53017 動向と政策選択 ■ No.8  都市水道事業の官民連携 途上国における経験を検証する 著者  フィリップ・マリン 訳者  齋藤 博康      世界銀行 the World Bank 民活インフラ助言ファシリティ PPIAF 発行 日本水道新聞社 Public-Private Partnership for Urban Water Utilities: A Review of Experiences in Developing Countries Copyright © 2009 by International Bank for Reconstruction and Development / International Development Association or The World Bank 都市水道事業の官民連携:途上国における経験を検証する 版権@ 2012 国際復興開発銀行/国際開発協会または世界銀行 This work was originally published by The World Bank in English as Public-Private Partnership for Urban Water Utilities: A Review of Experiences in Developing Countries in 2009. This Japanese translation was arranged by Japan Water Works News Co., Ltd. Japan Water Works News Co., Ltd. is responsible for the quality of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. Japan Water Works News Co., Ltd. is responsible for the content of the translator’s message and translator’s career and translator’s notes that was added to the original. Japan Water Works News Co., Ltd. is the copyright owner of these materials. The findings, interpretations, and conclusions expressed in this work do not necessarily reflect the views of The World Bank, its Board of Executive Directors, or the governments they represent. The World Bank does not guarantee the accuracy of the data included in this work. The boundaries, colors, denominations, and other information shown on any map in this work do not imply any judgment on the part of The World Bank concerning the legal status of any territory or the endorsement or acceptance of such boundaries.  本書の原文は「Public-Private Partnership for Urban Water Utilities: A Review of Experiences in Developing Countries in 2009.」として世界銀行から英文で出版された。日本語版の翻訳は日本水道 新聞社によって作成され、同社は翻訳の正確性に責任を持っている。もし、両者に食い違いがある場 合は英語によるものとする。また、同社は原文に書き加えられた翻訳者の言葉や経歴、翻訳者注につ いても、その内容に責任を持っており、これらの著作権も所有する。  この作品で表明された所見、解釈、結論は必ずしも世界銀行の取締役会、またはそれらが代表する 政府の見解を反映するものではない。  世界銀行は、この作品に含まれるデータの正確性を保証するものではない。この作品中の地図に示 され境界線、色、名称、およびその他の情報は任意の領域や境界の承認または承認の法的地位に関す る世界銀行の任意の判断を意味するものではない。 目 次 序 ⅩⅠ 謝辞 ⅩⅡ 著者 ⅩⅣ 概観 1  1) 1990 年以降における水道の官民連携の発展   2) 水道事業官民連携の業績  3) 主要な調査結果  4) 今後の展望  5) よりバランスのとれた議論に向けて 第 1 章 序章 11 第 2 章 途上国における水道の官民連携の変遷 15  1) 1990 年代の水セクター  2) 水インフラへの民間融資  3) 1990 年以降の水道の官民連携市場の変遷  4) 水道の官民連携における早期契約解除と契約終了  5) 新たな民間水道事業者(水道プレイヤー)  6) 動向分析による結論 第 3 章 水道の官民連携プロジェクトの業績と影響                    31   1) 文献から得られた証拠  2) 給水普及率  3) 給水サービスのレベル  4) 経営効率  5) 水道料金 iii  6) 水道の官民連携事業における全体的業績 第 4 章 より持続可能な官民連携に向けて                        95   1) より効率的で持続可能な水道事業官民連携の教訓  2) 都市水道事業の官民連携の新たな世代  3) バランスのとれた議論を始める時 附録 115  A  本報告が対象とした業績調査の官民連携事業  B  大規模な 36 官民連携プロジェクトの新規接続数と給水人口増加数 参考文献                                125 コラム  2.1  近代的な規制の枠組みが確立 : 1989 年イングランドとウェールズの水道民営化  2.2  途上国内の新たな民間事業者  3.1  給水普及率 : 単純に見える指標測定の難しさ   3.2  サハラ砂漠以南のアフリカにおける、水道普及拡大のための接続助成制度の活用  3.3  西アフリカのアフェルマージュで効率改善のために導入された特別なインセンティブ  3.4  経済的に最適な漏水水準の考え方 : チリに見る実例   3.5  マネジメント契約と大規模更生工事を組み合わせて損失水の削減を図ったアンマン(ヨルダ     ン)の事例  3.6  マネジメント契約 : エレバン、アルメニアにおける料金徴収の目覚ましい改善  3.7  マネジメント契約を水道事業の企業再編成を完成させるために活用 ヨハネスブルグ(南ア     フリカ共和国)の例   3.8  ガイアナにおいて官民連携を導入した際の水道料金の値上げ  3.9 複数回にわたる料金交渉と水道使用者に対する急激な値上げ : アルゼンチン ・ 大ブエノスア     イレスにおけるコンセッション  3.10 途上国と移行国において成功した都市水道の官民連携事業の概略  4.1 セネガルとニジェールのアフェルマージュにおいて、民間事業者はどのようにして効率的な     公共投資の進展に貢献したか   iv 図  2.1  途上国における官民連携受託事業と給水人口、地域別 1991-2000 年  2.2  途上国における官民連携受託事業と給水人口、地域別 1991-2007 年  2.3  地域別に見た水道事業の官民連携の状況—継続中、契約解除、終了 2007 年  2.4  途上国における都市給水人口—国別民間水道事業者 1991 − 2007 年  2.5  途上国における多国籍水道事業の官民連携 1991 − 2007 年  3.1  アルゼンチンにおける普及率の改善  5 件のコンセッションと全国平均との比較  3.2  コロンビアにおける民間事業者による給水普及率の改善 公営事業と国内都市平均の比較  3.3  マニラ(フィリピン)の官民連携における給水普及率の推移  3.4  サブ・サハラの官民連携による家庭用水道普及率の推移  3.5  コロンビアにおける特定の官民連携事業の給水継続時間の推移  3.6  12 件のマネジメント契約での給水継続時間の向上  3.7  無収水率と 1 接続当たりの損失から見たコロンビアの 8 件の官民連携事業の損失水の変化  3.8  無収水率から見たモロッコの民間事業と公営事業の損失水  3.9   モロッコの民間および公営事業における 1 接続当たりの損失水の推移  3.10 アフリカ・サハラ砂漠以南 8 件の長期官民連携事業の無収水率から見た損失水  3.11 ラテン・アメリカの 14 件の官民連携事業における無収水率から見た損失水の変化  3.12 東南アジアにおける 7 件の官民連携事業の無収水率から見た損失水  3.13 14 件のマネジメント契約での無収水率から見た損失水  3.14 ラテン・アメリカの官民連携事業における料金徴収率の改善  3.15 15 件のマネジメント契約での料金徴収率の改善  3.16 17 件の大型官民連携事業での労働生産比率の推移  3.17 ラテンアメリカにおける 10 件の大型官民連携事業による従業員数の減少  3.18 カルタヘナ(コロンビア)、セネガルのリース・アフェルマージュの効率改善  3.19 12 件のマネジメント契約における全体効率指標の改善  3.20 アンマン(ヨルダン)、ヨハネスブルク(南アフリカ)のマネジメント契約での効率改善例  3.21 西アフリカにおける民間事業者参入以後の水道料金の推移  3.22 マニラにおけるコンセッション(東・西部地区)の 10 年間の水道料金の推移  3.23 1992 年から 2007 年の官民連携水道事業の全体的業績(給水人口に基づく) 表  2.1 1990 年〜 2007 年の間に公営復帰した大規模水道事業  2.2 途上国の投資家所有の大規模民間水道事業者(中国を除く)  3.1 官民連携が水道事業の業績に与えた影響に関する調査集約  A.1 本報告が対象とした業績調査の官民連携事業  B.1 大規模な 36 官民連携プロジェクトの新規接続数と給水人口増加数   v vi 日本語版読者への訳者の言葉  この度、世界銀行から途上国都市水道の官民連携プロジェクトを検証する報告書が出され、長期間 にわたる調査と多くの証拠に基づいた詳細で総合的な結果が発表された。水道事業の官民連携につい てはこれまで多くの懐疑的な論評がなされてきた中で、この報告書は大方の持つ「水道事業の官民連 携は成功したか」という率直な問い掛けに対して事実と証拠を以って答えている。  調査は 1990 年〜 2007 年に継続して 5 年以上(マネジメント契約では 3 年以上)にわたり 65 件 を超えるプロジェクトについてデータを分析し、それぞれ 4 項目にわたる経営業績(給水普及率、 給水サービスのレベル、経営効率、料金水準)について検証(この間、民間事業者から給水を受けた 都市人口の約半分—1 億人に及ぶサンプルを使用)したという。  報告書は、まず「これまでの論争が具体的な結果に基づいて行われるというより、しばしばイデオ ロギーに左右され、多くの官民連携事業が達成した業績の記録は精査されていない」として、官民連 携に対する批判の根拠が必ずしも一定期間継続した十分な業績の記録や証拠に基づいた調査による結 論ではなく、調査の対象項目も不明確、不統一で、客観的な資料となし得ないという疑問を示している。  「近年、一連の契約解除が大きく取り上げられて以降、途上国などの水道事業の業績向上に官民連 携の手法が果たして有効かどうかについて疑問を残している」と率直にこの手法の限界について触れ ながらも、「批判の対象となった水メジャーは 2000 年当時、水市場の官民連携の 80%を占めていた が、その後その地位を地元民間企業に譲り、地元民間事業者の 2007 年までの市場全体に占める割合 は 40%を超えた。一方、事業終了前に契約が終了したものもあるが、全体的業績は一般に考えられ ていた以上に良好であり、それは途上国の数千万人の人に測り知れない恩恵をもたらした」と述べて 官民連携の成果を評価し、さらに次のように述べて水道分野への官民連携手法の導入の意義について 総括している。  「・・・途上国における都市水道の官民連携はこの間、様々な困難にも関わらず、それは複雑でリ スクを含んだ試みであるが、幾多の経験に学び、時代の試練に耐え、途上国のニーズや特異性に合わ せた、より成熟した状況に変わり、全体として着実に拡大している。過去 20 年間に 65 か国で水道 の官民連携が着手されたが、2007 年末までに少なくとも 41 か国で民間事業者によって運営が続け られており、受託された契約の 84%が(現在も)継続している。  しかし、今後引き続いて、大部分の都市水道事業が民間事業者に業務を移行するとは考え難いが、 一つの国にいくつかの民間事業者が存在することは水セクター全体の業績水準を向上させ、水セク ターに対する外部からの圧力となるため有益であって、官民連携のメリットは特定事業が達成した業 績改善だけに留まらず、それは強固な独占の水分野に競争と責任感覚を持ち込むことにある ・・・」  いま、本報告書の翻訳を終えた感想は、本書が地道に収集された現地の実情であり、バックデータ や証拠に基づき控え目ながら率直で公平、客観的な情報と教訓として説得力がある。特に第 4 章の vii まとめは具体的で示唆に富み、さらに詳細を求める向きは巻末の参考文献(主に英語、スペイン語版) を活用すれば本報告の価値は高まると思われる。多くの調査結果をもとに水道の官民連携の実態を明 らかにしてくれた世界銀行関係者の努力に敬意を表したい。  今日、わが水道界は水ビジネスの海外への一層の拡大・展開を求めて官民を挙げて乗り出そうとし ている。これまでの海外情報とは違った水道事業の官民連携に関する質・量共に豊富で貴重な内容を 含むこの本格的な報告書は、様々な局面で必ずや役に立つだろうと確信する。  この専門分野にわたる膨大な翻訳に当たって、訳者の健康上の事情もあって大濵香苗さん(翻訳者) の多大なご協力を得てようやく完成できたことに心から謝意を表したい。 平成 24 年 4 月 1 日 Translator’s words for readers of the Japanese version The World Bank published a report which reviewed PPPs for urban water utilities in developing countries. The report contains the results emanating from a detailed and comprehensive long-term research of available evidence. Many skeptical comments have been made for PPPs for water utilities so far. This report frankly answers the question such as "Have PPPs for water utilities succeeded?" with much evidence there for. The report stated the subject and significance of the study briefly as follows. The study analyzes performance data from more than 65 large PPP water projects that have been in place for at least 5 years (3 years in case of management contracts) , a sample that represents a combined population of about 100 million people-close to half of the urban population that has been served by private operators sometime between 1990 and 2007. This sample represents, by size of population served, close to 80 % of the water PPP projects that were awarded before 2003 and that have been active for at least 3 years. The study analyzes 4 dimensions of performance (access, quality of service, operational efficiency and tariff levels). PPP projects in the water sector have been controversial, particularly after a series of highly publicized contract terminations in recent years raised doubts about the suitability of the approach for developing countries. The report indicated that the debate so far has not been taken place on the basis of performance records but has often driven more by ideology, and furthermore, the performance records of many PPP projects have never been scrutinized. The major players in the water business accounting for 80% of PPPs in the water market, which were the subject of criticism in 2000, have been largely superseded by local private operators. In 2007, the percentage of total local operators in the water market has exceeded 40%, and regardless of the fact that some contracts were terminated prior to project completion, overall performance has surpassed expectations and has brought immeasurable benefits to tens of millions of people in developing countries. Despite difficulties, the water PPP model has been constantly spreading in the developing world viii during the last 15 years. However about one-third of the developing countries that had water PPP projects during the last 15 years decided to revert to public management. This is a significant proportion underlying the fact that PPPs are by nature complex and risky endeavors. In many countries, the water PPP model seems to have withstood the test of time. By the end of 2007, 44 developing countries had active urban water PPP projects. Since the late 1990s, governments and stakeholders in urban water PPP projects have gradually learned what works and what does not work and reflected these lessons in a move away from pure concessions and toward partnerships that rely more on public funding. At the same time, new private operators have entered the market. Many of the new comers are from developing countries, and they are radically changing the face of the market that, during the 1990s, looked like an oligopoly among the few multinationals. A more mature environment is appearing, more attuned to the needs and specificities of the developing countries. By the end of 2007, there were more than 220 active water PPPs in 41 developing countries. 84 percent of the contracts that have been in place since 1990 were still in operation by the end of 2007. It is clear that PPP is not a magic formula to address the multiple issues of failing public water utilities in the developing countries. PPP projects have proved to be complex undertakings that carry strong political risks and large uncertainties as to the magnitude and timing of the expected benefits. Many obstacles can lead to conflicts and costly early termination. However, overall performance of the water PPPs is still more positive than is commonly perceived. PPP projects for urban water utilities have brought significant benefits to tens of millions of people in the developing world. Transferring a majority of urban water services to private operators is unlikely to be the chosen option for most developing countries. Nevertheless, having a few water supply PPPs in a country can still be very beneficial because the presences of such PPPs generate much-needed pressure on the rest of the industry and thus move the whole sector towards higher levels of performance. The actual contribution of water PPPs may be greater than that which is achieved in specific projects - through the introduction of a much needed sense of competition and accountability in an erstwhile monopolistic sector. The report summarizes a significance of the introduction of PPPs approach to the water sector. After reading the report, my impression was the content had been steadily collected, factually described based on the evidence in a fair, frank, and modest manner. I would like to express my gratitude for the efforts of the World Bank officials who clarified the actual situation of PPPs for urban water utilities after a long and hard study. Today, many public water utilities of Japan are trying to expand private businesses overseas. I am convinced that this full-fledged report containing a rich and valuable content for both quality and quantity of water utilities and PPPs could certainly be of value. I would like to thank Ms. Kanae Ohama (translator) for her significant assistance and support in the completion of this work especially in light of my health situation. ix 訳者の略歴 齋藤博康(さいとうひろやす)1932 年生まれ。1958 年 東京都立大学法経学部卒業、東京都水道局 総務部長、多摩水道対策本部長、1990 年 ( 社 ) 日本水道協会研修国際部長、1997 年 ( 株 ) 日水コン 海外本部顧問、2005 年以降 ヴェオリア ・ ウォーター ・ ジャパン ( 株 ) 顧問、( 株 ) ジェネッツ顧問を 歴任。この間、ODA による水道事業経営に関する多数の途上国海外援助業務に従事。 主な著書、論文、訳書:水道事業の民営化・公民連携(2003 年)、水道事業と競争政策(水道公論: 2003 年)、水道事業の官民連携と水ビジネスの展開(水道公論:2010 年)、英国上下水道物語(1995 年)、水の料金 :OECD 報告(2001 年)など Translator: Hiroyasu Saito Biography: Born in 1932, graduated from Tokyo Metropolitan University faculty of law and economics in 1958, employed waterworks bureau of Tokyo metropolitan government; director of personnel division, general affairs division and director-general Tama region water supply center. In 1990 moved to Japan Water Works Association as director of training and international affairs department, in 1997 moved to Nihon Suido Consulting co., ltd. as an advisor, since 2005 engaged as advisors to Veolia Water Japan co., ltd and JENET co., ltd. During this time, engaged in a number of water projects for developing countries by ODA. Main books, papers, translation: Privatization / PPP of water services (2003), Competition policy and water services (2003), Deployment of public-private partnership of water business (2010), Water the Book (by Hugh Barty King, 1995) , Price of Water (by OECD 2001) etc. x 序  本報告は途上国における 15 年を超える都市水道事業の官民連携の経験を振り返り、各地で得た数 多くのサンプルに基づき、ドナー、政府の政策責任者、その他利害関係者に向けてこの間に実施され た事業業績を点検したものである。その目指すところは途上国の都市住民に対する上下水道サービス を改善するために、官民連携が優れて貢献することについて理解を得ることにある。  本報告は水道の官民連携がいくつかの国で困難な状況にあるにも関わらず、それは時代の試練を大 きく乗り越えたことを示している。途上国において民間水道事業者によって給水を受けている都市人 口は 1990 年以降増え続け、2007 年には 1 億 6,000 万人に達した。  官民連携によって給水サービスと経営効率の改善がもたらされたが、その優れた業績は民間による 資金調達が当初の期待に応えられなかったにも関わらず、官民連携の持つ価値を再確認するものだっ た。  時間の経過と共に途上国から多くの民間投資家が生まれ、官民の連携者間に実際的なリスク配分に 基づく契約が考案されるようになり、一層現実的な水市場が発達した。  経験に基づく証拠を調査したところによると、十分に検討された官民連携は、途上国における業績 不振の公営水道事業を改善する有効な選択肢であることを示している。  水セクターには他の社会的インフラと違った多くの特徴があり、本報告はこのような特徴を注意深 く考慮することが民間水道事業者と良好な関係を築くうえで大事なこととしている。多くの途上国が 抱える困難な環境下で、水道の官民連携の主要目的は直接の民間投資を期待することではなく、民間 事業者への期待はむしろ給水サービスと経営効率の改善であることを示している。そして、水道事業 の財務状況が改善されると、次第に必要な投資資金も調達し易くなるとしている。  コンセッションが実施された都市は僅かだが、民間による事業運営に公的資金の導入を取り決めた ことは、優れて持続可能な方法として多くの国でそれが採用できると考えられる。そして地方政府と ドナーが明確に示唆しているところによると、彼らは最貧国の水セクターに深く関与する必要がある としている。これは重要な事実である。資金が十分に回らない時、官民を問わず給水サービスと経営 効率を改善することは必要不可欠であり、水道事業の業績を改善し、住民の信頼を得ることは、今日、 世界的な財政危機に直面している折から一層真実である。  途上国の政策決定者は、水道事業者が直面する多くの困難に立ち向かうに当たり、あらゆる選択肢 を検討することが重要であり、本報告は水道の官民連携はその選択肢の一つであると確信している。   ジャマル・ザヒール              ザビダ・アローワ    世界銀行 エネルギー ・ 運輸 ・ 水局長      世界銀行 財務・経済・都市局長    水分野委員会議長               民活インフラ助言ファシリティ(PPIAF)                           プログラム評議会議長 xi 謝 辞  本報告は、途上国の水道事業における官民連携の経験の調査に基づいて得た主要な事実を提示して いる。調査は 2006 年 5 月〜 2008 年 6 月の間、民活インフラ助言ファシリティ(PPIAF)の協力に より、世界銀行のエネルギー・運輸・水部門の責任者によって実施された。具体的には本報告の主執 筆者であるフイリップ・マリンが中心になってまとめたものである。  調査チームの構成メンバーはルイ・アンドレ(LCSSD)、アレキサンダー・ダニリエンコ(上下水 道プログラム)、バートランド・ダ・ダルデンヌ(コンサルタント)、マタール・フオール(ETWWA)、 ジョナサン・ハルパーン(ETWWA)、アダ・カリナ・イザギュイール(財務・経済・都市部)、アラ イン・ロクソール(コンサルタント)、ジョセ・ムガビ(コンサルタント)である。  本報告はアベル・メジア(ETWWA)の監督下に作成された。  