic of Luke, Nancy, and Kaivan Munshi. 2011. “Women as China. Manila: Asian Development Bank Institute. Agents of Change: Female Income and Mobility in Kanbur, Ravi. 2009. “Conceptualizing Informality: India.” Journal of Development Economics 94 (1): Regulation and Enforcement.” Indian Journal of 1–17. Labour Economics 52 (1): 33–42. Lyon, Scott, Furio C. Rosati, and Lorenzo Guarcello. Kanbur, Ravi, and Jan Svejnar, eds. 2009. Labor 2012. “At the Margins: Young People neither in Markets and Economic Development. Routledge. Education nor in Employment.” Background paper Kebede, Tewodros, Anne Hatløy, Huafeng Zhang, for the WDR 2013. and Ingunn Bjørkhaug. 2012. “Perception of Good Maloney, William F., and Jairo Núñez Méndez. Jobs: Egypt.” Background paper for the WDR 2013. 2003.“Measuring the Impact of Minimum Wages: Keefer, Philip. 2009. “Governance.” In The SAGE Evidence from Latin America.” Working Paper Se- Handbook of Comparative Politics, ed. Todd Land- ries 9800, National Bureau of Economic Research, man and Neil Robinson, 439–62. London: SAGE Cambridge, MA. Publications. McKenzie, David, and Christopher Woodruff. 2008. Kilroy, Austin. 2011. “Business Bridging Ethnicity.” “Experimental Evidence on Returns to Capital and Ph.D. thesis, Massachusetts Institute of Technol- Access to Finance in Mexico.” World Bank ogy, Cambridge, MA. Economic Review 22 (3): 457–482. King, Robert, and Ross Levine. 1993. “Finance and Mertens, Brian. 2011. “Forbes Asia’s Businessman of Growth: Schumpeter Might Be Right.” Quarterly the Year.” Forbes Asia Magazine, December 5. Journal of Economics 108 (3): 717–37. Montenegro, Claudio E., and Harry Anthony Patrinos. Klapper, Leora, Luc Laeven, and Raghuram Rajan. 2012. “Returns to Schooling around the World.” 2006. “Entry Regulation as a Barrier to Entrepre- Background paper for the WDR 2013. neurship.” Journal of Financial Economics 82 (3): Moser, Caroline O. N. 2009. Ordinary Families, 591–629. Extraordinary Lives: Assets and Poverty Reduction Kraay, Aart. 2012. “How Large Is the Government in Guayaquil, 1978–2004. Washington, DC: Brook- Spending Multiplier? Evidence from World Bank ings Institution. 仕事を中心に据える  47 Mryyan, Nader. 2012. “Demographics, Labor Force Pritchett, Lant. 2006. Let Their People Come: Breaking Participation, and Unemployment in Jordan.” the Gridlock on Global Labor Mobility. Washington, Working Paper Series 670, Economic Research DC: Center for Global Development. Forum, Giza, Egypt. Psacharopoulos, George, and Harry Anthony Patrinos. Nabli, Mustapha K., Carlos Silva-Jáuregui, and Ahmet 2004. “Returns to Investment in Education: A Fur- Faruk Aysan. 2008. “Authoritarianism, Credibility of ther Update.” Education Economics 12 (2): 111–34. Reforms, and Private Sector Development in the Rama, Martín. 2001. “The Consequences of Doubling the Middle East and North Africa.” Working Paper Minimum Wage: The Case of Indonesia.” Industrial Series 443, Economic Research Forum, Cairo. and Labor Relations Review 54 (4): 864–81. Narayan, Deepa, Lant Pritchett, and Soumya Kapoor. ———. 2009. “Making Difficult Choices: Vietnam in 2009. Moving Out of Poverty: Success from the Transition.” Working Paper Series 40, Growth and Bottom Up. New York: Palgrave Macmillan; Development Commission, World Bank, Washing- Washington, DC: World Bank. ton, DC. Nelson, Richard R. 1981. “Research on Productivity Randriamaro, Zo. 2007. Gender and Trade: Overview Growth and Productivity Differences: Dead Ends Report (2006). Brighton, U.K.: BRIDGE. and New Departures.” Journal of Economic Litera- Ravallion, Martin. 