本報告の各部分の原稿作成にはバートランド・ダルデンヌ、ジョナサン・ハルパーン、アダ・カリー ナ、イザキュイールおよびジョセフ・ムガビが協力した。  ジョテイ・シュクラ(PPIAF)とクレメンシア・トレス・デ・メスル(PPIAF)は調査が実施され た期間中、ずっと協力してくれたことに感謝する。  その他、多くのコンサルタント(バートランド・ダーデンヌ、ジョージ・ドウッチ、ハシム・レウ ナッサー、ジャン・ピエール・プロレンタイン、モーリチオ・フルニオール、アンジェラ・ゴンザレ ス、アラン・ロカッソル、ジャン・ピエール・マス、ホセ・ムガビ、シルバー・ムギッシャ、ウイリ アム・ムハイベ、マリール・ナバロ、イアン・パーマー、ガブリエラ・プルニエ、ジュリオ・ミゲル・ シルバ、アレヤンドロ・ヴァレンシア、リヒヤルト・ヴェルスピック、ギュイレルモ・イエペス)が 積極的に関係資料の収集と分析に参加してくれた。また、世銀の多くの同僚(タデユー・アビカリー、 オスカー・アルヴァラード、アルド・バイエテイ、アレキサンダー・バカリアン、サビン・ベデイー ス、ヴェンチュラ・ベンゴエチー、ロレンゾ・ベルトリーニ、フランク・ブスケー、グレッグ・バウ ダー、グザビアー・シャボット、ジェフリー・デルモン、カタリナ・ガッシュナー、フイリップ・ハッ ク、ヴィジャイ・ジャガナサン、ヤン・ヤンセン、スハイル・ジミアン、ヨナサン・カムカララ、ビル・ キングダム、ピーター・コルスキー、ジェイムズ・レイランド、パトリシア・ロペス、ミドリ・マキノ、 クレダン・マンドリ−ペロー、シーマ・マンギー、ピエル・マントヴァーニ、マニュエル・マリーノ、 アレギザンダー・マクフエイル、イアン・メンジース、ユースタッシェ・ウアヨロ、ナタリア・プシャ ク、キャサリン・レベルズ、グスタヴォ・サチエル、マニュエル・シフラー、ジョルダン・シュバルツ、 アブジーツ・シン、ダイヴィッド・シスレン、マリノ・スウアルデイ、ルイス・タベレス、キャロリン・ フアンデンベルク、マイク・フアン・ギンネケン、パトリシア・フイーバース・カーター、カルロス・ ヴェルス、ジェーン・ウオーカー、マイケル・ウエブスター)が資料の収集に協力し、報告作成にそ れをフィードバックすることができ、コメントを提供してくれた。ルイ・アンドレ、カトリナ・ガッシュ ナーおよび IBNET のチームの皆さんは親切に彼らのデータの利用に協力してくれたことを感謝する。 本プロジェクトチームは調査結果に基づくデータ、情報を提供してくれた多数の各国政府、規制当局、 民間セクターの方々に感謝する。中でも、リチャード・フランセイズ(クランフールド大学)、ホセ・ xii ルイス・グアッシュ(世銀)、フィリップ・マデラ(フィリピン大学)、フエデル:ヌダウ(ミレニア ム上下水道 PEPAMU セネガル)、ジェラール・パイエン(Aquafed)、ポール・ライター(国際水協会)、 ロビン・シンプソン(コンシューマーズ・インタナショナル)は最終報告書の原稿に反映するために 有益な資料のフィードバックとコメントを提供してくれたことを感謝する。特に、共同作業の従事し てくれたジャニック・ラシーヌ(PPIAF)スティーヴ・ケネデイ、リチャード・クライブ、アンドレ・ メンジース、ジャニス・テウテン(世界銀行出版局)に感謝する。 xiii 著 者  フィリップ ・ マリンは、世界銀行のエネルギー ・ 運輸 ・ 水局の持続可能な開発ネットワークの上下 水道スペシャリストである。著者は水道事業改革と官民連携の専門家として 40 か国以上の途上国と 先進国における制度改革、インフラの財政、事業経営に従事した。2001 年、世界銀行グループに入 り、15 年以上水分野に関わり、その間、民間分野といくつかの国際的な財務制度の発展に寄与した。 彼はフランスの国立パリ−グリニョン農業大学で工学修士と INSEAD(フォンテンブロー校)で経営 学修士を得ている。 xiv                                  概観  1990 年代、多くの国で政府が都市の給水と衛生事業(以下、「上下水道事業」と略す)について 大掛かりな改革に乗り出した。その主要な内容は政府が民間事業者に対して様々な契約形態に基づき 業務管理を委託する官民連携(Public-Private Partnerships—PPP)だった。  改革に対する関係者の期待は高く、官民連携を導入することによって民間が持つ専門的能力や資金 力を生かせば、業績不振の公営水道事業を採算性向上に向けて建て直すことができると考えられた。 1990 年以降、途上国において都市の上下水道事業に関する 260 件を超える契約が民間事業者によっ て受託された。  水分野への官民連携の導入については様々な議論があり、特に近年一連の契約解除が大きく報じら れて以降、途上国に対してこの手法を続けることが適当かどうか疑問視されている。給水人口や給水 サービスのレベルについてデータが不足しているため、途上国の官民連携導入に伴う総合的な貢献度 を評価するのは困難である。  これまでの論争は、具体的な結果に基づいて行われるというよりは、しばしばイデオロギーに左右 され、多くの官民連携事業が達成した業績の記録は殆ど精査されていない。現在、途上国の都市人口 の 7%が民間事業者から給水を受けているが、途上国と移行国 * の水道事業の業績向上にこの手法が 果たして有効かどうかについて疑問が残っている。  本報告は、途上国の都市水道事業に官民連携を導入したことに伴う業績動向を把握することを意図 している。さらに、過去 5 年間の都市水道における官民連携拡大の動きの全体を振り返り、それが 給水サービスを改善し、水道普及率の向上に役立ったかという疑問に答えようとするものである。プ ロジェクトの運営を任せられた民間事業者に着目しているため、結果的に BOT(建設・運転・移転) プロジェクトおよび浄水処理施設の建設・運転に類する場合は除外した。  本報告は、5 年以上(マネジメント契約の場合 3 年以上)にわたって実施された大型の水道官民連 携事業 65 件超の実施データを分析し、合わせて約 1 億人のサンプルを使用した。これは、1990 年 から 2007 年までに民間の水道事業者から給水を受けた都市人口の半分近くに相当する。このサンプ ルは、給水人口の規模からいうと 2003 年以前に委託され、3 年以上にわたって実施された官民連携 事業のほぼ 80%をカバーする。  本報告が調査した業績は以下の 4 要素に基づいて分析された。それは給水普及率の向上、給水サー ビスのレベル、経営効率および料金水準である。分析に当たっては、最終的な改善と関係者への実際 の影響に着目したが、契約上の目標が達成されたかどうかについては問わなかった。何がうまくいき、 何がうまくいかなかったかを踏まえて、途上国の上下水道事業を改善するために、いかにすれば政府 1 はこの目標に向かって民間主導の取り組みを生かすことができるかを結論とした。  * 東西冷戦が終結し、旧社会主義諸国の中央計画経済から市場経済へ移行することになった国(訳者注) 1) 1990 年以降における水道の官民連携の発展   1991 年から 2000 年までの間、途上国と移行国において民間事業者からの給水人口は徐々に増え、 600 万人から 9,400 万人に達した。また、この間に途上国と移行国で実際に水道事業の官民連携が 行われた国は 4 から 38 か国に増加した。しかし、1990 年代の終わりから官民連携に関する問題が 明るみに出始め、新たな契約による受託数は減少するようになった。  従って、一般的には途上国における水道事業の官民連携は減少傾向にあるという認識があったが、 それにも関わらず、状況はやや微妙だった。途上国と新興国 * において民間の水道事業者による給 水人口は、依然、着実に増加を続け、2000 年に 9,400 万人だった給水人口は 2007 年には 1 億 6, 000 万人を超えた。アルジェリア、中国、マレーシア、ロシア連邦などの大国は、民間の水道事業 者への依存度を大幅に高めている。1990 年以降に受託された 260 件の契約のうち、84%が 2007 年末現在も引き続き事業が継続されており、契約終了前の解除は 9%に留まっている。契約解除の殆 どが改革の困難な地域であるサハラ砂漠以南のアフリカ、または南米で、コンセッションの中から起 こっている。  * 1990 年代に入り、急激に経済成長し、投資先や貿易相手国として期待されるようになった国、地域(訳者注) 2) 水道事業官民連携の業績  本報告は水道事業の業績を以下の 4 要素から分析した。それは給水普及率の向上、給水サービス のレベル、経営効率および料金水準である。 給水普及率の向上   官民連携が給水普及率の向上にもたらした影響に関する分析は、コンセッション(投資の大半は民 間事業者によって資金提供される)およびリース・アフェルマージュ(出資は主に公営水道事業が行 う)に着目して行われた。1990 年以来、水道事業の官民連携によって途上国全体で 2,400 万人を超 える人口が給水を受けられるようになった。  給水普及率の向上に対しコンセッションがもたらした業績の評価は分かれている。調査した 30 件 の大型コンセッションでは、住民 1,700 万人が新たに水道管に接続できるようになったが、その多 くは、民間企業が当初約束した資金を提供できず、また、普及率に関する契約上の目標も達成されな かった。コンセッションで優れた業績を挙げたケースの多くは、実際には公的資金によって民間資金 の不足を補填した案件だった(コロンビア、ガイヤキル〈エクアドル〉、コルドバ〈アルゼンチン〉)。  リース・アフェルマージュは、コンセッションより概して良好な業績を示している。サハラ砂漠以 南のアフリカのセネガルでは、アフェルマージュの手法により、公営の資産保有会社(Public Asset Holding Company)が出資し、給水を拡大することに成功した。コートジボアールの特筆すべきケー スとして 1990 年以降、およそ 300 万人が戸別接続によって給水を受けることができるようになり、 しかも、政府の資金援助を得ることなく料金収入によるキャッシュフローのみで、すべての支出をま かなっている。 2 給水サービスのレベル  水道の官民連携による給水サービスのレベル * は、給水制限(時間給水などによる給水の割当)が 大幅に減ったことに伴い著しく向上した。時間給水は多くの途上国の水道事業で最も難しい課題であ る。継続的な給水が維持できないと、管路内に汚水浸入の危険が生じ、飲用水の水質基準が満たされ なくなる恐れがあるからである。貧困層は多くの場合、水圧の低い配水管網の末端部に居住しており、 これに対処するための補完設備(私有の井戸、屋上タンク、濾過装置など)を購入することができな いので、その影響は同じ水道使用者の間でも著しく均衡を欠くものとなっている。  水道事業において一旦、時間給水が常態化してしまうと、元に戻すのは容易ではない。頻繁に急激 な水圧上昇があると管網の劣化は加速し、平均水圧を上げる試みは水道管破裂による漏水につながる 恐れがあるからである。  その意味で、多くの官民連携事業において初期に常態化していた給水制限の状況が改善され、中に は 24 時間の連続給水にまで漕ぎ付けたところがあることは注目に値する。その好例がコロンビアで、 そこでは民間事業者が多くの地方自治体において確実に給水の継続性を向上させてきたが、最初の段 階では給水システムは極めて劣悪な状態だった。また、西アフリカ(ギニア、ガボン、ニジェール、 セネガル)でも給水制限を減少させるという点で優れた業績を残している。マネジメント契約の中に も、短期間に目覚ましい改善をみせた事例が数例ある。  しかし、すべての官民連携事業が給水時間の継続性を向上させたわけではない。例えば、マニラ(フィ リピン)では、東部地区のコンセッションでは成果を挙げたものの、西部地区では失敗している。  * 本報告書は給水サービスのレベルについて給水時間だけを取り上げているが、通常はこの他、給水区域内のす べての場所で、希望するすべての住民は誰でも平等に給水が受けられ、水質基準に適合した水を、適正な水圧で、 支払い可能な料金で供給し、水道使用者からの苦情処理などにどの程度速やかに対応するかなどの指標を総合 して使われる(訳者注)    経営効率   民間事業者に業務を委託する主要な目的は、経営効率を高めることにある。事業経営には多様な側 面があるが、実務上、次の 3 項目を重要指標とすることにより民間事業者の効率性全体を広く捉え ることができる。すなわち、損失水、料金徴収率、労働生産性である。 損失水  水道事業にとって損失水(Water loss)の低減は経営を順調に進めるうえで最優先課題である。ア ンドレ他(2008*)およびガシュナー他(2008b**)による最近の多国間研究は、民間事業者の努力 によって損失水の低減の面で効果があると報告している。この結果を再確認するようだが、本報告で も多くの民間事業者は損失水の低減に成功していることが分かった。特に、西アフリカ、ブラジル、 コロンビア、モロッコ、マニラ東部地区(フィリピン)などのケースがそれである。中には、民間事 業者が無収水率(NRW***)を 15%未満に下げたケースもあり、これは、先進国の中で最高業績の国 の数値に近い数字である。  *  インフラの官民連携におけるインパクトー光、影および将来の道(2008)  ** 民間事業は約束を守るだろうかー水と電力に関する世界的調査から(2008) 3  *** 総配水量に対し料金請求されなかった水量の比率(Non Revenue Water、NRW 訳者注)  しかし、調査したすべての官民連携事業で大幅な損失水の低減が見られたわけではない。例えば、 ガイヤキル(エクアドル)、マプト(モザンビーク)、 マニラ西部地区(フィリピン)では大きな成 果は得られず、無収水率は依然として高いままである(50%超)。アルゼンチンなどいくつかの国では、 損失水の推移を追跡することは難しい。そこに居住する使用者の多くがメータで計量された実際の使 用量ではなく、推定使用水量(Estimated water consumption)に基づいて料金が請求されているか らである。調査したマネジメント契約では、損失水についてその半数近くの水道事業でかなりの改善 が見られた。 料金徴収率  業績不振の公営水道の場合、業務の管理が甘かったり、住民がサービスの低劣さの故に料金支払い を滞ったりするため、料金徴収率は低いことが多い。一般的に料金徴収には民間事業者の活用が効果 的と考えられており、それは直接、金銭的なインセンティブが働くからとされる。確かに本報告でも、 多くの場合、民間事業者と契約すると料金徴収率は顕著に改善していることが分かった。料金徴収は、 マネジメント契約において着実に業績を挙げられる部分であり、サンプルとして採り上げたすべての プロジェクトで大幅な改善が見られた。 労働生産性  民間事業者に業務を委託したことにより水道使用者数の増加と従業員の削減という成果が挙がり、 労働生産性の向上につながったことについては、顕著な証拠が得られている(これは 1,000 給水接 続数当たりの従業員数として計算される)。調査対象事業の多くは過剰人員を抱えていたため、官民 連携事業ではしばしば当初の従業員数に対して 20 〜 65%に昇る大幅な人員削減が実施されたこと がある。人員削減に当たっては、単に過剰な職員が是正されただけでなく、多くの場合、職員構成全 体の業務特性を変更し、より高い技能をもつ職員が雇用されるようになった。  経営効率全般  これら 3 個の業績指標を組み合わせて分析すると、民間事業者が最も確実に成果を挙げられるの は経営効率の面であることが分かる。経営効率に対する官民連携の影響のすべてを把握するためには、 個々の事業についての詳細な財務分析が必要と考えられるが、それは本報告の範囲を超える。しかし、 一般論としての結論を引出すことは可能である。  コンセッション事業者の経営効率全般を判断するのは難しい。なぜなら、彼らは経営と投資の双方 に責任を持つからである。投資効率については本報告では採り上げない。マニラの場合、当局側によ る詳細分析により東部地区のコンセッション事業者の場合、経営効率が著しく向上したものの、西部 地区ではうまくいかなかったとされている。アルゼンチンの場合、コンセッション事業者が効率面で 大きく改善できたかどうかは不明である。  リース・アフェルマージュの場合、民間事業者の効率性は評価し易い。経営と投資の責任が官と民 に分かれているからである。セネガルやカルタヘナ(コロンビア)などの事業では詳細な情報があり、 4 経営効率の向上を達成できたことがはっきり示されている。それはやがて、実質的な料金値下げによっ て水道使用者に還元された。  マネジメント契約では民間事業者への責任の委譲が限定されているため、事業の要員管理は限られ ている。マネジメント契約下における効率化については、包括的な効率の指標(配水量に対する有収 水量の比率、損失水の低減と料金徴収の改善を組み合わせた基準)を用いたところ、調査した多くの 事業で大幅な改善が見られた。 料金水準   途上国において公営水道事業がうまくいっていない場合、その殆どは水道料金がコスト回収のため の水準より遥かに低く設定されていることが多かった。従って、事業を継続させるためには料金値上 げが必要とされる場合が多い。実際、官民連携によって料金にどのくらいの影響があるかについて、 当初の料金水準がコスト回収のための水準からどのくらい乖離しているか、また民間事業者によって その後、どの程度事業運営が効率化されたかによって異なる。この 2 要因は逆方向に向かっている から、途上国においては極めて大きな影響をもつ。  本報告は調査の一環として、多数の官民連携事業における料金水準の推移を分析した。多くの場合、 料金は時間経過と共に値上がりしている。しかし、その裏付けとなる理由やその値上げが正当かどう かについては評価できなかった。官民連携が料金に与える影響を分析する場合、その時の料金政策が 大きく影響するため、誤った解釈につながり易い。多くの官民連携事業に見られるように、料金値上 げが多くの人により良いサービスを提供できるようになるならば、水道使用者にとって料金値上げは 必ずしも悪いこととはいえない。  多くの途上国で、安い水道料金で恩恵を受けるのは、大抵すでに戸別に給水接続している中流階級 であり、未接続の都市貧困層にはそれがマイナスに働くことが多い。不衛生な水、または高価な水し か利用できない状況から脱し、水道管への接続が必要なのはこの階層である。官民連携によって水道 管に接続できるようになった貧困世帯の多くが、水道管に接続できなかった頃に比べて安い料金で衛 生的な水を利用できるようになった。また、民間事業者によって大きく効率化が進んだため 2、3 年 内に実質的に料金値下げができた事例も数例あることを記しておきたい。  官民連携事業が料金に与えた影響については、文献でも確たる証拠は得られていない。水源利用の 容易さなど、地域ごとの様々な要因により給水費用が大きく異なるからである。 民間事業と公営事 業の料金水準を比較した場合、経営主体それぞれの法 ・ 行財政上の枠組みが異なるため、異なった結 論にたどり着く可能性がある。ガシュナー他(2008*)による最近の研究では、数多くの外的要因の 可能性を考えて大量のサンプルを用いている。それによると、公営事業と民間事業を比べた場合、水 道料金に統計上の大きな差異は現れていない。  * 官民連携は電力・水道事業の業績改善に役立ったか−途上国と移行国の評価 3) 主要な調査結果  水道の官民連携は途上国における有効な選択肢  利用可能なデータが限られたうえ、その信頼性にも限界があり、また指標も曖昧だったものの、業 績判定の 4 要素(普及率、給水サービスのレベル、経営効率および料金水準)の分析からみて、水 5 道の官民連携における全体の業績は概して十分満足のいくものであったと考えられる。数件の官民連 携事業では、普及率、給水サービスのレベル、経営効率は同時に向上した。1、2 個の要素だけから 見た場合、業績の向上が認められた事例はさらに多くなる。中には、官民連携の契約が続行できず期 限前に終了したにも関わらず、給水人口が大幅に増加した例もあった。逆に大方の観測として有意義 な結果を得ることなく失敗に終わったと見られる事例も 2、3 件あった。  注目すべき点は、途上国 65 か国が過去 20 年間に水道の官民連携に着手し、その後、2007 年末 まで少なくとも 41 か国で民間事業者が運営を続けており、受託された契約の 84%が継続している。 24 か国では委託事業が公営に返還され、数件の契約で関係する当事者同士の対立により委託が打ち 切りとなった事例もある。  このような数字は、様々な(かつ、多くの場合、課題を抱えている)環境のもとで、多種多様な契 約形態を実際に市場でテストしたと考えるならば、それは不合理な試みだったとはいえない。むしろ 詳細な点が重要である。契約形態の選択と実施に当たって、公民のパートナー同士が事業を成功させ る強い意思を持っていたかどうかが、最終的に結果を大きく左右することが分かった。途上国におけ る水道の官民連携の結果全般についてその全体像を描くため、本報告では幅広い分類を試みた。  過去 15 年間で、途上国と新興国のいずれかで 2 億 500 万人が官民連携により給水を受けた。 2007 年末時点でそのうち 1 億 6,000 万人が継続して給水を受けているが、4,500 万人については官 民連携が途中で打ち切られたか、更新することなく事業が終了した。  2007 年に民間事業者による給水人口 1 億 6,000 万人のうち、およそ 5,000 万人については、概 して成功と分類できる。これは、水道使用者に大きな恩恵をもたらし、時間が経つにつれ公と民のパー トナーが順調に関係を築くことができた事例である。  官民連携の成功は、ラテン ・ アメリカ(コロンビア、チリ、ガイヤキル〈エクアドル〉およびブラ ジル、アルゼンチンの数件のコンセッション)、サハラ砂漠以南のアフリカ(コートジボアール、ガ ボン、セネガル)、アジア(マニラ東部地区〈フィリピン〉)、東ヨーロッパ、中央アジア(エレバン〈ア ルメニア〉)、中東、北アフリカ(モロッコ)など、途上国のすべての地域でみられる。実施中の官民 連携事業で業績の評価が分かれていたり、うまく行かなかったりした事業による給水人口は、およそ 2,000 万人と推定される。残り 9,000 万人に対する官民連携による給水サービスは、事業が新しい ため(2003 年以降に受託)、本報告では対象としない。 民間事業者が一貫して貢献したのは効率性の改善  1990 年代、官民連携の大きな魅力は民間が資金を提供できるという期待だった。しかし、経験を 積むにつれ、そこに焦点を当てるのは間違いであることが分かった。順調に運んだ事例を検討すると、 民間事業者が最も貢献した点は、経営効率化と給水サービスのレベルを向上させたことだった。この ような改善は資金調達によい影響を与えたが、それは間接的な効果だった。給水サービスのレベルが 向上すると、水道使用者は料金を遅滞なく支払う意思を持つようになり、さらに効率的な経営によっ てキャッシュフローが生まれ、事業の拡大に投資することができ、ひいては水道使用者数の拡大と収 入の増加につながった。信用が高まるにつれて、事業の資金調達は容易になり、給水サービスのレベ ルを一層向上させるための投資もし易くなった。効率のよい経営にあっては、公的資金か民間資金か に関わらず、投資に生かせる資金は効果的に活用できた。 6 官民連携における契約上の取り決めは地域によって様々に展開  1990 年代に受託された水道の官民連携の多くは、特にラテン ・ アメリカにおいて民間資金を呼び 込むことに力点が置かれ、従ってコンセッション契約が多く採用された。しかし、コンセッションは 早期の契約解除を多く発生させたこともあって、経済の不安定な途上国においてこの方法は本来的に うまくいかない危険性を持つことが分かった。  まず、コロンビアで標準的なコンセッションから離れて、共同所有会社(A Mixed-Ownership Company)を活用する方法、または民間のコンセッション事業者に公による助成を与えて投資を促 進する方法が採られた。このような混合型の官民連携では多くが良い結果を生んでいる。他の地域で も、数か国でリース・アフェルマージュ、共同所有会社、マネジメント契約など民間の経営と公共投 資を組み合わせた長期の官民連携を実験的に行っている。 4) 今後の展望  本研究の結果、途上国において民間事業者が最大限に貢献できる新たなアプローチが拡大している ことが分かった。官民連携において注力すべきは民間事業者を活用して一層の経営効率と給水サービ スのレベルを上げることであり、第一義的に民間資金を呼び込もうとするためではない。  市場の圧力によってこのような要素も取り入れられており、水道の官民連携の新たな時代は幕を開 けつつある。実際には、資金調達の最適な方式は各国に特有な事情によって異なっている。 長期の官民連携に対する資金調達の選択肢の拡がり : 混合型モデルに向けて  数か国でコンセッション方式が困難に陥ったが、そのために民間による資金調達を完全に切り捨て てしまうべきでないという見方が生じている。進んだ途上国にあって現地通貨による中長期の民間債 務負担が可能な国では、その有効性が証明され始めている例もある。しかし、多くの途上国で近い将 来、給水普及率を向上させるために必要な巨額の投資は公的財源に求められるだろう。  多くの国で官民連携モデルが採用されつつあるが、投資は主に公的資金で行い、民間事業者は給水 サービスと経営効率の向上 ・ 改善に注力している。実際、このような混合型資金の官民連携において、 投資資金は料金収入による直接キャッシュフローと官民資金を織り交ぜた様々な組み合わせから成っ ている。そのため、従来のようなリース・アフェルマージュかコンセッションかの二者択一的な考え 方は後退している。過去 10 年間に数件の手法が成功を収めただけである。 ・ コンセッション方式では投資の大半は料金収入によるキャッシュフローに依存するが、それに加え て電力による売上げからの内部補助(ガボン)、料金付加金(コートジボアール)、その双方(モロッ コ)など、採算部門で得た利益を投下する手法がある。 ・ アフェルマージュ方式では西アフリカで展開されている方法がある。それは経営効率についてのイ ンセンティブを強化することによって推進された。貧困層へ給水を拡大した場合、給水接続に対す る奨励金を払い、徐々に料金収入による完全費用回収を図るプログラムに移行する(セネガル、ニ ジェール、最近ではカメルーン)。 ・ 共同所有会社の形式はラテン ・ アメリカ(コロンビア、ハバナ〈キューバ〉、サルティオ〈メキシコ〉) と東ヨーロッパの数か国(チェコ共和国、ハンガリー)で活用されている方法である。  ・ コンセッション方式で給水普及率の向上や管網の更新投資に公的な資金を与えて、料金による影響 7 を最小限に留める方法がある。代表的な例がコロンビアの官民連携で、事業近代化計画(PME)の もとに行われた。これに類する手法がガイヤキル(エクアドル)やアルゼンチン(コルドバ)の 2、 3 件のコンセッションで採用されている。 (水道プレイヤー) 途上国の新しい民間水道事業者   官民連携モデルの転換と平行して、新たに多くの水道事業者(水道プレイヤー)が市場に出現した。 2000 年当時、水道の官民連携市場は 5 社の大手多国籍企業が 80%を占めていたが、2001 年以降、 主要な新規契約は途上国の民間事業者が結び、大手多国籍企業の中には既存の契約を現地の投資家に 譲渡するものも出てきた。  2001 年以降、官民連携によって給水人口が増加したほぼ 90%が途上国の民間水道事業者による ものであった。2007 年までに地元の民間水道事業者が給水する対象人口は 6,700 万人に昇り、市場 全体の 40%を超えている。本報告では、途上国と新興国において 28 件の大規模な民間水道事業者 を確認している。それぞれが合わせて 40 万人以上の人々に給水している。フィリピンのマニラ東部 地区ではアルゼンチン、ブラジル、コロンビアなどの官民連携と同様、現地の民間投資家が水道事業 の意味を理解し、業績を上げ、信頼に足る水道プレイヤーとなり得ることが証明された。  この新たな流れの重要性は、どれ程強調してもし過ぎることはない。このような新しい民間水道事 業者によって、何よりも必要な水セクター内で競争が生じるだけでなく、都市水道事業を巡る様々な リスクに対する高い対応能力を持つようになった。彼らは現地の文化を理解しているため、地元の地 方自治体と実行可能な協力関係を築き易く、政治的なリスクも軽減し易い。おそらく地元水道事業者 は、小規模な市町村の業務について、競争相手である大手多国籍企業よりも適切に対処でき、そのニー ズはかなり高い。   5) よりバランスのとれた議論に向けて   過去 15 年間の数多くの経験からはっきりいえることは、官民連携は困難を抱えている途上国の水 道事業にとって、あらゆる複雑な問題も解決できる魔法の公式を持つものではないということである。 多くの途上国と移行国の政府にとって、官民連携は期待した利益がどのくらい、また、いつ得られる かという点で、大きな政治的リスクと不確実性をはらむことが示された。  契約上の目標を設定するのは難しく、基準となるデータは信用できるものがまずないため、多くの 利害対立が生まれた。民間事業者が必ずしも優れた業績を挙げるとは限らず、自分たちの利益になる ように再交渉をしたがる傾向がある。様々な障害が利害の対立につながり、費用をかけた末に契約終 了前に解除となることもある。それでもなお、水道の官民連携の全体的業績は一般に考えられている 以上に良好である。都市水道事業における官民連携は、途上国の数千万人の人々に計り知れない恩恵 をもたらしたといえる。  多くの途上国が、その大部分の都市水道事業を民間事業者へ移転することは考え難い。しかし、そ れでも一つの国にいくつかの水道の官民連携が存在することは有益である。それは水セクター全体の 業績水準を向上させるために、必要とされている外部からの圧力となるからである。 公営水道事業 の中で業績の改善がうまくいったのは、健全な企業経営原則に則り、経済的な実効性、責任、水道使 用者へのサービスを重視した場合においてである。自己満足に陥ることは、公営事業にとって最大の 8 敵であり、これは不十分な給水サービスを続けることが良好な水道使用者との関係を損なうという前 提に立っている。  そのような考え方が蔓延していると、どんなに能力が高く強い意思を持った事業管理者がいても、 既得権を与えられている様々なグループと向き合うことになった場合、改善を導入し継続していくこ とが難しくなる。その意味で、水道の官民連携が実際にもたらすメリットは、特定の事業で達成した 業績だけに留まらないといえよう。それはかつて独占的であった分野に、競争と責任の感覚を持ち込 むことになったのである。  多くの途上国の公営水道事業が民間に門戸を開き、その手法は事業権の移転に至らないまでも、民 間セクターによる新たな、より幅広い委託方法に道を開くようになった。その中には、性能発注契約、 提携契約(ツイニング *)、下請け契約など、運営の専門ノウハウを提供するための様々な契約形態 がある。また、多くの先進国で民間出資者への依存度が高まっていることから、民間セクターは公営 事業の新たな役割を担いつつある。浄水処理施設の非遡及責任財産限定融資による BOT 事業 ** に加 えて、地方公共団体等による借入や少数株主持分の株式公開による売却等が展開されている。公営水 道事業においては、ようやくその権限を手放して管理委託やその他の契約を模索し、契約上民間事業 者と連携する動きが始まっている。このようなさまざまな動きによって、水道事業の従来の官民の境 界がどんどん曖昧となり、活力ある競争市場が育って、地方公共団体の意思決定者にとって選択肢が 増えてきた。民間セクターには提案すべき多くのノウハウがあり、その形態も様々である。途上国の 水セクターが直面する多くの課題に取り組むために、政策立案者には入手可能なあらゆる手段方法が 必要である。今こそ、官民連携について、いかなる選択肢も排除することなく検討を加え、より広い 認識を持つべき時であろう。  * 業績不振の公営水道事業と実績のある公共部門事業者とを提携させて経営改善を図る契約(訳者注)  ** 非遡及型融資によるもので、ローン等の返済の原資となる範囲に限定を加えた融資による BOT 事業(訳者注) 9 10                                  第1章 序章    1990 年代、多くの国で政府が都市の上下水道事業に関する一連の改革に乗り出した。中には国際 金融機関の支援を受けたものも多く、改革は急務だった。というのも、上下水道を利用できない人は 何百万人にものぼり、利用できても極めて不十分なものが無数にあったからである。老朽化したイン フラ、急速な都市化、巨額な投資資金の必要性などの要因に加え、不十分な事業経営、人為的に低く 設定された料金、財政の逼迫といった問題が共存していた。公営事業によっては業務管理を強化する 取り組みが行われたものの、この分野に山積する問題に対処するには明らかに不十分だった。  新たな改革の目玉は、民間セクターへの依存を強化することだった。財政難のため公営事業が抱え る損失を埋めることや施設の更新や拡張工事に投資することができない地方自治体にとって、水道事 業に官民連携を導入することは魅力的な解決策と思われた。その期待は大きく、民間事業者が専門的 知識と財源を生かせば、もっと多くの水道使用者に対してより良いサービスを提供することができる と考えられた。 1990 年以降、途上国や新興国では 260 件を超える官民連携の契約が締結され、そ うした国々では官民連携プロジェクトにより 2007 年までに 1 億 6,000 万人を超える人口に給水す ることができたと推定されている。とはいえ、途上国や新興国の水道事業における官民連携プロジェ クトの割合は、都市人口全体の 7%に留まっている。この割合は、1997 年当時は 1%未満に過ぎなかっ たが、2002 年には約 4%に上昇した。  