2009. “Are there lessons for Africa ture 19 (3): 1029–64. from China’s Success against Poverty?” World Newitt, Kirsten. 2012. “Private Sector Voluntary Initia- Development 37 (2): 303–13. tives on Labour Standards.” Background paper for Rodrik, Dani. 2000. “Institutions for High-Quality the WDR 2013. Growth: What They Are and How to Acquire North, Douglass C. 1981. Structure and Change in Them.” Studies in Comparative International Economic History. New York: W. W. Norton. Development 35 (3): 3–31. ———. 1990. Institutions, Institutional Change and Rodrik, Dani, Arvind Subramanian, and Francesco Economic Performance. New York: Cambridge Trebbi. 2004. “Institutions Rule: The Primacy of University Press. Institutions over Geography and Integration in OECD (Organisation for Economic Co-operation and Economic Development.” Journal of Economic Development). 2006. OECD Employment Outlook: Growth 9 (2): 131–65. 2006. Paris: OECD. Romer, Paul Michael. 1993. “Idea Gaps and Object ———. 2009. OECD Reviews of Labour Market and Gaps in Economic Development.” Journal of Social Policies: Slovenia. Paris: OECD. ­Monetary Economics 32 (3): 543–73. ———. 2010. Off to a Good Start? Jobs for Youth. Paris: Rutkowski, Jan, Stefano Scarpetta, Arup Banerji, Philip OECD. O’Keefe, Gaëlle Pierre, and Milan Vodopivec. 2005. OECD and ILO. 2011. G20 Country Policy Briefs: Enhancing Job Opportunities: Eastern Europe and Brazil—Share of Formal Employment Continues to the Soviet Union. Washington, DC: World Bank. Grow. Paris: OECD and ILO. Rwanda Demobilization and Reintegration Com- Özden, Çaglar, Christopher Parsons, Maurice Schiff, mission. 2012. Tracer: Community Dynamics and and Terrie L. Walmsley. 2011. “Where on Earth Payment Verification Study. Kigali: Rwanda Demo- Is Everybody? The Evolution of Global Bilateral bilization and Reintegration Commission. Migration 1960–2000.” World Bank Economic Sandefur, Justin. 2010. “On the Evolution of the Firm Review 25 (1): 12–56. Size Distribution in an African Economy.” Working Paes de Barros, Ricardo, Mirela de Carvalho, Samuel Paper Series 2010-5, Centre for the Study of Franco, Rosane Mendoça. 2006. “Uma Análise das African Economies, Oxford. Principais Causas da Queda Recente na Desigual- Schoar, Antoinette. 2010. “The Divide between Subsis- dade de Renda Brasileira.” Revista Econômica 8(1): tence and Transformational Entrepreneurship.” In 117–147. Innovation Policy and the Economy, vol. 10, ed. Josh Pagés, Carmen, ed. 2010. The Age of Productivity: Lerner and Scott Stern, 57–81. Cambridge, MA: Transforming Economies from the Bottom Up. New National Bureau of Economic Research. York: Palgrave Macmillan. Schumpeter, Joseph Alois. 1934. The Theory of Park, Jaegil, Daejong Kim, Yongseok Ko, Funnan Economic Development: An Inquiry into Profits, Kim, Keunhyun Park, and Keuntae Kim. 2011. Capital, Credit, Interest, and the Business Cycle. “Urbanization and Urban Policies in Korea.” Cambridge, MA: Harvard University Press. Korea Research Institute for Human Settlements. Selim, Nadia. 2012. “Innovation for Job Creation.” Perry, Guillermo E., William F. Maloney, Omar S. Background paper for the WDR 2013. Arias, Pablo Fajnzylber, Andrew D. Mason, and Shiferaw, Admasu, and Arjun S. Bedi. 2010. “The Jaime Saavedra-Chanduvi. 2007. Informality: Exit Dynamics of Job Creation and Job Destruction: Is and Exclusion. Washington, DC: World Bank. Sub-Saharan Africa Different?” Poverty, Equity and 48  世界開発報告2013 Growth Discussion Papers 22, Courant Research ———. 2005. Global Economic Prospects: Economic Centre, Göttingen, Germany. Implications of Remittances and Migration. Wash- SMERU Research Institute. 2001. Wage and Employ- ington, DC: World Bank. ment Effects of Minimum Wage Policy in the Indo- ———. 2006a. Chile Development Policy Review. nesian Urban Labor Market. Jakarta: SMERU Re- Washington, DC: World Bank. search Institute. ———. 2006b. World Development Report 2007: Stampini, Marco, and Audrey Verdier-Choucane. Development and the Next Generation. 2011. “Labor Market Dynamics in Tunisia: The Washington, DC: World Bank. Issue of Youth Unemployment.” Discussion Paper ———. 2007. Rwanda: Toward Sustained Growth and Series 5611, Institute for the Study of Labor, Bonn. Competitiveness, Volume I, Synthesis and Priority Sutton, John, and Nebil Kellow. 2010. An Enterprise Measures. Washington, DC: World Bank. Map of Ethiopia. London: International Growth ———. 2008. Chile: Toward a Cohesive and Well Gov- Centre. erned National Innovation System. Washington DC: Syverson, Chad. 2011. “What Determines Productivity?” World Bank. Journal of Economic Literature (49) 2: 326–65. ———. 2009a. Doing Business 2010. Washington, DC: TeamLease. 2010. Temp Salary Primer 2010. Ahmed- World Bank. abad, India: TeamLease Services Pvt. Ltd. United Nations. (UN). 2009. System of National ———. 2009b. World Development Report 2009: Accounts. New York: UN. Reshaping Economic Geography. Washington, DC: ———. 2011. World Urbanization Prospects: The 2011 World Bank. Revision. New York: United Nations, Department ———. 2010. MDRP (Multi-Country Demobilization of Economic and Social Affairs. and Reingration Program) Report. Washington, UNDP (United Nations Development Programme). DC: World Bank. 2003a. Early Warning Report: FYR Macedonia. New ———. 2011a. World Development Report 2011: York: UNDP. Conflict, Security, and Development. Washington, ———. 2003b. Early Warning System: Bosnia and DC: World Bank. Herzegovina. New York: UNDP. ———. 2011b. More and Better Jobs in South Asia. United Nations Development Group. 2010. Thematic Washington, DC: World Bank. Paper on MDG1: Eradicate Extreme Poverty and ———. 2011c. World Development Report 2012: Hunger, Review of Progress. New York: United Gender Equality and Development. Washington, Nations. DC: World Bank. Walker, Susan P., Theodore D. Wachs, Julie Meeks ———. 2011d. Capabilities, Opportunities and Gardner, Betsy Lozoff, Gail A. Wasserman, Ernersto Participation. Gender Equality and Development in Pollitt, and Julie A. Carter. 2007. “Child Develop- the Middle East and North Africa Region. A ment: Risk Factors for Adverse Outcomes in Devel- Companion Report to the World Development oping Countries.” Lancet 369 (9556): 145–57. Report 2012. Washington, DC: World Bank. Wietzke, Frank-Borge, and Catriona McLeod. 2012. ———. 2011e. “Fueling Growth and Competitiveness “Jobs, Well-Being, and Social Cohesion: Evidence in Poland through Employment, Skills, from Value and Perception Surveys.” Background and Innovation.” Technical report, World Bank, paper for the WDR 2013. Washington, DC. Winters, Alan, Terrie Walmsley, Zhen Kun Wang, and ———. 2012. Job Trends. Washington, DC: World Roman Grynberg. 2002. “Negotiating the Liber- Bank. alization of the Temporary Movement of Natural Persons.” University of Sussex Discussion Paper 87, Young, Mary Eming, and L. M. Richardson, eds. 2007. Sussex, U.K. Early Child Development From Measurement to Witze, Morgen. 2010. “Case Study: Tata.” Financial Action: A Priority for Growth and Equity. Times, December 29. Washington, DC: The World Bank. World Bank. 1992. World Development Report 1992: Yusuf, Shahid, and Kaoru Nabeshima. 