都市水道事業の官民連携は、近年特に議論を呼んでいる。一連の契約解除が大きく取り上げられ、 途上国におけるこの手法の継続性に疑問が投げかけられたからである。  様々な見地から多くの報告書が作成されたが、その結論は曖昧だったり、中には矛盾を含んでいた りするものもあった。このようなばらつきが生まれたのは、(a) 方法論の相違(詳細なケーススタディ と横断的な計量経済分析など) (b) データの利用可能性や信用性の相違、(c) 評価の枠組みの相違(多 くは一つのテーマ、または規制や料金設定、貧困層への対策、または給水接続料など一続きのテーマ に焦点を当てているが、もっと多くの可変要素を組み込んだものもある。ただし期間は 1、2 年分)など、 いくつかの要因が考えられた。  ある者は、このような社会的基幹(インフラ)サービスの提供は、独占的な性質であるが故に委託 すること自体が本来的に利害対立を伴うと見ている。もう少し現実寄りな論者でも、途上国の多様な 環境下では官民連携の仕組みが果たしてうまく機能するかどうか疑問を唱え、組織としての能力、ガ バナンス(企業統治)の低さ、法の支配や契約の執行に関するギャップなどを指摘する。また、大き く報道された僅かばかりの失敗事例を採り上げ、上下水道事業の分野は、特に途上国における様々な 条件下では官民連携は適さないと論じる者もいる。一方、このような失敗には既得権や政治的操作に 11 由来するものがあり、成功事例を選んで、そこからいかにして官民連携を機能させるかについて学ぶ べきであると指摘する者もいる。殆どの調査において、根本的にデータの範囲の取り方と質がばらば らであり、それは水道事業において開示される業績のデータに限界があり、事業者間や時系列による 比較が殆どできないという事実に基づく。業績の情報公開が殆ど行われないので、公営事業側または 民間事業者のいずれかを問わず、彼らは秘密主義や信頼性の欠如といった印象を与えている。    本報告は、途上国の都市の上下水道事業に関する官民連携の業績について客観的な情報を提示し、 分析した。過去 15 年間の都市水道の官民連携の拡がりを検証し、住民への給水サービスの改善や給 水普及率の向上にどのように役立ったかを評価した。本報告では、体系化された枠組みを使って、最 低 5 年間(マネジメント契約の場合 3 年間)事業継続した 65 件超の大規模水道の官民連携を評価し た。これらの事業の総給水人口は約 1 億人(附録 A 参照)で、それは 2003 年までに委託され、最 低 3 年間継続した水道の官民連携の 80%に当たる。  分析では、こうした事業が住民に対して実際に与えた影響、すなわち、官民連携によって達成した 改善の中身に注目した 1。入手したデータで可能な限り、業績の 4 要素、給水普及率の拡大、給水サー ビスのレベル、経営効率および料金水準を分析した。分析を行うに当たり避けることのできない制限 や欠陥についても採り上げた。     官民連携という用語は、文献によって様々な意味に使われている。従って、本報告においてこれが 何を指しているかを明確にしておくことが重要である。本報告で分析の対象とした官民連携は、都市 の上下水道事業を民間事業者に委託したもので、通常、既存の事業の管理を引き継ぐ形で行われる。 サンプルとして、完全民営化(インフラ設備を民間の投資家に売却する)、コンセッション(民間事 業者が運営と投資の両方の責任を負う)、リース・アフェルマージュ(新たに設立した民間事業者が 公の所有する水道施設を運営し、料金を徴収する。その収入は所有者である公と配分し、公には投資 の責任が残る)、マネジメント契約(給水サービスは公が所有する事業として行われるが、運営は民 間事業者が行う)、共同所有会社 (民間の投資家が水道会社の少数株主となり、地方自治体に代わっ て運営し、利益は公と配分する)の形態を含む。 本報告書では、分かり易くするために主として水 道の官民連携について言及し、下水道事業に関するデータは入手可能なものに限った。それは、多く の場合、下水道事業は水道に対して二次的に行われる事業(中には行われない場合もある)とされる からである。  本報告では、民間セクターが関与するものでも対象としなかった事業形態がある。大規模な上下水 道施設の建設、資金調達、運転に限定した契約(建設・運転・譲渡の案件、BOT、これに類する形態) や技術支援、請負契約は対象外とした。また、民間側に運営を任せずに公営事業の一部業務を民間の 投資家に売却したケースも除外した。さらに、給水人口 2 万 5,000 人以上の都市上下水道の官民連 携を対象とし、途上国の都市近郊の住民に給水している小規模な水道は含まない。  本報告は、政策マニュアルとして活用するように意図したものではなく、都市の水セクターで運営 1  このアプローチでは、事業者が契約上の目標に合致しているかどうかについては注目しなかった。その点も重要ではあるが最 終的に異なる問題であるため、本報告では対象としない。 12 されるすべての官民連携の集計調査でもない。官と民のサービス提供方法を比較して体系的に評価す ることも想定していないが、中にはそのような比較がなされ、適正な情報が得られたものも数件見ら れる。結論として留意しなければならないことは、官民連携は結果として得られる事業業績を向上さ せるための数多くのツール(道具)の一つであり、その効果はその他の方策と連結して行うことがで きるかどうかに掛かっている。その他の方策とは、水セクターとしての政策、規制 ・ 監督機構、資金 調達機関、助成金、貧困救済プログラムなどである。このような方策はもちろん重要だが、本報告で は採り上げない。  第 2 章では、途上国の水道の官民連携の歴史的な展開についてまとめる。現在の官民連携市場、 契約解除率、業界の変遷について振り返る。  第 3 章では、給水普及率、給水サービスのレベル、経営効率および料金水準を指標として官民連 携の業績を概説する。  第 4 章では、途上国で上下水道のサービスを改善するため、官民連携を実効性があり、継続的な ものにしていくにはどうすればよいかについて結論と教訓を導く。 13 14 第2章 途上国における水道の官民連携の変遷   途上国における民間水道事業者に関する論争は一部に根深い歴史をもっている。19 世紀から 20 世紀初頭にかけて、南北アメリカ大陸とヨーロッパ諸国(植民地や保護領を含む)の多くの都市の 水道事業は、民間企業が資金調達、建設、所有、運転を担っていた。 このような民間水道の多くは、 その独占的立場を乱用して投資を制限したり給水サービスのレベルを低下させたりすることが頻繁 に起こったため、当然ながら多くの都市で水道事業の公営化が進められることとなった。20 年前に、 英国と米国の一部を除いて、民間の水道事業は姿を消した。  しかし、フランスとスペインでは一世紀以上にわたり完全民営化とは異なる形で民間企業を水道事 業に関与させる方法が行われていた。それは、責任を分担するパートナーシップ(官民連携)の考え 方によるもので、地方自治体は民間事業者に水道事業の運営を委託し、その施設は官の資産として維 持するのである。契約上の形態は、民間のパートナー(連携先)が責任とリスクをどの程度負担する かによって、コンセッションからマネジメント契約まで様々だった。フランスにおいて最も特有な考 え方はアフェルマージュ(新たに設立した民間事業が官の所有する施設を運営し、料金を徴収する。 それを所有者側である官と配分し、官は投資の責任を負う)だったと思われる。スペインでは、合 弁会社(Empresas Mixtas)が出現した。コンセッション以外の契約形態としては、投資は官が行い、 地方自治体は都市計画の重要な要素である水道を統括できる一方、日常的な運営からは解放されるこ ととなった。  途上国では今、都市水道を一から開発するに当たって、民間セクターが重要な役割を担っており、 多くの場合海外からの投資を受けている。20 世紀前半にも同じような動きが起こり、その後水道事 業の運営・管理は公営に戻った。ただし、アフリカでは独立後、民間水道会社がそのまま残ったケー スも数件ある。  1) 1990 年代の水セクター  1980 年代の終わりまでに、途上国の多くの都市で水道の水質悪化、信頼性の低下、進まない普及 率向上といった問題が一層深刻化していた。都市人口の急増により、給水区域拡大のための莫大な投 資が必要となったが、実行できる公営水道事業は殆どなく、給水制限が日常的になっていた。また、 政治の介入や恩顧主義により、過剰な要員やモラルの低下が起こり、それが非効率や給水サービスの 低下を招いた。中央政府も地方自治体もインフレによって料金収入が目減りし、収入がコストを遥か に下回ることを必ずしも政治的に不好都合なことと捉えていなかった。また、多くの事業が土木建設 15 業界の文化のもとで展開していたため、大規模な浄水処理施設工事の方がその運転業務よりも重要視 された。資金の出所として料金収入よりも中央政府からの予算の配賦(補助金)に依存していたため、 水道使用者へのサービス向上が優先事項となることはまずなかった。  収入不足、給水サービスの低下といった悪循環は繰り返されていたのである。維持管理も適切に行 われないため施設は劣化し、給水も不確実なうえ、水質は悪化していた。十分な給水サービスを得ら れない水道使用者は水道料金を滞納し、料金値上げにも抵抗して、財源はますます乏しくなった。一 方で途上国の国家予算も厳しくなり、従来の水セクターへの投資財源は枯渇した。1990 年代初頭に は、こうした状況は最早看過できなくなっていたものの、それまでの独占状態の中では、これに有効 な解決策を見出せなかった。政治家が給水サービスのレベルや普及率向上のために料金値上げの必要 性を認めても、公営水道事業が増収分を住民へのサービス向上に使うかどうかは疑わしかった。 水 道事業を支配している利益集団は現状を変更することを嫌い、また、給水サービスの改善が見られな いことから、自ら雨水集水施設を設置したり、井戸を掘ったりした世帯は値上げされた料金の支払い を拒否した。さらに、そのような補完設備への出費を負担できない貧困層は、低劣な給水サービスの まま放置された。中央政府や国際援助機関は、都市水道への公的資金の提供をますます躊躇するよう になった。このような中で、給水サービスの責任と財務面のインセンティブを明記した契約下で官か ら民へ水道事業の管理を移転させることは、状況打開のための賢明な方法と考えられたのである。 2) 水インフラへの民間融資  チリ、ニュージーランド、英国など数か国では、1980 年代に主要インフラ事業が民営化された。 初期の結果を見ると、公益事業が十分に機能しない場合、民営化が一つの解決策になり得ることを示 している。その理論的根拠は、民間事業者には利潤の追求という動機があり、契約によって明確で一 貫した目的と方法が規定されるため、複数の利害が対立することの多い公営事業より効率よく事業を 運営できることにある(ハリス 2003*)。政策と規制を所管する部署(官の責任として残る)と実際 にサービスの提供を担当する部所(民間事業者の責任となる)を分離し、両者に一定の距離を置くこ とで官による運営のもとで失われていた責任が明確化できるはずだった。業績不振の事業を建て直す ことで得られる利益が大きいことから、民間事業者が給水サービスのレベルを改善し、貧困層への給 水を拡大するための投資に直接資金を調達することも期待できると考えられた。  1990 年代初めに、通信、電力、交通への民間参入が急速に拡大し、巨額の民間資金が呼び込まれた。 上下水道セクターも有望な投資分野と見られていたが、それは特有の課題を抱えていた。上下水道事 業は自然独占という性質上、契約先を決める際の競争は限定的だった。また、地下に埋設された水道 施設の評価が困難であることから、投資計画は大きな不確実な要素を伴うことになった。料金は費用 を下回る水準で極めて低く設定され、セクター全体が根強い社会的・文化的問題に悩まされていた。  1989 年のイングランドとウェールズ(英国)における水道事業の民営化が大きな契機となり、政 策立案者は都市水道事業に民間資金が活用できると確信するようになった。この民営化は世界中の水 道事業にとって極めて重要な意味を持ち、世界の金融市場から巨額の民間資金が集まり、新たな規制 。資金不足に苦しむ多くの途上国で、この新しい有望な取り組みへの の対象となった(コラム 2.1) 踏襲が期待された。  * 途上国におけるインフラの官民連携—その影響と教訓 16 コラム 2.1 近代的な規制の枠組みが確立 : 1989 年イングランドとウェールズの水道民営化   1980 年代後半、イングランドとウェールズでは以前から 29 社の民間水道会社が全人 口の約 4 分の 1 に対して給水していた。残りの人口は 10 か所の地域水管理公社(Regional Water Authorities)から上下水道のサービスを受けていたが、これは 1973 年水法により 1,400 の地方団体が(ほぼ水理境界によって)統合され、設立されたものである。  1989 年、イングランドとウェールズの地域水管理公社は、私法のもとに置かれる 10 民間会社に再編成された。この民間会社はそれぞれ指定地域への上下水道サービスを担当 し、その株式は市場公開された。これは、上下水道資産の民間セクターへの委譲としては、 それまでで最も大規模なものであり、フランスやスペインのケースとは基本的に異なる事 業モデルとなった。水道事業を運営し使用者から料金を徴収する認可が与えられただけで なく、この変革によって水インフラのすべての所有権が、民間の投資家に譲渡されたので ある。  民営化に伴い、水セクターの規制機関としてオフワット(水事業管理局)が設立された。 その役割は、新たな規制のメカニズム、いわゆるプライス ・ キャップ規制を導入すること であり、これにより水道料金は 5 年毎に見直されることとなった。それぞれの民間企業 に対して、当局が効率性改善目標に基づき次の 5 年間の料金評価(tariff evolution)を設 定した。もし、その企業が当局の設定した水準以下にコストを削減できれば、その 5 年 間にこれを貯めておき、次の 5 年毎の料金改定の際、その分を水道使用者に還元できる よう料金を調整することができた。これは、それまで民間事業者の経済的手法として使用 されていたコスト積上げ(総括原価)方式とは大きく相違することとなった。 3) 1990 年以降の水道の官民連携市場の変遷   途上国と移行国における水道の官民連携はいくつかの段階を経て展開した。1990 年代当初、最初 の契約が結ばれると、その後 10 年間、官民連携はかなりの勢いで進行した。しかし、注目を集めた プロジェクトにおいていくつかの問題が現れ始めたことから、ブームは一段落し、2001 年以降水市 場は方向転換していった。  水道の官民連携契約の最初の波  1980 年代終りまでに、大手民間水道事業者の大半は途上国から姿を消した。例外としてはコート ジボアールの例が挙げられる。1960 年以来、民間水道会社の SAUR がアフェルマージュ契約のもと、 コートジボアール水道会社(SODECI)を運営していた。その後、1980 年代後半にギニア政府が世 界銀行に支援を要請し、コートジボアールの手法にならって、1989 年 SAUR とのアフェルマージュ による 10 年契約を締結した。 この契約では、民間会社が給水サービスのレベルと経営効率の改善に 責任を持ち、政府は投資を担うことになった。  水道の官民連携の進展に最も弾みがついたのは、ラテン ・ アメリカにおいてであろう。1980 年代 には有力な数か国で水セクター改革が行われ、国有の水道事業を解体して地域レベル(アルゼンチン やベネズエラなど)や地方自治体レベル(コロンビア)に分散化し、水道事業が設立された。しかし、 このような改革は、多くの準備不足の地方自治体において投資の減少を招き、概して期待外れとなっ 17 た。当時、この地域では経済自由化の波が押し寄せており、社会資本整備に向けて広い範囲で民間の 参加が呼び掛けられた。都市水道事業において、巨額の投資が必要な地方自治体としては、民間資本 を調達できることが大きな魅力となり、民間セクターの参加が求められた。   この時期、ラテン ・ アメリカにおける最初の水道の官民連携は 1991 年のコンセッション契約で、 アルゼンチンのコリエンテ地域事業が新たに民営化された英国のテムズ・ウォターの率いるコンソー シアムに委託されたものである。この案件は比較的小規模の事業であったが、その後に続いた 2 件は、 首都 2 都市、カラカス(ベネズエラ)とブエノスアイレス(アルゼンチン)の水道事業に関するコ ンセッションという遥かに大掛かりな入札を伴う案件だった。カラカスの入札は成立しなかったが、 ブエノスアイレス大都市圏のコンセッションは委託先が決まった。受託したコンソーシアムは 1993 年 5 月に事業を引き継ぎ、30 年超にわたり 40 億ドルの投資が行われることとなった。これは、途 上国の水道事業としては前例のない大きな金額だった。   水道の官民連携の初期の機運  ブエノスアイレスにおけるコンセッションが始まったことによって、官民連携がかなりの勢いで拡 大した。コンセッション受託者は、事業開始後早い段階で業績を挙げた。市内で夏期の数か月間頻発 していた給水制限は、最初の年に解消され、その後 4 年間で 100 万人以上が新たに配水管網に接続 した。これにより、国内の平均普及率との差は縮まってきた(ドウッチ 2007 年 *)。その後数年間に、 水道の官民連携は途上国全体で引き続き契約締結が進んだ。大きなものとしては、1994 年のカンク ン(メキシコ)、グダニスク(ポーランド)、1995 年のケランタン州(マレーシア)、サンタフェ地方(ア ルゼンチン)、1996 年のセネガル、マニラ(フィリピン)、カルタヘナ(コロンビア)、アグアスカリ エント(メキシコ)、1997 年のガボン、コルドバ(アルゼンチン)、ラパス - エルアルト(ボリビア)、 ブダペスト(ハンガリー)、バランクイラ(コロンビア)、カサブランカ(モロッコ)などである。  カンクンのコンセッション以外、受託したのはすべて海外の水道会社だった。図 2.1 に示す通り、 1991 年から 2000 年にかけて新規契約の数は着実に増え、民間事業者による給水人口は 600 万人 から 9,300 万人にまで上昇した。さらに多くの地方自治体が民間水道事業者との契約に乗り出した。 水道の官民連携を行う途上国の数は 1991 年から 2000 年の間に 10 倍に増え、4 か国から 38 か国 となった 2。当初、契約終了前に契約が解除になったのは 2、3 の特別な場合に過ぎなかった(アルゼ ンチンのタクマン地方、マレーシアのケランタン州)。その時期、ラテン ・ アメリカは牽引役を果たし、 2000 年には途上国における民間水道事業者による給水人口 9,300 万人のうち、4,300 万人(45%) を占めるまでになった。その年、アルゼンチンは民間水道事業者による給水人口が 1,800 万人(都 市人口の 5 割超)で、2 位を大きく引き離して第 1 位だった。その他の地域は遥かに少なく、アジア(マ ニラとジャカルタ)で 1,400 万人、サハラ砂漠以南のアフリカは 1,600 万人、東ヨーロッパと中央 アジアで 1,300 万人、中東と北アフリカではわずか 700 万人だった。  * ラテンアメリカにおける国際水事業者 2 これは給水人口 10 万人を超える水道官民連携事業が 1 件以上ある国を示す。1991 年以前、途上国の水道官民連携事業(本 報告の定義による)は、コートジボアール、マカオ (当時ポルトガル統治下) 、ギニア (1988 年以降)、チリ(ロ・カステイロ、 サンチャゴの裕福な地域)にほぼ限定されていた。  18 図 2.1 途上国における官民連携受託事業と給水人口、地域別 1991-2000 年 出所 : 官民連携データベース(PPIデータベース)に基づく著者の資料による 民間資金への期待は非現実的   公式発表によると水インフラに対する民間資金の額は、当初好調な数字を示していた。1990 年か ら 2000 年の間に、途上国の水道事業では民間投資を伴うプロジェクトに約 432 億 US ドルが投じら れた 3 。観測筋では、国際金融機関が水セクターへのソブリン融資 * を削減し、民間の金融商品を通 じた支援に切り替えられるであろうと判断した。  しかし、この期待は実現しなかった。他のインフラ部門に比べると、都市水道事業の民間融資は限 定的で、1990 年から 2000 年の間の民活インフラの投資総額の 5.4%に過ぎなかった。参加する民 間企業の数も少なく、上位 5 社(スエズ、SAUR、ヴェオリア、テムズ・ウォター、Agber)が 1991 年から 1997 年の投資総額の 90%を占めていた。また、投資金額の数値は契約期間全体(30 年が多い) にわたるものであり、その大半が数少ない大規模プロジェクトに集中していた。チリ、ブエノスアイ レス(アルゼンチン)、マニラ(フィリピン)の 3 件で全体の半分近くを占めていた。最終的に、多 くのコンセッション受託者が、当初予定していたプロジェクト ・ ファイナンス ** として非遡及 ・ 責 任財産限定融資(ノンリコース)*** を民間から受けることができないことが分かり、バランスシー ト上の制約を受けることになった。結局、民間からの投資額は当初の予想より遥かに低かった。  *  中央政府により保証される融資(訳者注)  ** プロジェクト実施企業が将来生む利益(実際はプロジェクトの資産や事業収入)を担保として行う融資(訳者注)  *** ローン等の返済の原資となる範囲に限定を加えた融資(訳者注) 3 World Bank/PPIAF Private Participation in Infrastructure (PPI)Projects Database(2007 US ドル)に記録されている投資額 は、公式な情報に基づきプロジェクト契約上民間が 25%以上参加している契約形態を示す。完全民営化は、民間事業者が 5% 以上の株式を所有する契約を示す。運営管理が民間に委譲されていても投資義務を伴わない(あるいは投資義務が所定の額よ り低い)契約は、PPI データベースの投資額に含まれない。 19 2001 年以降の動向   2001 年は水道の官民連携の転換点となった(図 2.2)。当時、民間水道事業者の最大の市場であっ たアルゼンチンが経済危機に見舞われたのである。翌年、契約件数は大幅に落ち込み、2003 年から 2005 年には、新たな事業はチリ、中国、コロンビア、ロシア連邦の 4 か国に集約されるようになっ た。2006 年以降、年間の契約件数はさらに激減して 1999 年以前の水準まで落ち込み、新規契約は 2、 3 か国に集中し、とりわけ中国が最大の市場となった。 図 2.2 途上国における官民連携受託事業と給水人口、地域別  1991-2007 年 出所:官民連携データベース(PPIデータベース)に基づく著者の資料による  契約件数の減少とは対照的に、民間水道事業者による都市の給水人口は増加を続けている。2000 年には約 9,400 万人だったものが、2007 年には推定 1 億 6,000 万人に上昇している。この増加の 背景には二つの要因がある。第一は、過去 5 年間の新規契約の大半が大都市の事業であったこと、 第二は多くの事業者が既存契約をベースにして大幅な水道使用者の拡大を図ったことである。  2007 年末までに、41 か国の途上国と新興国で 220 件を超える水道事業の官民連携が実施されて いる。官民連携は、国や地域により、改革、カントリーリスク、金融市場、地域の政治経済などの特 殊性に対応して、様々な方法で展開した。2000 年から 2007 年の間に、ラテン ・ アメリカの官民連 携の水道使用者は 4,400 万人から 3,900 万人に減少した。しかし、東アジアでは 1,400 万人から 5,000 万人へと急増し、今では民間水道事業者にとって最大の市場となった。その他の地域でも増加が見ら れ、サハラ砂漠以南のアフリカでは 1,500 万人から 2,500 万人、東ヨーロッパと中央アジアでは 1,500 万人から 2,900 万人、中東と北アフリカでは 700 万人から 1,300 万人となっている。   このような方向転換を強調するように、新規契約の資金調達の手法に徐々に変化が現れた。水道事 業の官民連携は、リース・アフェルマージュ方式(アフリカや東ヨーロッパ)か、官側が相当の資本 を調達するコンセッション方式(例えばコロンビア)かを問わず、官民が資金を出し合う形式が増えた。 20  1990 年代にはコンセッション方式が主流だったが、第二世代の官民連携では投資を公的資金に依 存する度合いが高まっていった。水インフラへの民間企業の投資はブラジル、チリ、中国、コロンビ ア、マレーシア、モロッコ、フィリピンの官民連携に見られたが、これは現地通貨での長期借入がで きる国に集中している。 4) 水道の官民連携における早期の契約解除と契約終了   注目度の高かった一部の国の水道の官民連携に対して問題が発生し、契約終了前に解除に至るもの が出たことから、途上国の水道事業の官民連携は困難が多く、中止につながるという認識が広まった。 確かに、官民連携は契約上の取り決めが必ずしも期待通りに行くとは限らず、中には失敗するものも あった。しかし全体像を詳しく見ていくと、契約終了前に解除になったのは少数であることが分かる。 図 2.3 は、1990 年以降途上国で実施されているすべての水道事業の官民連携の 2007 年末現在の状 況を示している。228 件が継続中、18 件が契約終了し(事業は契約終了により公営に戻った)、22 件が契約終了前に解除された。 図 2.3 地域別に見た水道事業の官民連携の状況―継続中、契約解除、終了 2007 年 出所:官民連携データベースに基づく著者の資料による 大半の水道事業の官民連携は継続中  1990 年以降実施された契約のほぼ 84%が 2007 年末時点で継続中である。官民連携プロジェク トのデータベースにおいて、2007 年末時点で事業の継続が困難と報告されているものは 2 件のみ(ア ルゼンチンのコンセッション、メンドーサとカタマルカ)であった 4。それ以前に危機に陥っていた契 約は過去 3 年間に解除されているか、問題が解決されていた(多くの場合、海外の事業者が撤退し、 地元の投資家に譲渡され終結)。 4 官民連携プロジェクトのデータベースでは、公式に民間事業者の撤退が要求された場合、あるいは大きな紛争が起こっている 場合に事業の継続が困難とみなしている。 21  1991 年以降に委託された契約のうち、地方自治体と民間事業者の対立によって契約終了前に解除 となったのは 9%だけだった 5。 これは、官民連携に基づいて取り決めた結果、民間事業者が直面しが ちな困難な状況や、人的要因の重み(すなわち、連携者同士が実際にうまくいくかどうか)を考えれ ば、ある意味妥当な数字である。その他 7%(主に短期のマネジメント契約)は、契約終了時に公営 に戻ったケースである 6。  水道事業の官民連携による給水人口は、過去 15 年間に一時 2 億 500 万人に達した。2007 年末時 点の給水人口 1 億 6,000 万人を差引くと、およそ 4,500 万人(約 2,500 万人は期限前終了により、 約 2,000 万人は契約終了により)が民間事業者による給水サービスを受けた後、公営に戻った事業 によって給水を受けている 7。 表 2.1 1990 年~ 2007 年の間に公営復帰した大規模水道事業 出所:著者 給水人口が 15 万人以上の官民連携のみ。マニラ西部地区は 2005 年に終了したが、翌年新しい民間事業者に引き継がれ    たので省いた。 官民連携の契約解除はラテン ・ アメリカとサハラ砂漠以南のアフリカに集中  官民連携の契約解除は、ラテン ・ アメリカとサハラ砂漠以南のアフリカに集中している。契約解除 および更新されなかった契約の中で、給水人口 15 万人以上の主な官民連携を表 2.1 にまとめた。ラ テン ・ アメリカでは、解除の半数がアルゼンチンで起きているが、地域全体としての解除率は 10% に留まっており、全世界の平均とほぼ並んでいる。サハラ砂漠以南のアフリカでは、およそ半数の官 5 1998 年以前に締結した契約の期限前解除率は 14 %、1998 年から 2002 年の間に締結された契約の解除率は 9%である。 6 官民連携プロジェクト契約の終了後、別の方式の官民連携が引き継いだ場合(マネジメント契約がリースやコンセッション契 約に代わった等)は、この数字に含まれていない。 7 この中には、途上国最大規模のコンセッションで 2006 年に終了したブエノスアイレス(給水人口 850 万人)のプロジェクト等、 よく知られた契約も含まれている。 22 民連携が契約終了前に解除となるか、契約終了後に公営に戻っている。これは、改革を進めるに当た り極めて困難な状況にあることが関係している。また注目すべき点としては、アフリカにおいて契約 解除になった官民連携の大半が電力と水道の共同事業であり、この場合、水道事業は二次的な立場に あった 8 。水道と電力の共同プロジェクトは全体の 20%に過ぎなかったが、その半分は期限前に契 約解除になっている。水道のみの官民連携の場合 90%が今も継続していることから見ると、その差 は歴然としている。 契約終了前解除の要因    期限前に解除となった契約の殆どは、どちらか一方、または双方による重大な契約義務違反が発生 し、双方の関係が悪化した結果、連携が打ち切られている。このような官民連携は、多くの場合、稼 働してかなりの年数が経ってから解除となったものだ。これは、時間経過に伴う条件の変化に契約を 対応させていくことの難しさを示していることが多い。地方自治体の中には、次第に官民連携の手法 に対する不満を募らせ、直接公営管理のもとに置くことが問題解決に役立つと感じるようになったも のもある。  ラテン ・ アメリカにおける多くのコンセッションが解除となった理由の一つは、1990 年代に水市 場がかなり強気であったことがあると思われる。契約を獲得する際、過度に楽観的な提案(オファー) を出した民間事業者も見受けられた。終了前に解除になった契約を追跡してみると、計画に無理があ るか、入札段階で非現実的な財務条件を出しているか、その両方のケースもあった。コチャバンバ(ボ リビア)を例に取ると、入札に基づいて民間事業者が選定されたが、その入札は 1 社を除いてすべ て辞退していた。契約の実現には相当な料金値上げが必要であり、民間事業者には大規模な投資も要 求され、社会的に持続不可能であることが明白となった。そして、契約はあっという間に終焉を迎え たのである。  契約期間が終了し、その後公営に戻った官民連携は 7%である。このようなケースは、契約終了前 に解除になった官民連携契約とはっきりと区別しなければならない。殆どが短期のマネジメント契約 であり、民間事業者への責任の委譲は限定されていた。このような事業が公営に戻った理由は様々だ が、必ずしも改善に失敗したとか、または、地方自治体の期待に応えることができなかったというも のではない。その例としては、南アフリカ共和国のヨハネスブルグ(マリーン他、2009*)において、 マネジメント契約が成功した後に公営に復帰したケースが挙げられる。  * ヨハネスブルグにおけるマネジメント契約 5) 新たな民間水道事業者 (水道プレイヤー)  1990 年代、一般的に水道の官民連携の入札には、かなり限定的な参加資格の事前審査が行われ、 そのため大規模な上下水道の運営実績がない投資家は参加することができなかった。飲用水の供給は 住民生活に必需の公共サービスであるため、経験のない民間事業者に委託することはできないという のがその理由だった。当時、実績のある民間水道事業者といえば先進国の 2、3 社のみであったため、 8 これは、チャド、コモロ、ガンビア、ギニア・ビサウ、マダガスカル、マリ、ルワンダ、サントーメ・プリンシペのケースで ある(給水人口合計約 650 万人)。 23 慎重な取り組みの結果、途上国において民間水道事業者による給水人口のうち 80%が 5 社の大手多 国籍水道企業に集中することとなった 9。  2001 年から 2006 年には大きな変化が起こった。新興国や途上国で新たに国内の民間事業者の参 加数が増えてきたのである(図 2.4)。2002 年以降、途上国において民間事業者による給水人口は着 実に増えているが、この時期、その伸びの殆どが国内事業者によるものである(コラム 2.2 参照)。 本報告では、国内事業者による給水人口の増加はおよそ 5,500 万人と推定している。一方、大手多 国籍水道企業による給水人口は約 9,500 万人で、2001 年以来横ばいである。 図 2.4  途上国における都市給水人口―国別民間水道事業者 1991-2007 年 出所:著者の資料による 途上国の民間水道事業者の急成長  2007 年までに途上国の国内民間水道事業者による給水人口は 6,700 万人となり、水市場の 40% を超える人々に給水するようになったが、これは低く見積もられた数値である。なぜなら、ここには 中国が含まれていないからである。中国では、記録されているだけで 2,400 万人を超える人々に対 して官民連携による給水が行われており、そうした事業は国際企業と地元の投資家の混成(多数株主 は地元の投資家)によって運営されていた。また、中小都市の民間事業者については記録がない。さ らに、この数値にはコートジボアール(SODECI)とセネガル(SDE)の大手民間事業者 2 社が提供 する 1,300 万人超が含まれていない。海外の企業に管理されてはいたが、SODECI と SDE はそもそ もアフリカの国営企業であり、国内株主が大多数を占める。  途上国と新興国の国内民間水道事業者の多くが今や重要な水道プレイヤーとなっており、中には地 域の水市場を視野に入れているものもある。例えば、ラチナアグア社(アルゼンチン)は 2005 年に チュンベ市(ペルー)のコンセッションを受託し、ONEP(モロッコ)はその 2 年後にカメルーンの 国内水道事業のアフェルマージュ契約を獲得した。