2006. Post- Development and the Environment. New York: Industrial East Asian Cities: Innovation for Growth. Oxford University Press. Palo Alto: Stanford University Press. ———. 2004. World Development Report 2005: A Zhang, Huafeng, Ingunn Bjørkhaug, Anne Hatløy, and Better Investment Climate for Everyone. New York: Tewodros Kebede. 2012. “Perception of Good Jobs: Oxford University Press. China.” Background paper for the WDR 2013. 世界開発報告2013:目次 序文 謝辞 略語およびデータ・ノート 概観:仕事を中心に据える 第1章 仕事をめぐる諸問題 第1部 仕事は変革的影響をもつ 第2章 仕事と生活水準 第3章 仕事と生産性 第4章 仕事と社会的結束 第2部 開発に資する良い仕事とは何か 第5章 仕事の評価 第6章 多岐にわたる仕事のアジェンダ 第7章 相互に連関する仕事をめぐるアジェンダ 第3部 雇用のレンズを通した政策 第8章 労働政策の再考 第9章 労働政策を超えて 付記 略語 参考文献 背景となる論文およびノート 一部の指標 索引 49 Four easy ways to order PHONE: MAIL: ONLINE: FAX: +1-703-661-1580 or P.O. Box 960 www.worldbank.org/publications +1-703-661-1501 1-800-645-7247 Herndon, VA 20172-0960, USA World Development Report 2013 Jobs PRICE QTY TOTAL US$35.00 Paperback: (ISBN: 978-0-8213-9575-2) SKU 19575 Hardcover: (ISBN: 978-0-8213-9620-9 ) SKU 19620 US$60.00 Prices vary by country as World Bank Publications offers geographical Subtotal discounts on its titles. Please visit publications.worldbank.org/discounts Within the US (prepaid orders): $8 per order + $1 per item. Geographic discount* Outside of the US: • Nontrackable airmail delivery (US$7 per order + US$6 per item). Delivery time: 4-6 weeks Shipping and Handling** • Trackable couriered airmail delivery (US$20 per order + US$8 per item). Delivery time: 2 weeks. Total US$ MAILING ADDRESS METHOD OF PAYMENT Name Charge my Organization Visa Mastercard American Express Address Credit card number City Expiration date State Zip Name Country Signature Phone Enclosed is my check in US$ drawn on a U.S. bank and Fax made payable to the World Bank Email Customers outside the United States Contact your local distributor for information on prices in local currency and payment terms http://publications.worldbank.org/booksellers THANK YOU FOR YOUR ORDER! 環境監査 環境保護のための宣言 世界銀行は危機にさらされた森林や自 これにより 然資源の保護に取り組んでいる。出版 • 樹木41本 局は、「 世界開発報告 2013 :仕事:概 1900万BTUの • 観 」の出版にあたり、古紙50 % を再利用 エネルギー して印刷することを選んだ。これは米国  ,607キロの •1 の非営利団体グリーンプレス・イニシア 温室効果ガス純排出量 チブが推薦する再生紙利用の基準に従っ 72,717リットルの排水 • たものである。同団体は出版業者が危機 583キロの固形廃棄物が • にさらされた森から産出されていない繊 節約された。 維を使うことを支援している。詳細につ いてはウェブサイトをご覧ください。 (www.greenpressinitiative.org) 仕事は、各国の成長につれて所得や福利厚生の増大をもたらすが、それと 同時に、開発の推進力でもある。人々が働いて困窮から抜け出し、仕事で 力をつけた女性が子供への投資を増やすにつれて貧困は低下する。労働者 が仕事に習熟するにつれ、またより生産的な仕事が創出され、非生産的な 仕事が消滅するにつれて、効率が高まる。社会が繁栄するのは、仕事が異 なる民族や社会的背景を持つ人々を結びつけ、対立に代わるものを与える ときである。従って、仕事は単に経済成長の副産物にとどまるものではな い。仕事は変革的な効果をもつ。それは、すなわち生活の糧であり、行動 であり、人格そのものでもある。 若年層の高失業率と仕事に対する満たされない期待は喫緊の懸念材料であ る。しかし、農業と自営業が一般的であり、社会セーフティーネットがあ まり充実していない多くの途上国では、失業率が低いこともありうる。こ れらの国では、成長が仕事を伴わないということではない。貧困者の大半 は、長時間働いても生計を立てていくことができない状態である。基本的 人権の侵害もめずらしくはない。従って仕事の数が重要なのではなく、高 い開発成果をもたらす仕事が必要とされているのである。 こうした問題に直面している政策当局者は、難しい質問に迫られている。 各国は成長中心の開発戦略をとるべきか、それとも、仕事の方を重視すべ きか?企業家精神は、特に途上国の多数の零細企業の経営者の中から育成 可能か、それとも企業家とは持って生まれた資質なのか?教育や訓練への 投資は、就職するための必須条件か、それとも技能は職場で身につけられ るものか?深刻な危機や構造の変化が起きたときには、労働者だけではな く、仕事も保護されるべきか?ある国の仕事の創出政策が他国の仕事を犠 牲にするリスクはどれほどあるのか? 「世界開発報告2013:仕事」は、仕事を派生的な労働需要と見るのではな く、開発の推進力として捉え、正規の賃金雇用だけでなくすべての仕事の 種類について考察することにより、こうした困難な質問や他の問いに答え ている。本報告書は、各種セクターを横断的に捉えた枠組みを用いて、最 善の政策対応とは、発展の度合い、資源の賦存度、人口動態、機構の整備 状況に応じて国ごとに異なることを示している。いずれの場合も政策上の ファンダメンタルズを固めることが重要となる。それは世界の仕事のほと んどを生み出す民間セクターの活性化を可能とするからだ。労働政策も役 にたつが、一般に考えられているほどの重要性はもっていない。小規模農業 の活性化から、機能的な都市の育成、世界市場への連結にいたる、開発政 策こそが成功の鍵を握っているのである。 32705