マレーシアの企業は積極的に海外におけるビジネ 9 国際企業の内訳はスエズが 36%で最も大きな割合を占め、以下 SAUR (15%)、ヴェオリア(12%)、アグバル(11%)、テム ズ・ウォター(6%)と続く。 24 コラム 2.2 途上国内の新たな民間事業者   1990 年代初期の契約の殆どは大手多国籍水道企業が獲得した。1996 年のマニラのコン セッションでは、受託者に国内投資家による 60%の出資を求めたため、大手多国籍水道 企業が過半数の支配を握る地元の連携先企業と手を組む動きが促された。マニラ・ウォ ターのコンセッション(東部地区)では、官民連携が十分に機能した。海外の連携企業か らノウハウが移転され、それによって実力を蓄えたフィリピン国内の民間水道事業者が 徐々に出現することにつながった。2007 年までに、アジア地域の官民連携を通じてさら に拡大が模索されるまでになっている。  一方、ラテン ・ アメリカでは、当初国内の投資家がプロジェクトを担って進めたため、 海外の大手多国籍企業は興味を示さなかった。アルゼンチンでは、テムズ・ウォターが 1995 年にコリエンテのコンセッションの管理を地元の連携先企業に引き渡した。その後 数年間に、アルゼンチンの複数の地域のコンセッション契約(サルタ、サンチャゴデル エステロ、フォルモサ、ラリオハ)を国内の投資家が落札している。似たような現象は 1998 年から 1999 年にかけてコロンビアとブラジルでも起こり始めており、水セクター で積極的に事業を展開している建設会社が、国内の投資家だけが参加した入札によって契 約を落札した。このようなケースで、地方自治体は競争を促すために参加資格の事前審査 基準を緩め、落札者が確実に水道事業を運営できるよう様々なメカニズムを用いた。コロ ンビアでは、落札者が経験を積んだ技術職員(多くは公営水道事業の管理職や技術者等) と契約した。アルゼンチンでは、サルタのコンセッションを落札した投資家が有力な水道 事業(SANEPAR、ブラジル・パラナの国営水道事業)と技術支援契約を結んだ。  ラテン ・ アメリカでは 2000 年以降、国内の水道事業者が地盤を築いていった。当初の 実績によってうまくいくことが示されたからである。2001 年から 2004 年の間に、コロ ンビアでは事業近代化計画(PME)のもとで、国内の殆どの官民連携契約は国内の民間事 業者が落札した。同じような流れは、2002 年から 2004 年のチリでも官民連携の第二波 として起こっていた。民間水道事業者の中には、複数の契約を受注して国内有数の企業と なる者もあった。近年、国内の民間事業者がマーケットシェアを拡大し続けている一方、 数社の大手多国籍水道企業が市場から撤退している。これは、マナウスとリメイラ(ブラ ジル)およびコルドバ(アルゼンチン)のスエズ、カンポグランデ(ブラジル)のアグバ ル社、チリのアングリアンおよびテムズ・ウォターなどに見られる。  その他の途上国では、別のパターンが現れた。2、3 社の大手民間グループが大規模な 水道事業の官民連携契約に直接関わったケースもある。これはマレーシアの例で、ジョ ホール州のコンセッション(2001 年)とセランゴール州、クアラルンプールのコンセッショ ン(2004 年)の管理権を民間企業に売却した際のことである。ロシアでは、2003 年以来、 官民連携は直接交渉を通じて展開し、主に大手エネルギー ・ コングロマリットとのつなが りを持つ 2 社(RKS とロスボドカナル社)が携わった。インドのタタ・グループは、また違っ たケースである。19 世紀以来タタ ・ グループは、工業都市のジャムシェドプールで水道 事業を運営していた。水道事業は以前からタタ・スチールの一部門として運営されていた たが、2004 年水道事業会社として分離 ・ 設立された。 25 スチャンスを狙っており、2002 年には英国の水道事業の買収に乗り出すまでになった。表 2.2 は、 本報告で特定した 40 万人以上の給水人口を抱える大規模な水道プレイヤーをまとめたものである。 大手多国籍水道企業の一部撤退  先進国の大手企業の状況は全く異なっている。大手多国籍水道企業による給水人口は、2001 年か ら 2007 年の間、全体としては微増に留まり、8,600 万人から 9,500 万人となった。1990 年代に最 も積極的に活動していた企業の中には水市場から大きく撤退したものもある(図 2.5)。  特に、スエズはラテン ・ アメリカから撤退し、中国、モロッコ、東ヨーロッパに軸足を移すようになっ た。2006 年に大手多国籍水道企業の給水人口が急に落ち込んでいるのは、スエズのラテン ・ アメリ カ撤退が大きい。2006 年にブエノスアイレスとサンタフェ(アルゼンチン)、ラパス - エルアルト (ボリビア)のコンセッション契約の終了により、給水人口は実質およそ 1,150 万人減少した。同年、 スエズの大規模なマネジメント契約も終了している。一つはアンマン(ヨルダン)、もう一つはヨハ ネスブルグ(南アフリカ共和国)で、合わせて 500 万人の減少となった。さらにスエズはコルドバ (アルゼンチン)、マナウスとリメイラ(ブラジル)のコンセッションについても、運営を地元の連携 企業に委譲している。途上国の水市場を長年にわたって席巻してきたスエズだが、2007 年までにそ の存在感を大幅に減らしている。中国以外の途上国で大規模な事業が残っているのは、カサブランカ (モロッコ)、アルジェ(アルジェリア)、カンクン(メキシコ)、ジャカルタ西部地区(インドネシア) のみとなった 10。英国の水事業会社も途上国における拠点を大幅に減らしている 11。  これに対して、別の大手多国籍水道企業が台頭してきた。中国市場のブームに乗っただけでなく、 低所得国にも進出している。過去 5 年間、ヴェオリアの存在が途上国と新興国において極めて大き くなってきたのである。2000 年から 2007 年の間に、給水人口は 700 万人から 3,000 万人と 3 倍 に増えた。とりわけ、2001 年のいわゆる水市場の冷え込みの後、主に新興国において事業を拡大し ていった 12。西ヨーロッパの国内水事業会社も契約を受託するようになった。アチア社(イタリア)、 ゲルゼンバッサー社とベルリン水道(ドイツ)、ポルトガル水道(ポルトガル)、ストックホルム水道(ス ウェーデン)、ヴィッテン社(オランダ)などである。その多くは公営水道企業で、1990 年代のコンセッ ションモデルには興味を示さなかったが、マネジメント契約を通じて水市場に参入してきている。 10 過半数には満たないものの、スエズは常にアグバルの主要株主であった。しかし、スエズは 2007 年過半数の株式を取得し アグバルの支配権を握った。 アグバルとの統合後、途上国におけるスエズの市場占有率はヴェオリアに匹敵する水準になった。 2007 末までにアグバルが獲得した国外の主な契約は、カルタヘナ(コロンビア)、ハバナ(キューバ)、サルティロ(メキシコ)、 大サンチャゴ都市圏 (チリ)、オラン(アルジェリア)である 11 英国最大の事業者、テムズ・ウォターは、所有者の RWE がエネルギー分野に注力する決定を下したことに伴い、途上国から の撤退を表明した。2006 年、ジャカルタ東部地区(インドネシア)のコンセッションを地元投資家に譲渡し、チリの水道事 業(給水人口約 260 万人) を売却した。アングリアン・ウォターは、2003 年から 2004 年にかけてチェコ共和国とチリ(ESVAL Valparaiso)の水道事業を売却した。 12 ヴェオリアは、経済的に豊かな国(東ヨーロッパや中国等)だけでなく、貧しい国々でも積極的に活動して成長を遂げ た。2001 年にはニジェール(世界最貧国の一つ)の国営水道事業のアフェルマージュ契約を受託、2005 年にはエレバン 市(アルメニア)でもう 1 件のアフェルマージュ契約を獲得した。マダガスカル、ガーナ(2005 年) 、カメルーン(2007 年)で官民連携プロジェクトの入札に参加したものの落札には至らなかった。2005 年には、スペインの FCC(Fomento de Construcciones y Contratas)グループとの提携関係を通じてラテンアメリカで小規模なコンセッションを落札した。 26 表 2.2 途上国の投資家所有の大規模民間水道事業者(中国を除く) 出所:著者 a. ロシアの民間事業者について給水人口は長期契約のもののみ (O&M を 1 年更新しながら民間事業者が数百万人に給水している 場合がある) b. 国営水道事業 ONEP はモロッコの都市人口の 3 分の 1 に給水している。 c. トリプル A 社はマドリッドの公営水道事業(カナルイザベルⅡ世社)と戦略的連携関係にある。それは、実際には、コロンビア の民間企業としての国民に支持されているブランドである。 27 図 2.5 途上国における多国籍水道事業の官民連携 1991-2007 年 (a) 大手民間事業者による都市の給水人口 (b) 給水人口の内訳 主要民間事業者別 2007 年 出所:官民連携データベースおよび著者の資料による 注:( )内は給水人口 。パーセンテージは概数。 (百万人) 6) 動向分析による結論   近年、新たな契約の受託件数は減っているにも関わらず、民間水道事業者による給水人口はますま す増加しており、水道事業に官民連携を導入する国も増えているのは矛盾しているようにも見える。 2002 年から 2007 年の 5 年間に、民間水道事業者はアルジェリア、中国、マレーシア、ロシアといっ た大きな国々に向けてかなりの進出を見た。また、アラビア半島、カメルーン、グルジア、ガーナ、 ペルーでは初めての官民連携契約が結ばれた。失敗したマニラ西部地区のコンセッションも、2006 年末に再入札に漕ぎ付けた。ラテン ・ アメリカで続発した契約解除も終了したように見えた。しかし、 28 途上国の水道の官民連携への取り組みはすべて同様に展開したわけではなく、ラテン ・ アメリカでは 後退を余儀なくされたが、その他の地域では徐々に受け容れられていった。  多くの国で水道の官民連携は時代の試練に耐えたと考えられる。2007 年末までに、途上国および 新興国の 44 か国で都市水道の官民連携が稼働するようになった。アルメニア、カメルーン、チリ、コー トジボアール、チェコ共和国、ガボン、ガーナ、マレーシア、ニジェール、セネガルでは、都市人口 の過半数が民間事業者による給水を受けている。その他の国でも、都市人口の 3 分の 1 近く、また はそれ以上に対して民間事業者が給水している。これは、アルジェリア、コロンビア、キューバ、エ クアドル、ハンガリー、モロッコ、モザンビークなどである。アルゼンチンでも、10 のコンセッショ ンが都市人口の 20%の給水をまかなっている。  しかし、過去 15 年間に水道の官民連携を行った途上国において、およそ 3 分の 1 が公営に戻って いる 13。これは相当な比率であり、官民連携事業が複雑でリスクを含んだ試みであることを裏付けて いる。  1990 年代後半以来、都市水道の官民連携に関わる地方自治体やその他の利害関係者は徐々に何が うまくいき、何がうまくいかないかを学んできた。そして、その反省から純粋なコンセッションとい うよりは公的資金への依存度を高めた官民連携へと向かっている。同時に、新たな民間事業者が水市 場に参入してきた。その多くは途上国からきており、1990 年代に数少ない大手多国籍企業の寡占状 態に近かった水市場の様相はここで一変した。途上国のニーズや特異性に合わせた、より成熟した状 況に変わっている。  こうして過去 15 年間に、全体として途上国の水道の官民連携は様々な困難にも関わらず着実に拡 大したことが分かった。ここで、次のような基本的な疑問が生じる。このような発展は、どのように、 またどの程度、民間水道事業者の業績と関連していたであろうか。これについては次章で論ずる。  13 このような案件は殆どサハラ砂漠以南のアフリカ(中央アフリカ共和国、チャド、コモロ、ギニア、ギニア・ビサウ、マダ ガスカル、マリ、ルワンダ、サントーメ・プリンシペ、タンザニア、ウガンダ、ザンビア)で、この中には水道と電力を統 合した事業も数件含まれている。以下、ラテンアメリカ (ベリーズ、ボリビア、ギアナ、トリニダード、ウルグアイ、ベネズ エラ・ボリバル共和国)、中東(ヨルダン、レバノン、ヨルダン川西岸、ガザ市)、東ヨーロッパ、中央アジア(コソボ、トルコ) と続く。 29 30                                  第3章 水道の官民連携プロジェクトの業績と影響    途上国の水道事業の業績を改善するために官民連携はうまくいく方法なのかどうか、より正確に理解す るため本章では水道事業の官民連携が給水サービスの向上に貢献したか否か、またどのように貢献したか について検証する。これは必ずしも簡単な作業ではない。業績は多面的であり、測定するとそれぞれの側 面に不備が含まれている。このように様々な要素を考慮したうえで、本報告ではケース・スタディの手法を 用いて多くの官民連携を導入した事業を系統的に検証した。官民連携が実質的に住民に対して大きな改善 をもたらしたかどうかの評価に絞り、業績を (b)給水サービスのレベル、 (a)上下水道の普及率、 (c)経 (d)水道料金に対する影響、の 4 要素から官民連携以前の状況と比較した。 営効率、  実際には官民連携事業の業績は、委託した地方自治体と受託民間事業者の双方が何を実行しようとし たかによって異なり、また、どのような契約形態を採用したかに応じて、地方自治体は重要な役割を果た している。契約形態が異なれば、同じ結果を期待することはできない。特に、一般的に契約期間が短く民 間事業者への責任の移転が限定的なマネジメント契約について、それが当てはまる。事業業績の分析に おいて、マネジメント契約と長期の官民連携(完全民営化、コンセッション、リース・アフェルマージュ 14、 共同所有会社)とを区別した。長期の官民連携事業では、新たに事業運営会社を設立し、その一部、ま たは全部を民間事業者が所有するのが普通である。 1) 文献から得られた証拠   官民連携について多くの文献が刊行されているにも関わらず、既存の文献から得られる証拠にはやや混 民間事業者の業績評価に関する多くの難問が挙げられる。本報告では、 乱が見られる。その理由の一つに、 個々のケース・スタディと計量経済学的研究の間を行く中道的な手法を採用した。 水道の官民連携の業績評価に関する難問  官民連携によって上下水道事業のサービスの範囲とレベルにどんな効果がもたらされたかについては、 多くの議論が交わされてきた。すなわち、官民連携は既存の水道使用者に対して給水サービスを向上させ ただろうか。これまで水道に接続できなかった人々にどれほど給水区域を拡げられたか。経営効率を改善 できたか。料金への影響はどうだったか。これらは本質的な疑問であるものの、この分野の基本的な特性 を考えると実際に回答するのは難しい。その特性とは、以下のようなものである。    業績指標の曖昧さ : 一般的に使用されている指標には限界があり、そのことが常に困難のもととなって ・ 14 新たに設立した民間事業者が、公が所有する事業を運営し、料金を徴収する。そのうえで、投資の責任を負う公の所有者と 収入を配分する。 31 いる。このような指標は、多くの場合大まかな推定に基づいており、国や事業ごとに計算の仕方が異なっ ている。損失水の測定が複雑であることはよく知られているが、給水普及率のような一見単純な指標で すら正確に算定するのは難しい。 (コラム 3.1)    業績の多面性 : 業績の様々な要素は互いに関連し合っている。給水接続数の増加について論ずる場合、 ・ 断水の起こる頻度を考えなければ無意味であり、水道料金の値上げについても、普及率の向上や給水 サービス改善の可能性について言及しなければ議論の意味がない。同様に、指標の各項目も互いに影 響し合う。損失水について理解するためには、同時に給水サービスの継続性(24 時間の連続給水を 受けているか)を考慮する必要がある。また、下水道が存在すると、さらに全体像は分かりにくくなる。 上下水道を区別したデータが入手できることはまずないからだ。    様々な地域的要因により事業費が左右されること、および多様な料金体系 : 水道事業の事業費は水源 ・ や地形的条件など地理的な要素によって決まることが多い。料金体系は事業毎に様々であり、水道使 用者の分類、定額料金、請求方法なども異なる。料金請求は実使用水量ではなく、推定(Estimation) に基づいて行われている場合もある。スケールメリットが働くため、事業の規模も大きな要素である。 コスト構造の中で固定費の割合も大きい。こうしたすべての要因のために水道事業間でコストや料金を 比較することは非常に難しい。    水道事業の業績データを入手することは困難 : 恐らく、有意な分析を行ううえで最も大きな障害となっ ・ ているは、この分野では官民を問わずどの地域においても適切な業績データを入手することが難しいこ とである。途上国の公営水道事業の多くは業績を監視するきちんとしたシステムがなく、報告されてい るデータも信用できないことがよくある。結果として、民間へ移行した後で業績を測定した時に比較する ための適切な基準もない。また、官民連携事業の契約に関して、誰もが常に閲覧できる情報もない。 文献による調査結果  このようにデータに限界があるにも関わらず、水道の官民連携についてはかなり多くの文献が刊行されて きた。水道事業に民間部門が参加することによる影響についての報告は、大きく分けて 2 グループに分類 できる。個々のプロジェクトについてのケース・スタディと複数の事業に関する計量経済学的分析である。  ケース・スタディでは、一般的に水道事業の業績が民間事業者の参入後、どう変化したかに着目する。こ 2、 うした報告は、 3 件の事例(セネガル、ブエノスアイレス 、マニラ〈フィリピン〉 〈アルゼンチン〉 )に集中 その他多くのケー する傾向があり、 ス カサブランカ (コートジボアール、 〈モロッコ〉 、ガイヤキル 、 〈エクアドル〉 )については殆ど公式な記録がないままとなっている。 ジャカルタ〈インドネシア〉 水道の官民連携について 公表されているケース・スタディを机上検討した報告(クラーク、コセ、ウオルシュテン 2004*)は、途上 民間の関与が概して良い影響をもたらしたケースが16 件、 国の 25 件の事業を特定した中で、 悪影響を与え たケースが 5 件、両方の結果が混在したケースが 4 件だったと結論付けている。特に、目に見える成果が 挙がったのが給水普及率、労働生産性、給水サービスのレベルであり、料金値上げを伴うケースが多かった。  計量経済学的研究では、より多くの事例を用いて官と民の事業業績を比較しようとしているが、事例の 有意な結論を導くためには、 選定で同様の限界にぶつかっている。 数多くの事例を使って業績に影響を与え しかし、 る様々な外的要因を抑えることが必要である。 初期の研究では少数の事例に頼らざるを得ず、僅か な数の国や事業について短期間のデータを示すのみだった。また、民営事業として分類される基準は必ず 妥当とはいえない場合もある。 しも明確でなく、 それが調査結果の妥当性にも影響を与えている。第2グルー 32 プの調査では、全国規模の世帯調査のデータをもとにすることで、各事業から入手したデータを使用する アルゼンチンについてクラーク、 場合に伴う限界を克服しようとした。これは、 ウオルシュテン コセ、 、 (2004*) またコロンビアについてゴメス - ロボ、メレンゼ(2007**)およびバレラ、オリベラ(2007***)が行った。  * 上下水道への民間参入は給水普及率を改善したか  ** 社会政策、規制、民間参入ーコロンビアのケース  *** 社会は民営化によって勝敗のいずれを得たか コラム 3.1 給水普及率 : 単純に見える指標測定の難しさ   給水普及率の算出は、住民に対し実際に給水が行われている給水接続数を入手することか ら始まるが、これは各水道事業の使用者データベースから確認することができる。そして、給 水区域内の総人口と各世帯の人数が必要だが、多くの途上国で大まかな数値しか得られない。 平均世帯人員は国によって大きく異なり、一つの市町村であっても社会階層(貧困世帯は出生 率が高くなり、1 世帯に同居する家族が多くなる傾向がある)によって違ってくる。総人口の測 定も大雑把なものが多い。公式(国勢)調査は 10 年に 1 度しか行われない場合が多く、急速 に都市化が進んでいる際はこのような数値は信頼できないものとなっている。 普及率を算出する場合にどのような数字を分子・  さらに難しいのは、 分母とするかという問題 市町村によっては違法接続が多く行われていることもあるが、 がある。 これを普及率に含めるか その数を把握するのも難しい。 どうかについてははっきりしておらず、 サハラ砂漠以南のアフリカ の多く 水道水が近隣住民に転売されることを考慮し、 の国では、 1 件の接続に8 〜10 名の人員と いう数値を使用している。 「正規に認められた」 また、 住民のみを都市の人口とし、違法にスラム この場合、 街に居住する貧困層を数に入れないところもある。 普及率は実際より高く算出される。  また別の大きな問題は、給水普及率の意味するものは何かということである。ミレニアム開 発目標(MDGs)の進捗状況を追跡している合同調査計画(TJMP)では「改善給水普及率」と いう基準を使用している。これは、給水人口を戸別接続、または各世帯から 200m 以内に公 共共同給水栓が置かれていることを意味する。これまでに刊行された多くの研究報告でも、 給水サービスのレベルや投資コストに明らかな違いがあるにも関わらず、どんな基準が使われ ているかについては必ずしもはっきりしないものがある。また、改善給水普及率という基準の もとで実際の給水人口を測定することは、接続世帯数を把握するよりずっと困難である。住 民の多くが区域内の公共共同給水栓から給水を受けていたり、近隣住民から買っていたりす ることの多い都市においては、報告されている普及率は推測の域を出ない。    このような調査結果は表 3.1 にまとめた通りである。それぞれの側面を個別に考えると、まだ結論が出 たとはいえない。官民連携の影響を全般的に見ると、給水普及率向上という面ではプラスともマイナスとも いえず、給水サービスのレベルと経営効率の面ではプラスと考えられる。料金水準の面ではどちらともいえ ない。特に、事業業績の 4 要素(給水普及率、給水サービスのレベル、経営効率、水道料金)のすべて を網羅した調査はなかった。  世界銀行による最近の 2 件の調査では、十分な数の事例をもとに、外部要因を適正に排除することが できている。 (表 3.1) 33 表 3.1 官民連携が水道事業の業績に与えた影響に関する調査集約 給水サービス 地 域 調査者 普及率 経営効率 料金水準 のレベル エスタッシェ、クアシ アフリカ (2002 年) 該当なし 該当なし 改善効果あり 該当なし カークパトリック、パーカー、 アフリカ ツアン (2004 年 ) 該当なし 該当なし 結論保留 該当なし ガリアニ、ガートラー、 アルゼンチン シャルグロスキー(2005 年) 改善効果あり 改善効果あり 適用できず 該当なし クラーク、コセ、 ラテン・アメリカ ウオルシュタイン(2004 年) どちらともいえない 該当なし 該当なし 該当なし マセイラ、クレーマ、 アルゼンチン フイヌカン(2007 年) どちらともいえない 該当なし 該当なし 該当なし エスタシェ、ロッシ アジア (2002 年) 該当なし 該当なし どちらともいえない 該当なし バルハ、マッケンジー、 ボリビア ウルキオラ(2005 年) 改善効果あり 該当なし 該当なし 結論保留 ロッシドオリベイラ(2008 年) ブラジル 結論保留 該当なし 改善効果あり 料金上昇 セラオダモッタ、モレイラ ブラジル (2004 年) 該当なし 該当なし 改善効果あり どちらともいえない ビトラン、バレンツエラ チリ (2003 年) 該当なし 該当なし 改善効果あり 料金上昇 ゴメス ‑ ロボ、メレンゼ コロンビア (2007 年) 結論保留 改善効果あり 該当なし 結論保留 バレラ、オリベラ(2007 年) コロンビア 結論保留 改善効果あり 該当なし どちらともいえない ボーダ、他(2008 年) ハンガリー 該当なし 該当なし 不明 どちらともいえない リー(2008 年) マレーシア 結論保留 該当なし 該当なし 結論保留 リングスコグ、ハモンド、 世界 ロカッソル(2006 年) 改善効果大 改善効果あり 改善効果あり 結論保留 出所:著者    a. バルハ、ウルキオラに関する初期の出版物(2003 年)は普及率について結論保留とされた。 34  この 2 件の調査では、それぞれ異なった補完的な手法を用いて、業績のすべての側面を同時に網羅 している。アンドレ、グアッシュ他(2008*)は、ラテン・アメリカに絞って 7 か国 49 件の水道事 ポポフ、 業の業績について民間事業者への委託の前後を比較した。ガシュナー、 プシャク(2008a**)は、 官民の水道事業の業績について有意な比較を行うため、数多くの事例を用いた。977 件の途上国の水 道事業(うち 141 件は何らかの形で民間が関与)についてデータを揃えて、業績を比較した。官民連 携事業のうち、3 年以上民間が参加した事業のデータだけを使用し、水道事業の事例として 1992 年 から 2004 年の期間の延べ 6,079 年分を集めた。 データの信頼性に偏りが発生するのを避けるため、 調査は民間事業者と企業化された公営事業、または比較できる枠組みのもとで運営されている公営事 業のみを比較した。  いずれの調査でも、給水サービスのレベルと経営効率化の面で、民間事業者の場合に一層の改善が 見られたと述べている。料金水準について、アンドレ、グアッシュ他(2008*)は、民間事業者の場合、 結果として料金値上げを伴うことが多いとしているが、これはある意味当然で、ラテン・アメリカの 水道事業は 1990 年初期、料金はコストを回収できる水準より低く設定されていたからだと述べてい る。しかし、ガシュナー、ポポフ、プシャク(2008a**)はより多くの事例による調査で、同じ期間 を対象とした場合、官民連携と比較しうる公営事業の間では料金水準に大きな違いは見られなかった と結論付けている。  事業業績について 2 件の調査に大きな差異が見られたのが、給水普及率の向上の面である。アンド レ、グアッシュ他(2008*)は、ラテン・アメリカにおいて民間事業者に運営を任せた場合、普及率 は向上するものの、改善が見られるのは移行期(運営を引き継ぐ前の 1 年から引き継ぎ後の 2 年間) が中心だったと述べている。その他の区域も含めて多くの事例を調査したガシュナー、ポポフ、プシャ ク(2008a**)は、接続数の増加で見た場合、移行期もその後も民間事業者の方の業績が優れていたが、 給水区域の拡大で見た場合はどちらともいえないとしている。  * ラテン・アメリカのインフラにおける民営化の挑戦と成果  ** 官民連携は電力と水道の業績を改善したか 本報告で使用した手法  本報告では、これまでの文献で使用されたものと異なる手法を採用した。ケース ・ スタディにも計 量経済学的手法にもそれぞれ限界があることを踏まえて、この両者の中道を行く方法を探ることとし た。データ収集やその解釈について多くの難題があるにせよ、有意の結論を導くためである。最初に、 本報告では業績指標に注目したうえで多数のプロジェクトを調査した。それによって個々のケース ・ スタディよりも大きな全体像を把握するためである。次いで、業績のデータと分析は、十分に内容を 検証したプロジェクトと関連付けることとし、計量経済学で一般的な「ブラックボックス」アプロー チとは異なる方法を用いた。各プロジェクトの業績データの出所は、付録 A に示した。 2) 給水普及率  この分析は、リース・アフェルマージュ、共同所有会社、コンセッションなどの長期の官民連携プロジェ クトを対象とし、期間が短く給水サービスのレベルと経営効率の向上に重点を置くマネジメント契約は除 外した。本報告で検証した官民連携プロジェクトの給水人口は、合計 6,500 万人を超える。これは、長期 の官民連携のうち、(a) 民間に運営を委託する時点で上下水道の普及率が低く、(b) 2003 年以前に契約が 35 ばれ、(c) 民間事業者が 3 年以上運営を行った案件全体の給水人口の 75%超に相当する 15。 ラテン・アメリカの官民連携の経験  ラテン・アメリカについては、給水普及率の改善を目的とした長期にわたる官民連携事業の業績を分析 するための事例が多く集まった。本章では、アルゼンチンの各種コンセッション、ボリビアのラパス−エル アルトにおけるコンセッション、エクアドルにおけるガイヤキルの複数のコンセッション、ブラジルの各種水 道コンセッション、コロンビアのコンセッションと共同所有会社スキームなどを検討した。 アルゼンチンの水道コンセッション  アルゼンチンは、ラテン・アメリカで初めて大規模な水道事業に民間事業者の参入を認めた国であり、 2000 年までに民間事業者からの給水人口は約 1,700 万人に達した。1990 年にはアルゼンチンの都市居 住者の 76%が戸別接続によって水道を利用しており、39%が下水道にも接続していた。その後 2004 年ま 16 での上下水道普及率の上昇率は緩やかで、7%に留まった(図 3.1 参照) 。この図は、7 件の最も大規模な (4 年以上にわたって事業が継続されており、 コンセッションのうち 5 件 50 万人超の給水人口を有するもの) が給水サービスの向上に関する業績を示している 17。また、 1990 年から 2004 年の全国の都市の平均普及 率の向上を参考に示した。 図 3.1  アルゼンチンにおける普及率の改善  5 件のコンセッションと全国平均との比較 (a) 上水道 (b) 下水道 出所:WHO/UNICEF による上下水道に関する合同調査計画 注:コンセッション受託者に引き継いだ際の普及率を最終年度について入手できたデータと比較した。ただし、ブエノスアイレスのみ最終 のデータが 2001 年分である(その後普及率で多少の進展があった) 。メンドーサ(1998 年から継続しているが現在危機に陥っている) およびアグアス ・デ・ビルバオが運営したブエノスアイレス地区のコンセッション(2006 年に終了)についてはデータが入手できていない。 15 参考までに、調査したそれぞれのプロジェクトの給水人口をカッコ内に示す。これは、契約地域に住む住民の人口ではなく、 水道事業によって実際に給水した人数を示したものである。 16 データは、WHO/UNICEF による上下水道に関する共同モニタリングプログラムを基本としている。特に他の記載がない場合、 本報告で各国の給水率についての記載は本資料によるものである。 17 タクマンとブエノスアイレス(アズリックス)地方のコンセッションは 2 年しか継続せず、普及率に大きな成果は見られなかっ た。この事例は検討対象としていない。 36  上水道(図 3.1 a) 5 件のコンセッションすべてにおいて給水普及率が大幅に向上した。サンタフェ、 では、 コルドバ、サルタ、コリエンテのコンセッション受託事業者は全国平均より遥かに高い 95%の普及率を達 成した。しかし、ブエノスアイレス大都市圏ではそれほどの進展が見られず、全国平均と大きな差はなかっ た。下水道普及率については 、サンタフェとコリエンテのみが突出している。 (図 3.1b)  ブエノスアイレス大都市圏(給水人口 800 万人)のコンセッションは、全国の都市人口の 1 / 3 に相当 する人口に給水していた。契約の最初の 5 年間、コンセッション受託者はインフラの拡大と管路更新に多 額の投資を行った。1993 年から 1997 年の間に 24 万 4,000 件の水道接続が行われ、およそ 150 万人に 給水が拡大されたが、その多くが大都市周辺の貧困地域だった。当初、給水普及率は全国平均より10% ほど低かったが、格差は狭まり、1993 年から 1997 年の間に普及率は 70%から 80%に上昇した。その間、 下水道普及率は 58%から 63%に上がり、全国平均とほぼ並んだ 。 (ドウッチ 2007*)  しかし、初期の良好な業績は長続きしなかった。1998 年以降、普及率の大幅な改善は達成されず、コ ンセッション受託者は、さらにその先の周辺地区に管網を拡大させるための十分な投資ができないようだっ た(デルフィノ 。この躓きは失望を招いた。なぜなら 1998 年に給水サービスを向上し 、カサリン 2007**) 易いよう大規模な契約の再交渉が行われ、管網拡大の資金調達の大部分を新規水道使用者から既存の水 道使用者へと転換し、コンセッション受託者の収入も大幅に増えたからである 18。普及率の目標は下方修正 されたが、それでもコンセッション受託者はその目標を達成することができなかった。  サンタフェ 、サルタ (給水人口 190 万人) 、コリエンテ (120 万人) (60 万人)などの地方のコンセッショ ンの業績はそれよりも良好だった。コリエンテ 19 とサルタでは、2001 年の経済危機以降も給水普及率が 上昇し続けた。サルタでは州政府が投資の一端を担い、コンセッション受託者は各地方自治体に資金提 供を交渉すると同時に、各地域にも現物出資を呼び掛けた。 水道料金の値上げによる影響を減らすため である。サンタフェでは、上下水道の普及率向上では大きな進展が見られたものの、事業拡大と投資の点 で契約上の目標を完全に満たすことはできなかった。コンセッションは、隣接するブエノスアイレスと共に 2006 年に終了した 。 (ドウッチ 2007*)  * チリにおける水道事業官民連携の経験  ** どこまで行くのか、改革後 10 年を経たブエノスアイレス水道のコンセッション    コルドバ市(給水人口130 万人)のコンセッションは、業務範囲が限定され、良好な業績を挙げた。下水 道は地方自治体側に残り、契約上コンセッション受託者は第一次の管網拡張に対する資金調達にのみ責任 を持ち、第二次の資金は地方自治体、または水道使用者が担った。契約上の拡大目標はすべて達成され、 それ以上に拡がった。 2001 年の 90%から 2004 年に 給水普及率は2001 年の経済危機以降も伸び続け、 は 95%となった 。 (ドウッチ 2007*) ビルバオ水道会社 2000 年から2006 年の間、 がブ (Aguas de Bilbao) エノスアイレス州の一部で実施したコンセッションは思わしい結果が得られなかった。コンセッション対象 18 コンセッションでは、もともと給水サービス拡大に必要な費用は新規の水道使用者が負担するものとして設計されてお り、インフラ費用として接続料プラス拡張費用の分を支払うこととしていた。金額はかなり高額で、新規の水道接続が平均 415US ドル、下水道接続が 606US ドル(WSP 2001)であったことから非常に不評だった。新たな制度では、インフラ費 用を隔月の全体サービス改善費用(SUMA)に変更し、追加費用に相当する金額をすべての需要者が支払うものとした。 19 コリエンテは、アルゼンチンで有効に機能した最も古いコンセッションで、1991 年から始まった。普及率改善の業績は、 12 年超にわたる民間による運営の間継続した。最初の 5 年間はテムズ・ウォターがコンセッションを運営し、給水普及率は 70%から 85%に、下水道は 32%から 56%に上昇した。この流れは 1996 年に国営の投資家が引き継ぐまで続き、1995 年 現在では上水道 94%、下水道 72%に達した。 37 地区の給水人口は 170 万人を擁する 13 の地方自治体から構成されており、州内の最も貧困率の高い地域 を含んでいた20。 上水道が35%、 2000 年当時の水道普及率は極めて低く、 コンセッ 下水道は僅か13%だった。 投資資金を借入れることができない ション受託者は経済危機によって破綻に向かう中で事業を継承したが、 コンセッション契約は上下水道の普及率で殆ど向上が見られないまま2006 年に終了した。 ことが分かった。  給水サービスの改善という点で、アルゼンチンの民間コンセッション受託者の業績全体を判断するのは 難しい。2001 年にアルゼンチン ・ ペソのドル ・ ペッグ制が解消となり、その後訪れた経済危機によって、 債務の多くが外貨建てだった主なコンセッションは破綻に陥った。中には成果を挙げているものもあった が、最大規模であるブエノスアイレス大都市圏のコンセッションは経済危機が起こるかなり以前の 1998 年 以降進展していなかった。アルゼンチンの計量経済学的検討を行った 3 件の報告書は異なる見解を述べ ている。ガリアーニ、ゲルトラー、シャールロドスキー(2005**)は民間事業者は公営よりも優れた結果 を残したとしている一方、クラーク、コセ、ワルシュテン(2004***)とマチェイラ、クレーマー、フイヌカ ン(2007****)は両者に大きな差はなかったと報告している。  *  ラテン・アメリカにおける国際水道事業者  **  命の水:水道の民営化がもたらす幼児死亡率の影響  *** 上下水道の民営化は普及率を向上させたか  **** アルゼンチンにおける上下水道への不平等なアクセス   ラパス – エルアルト(ボリビア)の水道コンセッション   2006 年に契約が終了したラパス - エルアルト(給水人口 150 万人)のコンセッションについては、広く 公表されている。ラパスの人口の 50%、エルアルトの人口の 80%が貧困層と見られており、官民連携によっ て特に貧困層への普及拡大を契約上の大きな目的として掲げていた。コンセッションの受託前に、料金体 系が改正され、家庭用水道料金を大きく値下げする一方、それ以外の水道使用者については大幅に値上 げした。コンセッション契約は、エルアルトに最も多くの新規接続を行うことを基準として入札を行い、落 札者は当初 5 年間で 7 万 2,000 件の新規接続を提案した。  契約当初、給水普及率はラパスで 84%、エルアルトで 71%だったが、下水道はそれぞれ 66%と 30%に 留まった 。この数字は二つの地方自治体全域に対する普及率であり、コンセッションの (ドウッチ 2007*) 対象区域とは異なる。対象区域にラパスは含まれていたが、エルアルトは一部しか含まれていない。契約 では、2001 年までにコンセッションの対象区域内の戸別接続による給水普及率の目標をラパスで 100%、 エルアルトで 82%とすることを求めていた。下水道については同年までにラパスで 82%、エルアルトで 41%を目標とした 。 (ドウッチ 2007*)  コンセッション受託者がどの程度普及率を達成できたかについては、議論が分かれている。特に、普及 率を計算するうえで各地方自治体の全域を対象とするのか、コンセッションの対象区域だけとするのかに ついて合意が得られていないからである。ボリビアの当局は、2001 年までにコンセッション区域内の普及 率は上水道で 99%、下水道で 79%と報告した 。全体として、コンセッションによって (ドウッチ 2007*) 普及率の大幅な改善が実現し、少なくとも 40 万人(その多くがエルアルトの貧困世帯)が給水を受けられ 20 7 その地域では、地区を五つに分けて入札を行った。将来的に標準とされる規制のために、最低でも 2 者の事業者が別々の 地区を担当できるよう込入った手法を用いた。アズリックス社が率いるコンソーシアムが裕福な順に 4 地区のコンセッショ ンを受託し、スペインの公営事業(バルバオ水道社)が率いるコンソーシアムが 5 番目の地区を落札した。 38 るようになった 21。  それほどよい成果が挙がったにも関わらず、2006 年にコンセッションが終了した大きな理由は、普及率 の問題であった。配水管網に接続する人々が増えるにつれ、 コンセッションの対象区域外に住む人々が抵 抗を始め、 その運動によってコンセッション受託者に対し、 対象区域外の住民にも接続するよう圧力が高 まった。 また、 そのような不満によって、 コンセッション受託者が契約上の義務をきちんと果たしてい るか(エルアルトの新規接続数は 5 万 3,000 件で、 入札時の提案を下回っていた)ということや、 当局の 普及率の算定方法に関する議論が盛んになる結果となった 。人々の不満は、 2002 年の (ドウッチ 2007*) 当局の決定によって一層高まったが、それは水道料金の値上げをしないまま、 新規の水道使用者に対して 接続料金の値上げを決めたからである。  ラパス - エルアルトのコンセッションが早期に終了したことには矛盾がある。官民連携はラテン・アメリ カの最貧国の一つにおいて、 投資に公金を投ずることなく貧困層への普及をかなり実現することができた。 最終的に官民連携が継続不可能に終わったという事実には、 重要な教訓が含まれている。第一に、 国際 金融市場から水道の普及率向上のための民間資金を得るために、関係者たちは水道料金を us ドルに連動 させる契約を計画したが、 このメカニズムを持続することは不可能なことが証明された。第二に、 この経験 によって、内部補助に依存して貧困層への普及率向上の資金を調達することに限界があることが分かった。 小規模な水道事業が地域住民に対して低額料金で給水することは、 事業者にとっては赤字で事業を運営す (このケー ることを意味し、決められた契約上の義務 スではコンセッション対象区域)を超えてまで給水サー ビスを拡大することに、経済的なインセンティブは働かないのである。  * ラテン・アメリカにおける国際水道事業者 ガイヤキル(エクアドル)の公的資金による水道コンセッション   ラテン・アメリカではブエノスアイレスに次いで給水人口が 2 番目に多いにも関わらず 22、 ガイヤキルのコ ンセッションはあまり広く公表されてこなかった。ガイヤキルはエクアドルにおける経済の首都であり、 同 国の都市人口の 1 / 3 に当たる 2,400 万人の人口を擁している。コンセッション受託者が 2001 年に引き 継いだ時、 給水普及率は全国平均をずっと下回っており、 1998 年の戸別接続の全国平均が 81%だったの に対し、 2000 年の調査では住民の僅か 60%だった。 下水道については差は少なく、 全国平均 61%に 対して 56%だった。コンセッションは、戸別接続により給水普及率を向上させるうえで極めて有効だった。 2000 年当初の給水接続数は 24 万 5,000 件で、 コンセッション受託者は最初の 5 年間に 16 万件の新規 接続を行った。これは、 年間 10%の増設であり、 契約上の目標値である 5 万 5,000 件の 3 倍に昇った。 これにより市内の水道普及率は 2005 年に 82%に達し、 新たに 80 万人が水道に接続した。その多くが貧 困地域の住民であり、 それまで管路給水を受けていなかった。この時期は、都市水道の普及率向上が足 踏み状態だったため、 この成果は一層際立っている。下水道の普及率向上に関するコンセッション受託者 の業績は幾分緩やかで、 56%から 62%への上昇に留まった。  給水普及率の向上が良好だったのは、 特殊な租税移転メカニズム(電話税)によるところが大きい。中 央政府は 1980 年代、 全国で新たな水道への接続に補助金を交付するためにこの制度を導入した。電話 21 ドウッチ(2007)が報告した数値によると新たに水道が利用できるようになったのは 60 万人だが、これは 1 接続当たりの 人数をかなり多めに見積もった数字であり、40 万人と見る方が現実に近い。 22 サンチャゴ(給水人口 530 万人)のほうが多いが、ここは完全民営化体制(インフラの民間による所有)で行われている。 39 料金に対する 10%の税金をもとに、 それにより得られた収入を水道が普及していない都市部への管網拡大 事業に配賦した。それまで水道管網が普及していなかった都市部の世帯(殆どが貧困世帯)に対して新た な水道接続は無料で提供され、 管網拡大事業の費用についても一部補助金が交付された。  ガイヤキルでコンセッション受託者が敷設した新たな水道の接続は、 このメカニズムによって資金調達が 行われた 23。 下水道への接続はこのメカニズムの対象とはならず、 そのためそれほど進展しなかった。 ブラジルの水道コンセッション  1995 年から2006 年の間に、ブラジルでは公営上下水道事業に関し民間事業者と約 36 件のコンセッショ ンが契約されたが、 ブラジル国内の給水普及率の進展の分 その際の都市の給水人口は約 650万人だった。 事業者は通常、 析は難しい。 「正規に認められた」都市区域に住む人口をもとに普及率を算出しているが、そ 毎年のように新たな区域が認められて変更したからである 24。 の基準には不法なスラム街が除外されるうえ、  マナウス(給水人口 1,600 万人)のコンセッションはブラジル最大で、 給水普及率向上については適正 に記録されてきたと見られている。会社側のデータによると、 普及率が 2001 年〜 2005 年の間に 72%か ら 86%に上昇した。 給水区域内の普及率は 2006 年に 96%に達したと報告している。 ドウッチ (2007*) は、 その時点までに、およそ 30 万人が新たに水道を利用できるようになった。下水道の普及率の改善はそれ よりも緩やかで、 2001 年の 3%から 2006 年の 11%への上昇に留まった。  * ラテン・アメリカにおける国際水道事業者    ブラジル国内で 2 番目に大きな民間事業者はブラジル水道会社(Aguas do Brasil)で、 建設とエンジ ニアリングの国家コンソーシアム企業である。公的なデータによると、 ニテロイ、カンポスおよびペットポ リスの給水普及率(リオデジャネイロ州人口のうち 110 万人に給水)は、2000 年〜 2005 年の間に大幅 に増加した。ニテロイでは 85%から 100%へ、 カンポスでは 75%から 96%へ、 ペットポリスでは 70%か ら 80%へとそれぞれ上昇した 25。一方、リオデジャネイロ州の公営上下水道事業(CEDAE)の給水普及率は 85%のままだった。  2000 年から 2005 年の 2、3 の中規模コンセッションについて入手できたデータによると、 民間事業 者は州による公営水道事業とほぼ同等の業績を挙げている。イタペミリン(給水人口 20 万人)では給 水普及率が 86%から 98%に、 下水普及率は 72%から 90%にそれぞれ向上した。一方、 州による公営エ スピリサント衛生事業(CESAN)の報告では、 給水普及率は 97%の高い水準で推移している。パラナグ ア(給水人口 13 万人)では、 コンセッション受託者が普及率を改善し、 水道で 93%から 96%に、 下水道 で 30%から 68%に上昇している。この業績は州による公営パラナ衛生事業(SANEPAR)と同等である。 SANEPAR の業績は、 水道普及率で 98%をマークし、 下水道では 31%を 61%に引き上げた。   23 コンセッション受託者が最初の 5 年間に行った 8,500 万ドルの工事のうち、3,900 万ドルは電話税による交付金によってま かなわれた(イエペス 2007)。 24 ブラジルの水道事業では、ある年に普及率が 100%を超えることも珍しくない。これは、公式に認められていない地域でも 給水が行われている状況を示している。(すなわち、これに当たる人数は普及率の分母には含まれないのに分子に含まれると いうことである。) 25 コンセッション受託者はこれらの事業を 1998 年から 1999 年に引き継いだが、2000 年以前のデータは入手できていない。 40 コロンビアにおける混成型官民連携スキームの活用による普及率の改善  コロンビアでは、 1996 年以降、40 件を超える水道の官民連携契約が行われ、 2007 年までに給水人 口は合わせて 730 万人となった。多くの契約が民間事業者と極度にインフラの劣化した貧しい地方自治体 との間で結ばれ、その財源は官民入り交じっていた。契約締結の最初の波は 1996 〜 1998 年頃で、 多く は共同所有会社モデルを追随するものだった。これは、 地方自治体側が過半数の株式を持ち、 経営は民 間事業者に完全に委託する形である。プロジェクトの 2 番目のグループは、 中央政府が実施した事業近代 化計画(PME) によるもので、 2000 年に開始された。このプログラムは業績不振の公営水道事業を民間 事業者に移転することで事業再生を狙ったもので、 コンセッションスキームの形をとり、 投資には多額の公 的補助金が用いられた。  コロンビアで最も規模が大きく、受託時期の古い 8 件の官民連携事業の業績について給水普及率の改 善を全国平均および 3 大公営事業の結果と比較した 。対象となった期間は官民連携の初 (図 3.2 参照) 年度と 2006 年時点である。調査した 8 件の官民連携事業の対象人口は合わせてほぼ 400 万人であり、 2004 年以前に委託されたすべての大規模契約を含んでいる。  バランキーア(給水人口 1,300 万人)とカルタヘナ(給水人口 100 万人)の共同所有会社 2 社は、コロ ンビアで最大、最古の水道事業の官民連携で、 双方とも普及率の拡大に関して良好な記録をもっている。 バランキーアにおいては、 上下水道事業の双方において目覚ましい進展が見られた。給水普及率は 86%か ら 96%に、 下水道普及率は 70%から 93%に改善された 。カルタヘナの業績はさら (1997 年〜 2006 年) にこれを上回り、 水道は 74%からほぼ全域に跳ね上がり、 下水道は 62%から 79%に達した(1996 年〜 。 カルタヘナは同時期に、人口規模で 50%の上昇が必要とされたが、それ以上に全域の給水 2006 年) を実現した。これは、 貧困地域に移住者が入ってきたことが大きな要因だった。50 万人に給水接続を実 現し、 新規接続の 60%は五分位 * 別で最も所得の低い世帯に対して恩恵をもたらすものだった。全域の 普及を達成するために、 カルタヘナの事業者は地域一括給水スキーム(bulk-supply community scheme) を用いて、 都市周辺に拡がりつつあった多くの不法居留地に安全な水を供給した。  * 昇順に整列された x 個の値に対して、その分布を x 等分する時、y番目の値を分位数という(訳者注) 図 3.2 コロンビアにおける民間事業者による給水普及率の改善 公営事業と国内都市平均の比較  出所:国内当局(事業者データ)および全国都市普及率は WHO/UNICEF、PAHO による 注:普及率は官民連携事業の初年度から始まり、2006 年までの数字を取った。カリの普及率は、1996 年から 2006 年の間に 98%から 88%に下落した。 41  コロンビアの中規模都市の数か所で共同所有会社が設立された。サンタマルタでは最初の 3 年間に給 水普及率が急速に改善し、 74%から 87%に上昇したが、 2001 年以降は足踏み状態にある(下水道普及率 。パルミラ も同じようなパターンをたどった) (人口 22 万人)やヒラルドト(人口 10 万人)では、 上下水 道とも普及率が 100%となった。トゥンハ(人口 12 万人)では、 コロンビアで初めて水道のコンセッショ ンが行われた。上下水道とも普及率は向上し、 1996 年のコンセッション開始当時の 89%から 4 年後には 100%となった。アンティオキア県の市町村では 1997 年から 1998 年の間に一連の小規模のコンセッショ ンが事業者に委託された。その中で最も大きな事業者はコンハイドラで、 普及率向上の面で十分な業績を 挙げた。マリニラ、 サンタフェ、 プエルトベリオ(人口計 10 万人)では、 2、3 年間で 80 〜 90%程度だっ た給水普及率が 100%に到達したが、 下水道の普及率向上はさらに劇的だった。こうしたすべてのコンセッ ションは、 官民の資金の混成によって設計され、 地方自治体は中央政府からの支援を年間予算に移転する ことで資金を負担した。  コロンビアの水道事業の官民連携の第二段階は、 2000 年以降、 事業近代化計画の実施によって形作 られた。関係する殆どの市町村は貧困率が高く、 契約方式は、 資金に公的支援を仰ぐコンセッション契約 を基本としていた。契約の設計は、基本的に中央政府が最初の数年間補助金を交付して、劣化したシステ ムの改善を急ぎ、普及率を向上するものだった。一方、委託する地方自治体は、年間ベースで予算を移転 して収入を補った。  事業近代化計画による最初の契約は、2000 年にモンテリア(給水人口 35 万人)で締結され、給水普 及率の向上に高い業績を挙げた。給水普及率は 70%未満から始まって、2007 年までに 96%まで急上昇 して全国の都市平均に追いつき、水道を利用できる人口は倍増した。下水道普及率の向上はやや緩やかで、 26%から約 40%に向上した。ソレダード(給水人口 40 万人)では、5 年間の運営期間だけで水道の普及 率は 69%から 84%、下水道は 36%から 73%へと上昇した。  事業近代化計画によって委託が行われた官民連携の殆どが小規模な都市や町における事業で、コロン ビアの国のデータベースからは限られたデータしか入手できなかった。契約の多くが 2002 年から 2004 年の間に締結されており、プロジェクトの総合的な評価はまだ行われていない。シルバ(2007 年 *)は、 そうだったとしても、事業近代化計画のプロジェクトによる普及率向上は、申し分のない水準と見られると 指摘している。  全体的にコロンビアの水道事業の官民連携は、普及率向上の面では良好な成果を挙げてきた。前述し たコロンビアで最大、最古の官民連携事業は、民間水道事業者により給水のおよそ半分をまかなっている が、殆どのケースで普及率を大幅に向上させることに成功し、その多くは貧困率の高い都市だった。2000 年以降に実施された事業近代化計画によるプロジェクトについても同じことがいえる。こうした良好な結果 は、民間と公的資金の混成による資金調達方法によって成し得たことは間違いない。  しかし、このような官民連携が公営事業よりも遥かに高い実績を挙げたかどうかは明確ではない。ボゴ タの公営水道事業はコロンビアの都市給水人口の 1 / 3 を占めているが、過去 10 年間に普及率を急速 に上げ、全国平均に届くまでになった。メデジンの公営事業の業績も、普及率の点でバランキーアにおけ る最大の官民連携事業と同等だった。この結論は、最近の 2 件の報告(バレラ、オリベラ 2007**、ゴメ ス - ロボ、メレンゼ 2007***)によって支持される傾向にある。水道事業からのデータではなく世帯調査 の結果を利用したこの 2 件の報告では、給水普及率向上の点で公営事業と比較した場合、民間事業者の 明らかな優位は認められなかった。これにはいくつかの要因が考えられる。事業近代化計画は、公営事業 42 の中で最も業績不振の事業に民間事業者を呼び込むことに注力していたため、それが公営事業の業績の 平均値向上に繋がったということもあり得る 26。国家レベルで確固とした規制の枠組みができており、最近 になって現地の金融市場が発展したことにより、各地方自治体は公営水道事業への有効な投資資金を活 用できるようになった。それにより、公営水道事業は以前に比べより同等の条件で民間事業と肩を並べる ことができるようになった。総合すると、コロンビアで上下水道の普及が進展したのは、官民双方にいくつ かの優良な事業があったことと、すべての事業者に責任と経営効率を促進するような国家の方針があった ためといえる。   *  コロンビアの上下水道分野における経営改革 1990 − 2006  **  社会は民営化によって給水サービスの改善と貧困者の救済に前進したか  *** 社会政策、規制、官民連携:コロンビアのケース 東アジアの大規模水道コンセッション   マニラ(フィリピン)とジャカルタ(インドネシア)のコンセッションは、ほぼ 10 年間にわたって給水サー ビスを提供しており、 2007 年には給水人口が合わせて 1,800 万人となっている。どちらの都市において も、 2 件のコンセッションに分かれて実施され、 民間のコンセッション受託者が引き継いだ時点では住民 の多くが水道を利用できない状態だった。また、 受託開始からの数年間は、 1997 年から 1998 年のアジ アの金融危機による深刻な影響を受けた。 マニラ首都圏の 2 件のコンセッション   マニラ首都圏は、 途上国の中で民間の水道事業者により給水を受けている最大の都市圏である。1997 年に 2 件のコンセッション契約が結ばれ、 対照的な東西 2 地区に給水を行うこととなった。西部地区のコ ンセッション(メーニラッド社:ベンプレス - スエズが運営)の方が規模が大きく、そこは市内で最も歴史 の古い地区で、 給水人口は合計約 700 万人だった。東部地区コンセッション(マニラ・ウォター社:アヤラ – ユナイテッド ・ ユーティリティーズが運営)は規模は小さく、給水人口は約 400 万人で、都市の発展に伴っ てできた新しい地域の割合が高かった。 マニラ首都圏の人口の1 / 3 は水道を利用できなかった。  コンセッション受託者が事業を引き継いだとき、 主要な契約目標の一つとして、2006 年までに全域に水道を普及させることが要件に掲げられていた。2 件 の受託者が達成した普及率向上は図 3.3 の通りである。この図は、 コンセッション受託者による当初 9 年 間の水道普及率、 接続数、 給水世帯数の進展を表している 27。  この 2 件のコンセッションの実施は、 当初から大きな困難に直面した。受託者が業務を引き継いだ 1 か 月後にアジアの金融危機が始まった。欧米の水道事業者は以前の公営水道事業から外貨建て債務を継承 しており、 フィリピン ・ ペソの価値が半分になったため事実上破綻に陥ったことが分かった。いずれのコン セッション受託者も、当初 5 年間で投資額を大幅に削減した。  2006 年までに全区域に水道を普及させるという契約目標は達成できなかったものの、 10 年間でマニラ 26 事業近代化計画には二重の効果があった。第一に、業績不振の公営事業が民間に移行し、サンプルから外れたことから公営 事業全体の平均値が上がった。二番目に、中央政府が業績の悪い公営事業を改革するよう圧力をかけるために事業近代化計 画を活用した。 27 コンセッション受託者が達成した普及率については、依然として議論の余地を残している。規制当局は使用する手法を規定 せず、コンセッション受託者が報告書で推定した数字を引用していた。本報告で引用した数値はこの推定値である。 43 の給水普及率は大きく向上した。西部地区のコンセッション(メーニラッド)では 67%から 86%に上昇し 、 東部地区(マニラ ・ ウォター)では 49%から 94%に急上昇した。一方、 全国の都市における給水普及率 の動向は平均で 1997 年の 46%から 2004 年の 58%と緩やかな上昇に留まった。1997 年から 2006 年 までの間に、 マニラではおよそ 400 万人が新たに水道を利用できるようになった。このうち約半分は、 低コ スト ・ 地域ベーススキームの成果であり、 多くは東部地区で達成された。しかし、 下水道の普及率は遥かに 低い水準に留まっており、 2007 年でおよそ 10%だった 28。 図 3.3 マニラ(フィリピン)の官民連携における給水普及率の推移 (a) 民間コンセッション受託者による普及率 vs 全国都市平均 (b) コンセッション受託者による接続数と世帯数 出所:当局および企業によるデータ  給水普及率の進展状況は二つの地区で大きく異なっていた。西部地区では、金融危機にも関わらず早 い段階で目覚ましい進展が見られたが、 2001 年以降、 メーニラッドの資金と契約状況が悪化するにつれ、 普及率は伸び悩んだ。普及率の伸びは、 主に戸別接続によるものだった。これに対して、 東部地区では 2003 年の料金値上げまで普及率の向上が全国の都市の平均より進むことはなかったが、 その後コンセッ ション受託者は水道使用者の拡大に重点をおいて投資するようになった。2003 年から 2006 年の僅か 3 28 コンセッションでは、下水道利用の普及拡大も含めて設計されていた。下水道は、下水管網を通じてではなく、戸別の浄化 槽によるもので、コンセッション受託者は定期的に個々の浄化槽の汚泥を除去する責任を負った。1997 年から 2006 年の間 に、下水道普及率は東部地区では 7%から 10%へ僅かに上昇し、西部地区では 14%から 10%へ減少した。 44 年間に 16 万件の新たな給水接続が行われ、 地域への一括供給計画によって貧困地域における普及拡大の ための大規模な計画が実行された。 ジャカルタの 2 件の水道コンセッション マニラで結ばれた契約の翌年である。  ジャカルタで 2 件のコンセッション契約が結ばれたのは 1998 年で、 給水普及率はさらに低く40%で、 給水人口は約 400 万人だった。多くの都市住民が水を個人の井戸から 汲んでいた。  1998 年から 2005 年の間に、 ジャカルタ西部地区(スエズが運営)の給水普及率は 32%から 50%に 上昇し、 東部地区(テムズ・ウォターが運営)は 57%から 67%に伸びた。最初の 7 年間に 2 件のコンセッ ションで合計 21 万件の新たな接続が行われ、 給水人口は 170 万人増加した。西部地区で戸別接続によっ て水道が普及した世帯の 65%超は貧困、または最貧に属する世帯だった。  総合的に見て、 コンセッション受託者の水道普及拡大の面の業績はどちらともいい難い。同時期の国内 の都市の平均普及率が 30%に留まっている中、 2 件のコンセッションにより大幅な進展が見られたことを 考えれば成果は挙がったといえる。しかし、 西部地区の人口の 1 / 2、 東部地区の 1 / 3 は 10 年近く経 過した後も水道管網への接続ができていない。一つの理由として、 ジャカルタでは私設井戸が広く普及して おり、 地下帯水層の利用に関する規制や監督がなかったことが挙げられる。多くの世帯で接続費用に加え て定期的な水道料金を支払うことに否定的だった。なぜなら、 ポンプ設備設置のためにすでに資金を出し ており、 井戸からの揚水に料金は発生していなかったからである。 アフリカの経験  サハラ砂漠以南のアフリカでは、 水道の官民連携事業の多くがアフェルマージュの形態で実施され、 巨 額のドナー基金を活用する場合も多かった。5 年を超えて委託事業を続けているアフェルマージュ契約も あり、都市の給水人口は合わせて 1,700 万人を超え(コートジボアール、ギニア、ニジェール、セネガル、マプー ト ) 〈モザンビーク〉、 業績を分析するための適切なサンプルになっている。その他アフリカに特有なことと して、 水道と電力を統合した事業が存在することがある。ガボンとマリでは国営事業者によるコンセッショ 29 ンが既に行われており、 モロッコでもカサブランカ、 ラバト、 タンジェ、 テトゥアン(水道のみ) でも行われ ている。 サハラ砂漠以南のアフリカにおけるアフェルマージュと電力 ・ 水道統合コンセッション  図 3.4 は、 サハラ砂漠以南のアフリカで民間事業者による水道普及の変遷を示している。接続戸数と給 水普及率の向上の 2 点から計測した。給水普及率の向上は極めて重要な指標である。なぜなら、 都市部 の住民の大部分は各地区の公共共同給水栓からの給水に頼っていたからである 30。 29 モロッコでは、大都市の上下水道と電力は各地方自治体の(公営もしくは民営)事業体によって提供されている。そのよう な事業体は、 給水と電力供給を重点的に行い、 (水道は ONEP [Office National del’Eau Potable]、 国営の事業体 電力は ONE [Office National de l’Electricite] から一括購入している。 30  ここで紹介したデータと分析については、同時期にフォール他が行った報告(2009)に詳しく発表されている。 45 図 3.4 サブ・サハラの官民連携による家庭用水道普及率の推移 (a) 家庭用接続  (b) 給水普及率の改善 出所:著者、フォール他、2009  コートジボアール アフェルマー (給水人口 750 万人)の民間事業者は、1960 年から事業を開始しており、 ジュ契約のもとで国内の都心部全域と中小都市に給水サービスを提供している。1990 年から 2006 年の 間に給水普及率は 68%から 90%に上昇し、 給水人口は倍以上になった。水道管への接続による給水普及 率は 41%から 60%となり、 家庭用水道使用者も 200 万人から 490 万人へと倍増した 。 (コラム 3.2 参照) 新たに給水接続が実施された件数は合計 34万件だった 31。 他のアフェ この業績がさらに際立っている点は、 ルマージュ(大抵の場合、公的資金による投資)と異なり、 過去 15 年間、政府やドナーによる資金提供 を殆ど受けていないことである。1988 年に料金付加金を用いて水道開発ファンドを立ち上げ、 投資資金 31 貧困国の観点から正しくこの成果を見るうえで、10 年超の期間に民間のコンセッション受託者が新規接続を行った件数は、 ブエノスアイレスとマニラで 31 万件(アグアス・アルヘンチーナス社)、23 万件(メーニラッド)、25 万件(マニラ ・ ウォ ター)であったことを考慮しなければならない。 46 コラム 3.2 サハラ砂漠以南のアフリカにおける、 水道普及拡大のための接続助成制度の活用  コートジボアールとセネガルの官民連携事業において、戸別接続による給水普及率の向 上が成功した大きな要因は、 接続費用を助成する社会的水道接続計画(Social Connection Program)だった。セネガルでは、 接続費用は無料で、 接続希望者は 30㎥に相当する水 道使用料金を前払いするだけでよかった。  コートジボアールでは、 社会的水道接続計画の資金は、 水道開発ファンド ・ 料金付加 金(The Water Development Fund Tariff Surcharge)を通じて調達していた。1990 年〜 2006 年の間におよそ 34 万件の給水接続が行われたが、 新たに加入した世帯の中には、 収入が不安定なことから 4 半期に 1 度請求される料金が支払えなくなる者も多かった。 2002 年には、 全体の給水停止比率が約 15%となり、 2006 年には国内で(料金未納によ り停水され)利用されていない給水接続がおよそ 7 万件にのぼった。しかし、 給水停止 となった水道使用者についても、 「水道普及が改善された」 と分類されている。なぜなら 彼らは(水なしでは生活できないため)近隣住民から水を入手しているからである。  セネガルでも社会的水道接続計画が実施された。今度は、 公営の資産保有会社を通じて ドナーが融資した資金が活用された。この計画により、 約 12 万 9,000 件の給水接続(す べての新規接続の 75%)が行われ、 対象地域の貧困世帯の住民に恩恵をもたらした。コー トジボアールの場合と同様、 新たに接続されたうちの一部が料金未納により給水停止と なったが、 その殆どが所得水準が最低のグループに属する世帯だった。このような経験か ら、 都市部の最貧困層(多くが不法な経済活動に携わり、収入は不安定)の場合は、 戸 別接続が必ずしも最適な解決方法ではないことが示唆されている。このような家庭では、 月末に料金を払うための金銭を確保することが難しいからである。ニジェールでは、 それ より小規模な接続助成計画(新規接続約 1 万件)が当初 3 年間実施された。資金は国際 開発協会の融資を通じて調達し、 土木工事は民間事業者が直接実施した。 を調達した。民間事業者はこの資金管理の責任を負い、すべての土木工事を行った。過去15 年間でこのファ ンドを通じて水道使用者から 2 億 US ドルが集まり、 その殆どは管網拡大のために投資された。  コートジボアールに続いて、 西アフリカの次のアフェルマージュ契約は、1989 年にギニア(給水人口約 の国営事業者によって締結された。 100 万人) (殆 当初 6 年間で普及率は 40%から 67%に改善され、60 万人 どがコナクリ)が新たに安全な水道水を利用できるようになった。しかし、 初期に進展が見られた後、 ギニ アの官民連携は困難に直面した。コートジボアールの場合と異なり、 ギニアでは土木工事の実施は民間事 業者ではなく、 新たに設立された公営の資産保有会社が主体となっており、 投資の責任も担っていた。民 間事業者と公営資産保有会社との間で土木工事の調整がうまくつかず、 投資を伴う計画は大幅に遅れた。 公営の資産保有会社による投資実施のペースがあまりにも遅いことに不満を持った民間事業者は、直接土 木工事契約に関する二国間融資を整備し、 単独でこれを引受けた。この融資を通じてよりタイムリーな投 資が行われたものの、 事業者の本来の業務である事業運営の力が削がれ、 インセンティブの仕組みも変わ ることとなった。運営の効率化によって目論んでいた利益は実現せず、 1998 年に契約が終了した後、更新 されることはなかった。  セネガル(給水人口 470 万人)のアフェルマージュは 1996 年に始まり、 ギニアの経験を教訓として設計 47 された。具体的な契約目標と違約金を盛り込み、 効率化が図れるよう事業者のインセンティブを増やした。 セネガルの給水普及率はコートジボアールを凌いだが、 これはドナーからの巨額な資金投入と、 事業者が 生み出し資産保有会社に移転した余剰キャッシュフローによるものである。ギニアと違って、 セネガルの公 営資産保有会社は、水道施設を更新し拡大するための投資計画を効率的に実施し、 10 年にわたって都市 部における管路給水の普及率を 81%からほぼ全域にまで引き上げた。家庭用水道使用者数も 21 万 7,000 人から 37 万 5,000 人に増加し、水道への接続率も 58%から 76%まで上昇した。これは現在西アフリカ で最も高い。  ニジェール(給水人口 180 万人)では、 2000 年にアフェルマージュが開始され、 その後、給水普及率 向上の業績はまずまずだった。官民連携の初期において、 投資計画は普及拡大よりも既存施設の更新に力 を入れた。約 45 万人が水道に接続できるようになったが、 給水普及率の向上には僅かな貢献だった。普 (Connection ratio)はそれぞれ、 65%から 68%、 31%から 40%と僅か 及率 *(Access ratio) と接続率 ** に上昇した 32。  * 給水区域内総人口に対する給水人口の割合(訳者注)  ** 予定接続数に対する接続数の割合、このような算出法は稀で、通常は普及率 * が使われる(訳者注)  モザンビークの首都、 マプート(給水人口約 100 万人)のアフェルマージュは 2000 年に開始された。 普及率向上の業績は思わしくなく、 2005 年までに 35%とほぼ横這いのままだった(25%が戸別接続 33 で、 10%が公共共同給水栓によるもの) 。契約開始当初から困難が相次ぎ、官民連携の実施を妨げた。 引き継いだ最初の月に激しい洪水が起こり、 ドナーによる資金の一部を緊急に修復に回さなければならな かった。2001 年には民間事業者が離脱し、 別の海外事業者で経験のある企業(最初のコンソーシアムで 出資割合の低かったパートナー企業)に交代したものの、 新たな当事者間の計画の再交渉は 2004 年ま で整わなかった。もともとの契約ではドナーによって資金提供を受けた土木工事の殆どについて、 民間事 業者が直接その実施責任を負う形となっていたため、 当初の投資計画の実行は大幅に遅れ、 今のところ管 網の拡大を行うことはできず、 更新と給水能力の増強に留まっている。  西および中央アフリカの 2 件の大型コンセッションにおける普及率向上については、十分な成果が得ら れている。ガボン(給水人口 75 万人)では、コンセッション受託者は戸別接続による給水のみに責任を 負い、 公共共同給水栓は官側の責任として残された。1996 年以来、 給水接続による給水普及率は全国で 45%から 65%に上昇し、 2007 年までにおよそ 30 万人が利用できるようになった。マリ(給水人口 160 万人)では、 2005 年に民間事業者が撤退したものの、 それまでの 4 年間に給水普及率は飛躍的に拡大し た。契約対象区域の普及率は 52%から 81%に急上昇し、 新たに 60 万人が水道を利用できるようになっ た 。 (60%増) 32 給水普及率の増加がやや鈍い理由の一つに、都市部の人口の急増が挙げられる。ニジェールは世界で最も出生率の高い国の 一つである。 33 モザンビークの給水普及率は、そのままその他のサハラ砂漠以南のアフリカ各国と比較できる数値ではない。政府が報告し ている数値は、1 件の接続に対して約 5 人の家族が利用していると仮定して普及率を算出しており、これは近隣住民から水 を購入している世帯を考慮に入れていない。マプートでは住民の約 1 / 4 が水を近隣から買っていると見られる。その他の サハラ砂漠以南のアフリカの国々では、普及率の数値を報告する場合 1 件の接続につき標準で 8 人から 10 人という比率を 使用して、多くの場所で水を近隣から買っている実態を反映させるようにしている。 48 モロッコの上下水道 ・ 電力コンセッション  カサブランカ(給水人口 370 万人)のコンセッションは 10 年間実施され、 給水普及率向上の面で十分 な成果を挙げた。1997 年から 2005 年の間に 27 万件を超える新たな給水接続が行われ、 130 万人が新 たに水道を利用できるようになった。給水普及率は最初の 8 年間で 71%から 93%に上昇した。また、 国 内で全国平均より普及率が 9%低い事業を引き継いだが、 2005 年には平均値に追いつき、それを超える ほどになった。  カサブランカのコンセッションにおいて、 その資金調達の計画は普及率の向上を支えるうえで重要な役割 を担った。水道料金に 0.5%の料金付加金を上乗せすることで資金を調達し、 工事のための特別なファン ドを立ち上げた。これにより、10 年間にわたってコンセッションが実施した土木工事では 5 億 US ドルの 費用を要したが、 そのうち 1 億 4,000 万 US ドルを調達できた。もう一つの大きな資金源は、 モロッコの水 道事業(公営、 民営を問わず)に適用された特有のメカニズムで、 それは新たに加入する水道使用者に実 際の接続費用をかなり超える財政負担を求めるものであった 34。それでも、事業者は普及率向上の目標値に 達することはできなかった。接続料金が高額であることと、 不法接続に対処するのが困難だったことが主 な原因である。  ラバトのコンセッションについては普及率のデータが入手できなかったが、 タンジールとテトゥアン(給水 人口合計 110 万人)では、2001 年から 2005 年の間に給水普及率が 67%から 76%、 79%から 86%にそ れぞれ上昇した。この 2 都市のコンセッションの資金調達の仕組みは、カサブランカの場合と同様だった。  2001 年から 2005 年の間の水道使用者数の推移について得られたデータを見ると、 上記のモロッコの 4 都市のコンセッションは十分機能したものの、 公営水道事業に比べて際立った業績が挙がったわけでは ない。公営水道事業については 4 件の最も大規模な事業(フェズ、 マラケシュ、 アガディール、 メクネス) に関するデータを使用した。4 件のコンセッションでは、年間 6%の割合で水道使用者が増加し、これはフェ ズ、 マラケシュ、 メクネスと同水準だった。最高の成果を挙げたのはアガディールの公営水道事業で、 接続 数は 66%から 81%に増加し、 その割合は年間 9%に達した。 官民連携による水道普及率の拡大に関する結論  このような数多くの案件に関する業績評価から、 途上国の給水普及率の向上に対する貢献全般、 健全な 財政上の制度設計の重要性、 貧困層特有のニーズに対する十分な対価の支払いなどについて、 いくつかの 結論を引き出すことができる。結局のところ、 官民のどちらが運営するに関わらず、 上下水道の普及拡大に 関わる重要な要素の多くは、 事業者の力量を超えている。 官民連携の結果、 2,400 万人を超える人々が水道を利用できるようになった  官民連携事業では普及率向上の契約目標を達成することができなかったものが多く、 コンセッションで は当初確約していた金額を水道拡大へ投資することができなかったものも多かった。それでも、 多くの官 民連携事業において、 上下水道の普及率向上が飛躍的に進んだ。本調査の結果、 1991 年以降途上国の官 (別紙 B 参照) 民連携事業により 2,400 万人を超える人々が水道を利用できるようになった ことが分かる。 34 このスキームのもとで新規に接続する水道使用者は、 所有面積に基づく拠出金を支払わなければならず、 それには、 接続費 用に加えて、 既存のシステムのために行われた投資の一部に相当する額が含まれている。 この拠出金は、 当初設置費用への 参加(participation aux frais de premier etablissement)と呼ばれた。 急速に発展する都市の事業では、 一般的に収入の 10 %から 15 %を占めた。 49 世界規模で見れば、この数字は小さいかも知れないが、 1997 年時点で民間事業者の給水人口は途上国 の都市人口の 1%未満で、2002 年のマーケットシェアはほんの 4%、2007 年でも僅か 7%にまでしか上がっ ていないことを考えると、それでもかなりの数字である。  水道が利用できるようになった人数を2,400 万人としているが、これは極めて低く見積もった数字である。 この数字は、 本調査で確認した 36 件の大型官民連携事業(コンセッション、 リース・アフェルマージュ、 共同所有会社)に基づいている。全部合わせると、このような官民連携により 2,400 万人超の人々が水道 を利用できるようになったが、 2007 年末までに途上国で実施されている水道の官民連携事業は 220 件を 超えている。この概算には、 既に実施中の数件の大規模契約(アグアスカリエンテス、カンポグランデ、カン クン、ハバナ、メンドーサ、サルティロ、サン・ペドロ・スラ等)の数値が、 データ不十分のため除外されている。 また、 アルゼンチン、 ブラジル、 コロンビアの中小規模の町で展開された数多くの官民連携事業についても 含まれていない。さらに、 マネジメント契約によって改善が図られたものも含まれていないが、 その中には 目覚ましい成果を挙げたケース(アンマンでは 40 万人を超える人々に水道が普及した)もある。 基本的なサービスの普及拡大において官民連携の優位性は明言できない  水道利用の拡大においては、 下水道の普及が進んだケー 多くの官民連携事業が良好な成果を挙げており、 スもあった。また、 コートジボアール、 セネガル 、 コリエンテ地方 (国営事業) 、 マニラ東部 (アルゼンチン) 地区(フ 、 カルタヘナとモンテリアの都市 ィリピン) (コロンビア) 、 カサブランカ 、 ガイヤキル (モロッコ) (エ クアドル)など、 際立った業績を挙げたプロジェクトもあった。  しかし、 全体として官民連携事業が公営水道事業より普及率の向上の点で効果的であったという明確な 証拠は必ずしも得られていない。例えば、 アルゼンチン、 ブラジル、 コロンビア、 モロッコなどでは、 入手で きたデータによると民間のコンセッション受託者の平均的な業績は公営事業とそれほど大きな差が見られ なかった。ガイヤキル(エクアドル)では、コンセッション受託者は給水普及率の点で目覚ましい進展を遂 げたが、これは政府の公的補助制度によるところが大きく、コンセッション受託者は国内の他の事業者に 比べ有利な状況にあった 35。ジャカルタ(インドネシア)とマニラ(フィリピン)では、周辺都市の別の公営 水道事業に比べるとコンセッション受託者の方が成果が高かったものの、規模や資金調達方法などが違う ため、有意の比較はできていない。最後に、下水道の普及率に関する官民連携の業績は様々だった。  サハラ砂漠以南のアフリカでは、戸別接続による水道の普及拡大の点で、民間事業者は公営水道事業よ りもはっきりと高い業績を残している。この地域における戸別接続の増加の中で、官民連携事業はおよそ 20%を占め、市場占有率の 9%を基準に予測していた数値の 2 倍を超える成果を挙げた 36。しかし、その うち半分は 1 か国のみ(コートジボアール)の増加分で、普及率の向上という基準(もっと根本的な普及の 形態 “ 地域で利用する公共共同給水栓など ” も考慮に入れており、各国がミレニアム開発目標を達成した か否かを追跡する際に使用される)で見ると、民間と公営事業者の差ははっきりしていない(フォール他、 35 電話税からの収入は、各々の地域内からの通話量を基準として、事業者間で配分された。ガイヤキルは最大の都市であり、 経済の中心地だったため、極めて大きな割り当てを受けた。ガイヤキル以前の公共事業でも電話税の割り当ては行われてい たが、集まった金額ははるかに少なかった。電話の加入ブームが起こったのが 2000 年代始めで、ちょうどコンセッション が始まった頃だったからである。それでも、民間事業者は迅速に普及を進めるためにこのメカニズムによって与えられたチャ ンスを有効に生かしたといえる。同時に、多くの貧困層に安全な水道水を提供することに貢献した。 36 1990 年以降、サハラ砂漠以南のアフリカ全体で、2,700 万人が戸別接続を通じて水道を利用できるようになった。官民連携 水道事業による給水は都市の人口の 9%に過ぎなかったが、500 万人を越える人々に戸別の水道接続を提供した(コートジ ボワール 300 万人、セネガル 150 万人、ガボン 30 万人)。 50 。 2009*)  * 西・中央アフリカの都市水道事業の改革:官民連携の経験 官民連携事業による普及拡大と資金調達の間の緊密な関係  官民連携事業による普及拡大は、資金調達と密接な関係がある。上下水道の普及拡大は通常多額の投 資を伴う。当然ながら、官民連携事業の中で業績に大きな違いが生じる理由として、資金計画や活用で きる投資資金がある。コンセッションでは、普及拡大の業績は契約の財務的な条件に大きく左右される。 財務条件によってどれだけキャッシュフローの発生による資金調達が図れるか、またコンセッション受託者 の借入れができるかどうかが変わってくる。民間の貸手は、民間事業者に対して多額の非遡及責任財産限 定融資によるプロジェクト ・ファイナンス * を用意できるという仮定が現実的ではないことが分かった。ま た、いくつかのコンセッションで、特に外貨の借り入れが多い場合、経済危機に際しての脆さが露呈された。 マニラでは最初の数年間、アジアの経済危機の影響が深刻であり、東部地区のコンセッションでは当局が 料金の調整(値上げ)を認めるまで普及が拡大せず、事業開始後 7 年経ってようやく進展が見られるよう になった。  * 第 2 章 p19 の * 注記参照  アフェルマージュでは、投資の資金調達は政府が最も大きな役割を果たす。また、投資計画がどのよう に実行されたかという点が官民連携事業の成果全体の中で大きな意味を持つ。誰が実務的に土木工事を 行ったのかについては様々な状況が実際に起こっている。サハラ砂漠以南のアフリカのアフェルマージュに おいては、公営の資産保有会社が投資を行っていたケースが多く、普及拡大の成果は、政府の優先順位 と土木工事がどれくらい早く実施されるかに左右された。セネガルでは、政府が普及拡大を優先事項とし、 資産保有会社と民間事業者の双方が十分に機能したことに助けられ、この地域で最も高い普及拡大を達 成した。マプート(モザンビーク)では、投資計画の完了が遅れ、また、これまでのところ管路の更新と アフェルマー 給水能力の拡大に重点が置かれていることが普及率向上を阻んでいる。コートジボアールは、 ジュとコンセッションの混合型ともいえる特殊なケースである。投資資金は発生したキャッシュフローによっ て全額調達し、土木工事は民間事業者が直接実施した。カルタヘナ(コロンビア)に見られるようなリー ス契約による共同所有会社では、民間事業会社が土木工事のすべてを施工するが、投資については民間 のパートナー会社と地方自治体が共同で意思決定する。  特に、官民連携事業が成功したケースでは、多くの場合、その設計に公的資金の提供(補助金、または 無利子融資を通じて)が組み込まれていた。このようなアプローチが有利であることは、コルドバ(アルゼ 、ガイヤキル ンチン) 、またコロンビアにおいて多額の公的資金が投資に提供された事業近 (エクアドル) 代化計画のもとで受託された契約の業績が優れていたことからも明らかである。これに対して、ラパス - エ ルアルト(ボリビア)やブエノスアイレス州のコンセッション(ビルバオ水道会社 )がうまく 〈アルゼンチン〉 いかなかったのは、人口の大半が貧困層の場合、水道によるキャッシュフローのみで普及拡大の資金をま かなうには限界があることを示している。アフェルマージュについては、セネガル(ドナー基金による多額 の資金注入が行われた)の給水普及率の方がコートジボアール(拡張資金はすべて水道使用者からの料金 収入でまかなわれた)より遥かに業績が優れていた。このことは、達成水準の結果は、どれだけ政府が社 会的な目標達成に貢献する意欲があるかどうかに掛っていることを示している。 51 低コストの代替サービスを提供することの重要性  貧困層のニーズに合わせて低コストの別の方法を用意することは重要である。多くの途上国において、 管網への接続費用が貧困世帯にとって高過ぎることが給水拡大への阻害要因になり得るため、手の届く価 格設定が極めて重要な課題となっている。民間事業者の中には、貧困世帯が接続費用を支払うことを支 援するための資金計画を提示したものもあった(アルゼンチン、ボリビアのラパス - エルアルト、コロンビア、 フィリピンのマニラなど)が、必ずしもそれで十分とはいえない。コートジボアールやセネガルでは接続助 成計画が奏功して 2 件の官民連携事業が良好な業績を挙げたものの、給水停止比率が極めて高かったこ とを見ると、都市の最貧困世帯にとっては戸別接続が必ずしも最適な方法とはいえないことが分かる。  官民連携がうまくいった事業の中には、地域に根差した方法で、サービスをより低コストの別のやり方で 展開し、際立った業績を挙げたものもあった。  例としては、カルタヘナとマニラ東部地区のケースが挙げられる。双方とも高い貧困率にも関わらず、 2007 年までに区域全体に水道が行き渡るようになった。カルタヘナでは、普及拡大は現実的・段階的な アプローチの一部であり、第一段階では水道は集落の入口まで一括で供給され、その後、集落が地方自 治体から法的に認められるのに伴って、徐々に重要性の低い管網への標準接続を導入していった。最初の 段階の給水サービスは個別接続に比べると不便だったが、それでも以前の状況に比べれば大幅な改善であ り、多くの貧困層の人々が一斉に安全な水道を利用できるようになったのである。  また、多くの途上国の大都市では、都市周辺に住む貧困層に給水している小規模な地元民間事業者が 先導し、都市貧困層へ普及拡大を図るうえで重要な役割を果たしていることが多く見られるようになった。 このような事業者の多くは、非公認の業者で、本来の水道事業者の不足部分をカバーする際に勢力を伸ば しており、適切に規制すれば貧困層への普及率を向上させるうえで有益なパートナーとなり得る事業者で ある。マプート(モザンビーク)では、ドナーによって資金が提供された大型の投資計画に際立った特徴 があったが、それは国際的な事業者とのリース契約のみならず、小規模な地元事業者への金融支援も含み、 給水サービスのレベルと給水普及率の向上を推進している。 普及拡大において事業者の責任範囲を超えた要素  水道の普及を図るうえでのいくつかの重要な要素は、公営・民営を問わず、水道事業者の責任範囲を超 えたところにある。途上国の大都市では、違法入植地やスラムに人口の多くが集まっているが、水道事業 者は通常このような住民に十分な給水ができる体制になっていない。不法入植地への管網の拡大は法律 で禁じられていることが多く、また、土地所有権の問題を引き起こす。これは、地方自治体と緊密に協力 しない限り解決できない。マニラ東部地区やカルタヘナで行われたような、急速な普及拡大のために地域 整備計画を頼みとする方法は、現行の技術基準に基づくと、常に法的に可能とは限らず、住民から実行可 能な方法として受入れられるとも限らない。  いま一つの難問は、各世帯が上下水道の管網に接続することを必ずしも望んでいないという事実である。 ジャカルタで普及率があまり上昇しなかった原因の一つは、井戸から既に水を得ている多くの住民が、水 道管網への接続に殆ど関心を持たなかったことである。このような状況が環境面(現在の地下帯水層から の過剰揚水)や公衆衛生上(井戸水の大半は安全ではない)の問題を起こしているとしても、給水普及率 を向上させるためには、政府が地下帯水層の使用について規制を強化することが必要だったのである。同 じような問題は、地方自治体が新たに下水道を整備した際、既に個人の衛生設備に投資した世帯を下水道 52 に接続させようとした時にも起きた。このような状況においては、地方自治体当局が強制的に接続規制を 強化し、または新規接続の費用を補助することに前向きでないと事業者自身では問題を解決できない。 3) 給水サービスのレベル  給水サービスのレベルには、 様々な形が考えられる。本報告では、 水道の官民連携事業の業績の中 で、 給水の継続性への改善(民間事業者が事業を引き継いだ際、常時継続給水でなく断続的な給水や 一定時間のみの給水があった場合)と飲用水基準の順守に着目した。 時間給水の減少   途上国では、 多くの水道事業者が時間給水や水圧の低さと闘っている。多くの場合、その原因は老朽化 した管網による大量の漏水にある。また、 その影響は地域的に偏在し、 貧困層には特に深刻である。貧困 層は配水管網の末端となる都市周辺区域に居住することが多く、そこでは市内より水圧が低く、夜間には 2、 3 時間しか水道が使えないことがよくある。また、 屋上の水タンクや濾過装置など、 断続給水の悪影響を 軽減する設備を買うことも難しい。水道事業が中断することなく給水を続ける能力は、 給水サービスのレ ベルを決定するうえで恐らく最重要の要因だろう。給水の継続性なしに飲用に適した水を保証することは (断水すると、管内の圧力が低下し)外部からの浸入水や汚染のリスクが発生するか できない。なぜなら、 らだ。時間給水は、 管網の保守や給水が悪化していく循環の根源である。一度、時間給水が常態化する と、 水圧の急上昇が繰返されることで管網の劣化が加速する。連続給水に戻そうとしてもなかなかうまく いかないのは、 平均水圧が一時的にでも上がってしまうと、 管の破裂や継手部の不良を引き起こす場合が 増え、 結果、漏水が多くなるためである。そのため、 管網が老朽化している水道事業では、 たとえ水道使 用者へのサービスが低下するとしても、 漏水を抑えるために給水時間を短くするという短期的な対処方法 を取る場合が多い。  時間給水が何年も行われていると、 連続給水に戻すのは至難の業であるが、 途上国の水道事業の中で 成功したケースもある。プノンペン 、 ワガドゥグー (カンボジア) (ブルキナファソ)がその例だが、 どちらも 国際金融機関の支援を受けていた。調査では、 時間給水の状態にあって、 平均給水時間の推移について 信頼できるデータが入手できる官民連携事業を対象とした。  コンセッションとリース・アフェルマージュによる時間給水の減少   長期の官民連携事業の業績で、 時間給水が減少したことを示す証拠を最も多く提供したのはコロンビア である。 この国は、 時間給水を減らすために官民連携が効果的かどうかを評価するうえで、 独特な条件を 揃えていた。 第一に時間給水が様々な地域で広く問題になっている。 第二に民間事業者は最も業績の悪 い事業を受託した。第三に給水の継続性についてのデータが規制当局側から入手できた。  図 3.5 は、 コロンビア国内で時間給水を伴う状態で開始した 10 件の官民連携事業の平均給水時間数 の推移を示している。すべてのケースではっきりとした前進が見られ、 5 〜 6 年でほぼ連続給水が確保さ れるようになった。事業近代化計画のもとで実施された官民連携事業の場合、 コンセッション受託者はさ らに厳しい時間給水から始めたが、 事業の建て直しを推進するための公的補助を受けることができた。コ ロンビアにおいて、 民間事業者が時間給水の減少に高い業績を挙げたことは、 国内の世帯調査の結果か らも確認された 。 (バレラ、オリベラ 2007*; ゴメス - ロボ、メレンゼ 2007**) 53  コロンビアを除く、他のラテン・アメリカ諸国では、長期の官民連携事業における給水の継続性に関し て入手できるデータは殆どない。民間事業者へ業務を移転する以前に連続給水を行っていた公営事業も多 い 。ブエノスアイレス (チリおよびボリビアの首都ラパスなど) (アルゼンチン)では、 夏場になると人々が 水不足に悩まされたが、 コンセッション受託者が事業を引き継いだ最初の年(1993)にそれは解消され、 37 その後数年間にわたって給水の継続性が改善に向かった(デルフィノ、キャサリンとデルフィノ 2007***) 。 (アルゼンチン) サルタ (1998 年) では、断続給水に悩まされる人口の割合は 43% から 10%未満(2006 年) に下降した。ガイヤキル(エクアドル)では、 コンセッション受託者が事業を引き継いだ 2000 年には、人 口の半分が時間給水を受けており、 2005 年までに改善は殆ど見られていない 。  (イエペス 2007****)  *  社会は民営化によって給水サービスの改善と貧困者の救済に前進したか  **  社会政策、規制、民間参入−コロンビアのケース  *** どこまで行くのか、改革後 10 年を経たブエノスアイレス水道のコンセッション  **** ラテン・アメリカにおける都市水道の官民連携  図 3.5 コロンビアにおける特定の官民連携事業の給水継続時間の推移 (a) 1997 年から 1998 年に受託した官民連携事業 (b) 2000 年以降に PME のもとで受託した官民連携 の平均給水時間 事業の平均給水時間 出所 : 国内当局 注 : 都市名の後の数字は官民連携事業が始まった都市を示す。読者にとってわかりやすいよう、パルミラ (1998)とヒラルドー(1999)の 事例は示していない。どちらの場合も他の都市に比べ時間給水の程度が深刻ではなく、3 年以内に連続給水に戻った。  西アフリカでは、 連続給水について全体的によい実績を示している 。ダカール (フォール他、 2009) (セ ネガル)では、 民間事業者が受託した際、 当初の給水時間は 1 日平均 16 時間だったが、 2006 年までに 連続給水を再開することができた。この成果を挙げるのに、 公営の資産保有会社により浄水能力増強への 投資を行う一方で、 民間事業者は漏水を低減したが、 これには 10 年の歳月を要した。このことからも、 大 規模で複雑な水道システムにおいて、 給水人口を拡大しながら同時に時間給水を終わらせるのがどれだけ 困難かが分かる。コナクリ(ギニア)では、 民間事業者による運営が始まって 2、3 年の間に連続給水が 再開したものの、 1998 年に契約が終了した後、再度状況は悪化した。ニジェールでは、 首都のニアメイで 37 デルフィノ、キャサリン、デルフィノ(2007)によると、 適切な水圧で給水される水道使用者の比率は、 1993 年の 17%か ら、 1998 年には 60%に急増し、 2003 年には 74%となった。 54 2000 年から 2006 年の間に徐々に進展が図られ、給水時間は 1 日平均 18 時間から 21 時間に改善された。 その他の地域については、 データが殆ど入手できていない。アジアでは、 マニラ(フィリピン)の 2 件のコ ンセッションが対照的な状況を示している。東部地区のコンセッション受託者は 1996 年に 75%の水道使 用者が時間給水の影響を受けるという劣悪な状態からスタートした。10 年後の 2006 年までに、 すべて のコンセッション対象区域で連続給水が再開された。西部地区のコンセッションでは、 2001 年までに人 口の 80%が連続給水を受けていたが、 コンセッション受託者が破綻に追い込まれた後、急速に状況は悪 化した。2005 年の契約終了までに水道使用者の半数が断続給水に悩まされるようになった。トルコでは、 アンタルヤ(給水人口 60 万人)のリース契約において 5 年の事業期間で大幅な時間給水の延伸(平均 1 日 16 時間から 21 時間へ)が進んだが、 当事者間の利害対立により契約は 2002 年に終了した。  このような成果については、 セネガル、 マニラ東部地区 、カルタヘナ、 バランキーア (フィリピン) 、 モンテ リア、 ソレダードなどのコロンビアの都市のケースについて注目すべきだろう。かなりの規模で時間給水を 行っている状況から始めて、 完全な連続給水を再開したのみならず、 先述した通り、 こうした官民連携事業 では同時に大幅な給水普及率の改善を達成している。もし、 水道の普及に関するミレニアム開発目標の水 準を文字通り解釈する(接続があるかどうかではなく、 連続給水のもとで安全な水を使用できる比率を計 測する)ならば、 正味の給水普及率向上の数値はさらに上昇していただろう。 時間給水の低減に関するマネジメント契約の効果   その他の事例として、マネジメント契約のデータがある。その多くは、 時間給水の状況で実施された。こ のような契約においては、 給水時間の推移が克明に記録されている場合が多い。それは契約上の目標とし て民間事業者の報酬を決めるのに使用されていたためである。12 件のマネジメント契約の業績についての データが図 3.6 に示されている。この図では平均給水時間について、 民間事業者が参入する前と契約終了 後に達成したレベルを比較している。  契約間で給水時間の計測の仕方はまちまちだったが、ある程度一定したパターンが見られる。契約前後 のデータが残っている 12 件の官民連携事業は断続給水からスタートしたが、 そのうち 10 件で契約終了ま でに時間給水が大幅に低減された。特に顕著な進展が見られたのは、 モザンビーク 38、 モナガス(ベネズ 39 エラ・ 、 ラリオハ ボリバル共和国) (アルゼンチン) 、 エレバン(アルメニア)である。大幅な改善が見られ なかったのは極く僅かで、 トリニダードとベネズエラのララ州だった。この他にチャドとガイアナのケースが 挙げられるが、 信頼できるデータが得られなかったため図 3.6 には示していない 40。   特に注目すべき事例は、 以下の 2 件である。1 件目のエレバン(アルメニア)は、 漏水率が高く、 また水 道メータの検針が行われていないことから、水道使用者が水道をムダ遣いし、そのために時間給水が起こ るという状況だった。エレバンのマネジメント契約は 2000 年に開始したが、 その時 1 日の給水時間は平 均約 6 時間だった。契約は、 民間事業者が管路更生基金を利用できるように計画され、 重要な土木工事 は自ら選定した業者により行うか、または直営で行うことができるような柔軟性を備えていた。政府によっ 38 モザンビークのマネジメント契約では 4 都市を対象とし、 給水人口は合わせて約 50 万人だった(同じ事業者が、 首都マプー トではリース契約で事業を行っていた) 。 特に進展の著しかった都市はベイラとケリマネで、 官民連携以前は、 平均で給水時 間 10 時間未満の状態で開始したが、 2008 年初頭の契約終了までに完全な連続給水が再開された。 39 ラリオハの官民連携はマネジメント契約から始まり、 3 年後コンセッションに移行した。 40 チャドとガイアナの国営事業に対する官民連携では、 契約前後の信頼できるデータが存在しないが、 入手できる情報から見 て、 マネジメント契約による時間給水の削減は殆どないか、 あったとしても極く僅かであったと推察される。 55 て住宅用水道メータの設置を補助する法律が成立すると、 全面的なメータ設置が進められ、 同時に管網の 更生工事や建物の配管システムの修繕が進み、損失水は減少した。連続給水時間は 1 日 18 時間まで上 昇し、契約上の目標を 25%超上回った。2005 年までに人口の 70%が連続給水を受けられるようになった。 図 3.6 12 件のマネジメント契約での給水継続時間の向上 出所 : 企業または政府のプロジェクトデータの著者によるまとめ 注 :( )内の数字は民間事業者の運営年数。  第二に、 ウガンダの事例では、 水道システムの規模が異なる場合、 システム間で業績についての有意の 比較ができないことが浮き彫りになった。民間事業者は首都のカンパラで連続給水に向けた改善を行った (マギッシャ他、 2007*) ほか、 公営の中小都市でも進展が早く見られた。 。これは、 小規模な都市の方が 配水システムの水理的環境が単純で修繕もし易いという事実から説明がつく。このような状況は、モザン ビークやアルバニアのマネジメント契約の事例でも証明されている。これらの国々では、 一つの民間事業者 が大小様々な規模の複数の都市で事業を行っており、 二大都市(ドゥラス〈アルバニア〉とマプート〈モザ )よりも小規模な都市の方が遥かに時間給水の低減が進んだ。 ンビーク〉  * 公営水道事業のマネジメント原則による民間セクターへの転換 飲用水基準の適合性に向けた改善   官民連携事業が水質に与えた影響については、 時間給水に対する影響より評価が難しい。飲用適合性 を見る場合、 複数の化学的項目により採水の適合状況を調べる。 採水方法(頻度、 数、 採水地の妥当性) が大幅に異なる可能性があり、 それが結果に大きな影響を与える。一般的に信頼できる基準データは入手 不可能である。なぜなら、 民間事業者に業務が移転される以前は、適切な採水と分析を行っていなかった ケースが多いからである。従って、 官民連携により飲用適合性がどのように変化したかについて、個々の案 件で有意なデータは殆ど得られない。  2、3 の計量経済学的調査において、 官民連携事業による水質への影響に着目しているが、 そのすべて 56 でプラスの効果があったと指摘している。アンドレ、グアッシュ他(2008*)は、 ラテン・アメリカにおいて 民間事業を採用したことにより移行期間、および移行期間後の双方で水の飲用適合性が大幅に向上した と述べている。コロンビアにおいては、 バレラ、オリヴェラ(2007**)が家庭用と公衆衛生の調査により、 また、 バレラ、オリヴェラ(2007**)とゴメス - ロボとメレンゼ(2007***)の双方が、 官民連携事業の方 が公営の水道事業より水の飲用適合性が向上する傾向があると述べている。アルゼンチンでは、 ガリアー ニ、ガートラー、シャルグロツキー(2005****)が民間事業者による給水地域で乳幼児死亡率が下降した といっている。   *  ラテン・アメリカのインフラにおける民営化の挑戦と成果  **  社会は民営化によって勝敗のいずれを得たか  *** 社会政策、規制、民間参入—コロンビアのケース  **** 命の水:水道の民営化がもたらす幼児死亡率の影響  ラテン・アメリカについて得られる数少ないデータは、 アルゼンチンからのものである。ブエノスアイレ スがその一つで、 その官民連携事業において、 水の飲用適性に関わる 3 主要項目(濁度、 塩素、 細菌)の 経年推移について信頼できるデータが入手できた稀なケースである。給水普及率と連続給水については、 コンセッション受託者は早い時期に良好な成果を挙げている。コンセッション事業を開始する前は、 ブエ ノスアイレスで採水した水の半分が濁度基準に適合せず、 塩素は 1 / 3 が不十分であり、 10%で糞便性の 汚染が見つかった。しかし、 民間事業者による給水で 4 年目に全体の適合率が 99%を超えた。ただし、 ドウッチ(2007*)の報告によると、 2002 年以降ブエノスアイレスとサンタフェ地方のコンセッションでも 水質の適合性について問題が起こり始めた。サルタでは、 1998 年以降コンセッション受託者が様々な地 (イエペス 2007**) 域で給水していたが、 水道全体の飲用適合性が徐々に、 かつ着実に改善された。  * ラテン・アメリカの国際水道事業者  ** ラテン・アメリカにおける都市水道事業の官民連携    マニラ(フィリピン)では、 東西両地区のコンセッション受託者が公営事業から引き継いだ以後、目覚ま しい改善を遂げた。4 年(1996 〜 2000 年)間に、規制当局により水質監視体制が強化されたが、飲用 適合率は約 96%からほぼ 100%に上昇した。 西部地区でコンセッショ このような改善はその後も維持され、 ンが次第に破綻に向かったにも関わらず継続した。過去 7 年間の東西両地区のコンセッションの飲用適合 率は約 99%である。  西アフリカの官民連携でも良好な業績が数件認められた。セネガルとニジェールでは、連続給水の進展 に続いて飲用適合性の改善が広く見られた。ダカールにおける飲用適合率は、1997 年の 95%から 2001 年までに 98%に上がり、ニアメーでは最初の 4 年間に 96%から 98%となった。ガボンでもコンセッショ ンの開始から飲用適合性が改善し、リーブルビルの濁度指数の平均は 2.5 から 1.0 未満に低下した。最終 的にアビジャン(コートジボアール)の住民は 10 年にわたって安全な水道水の給水を受けることができた。 狭小地域においてこれは極めて異例なケースである。 57 4) 経営効率   水道事業の経営効率全体を評価するための分析は、公営、 民営を問わず非常に複雑である。官民連 携事業について網羅的に個々の効率を分析するのは、明らかに本報告の範囲を超える。水道事業のコ スト構造は数多くの要素からなっており、効率の改善は様々な側面(労働力の変化、漏水の減少、薬品 や電力使用の効率化など)からの分析を要し、それには多くの指標を伴う。多くの場合、情報不足から 分析の範囲が狭められてしまう。例えば、電力と薬品の使用が事業効率に与える影響を分析するために は、非集計型のコストデータがなければ不可能だが、これが入手できることはまずない。ただし、実際 は水道会社の経営効率の多くの部分を 3 個の指標(損失水、料金徴収率、労働生産性)で捉えること ができる。それは、以下の通りである。    損失水は、 殆どの途上国の水道事業において重要なコスト要素である。無収水率 ・ (NRW)は、 給水量 と水道使用者へ料金請求した水量の差を給水量で除することにより割り出される。この比率によって配 水管網(物理的な水の損失)と商業的管理(検針や請求に関するトラブルによる商業的な損失)の効 率を把握することができる。無収水率の推移は通常変動費の変化の目安となる。    料金徴収率は、 事業のキャッシュフローに直接影響を与え、 商業的管理効率の大部分を把握すること ・ ができる。    労働生産性は、 効率分析における有力なデータである。なぜなら水道事業では、 人件費が固定費の最 ・ も大きな部分を占めるからである。  上記の 3 指標について順に論じていく。経営効率の分析については、 普及率や水質に比べて多くの官民 連携の事例を活用することができる。 長期の官民連携(完全民営化、 コンセッション、 リース・アフェル マージュ、 共同所有会社)の中から、 49 件のプロジェクトについて検討した。給水人口の合計は 8,200 万 人を超える。また、 17 件のマネジメント契約、 合計給水人口 1,500 万人の事例についても検討した。上記 の事例の給水人口の合計は、 2003 年以前に締結された長期の官民連携事業(東ヨーロッパを除く)およ び 2005 年以前に締結されたマネジメント契約の 80%近くに当たる。     損失水の低減   途上国では、 多くの都市で損失水の比率の高さが問題となっている。これは、 配水管網の漏水による物 理的な損失と、配水されても料金を請求できない商業的損失の 2 要素から成っている。 どちらも水道事 業の運営費を増やす要因だが、 その性質は大きく異なる。最近の世界銀行の調査では、 途上国の都市水 道事業からの損失水の総コストは年間 50 億 US ドルに達するという見積りがある(キングダム、リムバー 。  ガー、マリン 2006*)  途上国に関して発表されている計量経済学的調査の中で、 官民連携が損失水に与えた影響について報 告しているのは、 アンドレ、グアッシュ他(2008**)とガッシュナー、ポポフ、プシャク  の (2008a***) みである。どちらの報告でも、 民間事業者の参入により損失水は激減したと認めている。  プロジェクト固有の損失水に関するデータは分析が難しい。物理的損失と商業的損失は内容が違い、 解決方法も異なるにも関わらず、 この二つを区別した信頼できるデータは通常入手できない。水道事業に おいて損失水がもたらす業績への影響を検討する際、最も広く使用されている指標—すなわち無収水率 (NRW)—には実際上の限界があり、 必ずしも配水管網の効率を評価するうえで最も適切な指標とはいえ 58 41 ない(キングダム、リムバーガー、マリン 2006) 。  *  途上国における無収水率低減への挑戦 : 民間事業はこれにどう寄与するか  **  ラテン・アメリカにおけるインフラへの官民連携の成果と挑戦  *** 官民連携は電力・水道供給の業績改善に役立ったか    一般的に、 損失水のデータ、 特に民間事業者が引き継いだ際の基準値のデータは信頼できない傾向が ある 42。さらに、多くの国で各水道使用者への料金請求は使用水量の推定値をベースに行われる(水道メー またはメータの不具合が原因) タ設置率の低さ、 ため、実際の損失水のレベルを判定するのが非常に難しい。 それでもなお、 様々な国や地域の数多くのプロジェクトを見ることで、 はっきりとした全体像を引き出すこと ができる。本報告では、 始めに様々な国と地域の長期官民連携プロジェクトを検討し、 その後、 マネジメン ト契約の記録について別途分析する。   損失水の低減 : コロンビアの場合   コロンビアは、ラテン・アメリカの中で、使用水量を推定値ではなく実際の水道メータによる検針に基 づいて家庭用水道使用者に広く料金請求を行っており、かつ、当局のデータ ・ ベースに官民連携事業の事 例が多く含まれている数少ない国の一つである。最も規模が大きく、古くからある 8 件の官民連携事業に ついて無収水率の指標の推移を図 3.7 に示した。これは、民間事業者によるコロンビアの給水人口の半分 を超えるものである。無収水率のレベルについて、民間事業者が引き継いだ年と最後の年に達成した数値 を入手できたデータで比較している。   無収水率の指標に基づく評価は割れている。モンテリア、 トゥンハ、 パルミラでは大きく前進したものの、 カルタヘナ、 バランキーア、 サンタマルタの低減はそれほど進まず、ジラルドットやソレダードでは全く進展 が見られなかった。しかし、配水管網に大きな変化がある場合に損失水の推移を無収水率のパーセンテー ジだけを使用して測定すると見誤ることがある。特に、断続給水から連続給水に移行した場合や、給水普 及率が拡大した場合にそのケースが多い。これは、先に論じたように、まさにコロンビアの最大級の官民 連携事業で起きていたことである。3 件の最も古く大規模な官民連携事業では、1 接続当たりの損失水と いう別の指標を使用し、損失水の低減の業績についてより明確な全体像を掴むことができた。なぜなら、 これにより水道システムの拡大による大きな構造的な変化を考慮に入れることができるからである。この データによると、カルタヘナとバランキーアでは損失水が半分以下になり、サンタマルタでも 40%削減さ れた。これは、連続給水が再開されたため、管網内の平均水圧が大幅に上がった中で達成された。すな わち、配水管網の水理環境が大きく改善されたことが強調される。 41 管網における物理的な水の損失は、 接続数(漏水の多くは管の接合部で発生している) 、 管の総延長、 給水圧によって大きく 左右される。 それは接続数と管延長が主要な構造因子だからであり、 国際水協会(IWA)は、 広く使われている無収水率を 補う意味で、 1 接続当たり、または管路 1km 当たりの 1 日平均損失水を指標とすることを推奨している。 42 民間事業者に移行した公営事業は、 損失水の水準を計算する適正な枠組みを欠いている場合が多い(浄水施設で信頼できる マクロ計測がない、オペレーションの監視が不十分、水道使用者のデータベースの問題、 その他の理由による)。 多くの場合、 無収水率の基準点は入札プロセスの間に見積られた数値であり、 民間事業者が引き継いだ後に適切な計測システムを導入す ると大幅に低く見積もられていたことが発覚する。 59 図 3.7  無収水率と 1 接続当たりの損失から見たコロンビアの 8 件の官民連携事業の損失水の変化 (a) 無収水率の変化 (b) 1 接続・1 日当たりの損失水量 出所 : 国内当局データベース モロッコの損失水低減における官民連携の良好な業績  モロッコの大規模な公営水道事業では、 配水と商業的な機能に注力しており、 国営の水道事業(ONEP) から用水供給を受けている。中央政府から公営・民間の双方の水道事業の業績について信頼できるデー タが入手できた。 (カサブランカ、 ラバト、 タンジール、 テトゥアン)と 6 件の大型公営  4 件の民間によるコンセッション  事業(マラケシュ、 フェス、 アガディール、 メクネス、 ケニトラ、 ウジダ)を無収水率の低減の点から比較分 析した。図 3.8 を見ると、 民間のコンセッション受託者による 4 件の水道事業では大幅な無収水率の低減 が達成されたことが分かる 43。公営水道事業の事例では、アガディールの業績が際立っている。その他の 5 件の公営水道事業の中では、 過去 4 年間に改善を示したのはフェスだけであるが、 その改善率も、 同様の 損失水レベルから始まったテトゥアンのコンセッションに比べて遥かに低い。 43 ラバトでは、 1999 年に引き継いだ最初の民間事業者のもとで、当初無収水率は悪化した。 図中の数値は 2002 年に交代した 現在の事業者による推移を表している。 60  モロッコにおけるコンセッション受託者によって達成できた損失水の低減は、 1 接続当たりの損失水の推 移を見るとさらに明らかである。1 接続/㎥/日当たりの損失水の推移を同じ事例について図 3.9 に示し、 公営事業と民間の事業を同じ横軸を取って並べた。2005 年末までに、カサブランカとラバトのコンセッショ ンでは最も効率的なアガディールの公営事業に追い付き、 タンジールとテトゥアンはアガディール以外の公 営事業のどれよりも良好だった。 図 3.8 無収水率から見たモロッコの民間事業と公営事業の損失水 出所:モロッコ内務省 Direction des Régies et Services Concédés (DRSC)   図 3.9 モロッコの民間および公営事業における 1 接続当たりの損失水の推移 (a) 4 件の民間コンセッションの損失水 (b) 6 件の最大規模の公営事業の損失水 出所:モロッコ内務省 Direction des Régies et Services Concédés (DRSC) サハラ砂漠以南のアフリカの損失水の低減  サハラ砂漠以南のアフリカのコンセッションとリース・アフェルマージュで最低でも 2 年間続いているプロ ジェクトの業績を図 3.10 に示した。なお、 これらの官民連携事業の給水人口は約 1,800 万人である。  殆どの官民連携事業で、 損失水は大幅に低下した。ガボン、 ニジェール、 セネガルの官民連携事業では 、 無収水率が 20%を下回り、 これは西ヨーロッパや北米で良好に運営されている事業に匹敵する水準であ 61 る。コートジボアールでは、 民間事業者が 40 年間超運営しており、 1989 年から 2006 年の間に無収水 率が 15%から 23%に上昇したが、 1 接続当たりの損失水は 1 日当たり 0.18㎥で安定している。南アフリ カでは、 官民連携事業がデータが得られている 3 件のケースで無収水率の低減に大きな成果を挙げてい 44 る(パーマー開発グループ 2003) 。  ギニアとマプート(モザンビーク)は、 リース・アフェルマージュ契約で数年間、民間が運営しても無収 水率を下降させることができなかったケースとして突出している。ギニアについては公営の資産保持会社 による投資計画の実行が困難だったこと、 および民間事業者に対する契約上のインセンティブが欠けてい たことなどの可能性がある。この形は、 後にセネガルのアフェルマージュを計画する際に改められた(コ ラム 3.3 参照)マプートでは、 官民連携は当初から困難に直面し、 管網更生計画の実施は大幅に遅れた。 高い水準の商業的損失に対処するのは、特に困難な課題だった。メータ検針により料金請求している家 庭用水道使用者は半分足らずで、 多くの水道使用者が大量の水を近隣住民に売っているにも関わらず、1 か月 10㎥分しか料金を請求できていない。 図 3.10 アフリカ・サハラ砂漠以南 8 件の長期官民連携事業の無収水率から見た損失水 出所 : 各種資料に基づく著者の算定による(付録 A 参照) 注 : 事業は開始年度順。事業年は( )内に示した。 ラテン・アメリカにおける損失水の低減   ラテン・アメリカ諸国では、国により民間事業者の損失水低減の業績が大きく異なっている。コロンビ (少なくとも部分 アの事例は既に紹介したが、その他地域では、家庭用の水道使用者に料金請求する際、 的に)推定水量を基本としているところが珍しくない。そのため、実際の損失水の変化を追跡するのは困 難である。アルゼンチンはその顕著な例で、水道使用者は使用 45 量についてメータによる検針を受けるか 44 南アフリカ最大のリース契約は、クイーンズタウン市の案件で、給水人口は 2007 年時点で 18 万人だった。シュタッテン ハイム市のリース契約とドルフィンコースト市のコンセッションはそれより規模が小さく、それぞれ給水人口は 5 万人未満 であった。ネルスプルート市(給水人口 27 万人、1999 年以来現在も稼働中)のコンセッションやフォートビューフォート 市のリース契約(1995–2000)については現存する刊行物の中に無収水率の推移についてのデータは見つからなかった。 45 1992 年から 1998 年の間に、接続件数は 20%増加した一方、 給水量は僅か 4%しか上昇していない (アルカザール、アブダラ、 シャーレイ 2000) 。これは、物理的に損失水の大幅な削減がなければ起こり得ない。また、キャサリン、デルフィノ(2007) は、1999–2003 の間に全体の漏水量が 1 日当たり 145 万㎥から 123 万㎥に減少したと報告している。 62 受けないかを選ぶことができる。メータ検針を受けない場合、 住居の特性を基本にした計算式で料金請 求額が決まるが、それは実際の水使用量と無関係である。例えばブエノスアイレス(アルゼンチン)では、 家庭用の水道使用者でメータが設置されているのは 1998 年時点で僅か 12%だった。従って、このケース ではコンセッション受託者が損失水を低減できなかったと示唆する証拠が提示されてはいるものの、無収 水率の数値は実態を表したものとはいえない。データが入手できないため、その他のアルゼンチンのコン セッションについては、有意な結論を引き出すことはできない。    コラム 3.3  西アフリカのアフェルマージュで効率改善のために導入された特別なインセンティブ  ギニアのアフェルマージュは、この数十年間に途上国で受託した最初の官民連携(1989 年)である。無収水率の低減と料金徴収率の改善についての業績は十分上昇しなかった。 この実例から重要な教訓を引き出せるとすれば、標準的なアフェルマージュ契約に盛り込 まれているような経営効率に対するインセンティブでは、民間事業者から優れた業績を引 き出すには不十分だということである。   この教訓を生かして、1996 年に受託したセネガルのアフェルマージュ計画者は無収水 率の低減や料金徴収に契約上の目標を盛り込み、達成できなかった場合の金銭的な違約金 を設定した。事業者への報酬は単に 1㎥当たりの金額に実際に給水して料金を徴収した水 量を掛けて決めるのではなく、実際の給水量をもとにした想定販売水量を、あらかじめ 決めた年間の無収水率と料金徴収率の目標値で因数分解して決める。事業者が無収水率 と徴収率の目標に届かなかった場合、想定販売水量は実際の売上げを下回ることになり、 事業者に違約金が課されることとなる。アフェルマージュにこのような事項を適用するこ とで、契約上の特別な目標を盛り込むこととなるが、これは実際のところマネジメント契 約において一層一般的である。  その他、セネガルの官民連携で革新的だったのは、民間事業者が管網更生の一部につい て、直接的に実行の責任を負ったことである。これは、各年につき管延長 17km、14,000 件のメータ、6,000 件の接続を含むものであり、事業者の運営料金からのキャッシュフロー によって資金調達が行われた。この方法により、事業者はより柔軟で迅速に損失水を低減 するための行動を見極め、実行に移すことが可能になった。公営の資産保有会社への依存 度が減ったためである。  このような内容を盛り込むことで、民間事業者による損失水の低減にインセンティブを 与えることが効果的であると分かった。セネガルは現在、西ヨーロッパの水道事業の中 でも最も優れた無収水率に匹敵する水準を達成している。この方法は 2001 年に始まった ニジェールのアフェルマージュ契約や 2007 年に受託したカメルーンの国営水道事業のア フェルマージュでも広く踏襲されている。どちらも事業者の報酬を算出する際、同じイン センティブの計算式を使用している。ニジェールのアフェルマージュでも、事業者が管延 長 64km の管路更新を実行する責任を負い、自身の最初の 5 年間の収入から直接資金提 供を行う。   出所 : フォール他 2009 *.  * 西・中央アフリカにおける年水道事業の改革 63  図 3.11 はブラジル(マナウス、 トカンティンス、 カンポグランデ、 カンポス、 リメイラ、 パラナグア、 ペト ロポリス、 イタペミリン、 プロラゴス)、ボリビア(ラパス – エルアルト)、 チリ(サンチャゴ、 バルパライ 、 エクアドル ソ、 ESSBIO 社) (ガイヤキル)の 14 件の大型コンセッションおよび完全民営化プロジェクトに おける無収水率の推移を示している。この官民連携事業の事例を合わせた給水人口は 1,700 万人である。 ブラジルでは、 マナウスの際立った例外を除いて 46、 大型の官民連携事業で無収水率の水準は大幅に下降 した。中でもリメイラの無収水率は僅か 13%で、先進国の最も優れた事業に匹敵する水準にまで到達した。 無収水率はラパス – エルアルトやガイヤキルでも減少したが、 改善率は僅かだった。  図 3.11 ラテン・アメリカの 14 件の官民連携事業における無収水率から見た損失水の変化   出所:国内当局(付録 A 参照) 注:民間企業の引き継ぎ開始からのデータが入手できていないものもある。   ESSBIO (Empresa de Servicious Sanitarios del Bio Bio) は、チリの水道事業。  チリは特異な状況を示している。民間事業者への事業移行後、 1999 年から 2006 年の間に損失水が 増加し、 無収水率も全国レベルで 29%から 34%に上昇した。サンチャゴ(給水人口 550 万人)はチリの 都市人口の 40%を占めているが、 同じ期間に無収水率が 26%から 31%に上昇している。その他の事業 でも、 無収水率が数パーセント上昇した事例が何件か見受けられる。これは矛盾しているように見えるが、 その理由はチリの民間事業者は概ね優れた運営を行っていると考えられているためである(ビトラン、アレ ラー 。無収水率上昇の理由の一つとして、システムの拡大が考えられる。別の指標を用いた場合、 ノ 2005*) 損失水の増加はむしろ少ないことを示している調査結果もある 47。またも 「最適な漏 う一つの説明としては、 46 マナウスのメータ計量率は、2006 年に僅か 61%であるため、無収水率の数値は実際の損失を表したものとはいえない。 47 全国規模で見ると、チリの水道使用者数は 1999 年から 2006 年の間に 330 万人から 400 万人に増えており、管網延長も 30,000km から 36,000km となった。1km 当たりの損失水は、1 日当たり 34㎥から 38㎥、 1水道使用者当たり 300 リット ルから 330 リットルとなった。1999 年のデータの代わりに 1998 年のデータを参照として使用すると、損失水は横ばいで あることが分かる。少なくとも ESSBIO 社の事業において、この 2 個の指標で計測すると 2000–2006 年に損失水は減少し ている。   64 水の水準」という考え方が底辺にある可能性も考えられる 。無収水率の低減そのものが (コラム 3.4 参照) 目標ではなく、 また、 チリの公営水道事業が 1990 年代に運営の指標について目覚ましい改善を達成した 過程で、損失水が経済的に最適な水準を既に下回っていた可能性がある。効率性を重んじる規制の枠組 みのもとでは、利益を追求する事業者として漏水水準を経済的に最適なレベルにすることが求められ、そ れは漏水を低減する取り組みを進める投資のコストが、それに伴う財務上のメリットを超える場合は、漏 (ドウッチ、 メデル 2007**) 水水準を上げる結果になることもあり得ることを意味している。  *  水道事業の規制:チリの水道事業に正しいシグナルを  ** チリにおける水道事業官民連携の経験 コラム 3.4  経済的に最適な漏水水準の考え方 : チリに見る実例   大規模で複雑な管網の漏水を完全になくすことは不可能である。それぞれの管網におい て、 物理的に最適な損失の水準があり、 損失が低減することによる財務上の利益の増加分 が、 そのために必要となるコストを下回り始める点がそれに相当する。その最適な水準は、 それぞれの固有の事情やコスト構造(特に、 給水コスト、および管網が重力式で配水され ているか、 増圧ポンプ所を使用しているかなど)によって事業間でかなりのばらつきがあ る。長期コンセッションで、 民間事業者が投資を統括し、 漏水率の高い状況から始めた場 合、 漏水低減に投資することは通常利益を生む。しかし、 多くの公営事業で既に漏水低減 の点では技術的に高い成果が挙がっている。このような場合、 事業がコンセッション受託 者に移行すると、問題は技術的な点のみならず経済的な側面をはらむ。なぜなら、コンセッ ション受託者は通常、公営事業者よりも財務的なインセンティブによって動機付けられる ことが普通だからである。コンセッション受託者がさらなる漏水低減を実現する専門ノウ ハウを持っていたとしても、 それぞれの状況によっては、 そこに投資することが最も経済 的に有効な選択肢とは限らない。   このことがチリにおける状況だった可能性がある。水道事業は優れた規制当局の監督下 で効率的に運営されたという幅広い合意が得られているにも関わらず、 無収水率は 1999 年から 2006 年の間に全国レベルで 29%から 34%に上昇した。規制当局が設定した料金 体系は無収水率の水準を 15%(多くの事業で達成したレベルより低い)としたモデル会 社のそれに基づいており、 無収水率が上昇しても水道料金を値上げして水道使用者に転 嫁するものではなかったため、 事業者の運営利益を直撃した(ドウッチ、メデル 2007*)。 このようなインセンティブに直面し、 民間事業者の中には、 各々が計算した経済的な最適 水準に達するまで、 漏水率の増加を放置することを選んだものもあった。   * チリにおける水道事業官民連携の経験  アジアにおける損失水の低減   アジアで最大、最古の 7 件のコンセッションについて無収水率低減の業績を図 3.12 に示した。アジア のコンセッション受託者の業績は非常に大きなばらつきがある。これは、委託開始当初に管網の状態が非 常に劣悪な場合、損失水の低減に成功するためには優れた技術のみならず、その更生工事のための投資 に要する資金を十分に調達することが強く求められるという事実を物語っている。 65  マカオのコンセッションは際立った業績を示しており、無収水率は僅か 12%である。一方、マニラ(フィ リピン)やジャカルタ(インドネシア)のコンセッションの場合、管網の状態があまりに劣悪だと事業者は 管路更生のための巨額の投資を行うことなしに損失水を大幅に低減することはできないことが示されてい る。ジャカルタの 2 件のコンセッションでは、資金調達の面で度重なる困難に見舞われ、およそ 10 年間 にわたる民間による事業実施後も損失水は下降しなかった。マニラ西部地区では、コンセッションが財務 面で健全に運営されることは一度もなく、契約が終了し別の民間コンソーシアムが受託するまで、徐々に破 綻に向かっていた。損失水は 10 年経っても高いままで推移した。これに対して、東部地区のコンセッショ ン受託者は無収水率を大幅に下降させることに成功した。ただし、進展が見られたのは 2002 年に財務上 の均衡状態を取り戻すため、料金体系の基本を見直した後である。その結果得られた収入増により、コン セッション受託者は漏水低減の大掛かりな計画に着手することができ、それにより無収水率は僅か 3 年間 で 51%から 30%に大きく減少した 。 (ナバロ 2007*)  * マニラの 2 件のコンセッションの経験 ケース・スタディ:給水人口と経営効率化に与えた衝撃 図 3.12 東南アジアにおける 7 件の官民連携事業の無収水率から見た損失水 出所:当局または企業のデータ 注 : 事業年数は( )内に示した。 損失水の低減についてのマネジメント契約の業績   図 3.13 は、 14 件のマネジメント契約について民間事業者の参入時と契約終了時の無収水率の水準を比 較したものである。 これらのプロジェクトを合わせた給水人口は 1,500 万人近くにのぼる(約 75%は途上 。無収水率の低減 国と移行国で、 マネジメント契約下で 3 年以上民間事業者が運営したものが選ばれた) についてのマネジメント契約の業績は、良くいってもまちまちである。データの集まった 14 件の契約のう ち、 それなりの低減が達成できたのは半分に満たない(ヨルダン川西岸ガザ市およびガザ、 コソボ、 ザンビ ア 。その 、 アルゼンチンのラリオハ地区、 ベネズエラ・ボリバル共和国のモナガス州、 ヨルダンのアンマン) 他の 5 件のケース(ガボン、 トリニダード、 ベネズエラ・ボリバル共和国のララ州、南アフリカ共和国のヨハ ネスブルグ、 ウガンダのカンパラ)では目立った変化は見られず、 3 件(チャド、 モザンビーク、 アルメニアの 66 エレバン)では無収水率は悪化した。   良好な結果が出なかったことは、 期間の短さやマネジメント契約に付随する限界を考えると、驚くには 当たらない。このようなやり方の場合、 物理的な漏水による損失(巨額の投資と何年にもわたる管網の修 繕が必要)の現状よりも営業上の損失(迅速な回収を行い、 投資は少額)に対処することに重点を置く。 結果が多様なのは、 恐らくそれぞれが直面している状況や各契約固有の計画が多様であることを反映する ものだろう。 図 3.13 14 件のマネジメント契約での無収水率から見た損失水  出所 : 各種資料に基づく著者の算定による(付録 A 参照) 注 : 事業年数は( )内に示した。  考慮すべき重要な要素は、 損失水と給水サービスの継続性の相関関係である。時間給水を行っている 配水システムで、 平均給水時間が徐々に増えている場合、 管網内の水圧は上昇しがちである。水圧が上が れば上がるほど新たな管の亀裂が生じ、 同時並行的に大掛かりな更生工事と管網内の水理条件の改善を 行わない限り、損失水は増加する。このような状況は、 事業者の業績を評価する際に実際の結果として現 れる。給水時間の継続性が改善されつつある中では、 無収水率の推移を示す指標が、 漏水を抑制するた めに管網の水理環境を改善しようと努力している実態を正確に捉えきれない 48。その点から考えると、本報 告で検討したマネジメント契約の多くがこのような状況、 すなわち時間給水という条件下から始まり、 給水 サービスの継続性を大きく改善させたということには重要な意味がある。ここで無収水率のデータを解釈 するのは難しい。   個々のプロジェクトについて詳細な状況を分析するのは本報告の範囲を超えているが、 個別のプロジェク 48 例えば、 断続給水の状態にある場合、 事業者は給水時間を減らすことで簡単に無収水率を下げることができる。 それによっ て平均水圧が下がり、 従って漏水量も減るからである。 給水時間数が増えれば管網内の平均水圧も上がるため、 給水時間が 増える条件下で無収水率が横ばいだったとしても、 それは事業者が漏水を抑え、 管網内の水理を改善するために積極的に行 動を起こしていることを示唆している。 67 トの無収水率の推移を分析することの複雑さが分かるいくつかのケースがある。   ヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)では、 無収水率低減の責任について複雑な契約の枠組みのもとで、 民間事業者と市が分担していた。 マネジメント契約において無収水率の水準に進展は見られなかったが、 実情を詳しく調べると、 殆どの管網で物理的な漏水率は 15%を示しており、 損失の最も大きな原因は非白 人居住地区に住む水道使用者(メータ検針をしない)が、膨大な量の水を無駄使いしていることだった。 官民の双方が契約の最後の 2 年間のみでこのデリケートな問題に取り組み、 契約は大きな成果を感じる前 に終了した 。 (マリン、マス、 パーマー 2009*)  * 企業化した公営水道の確立に民間事業者を活用   エレバン(アルメニア)のマネジメント契約では、 水道使用者への料金請求を使用水量の推定からメー タ検針へ移行させ、 連続給水の再開に注力するなど、 ある意味で大きな成果を挙げた。管網内の平均水 圧は上昇し、 料金請求額は 150%減少し、 結果として無収水率は大幅に上昇した。しかし、 損失水の低減 は優先度の高い項目ではなく、 このマネジメント契約では連続給水の再開が第一の目標だったのである。  アンマン(ヨルダン)のケースは特に重要である。 このマネジメント契約の優先事項の一つが損失水の 低減だったからである。事業は深刻な水不足に直面しており、 契約の実施に並行して、 ドナーによって資金 を調達した大規模な管網更生計画が実施されていた。投資計画の実施は損失水の低減に不可欠であるが、 これは政府機関の責任とされた。マネジメント契約の実施は、度重なる土木工事の遅れや契約の調整によっ て複雑に入り組んでいることが示された。ここから得られる重要な教訓は、 土木工事の実施と契約上の現 実的な目標について、 当事者間で円滑な調整が必要だということである 。 (コラム 3.5 参照) 料金徴収率の改善  料金徴収においては、 通常民間事業者の方が効率が上昇すると広く考えられている。理由は簡単で、 民 間事業者は営利を追求し、 料金徴収の成果は財務内容に直接的に影響するからである。料金徴収率は、 徴収の仕方を厳しくするか、 給水サービスのレベルを上げるかのいずれかの方法で改善することができる。 そのことが次第に水道使用者の料金支払い意欲を高めるからである。しかし、 料金徴収の動向を見ると、 どちらの方法がより効果的に働くかを判断するのは難しい。  民間事業者がどのくらい料金徴収率を上昇させることができるかは、 もちろん最初の水準にも左右される が、 それだけではなく文化や各国固有の問題にも影響される。例えばセネガルでは、 従来から水道料金を 支払うしっかりした基盤があり、 料金徴収率は民間事業者が引き継いだ時点で既に良好だった。それ以外 の地域では、 民間事業者は深く根付いた不払い(料金未納)の習慣に直面するか、 様々な法制上の障害に よって支払いの強化が妨害された。こうしたことにより、 進展を図るのは難しく、不払い(料金未納)の文 化は、 長い年月にわたって劣悪なサービスが続くことにつながり、 このような住民の姿勢を変えるには長い 時間が必要である。  ラテン・アメリカにおける料金徴収率の改善  ラテン・アメリカにおいては、官民連携のサンプル数が最も多く示されており、料金徴収についてのデー タも入手できるため、いくつかの国の違いを見ることができる。図 3.14 は、16 件の大型コンセッション、リー ス、完全民営化の案件(合計の給水人口は 2,800 万人)で、数年の民間による運営後に達成した料金徴 68 コラム 3.5  マネジメント契約と大規模更生工事を組み合わせて損失水の削減を図ったアンマン(ヨルダン)の事例  アンマンのマネジメント契約は、マネジメント契約において民間事業者がどの程度貢 献したかを評価することの難しさを物語っている。アンマンの配水管網をすべて更生する 大規模な投資プロジェクト(約 2 億 US ドル)において、官民連携は一つの要素に過ぎな かった。計画は、水理環境の悪いシステムから配水池を通じて自然流下方式で配水し、区 域の細部まで設計されたシステムへと移行することだった。マネジメント契約により経験 のある事業者が運営することで、大きな構造的変化がスムーズに図れるものと期待され、 給水サービスに混乱を来すことなく、新たなインフラから最大限に運営上のメリットを享 受できると考えられた。  市内では頻繁な時間給水が行われており(水道使用者に対する給水は一日平均 4 時間 未満だった)、損失水の低減は計画の最優先課題だった。しかし、それは政府が実施する 管網更生計画と民間事業者による運営改善の両方によって決まるものだった。この二重の 責任構造については、契約のもともとの草案で明確に確認されていなかった。そのうえ、 事業者はかなり無理のある目標を負わされており、しかも未達の場合即刻金銭的なペナル ティを課された。その目標は、最初の 1 年間で無収水率を 10%下げ、4 年間の契約の最 後には損失水を 25%までに低減させる(無収水率をほぼ半減)ことだった。  これには最初の段階から困難があった。土木工事の実施を担当した政府系機関の側に、 大幅な契約の遅れが生じたのである。実施段階でも、数多くの業者に複雑な調整が必要 だったことから、さらに遅れを発生させた。最初の 2 年間にぎりぎりの協議を重ねた結果、 民間事業者が契約上の無収水率目標を達成できなかった場合の責を負うことは不可能で あり、そもそも目標に無理があったという認識に達した。プロジェクトを監視する特別な 組織(ユニット)も編成され、連携事業のパートナーとして政府がよりうまく役割を果た せるよう支援した。  計画が進むにつれて、その他の問題も発生した。時間給水が徐々に減少すると、管 網内の平均水圧が上がり、漏水個所が急増したのである。事業者は、2004 年には 5 万 5,000 か所もの漏水を修繕しなければならなかった。契約が終了するまでに、自ら管延長 600km に及ぶ敷設替えを実施し、それは管網全体の 10%近くに昇った。マネジメント契 約は 2 度更新され、資本的支出の計画が 2006 年に終了するまで民間事業者が運営を継続 した。契約終了時までに、 無収水率は 51%から 42%に下降した。これは当初の目標には 遠く及ばないが、目覚ましい改善である。同時に、 平均給水時間は倍増したのである。  このケースから重要な教訓を引出すことができる。最終的には、 当事者同士が無収水率の 目標 25%は現実的でないと同意したにせよ、契約初期にこの問題に対する交渉で長時間を費 やしたため、さらに生産的な業務に注力することができなかった。事業者の業績を追跡しよ うとしても、政府の投資計画の実施がタイミングよく行われたかどうかに大きく依存したため、 それは困難だった。最終的に管網の水理環境が完全に作り替えられたことから、漏水を計測 する基準地点は、実際のところ絶えず変わっていた。このような状況下で、事業者の業績を 測定するうえで無収水率を唯一の契約上の指標として損失水を追跡し、厳しい金銭的なペナ ルティを課すことは、顧みて間違いだったといえる。   出所 : エル – ナッサー 2007*.   * アンマンにおけるマネジメント契約のケース・スタディ 69 収率の改善を示している。 (カンポグランデ、  業績は国によって大きく異なっている。ブラジル リメイラ、 カンポス、 マナウス、 ニテロイ、 トカンティンス)やコロンビア(バランキーア 、さらにラパス – エルアルト(ボリ 、カルタヘナ、モンテリア) 、 ビア)ガイヤキル(エクアドル)などのいく 僅か 2、 つかの官民連携事業では、 3 年で大きな進歩が見られた。 殆どの地域の公営事業で既に高い料金徴収率を達成しており、 チリでは、 以後も概ね約 97%で推移した(バ 。アルゼン ルパライソは中心地から離れていたため、民間事業者がかなりの成果を挙げることができた) 料金徴収率の改善について、 チンでは、 (2007*) コンセッション受託者の業績は思わしくなかった。ドウッチ によると、ブエノスアイレスでは僅かな改善が見られた(7 年間で 90%から 94%へ上昇)ものの、サンタフェ では変わらず(2001 年までに 80%のまま)だった。アルゼンチンのサルタ、ラリオハ、コリエンテ地域の コンセッション受託者も困難に直面していた。料金未納の場合でも給水停止をすることが許されていなかっ たからである 。 (イエペス 2007**) 図 3.14 ラテン・アメリカの官民連携事業における料金徴収率の改善 出所 : 各種資料に基づく著者の算定による(付録 A 参照)    特筆すべきは、大幅な改善を成就した官民連携事業において、その多くが数年間の民間による運営後、 なお料金徴収率が 90%未満、あるいは 80%未満という数字に留まっていることである。特に顕著なのが コロンビアで、上述の 3 件のケースで民間事業者はその他の面では非常に良好な業績を挙げている。こ れは、料金不払(料金未納)の文化を変えるのにいかに時間が掛かるかを物語っている。カルタヘナで成 功したケースでは、事業者は給水サービスの改善を 10 年継続してようやく 95%の料金徴収率に引き上げ ることができた。  * ラテン・アメリカにおける国際水道事業者  ** ラテン・アメリカの都市水道における官民連携 70 サハラ砂漠以南のアフリカの様々な水道使用者の分類における料金徴収  西アフリカにおける民間事業者の料金徴収の業績は、特異な状況を示している。家庭用水道使用者か らの料金徴収が全体の徴収率を大幅に上回ることが多かったが、これは政府系機関から料金を徴収でき ないことが多かったためである。  民間事業者の中には、各地域で家庭用水道使用者からの料金徴収において良好な成果を挙げたものも ある。セネガルでは、公営事業の管理下で既に家庭用水道使用者による料金徴収率は 98%に達していた が、民間による管理でもこの水準を維持した。ニジェールでは、2001 年にアフェルマージュ契約が開始さ れた時点で 93%だったが、2006 年には 97%に上昇した。家庭用水道使用者の徴収率の改善はコートジ ボアールとガボンでも達成された。官民連携事業で業績が思わしくなかったのは僅かである。ギニアでは、 徴収率は約 60%のままだった。また、 10 年にわたる民間による運営の間に改善が見られず、 ダルエスサラー ム(タンザニア)は、民間事業者が事業を引き継いだ後、家庭用水道使用者の料金徴収率が低下するとい う稀なケー (この契約は 2 年目に解除となった。 スだった。 )  高い徴収率を達成したいくつかのケースを見ると、これはその国において、都市で戸別接続によって水 道を引いているのが裕福な世帯に限られているという事実に関係していると思われる。最貧層の世帯は公 共共同給水栓を使用するか、近隣から水を買う方法をとっており、従って月次の水道料金の請求を受けて いない。セネガルの実例はこの状況をよく表している。セネガルは、大規模な接続助成計画の実施により、 (2006 年で 79%) 地域の中で戸別接続の比率が最も高い 。家庭用水道使用者からの徴収率が高いことで、 近年の給水停止比率が 10 〜 15%であるという事実が見えなくなっている。これはつまり、実際には接続 助成計画の恩恵を受けた貧困層のかなりの部分がどこかの時点で給水停止に追い込まれたことを示してい る 。同様の現象はコートジボアールでも確認された。 (このような世帯の殆どが近隣から水を買っている)  サハラ砂漠以南のアフリカですべての水道の官民連携事業における深刻な問題は、公共施設や政府系 機関の料金徴収が非常に困難なことである。これは通常、地域の水道事業のかなりの割合を占めており、 官公署の料金支払いが不安定なことは各所で起こっており、セネガルなど以前に官民連携がうまくいったと ころですら同様だった。民間事業者は、最終的には官(契約上のパートナー)から料金を強力に徴収する 力が与えられておらず、ドナーは定期的に介入して政府に契約上の義務を守るよう要請しなければならな かった。そして、問題を徐々に解決していくために、特別なメカニズムが開発された。セネガルでは、公 共機関の料金不払いの場合、事業者は直接財務省に訴えかけ、そこから直接介入してもらうことができる ようになった。ニジェールでは、先払いのシステムを導入し、すべての公共機関の月次請求の見積に基づ いて財務省が毎月料金を支払い、年末に金額を調整した。  南アフリカ共和国は特別な状況を示している。アパルトヘイト時代に、水道 ・ 電力 ・ ガス事業など の料金請求に対する不払いは非白人居住区で市民の抵抗活動の一環として広く行われ、それが普通の ことになっていた。 このような行動はアパルトヘイトが終わっても続き、すべての水道事業が影響を 受け、簡単には変えられない状況だった。社会的に微妙な問題であるため、リース契約(クイーンズ タウンやスタッターハイムなど)では、料金徴収の責任を地方自治体に残すという特殊な取り扱いが なされた。コンセッションについては、ネルスプロイトに最大規模の事業があったが、料金徴収で大 きな問題に直面し、徴収率は 30%未満に低下した。一方、ドルフィンコーストでは 4 年間で 75%か 。 ら 97%まで上昇し、成果を挙げた(パーマー 2003*)  * 南アフリカにおける水道官民連携と貧困者に対する影響 71 多くのマネジメント契約下の料金徴収率の改善   多くのマネジメント契約で、料金徴収の改善は良好な成果を挙げた。水道使用者への請求書は公営事 業から発行されていたが、政府と民間事業者の間で料金徴収についての責任の分担は契約に基づき多様 だった。データが入手できた 15 件のマネジメント契約について、民間事業者の参入前後の料金徴収率の 比較を図 3.15 に示した。料金徴収は、マネジメント契約が最も継続的に効果を挙げた側面であると思わ れる。報告されたすべてのマネジメント契約において、比較的短い期間でかなりの改善が実現できた。こ のような改善は、多くの場合給水サービスのレベルの改善に付随しており(連続給水や水道使用者サービ 、アルバニア ス) 、ガザ市 、ザンビア (ヨルダン川西岸とガザ) 、アンマン 、カンパラ (ヨルダン) 、 (ウガンダ) ラリオハ 、エレバン (アルゼンチン) (アルメニア)などにその例が見られる。しかし、ガイアナやトリニダー ドのように料金徴収率は上昇したものの、給水サービスに客観的な改善が見られないケースもあった。こ れは、改善の理由が料金徴収のより厳しい実施にあることを示唆している。 図 3.15 15 件のマネジメント契約での料金徴収率の改善 出所 : 各種資料に基づく著者の算定による (付録 A 参照) 注 : 事業年数は( )内に示した。ガザ市については 2000 年までのデータによる。  ガザ市とアンマンでは、料金徴収の厳格な実施、徹底的な教育キャンペーン、事業者と当局の協力、段 階的かつ大幅な給水サービスの改善を合わせて行うことによって著しく改善された。アンマンでは官民連 携開始当初の料金徴収率は 83%だった。最初の 2 年間は厳しい徴収政策によって改善が見られ、その後 も時間給水の減少や給水サービスの改善につれて徴収率は上昇し続け、7 年間の民間による運営後、契 約は 2006 年に終了し、その時点の徴収率は 97%になった 。ガザ市では、料金 (エル - ナッサー 2007*) 徴収率が 1996 年の 63%から 2000 年には 78%に上昇した。しかし、2000 年にガザ市全体の状況が悪 72 化し、2001 年以降は料金徴収の政策を実施することが難しくなった。マネジメント契約が終了した際の徴 収率は 53%で、事業を引き継いだ時よりも悪くなった 。最も目覚ま (ジェミアン、アル - ジャマル 2004**) しい成果があったのはエレバンである。徴収率は 5 年間で 20%未満から 80%に上昇した。これは、事 業者と政府の緊密な協力と共にそれに並行して給水サービスに相当な改善があったことによるものである 。 (コラム 3.6)  * アンマン上下水道サービスにおけるマネジメント契約:ケース・スタデイ  ** ガザにおける NRW コラム 3.6  マネジメント契約 : エレバン、アルメニアにおける料金徴収率の目覚ましい改善  エレバンのマネジメント契約は、給水サービスの改善と料金徴収率との関連、および政府 が適切な政策への取り組みを通して民間事業者を支援することの必要性を物語っている。当 初の料金徴収率は 19%と非常に低かった。支払いを督促する初期の取り組みによって徴収率 2002年までは50%を超える水道料金が徴収できなかった。 に若干の改善をもたらしたものの、  水道使用者の反応が変化し、料金徴収率が改善されたのは、政府が法令を定め 、 (2002 年) 事業者が料金未納者への接続を切断する(給水停止)ことを認め、さらに戸別メータを設置 した水道使用者に対し、部分的な料金免除を認める法律を通過させたことによる。多くの世 帯がメータの設置を受け入れ、未納料金の分割払いを交渉した。これにより 2003 年には徴収 率が急上昇し、給水時間の延長が市内の大部分の地域で徐々に実現するにつれ、徴収率も上 昇した。また、これを補うものとして、教育キャンペーンや集合住宅の漏水修繕などの活動が 行われた。このような活動の結果は注目に値する。マネジメント契約終了時の徴収率は 80% に上昇し、官民連携以前の 4 倍の水準に達した。これは、住民の姿勢に大きな変化が起きた ことを反映しており、上下水道事業の価値について真の意味で住民の認識に変化が起きたと いえる。 出所:ムガビ、マリン (2008) 世界銀行プロジェクト報告書  73 生産性と労働力の問題  労働力の問題は水道の官民連携事業において重要な要素であり、水道事業への民間参入に反対する人々 は従業員数の減少を大きな懸念材料としてきた。アンドレ、グアッシュ他(2008*)による報告とガッシュ ナー、ポポフ、プシャク(2008a**)による報告では、民間水道事業者を参加させた場合、通常従業員数 労働生産性は上昇すると認めている。 は減り、 ここにジレンマが生ずる。 政府もドナー 従業員は資産であり、 も人員削減に伴う社会問題を無視することはできない。しかし、人件費は事業コストの大きな要素でもあ り、事業運営には官民を問わず生産性を無視することはできない。さらに、官から民への業務の移行(シ フト)は職場の文化に大きな変化をもたらすことが多く、従業員数や給与水準、業務遂行能力、就業規則、 昇進基準などに影響を及ぼす。より良質で効率的な給水サービスを提供するために、能力の低い、または 能力のない人員をより優れた人員に交代させることの必要性は高く、余剰人員の発生は避けられない。  * ラテン・アメリカのインフラにおける民営化の挑戦と成果  ** 官民連携は電力と水道の業績を改善したか 民間事業者、労働生産性、従業員数の水準 労働生産性比率− 1,000 給水接続数当たりの従業員数として算定される−の推移について、17 件の長期 官民連携プロジェクトに関し民間事業者が運営を引き継いだ時点から検討した 。殆どの民間事 (図 3.16) 業者で労働生産性比率は大幅に向上した。これは多くの場合、従業員数の削減と給水区域の拡大による 水道使用者の増加が組み合わされたことによる。 生産性比率が当初から良好だったチリ、 当然のことながら、 バランキーア 、ガイヤキル (コロンビア) 、サルタ (エクアドル) (アルゼンチン)などではそれほどの伸びは 認められなかった。 図 3.16 17 件の大型官民連携事業での労働生産比率の推移 出所 : 公表データまたはコンサルタントの報告に基づく著者の算定による (付録 A 参照) 注 : 数値は官民連携事業の 1 年目と入手できたデータの最終年、また、10 年超継続している事業は 1 年目と 10 年目のデータを比較した。 1 年目の労働生産比率は、民間事業者が引き継いだ時点を示している。契約締結以前に大規模な従業員の削減を行っていたケースもあ る(ブエノスアイレス、ガイヤキル、マニラなど) 。カサブランカの数値は水道と電力の双方の人員を含む。   ESSBIO (Empresa de Servicious Sanitarios del Bio Bio) は、チリの水道事業。 74  中には、水道の官民連携への移行に備える過程で、政府によって事前に人員削減が行われたケースも数 件あった。これは、民間事業者から見て官民連携がより魅力的に映るようにしたものである。特に、明ら かな人員過剰の場合、民間事業者はこのことが社会的に微妙な問題であるため、直接対処したがらない。 このような人員削減の数は、図 3.16 には含まれていない。  官民連携プロセスの結果として起こった状況をより全体的に示すのが図 3.17 で、ラテン・アメリカにおけ る 10 件の大型官民連携事業によって削減された総人員数を表している。この図では、契約前の 12 か月 間に政府が主導した人員削減と、移行後の 1 年間(2 年間の場合もある)に民間事業者が直接行った削 減を合計した数値が示されている。報告されたケースで少なくとも 2,3 件について、労働組合が有利な退 職金を取り決めている(チリ、ブエノスアイレス 、ガイヤキル 〈アルゼンチン〉 ) 〈エクアドル〉。 図 3.17 ラテン・アメリカにおける 10 件の大型官民連携事業による従業員数の減少 出所 : 各種資料に基づく著者の算定による (付録 A 参照) 注:ESSBIO (Empresa de Servicious Sanitarios del Bio Bio) は、チリの水道事業。  図 3.17 により数件の水道の官民連携事業で、初期に大規模な従業員の削減が行われたことが確認でき る。報告された事例では、人員削減はサルタ 、バランキーア (アルゼンチン) 、サンチャゴ (コロンビア) (チ リ)の 25%からカルタヘナ(コロンビア)の 65%の範囲に及んでいる。こうした削減は、政治的な介入や 恩顧主義によってもたらされた余剰人員を調整する意味で、十分に正当化されている。人員削減の規模が 様々であるのは、改革前にどの位の余剰人員がいたかによるものである。カルタヘナでは、労働生産性は 1994 年に 1,000 給水接続数当たり従業員 15 名という大きな数値で、2 / 3 は余剰人員だった。ブエノ スアイレスでは国営事業の全国衛生公社(OSN)は 8,000 名の従業員を抱えており、労働生産性比率は 1,000 給水接続数当たり 9 名相当で、業務の実施状況も悪いことで知られていた(イデロヴィッチ、リン 。バランキーアは状況が異なり、官民連携以前の 5 年間に、公営事業のもとで段階的 グスコーグ 1995*) 75 に大量の人員削減が行われた。労働生産性比率は、1996 年で 1,000 給水接続数当たり従業員 5.5 名で ほぼ妥当な水準であったため、官民連携が進行する間に行われた必要な人員削減の規模はそれほど多くな かった。しかし、チリでは民間事業者が引き継いだ時点で既に労働生産性は十分な水準だったにも関わら ず、大規模な従業員の削減が行われた。  * ラテン・アメリカにおける上下水道の官民連携 : その方向と発展  注目すべきは報告された官民連携事業において最初に従業員数が調整された後、従業員数は大抵増え るか横ばいを示していることである。このような結果が起こった理由の一部は、当初の削減後に適切な能 力を有する要員を雇い入れているためであり、また一部では官民連携事業によってこれまで行き渡ってい なかった水道使用者に給水が普及したためである。水道使用者数が拡大するにつれ、さらに人員削減の 方策を採らなくても生産性を上げることができるようになった。ブエノスアイレスでは、当初従業員が急激 に減少し、その後最初の 4 年間で合わせて450 名が増員された。同様な状況は急激な給水区域の拡大に 伴い、ガイヤキルでも見られた 。 (最初の 5 年間で接続数が 65%上昇したことになる)  実際には、従業員の削減は殆どラテン・アメリカに集中していたが、マニラ(フィリピン)でも 40%削減 された。その他の地域では、多くのプロジェクトで自然減によって徐々に余剰人員は削減された。これは、 サハラ砂漠以南のアフリカの数件の官民連携事業でも起こった。セネガルとガボンでは、削減率は緩やか で10 年間にそれぞれ15%と10%に過ぎなかった。 従業員数には全く影響が及ばなかった。 ニジェールでは、 マプート、カサブランカ、ジャカルタでもそれほど大幅な削減はなく、数年後、削減率は 20%未満だった。  再委託の問題は注目する必要がある。民間事業者は可能な限り再委託業者を活用する傾向がある。そ のほうが労働力に柔軟に対応できるからである。しかし、再委託によって官民連携事業が実際の雇用に与 えた影響を評価するのは難しくなる。事業の内部で失われた職を再委託によって一部相殺してしまう可能 性があるからである。例えばチリでは、民間事業者への移行に伴い再委託業者に対する依存度が増えた。 国の行政当局は最近になって水道事業による再委託のデータ収集を開始した。それによると、2006 年、 チリの民間事業では、直接雇用よりも再委託業者を通じて雇用した従業員のほうが多いことが判明した。 例えば、サンチャゴの首都圏衛生公社(EMOS)には 1,100 名の直接雇用の従業員がいるが、それに加え て再委託業者による従業員が1,500 名相当存在する。事業が民間セクターに移行した時期の再委託のデー チリの従業員削減 タは存在しないものの、 (地域の事業合計で 1998 年に 6,600 名から 2006 年には 4,500 名)は少なくとも一部再委託業者による雇用を増加させることによって相殺されたと考えられる(ドウッチ、 。 メデル 2007*)  * チリにおける水道事業の官民連携の経験 給与と労働条件に関する官民連携の影響  労働に関する官民連携事業の影響は労働生産性や従業員数のレベルを超えた問題である。水道事業は 水道使用者に対して給水サービスを提供する事業であるため、従業員は確かにコストではあるものの必要 不可欠な資産でもある。水道使用者に優れたサービスを提供するには、現実に不満を持った労働力では不 可能である。  民間事業者が人件費に与える影響−人員数や生産性の比率だけを見るのではなく、人件費の推移にも着 目する−は発表されている調査報告の中で分析されていない。本報告では、平均給与の推移について僅か 76 なデータを集めるに留まった。ニジェール、カサブランカ 、マニラ (モロッコ) (フィリピン)についての付 随的なデータによると民間の運営により上昇した可能性も示唆されるが、コートジボアールでは官民連携 における平均給与は 15 年間で実質 25%低下したとしている 49。この重要な問題についてはさらに調査を進 める必要がある。  マネジメント契約における労働の側面   マネジメント契約では、他の官民連携方式と違い、事業に携わる従業員は公務員の地位を維持する。 日常の運営は民間事業者が行うが、基本的に従業員の数や採用、解雇、給与、昇進などに関する権限は、 助言的な役割を除いて民間事業者に殆どないか、全くない。 しかし、マネジメント契約が通常広範囲な改 革の一環として、公営分野の業績を向上させるために実施されるため、民間事業者が余剰人員に対応しな ければならないことがよくある。  マネジメント契約における水道事業の人員数の推移は極めて多様である。アンタルヤ(トルコ ; 従業員 数 500 名から 200 名に削減)やアンマン(ヨルダン ; 1,600 名から 1,400 名に削減)のように、希望によ り他の政府機関や地方自治体内の他部門に配置転換することによって人員を減らしたケースもあり、ヨハ ネスブルグ 、カンパラ (南アフリカ共和国) 、ララおよびモナガス (ウガンダ) (ベネズエラ・ボリバル共和 国)のように従業員数は全般に変わらないところもあった。またその他のケー エレバン スでは、 (アルメニア) やザンビアのように従業員数が大幅に増えたところもあった。  マネジメント契約において、民間事業者が人事面で最も大きく貢献した点は、専門ノウハウの移転と企 業文化の変革だった。この貢献を数値で把握するのは困難であるが、給水サービスのレベルと経営効率を 継続的に改善していくうえで重要な役割を担った。これは、公表されている文献では殆ど言及されていない が、本報告の一部として作成されたヨハネスブルグのマネジメント契約(マリーン、マス、パーマー 2009*) のケーススタディで報告されている 。 (コラム 3.7)  * 企業化された公営水道に民間事業者を−ヨハネスブルグ水道へのマネジメント契約 官民連携と経営効率についての結論  先の議論で、民間事業者が水道事業の効率化において、損失水の低減、料金徴収、労働生産性の 3 要素を効果的に改善した数多くのケースを引用した。本報告で効率性を測定した方法は間接的で完璧とは いえないが、それでも検討した文献やケーススタディからいくつかの適切な結論を導くことができる。  コンセッション事業者の経営効率   コンセッションにおける民間事業者の経営効率を分析することは、投資と運営が相互に影響し合うため 難しい。 公表されている文献中にこの点を証明するものは限定されれており、内容も分かれている。チリ においては、ビトランとヴァレンツィア(2003*)が、民間事業者の参入後最初の 2 年間で経営効率が大 幅に改善されたと報告している。アルゼンチンについては、エスタッシェとチュルーロ(2003**)が全要 49 ニジェールのアフェルマージュでは、 民間事業者が初年度に 20%の給与引き上げを行った。 カサブランカでは、 事業者が現 場作業者の給与は同様の職種の国内平均の倍額で、 監督者はそれより 60%高い額と報告した。 マニラでは、 公営事業の給与 の 3 倍である(ナヴァロ 2007)。 コートジボアールでは、 平均給与は 25%下がり、 その一方で給水量 1㎥当たりの人件費 は半分になった。 効率化によって削減された分の大半が水道使用者に還元され、 水道料金は 35%下降した。 77 素生産性の手法を用いて、ブエノスアイレスとサルタで大幅な効率改善が見られたと結論付けている 50 が、 カサリン、デルフィノ(2007***)は、ブエノスアイレスにおける効率の改善は大半が最初の人員整理によ るものとみている。アルゼンチンについては、コンセッションのために整備された規制方針が不十分で、 全体の効率改善を促進するものではなかったと複数者が強調している 51。  *  チリにおける水道サービス : 官民連携の比較  **  ラテン・アメリカのプライスキャップ、効率性、報酬、インフラ契約に関する再協議  *** 水道改革の失敗から学ぶ:ブエノスアイレス・コンセッションの教訓   コラム 3.7 マネジメント契約を水道事業の企業再編成を完成させるために活用 ヨハネスブルグ(南アフ リカ共和国)の例   2000 年以前、ヨハネスブルグの上下水道事業の担当は、地方自治体の中で六つの別々の 部門に分かれていた。地域別の 4 部門が配水と下水管網を担当し(四つの地方行政区画に 、1 部門が下水処理場の運転を担当した。水道使用者サービス、収入管理、資材調達、 対応) 財務に関するすべての事項は地方自治体の中央部門が直接取り扱った。このようなバラバ ラな構造によって、責任が希薄となる 「縦割り思考」 が生まれ、水道使用者へのサービスは極 めて低劣だった。この状況を打破するために、2000 年にヨハネスブルグ ・ ウォター社が設立 され、上下水道事業を担当する新たな公営企業となった。5 年間のマネジメント契約に民間事 業者を導入した根拠は、ヨハネスブルグ ・ ウォター社を存続可能で効率的な水道事業として成 立させるためだった。  民間事業者の主な業務は、新たに統合した事業を整理し、適切な業務手順でこれを実施し、 従業員を教育することだった。単に新たな組織図を設計することが目標ではなく、最も重要 なのは、給水サービスと経営効率を重視した新たな企業文化を導入することだった。これは、 それまで古いお役所的な文化の下で働いていた従業員にとって大きな試練だった。こうした変 革の実施は、時間をかけて徐々に進めるプロセスであり、事業者側の従業員による指導が重 要な役割を果たす。変化を育てるために多くの方法が取られたが、そのうちの一つは、ライン 管理者に日常業務の中で使用者への給水サービスのレベルを高め、効率を向上するような業 務を主導する権限を与えたことである。マネジメント契約の期間に従業員の平均給与は実質 23%上がった。企業文化の変革と並行して、新たな世代の管理者や専門家を昇格させるため に多大な努力が払われた。マネジメント契約の期間に実施された 693 件の昇格は、大半がア パルトヘイトの時代に差別を受けてきたグループに属する従業員に対するものであった。従業 (1999 年 2,500 名から 2006 年に 2,600 名に増加) 員数はほぼ変わらなかったが、 、945 名の 技能を持った従業員がマネジメント契約の間に雇用されたが、これもまた以前不利益を受け ていた人々が多かった。  出所 : マリーン、マス、パーマー 2009*.  * ヨハネスブルグにおけるマネジメント契約 50 合理的な推定ができるだけの十分なデータがあったのは、 2 件のケースのみだった。 著者らは、 年平均 2%の上昇は概算で あり、 恐らくもっと高い数値であろうと示唆している。 51 ブエノスアイレスについては、 サロンズ、ジュラヴェルヴ(2007)参照、 サルタ、 コリエンテ、 ラリオハの地域コンセッショ ンについてはイエペス(2007)参照のこと。 78  マニラ(フィリピン)では、1997 年から 2002 年の間に行われた 2 件のコンセッションについて、規制 52 当局が海外の専門家の支援を得て詳細な経営効率の評価を行った。 その評価で東部地区のコンセッショ ン受託者(マニラ ・ ウォター)は当初提案した効率化のレベルに達していたことが分かった。しかし、大幅 なコスト削減が達成されたにも関わらず、売上は予測を下回り、財政上の均衡に影響を与えた。西部地区 のコンセッションの結果は異なり、当初提案の効率化は達成されず、これが破綻に至った一つの理由でも ある 53。  本報告では、コンセッション受託者の投資に対する効率性に焦点を当てていない 54。経営効率について 検討したデータは、多少の違いはあるもののコンセッション受託者は効率全般にプラスの影響を与えてい ることが示されている。コロンビアでは、分析によると数件のコンセッション(特にバランキーアとモンテリ ア)で 3 個の業績指標において大幅な進展が見られた。ラパス - エルアルト(ボリビア)のコンセッション でも同様で、これは国の行政当局である衛生監督庁(SISAB)により、常に国内で最も業績の高い大型水 道事業とランク付けされていた。また、マカオ(中国)とリメイラ(ブラジル)のコンセッション受託者は、 先進国で好業績の水道事業に匹敵するほどの効率化を達成した。 コンセッ これに対してアルゼンチンでは、 ション受託者の料金徴収の業績は思わしくなく、水道使用者のメータ設置率が低いことから損失水の推移 を評価することは難しかった。ガイヤキル(エクアドル)では、事業者は料金徴収率を大幅に改善したが、 損失水ではそれほどの進展が見られなかった。マニラでは、東部地区のコンセッション受託者が効率化の 点で高い業績を挙げたものの、西部地区のコンセッション受託者は成果を挙げられなかった。多くのケー スで 3 個の指標すべてのデータを入手することはできなかった。  、セネガル リース ・ アフェルマージュ契約における効率化向上の証拠 : カルタヘナ(コロンビア)  カルタヘナ(コロンビア)で地方自治体とのリース契約のもとで運営していた共同所有会社とセネガルの アフェルマージュについては詳細なデータが入手できた。いずれも、経営効率全般の向上が認められ、民 間事業者が良好に運営を図ったことを物語っている 。この分析では簡易な手法を用い、運 (図 3.18 参照) 営比率(料金収入と事業費の比)と料金水準の平均の推移を比較した 55。運営比率は本質的に事業費と料 金徴収率の推移(民間事業者によってコントロールされる)および料金の平均の推移(外部要因)という 二つの要因によって左右される。運営比率の伸びが料金の上昇を上回った場合、効率は向上する 56。   本章で前述した通り、官民連携事業では調査を行った 3 個の主な指標(損失水の水準、料金徴収率、 労働生産性)で大幅な改善を達成した。 このような改善は、図 3.18 に見られるように、10 年にわたり事 業費に対する料金収入の比率が向上したことに見てとることができる。 カルタヘナでは、当初の財務状況 52 この評価は、 実際の事業費を入札時に提出した財務予測と比較し、 投入価格と数量の変化によって調整する方法に基づいて 行われた。   53 より重要な要素として考えられるのが、 1996 年から 1997 年のアジアの金融危機によるペソの切り下げである。 これにより 以前の公営事業者が負い、 大半が西部地区のコンセッションに譲渡された債務の金利負担が急上昇した。 54 原則として、 コンセッション受託者は財務的なインセンティブがあるため、 経営効率、 給水サービスのレベル、 普及率に影 響を与えつつ効率的な投資を選択するものと期待されており、 また、 タイミング良くコスト効率の高い投資を行うものと考 えられていた。 しかし、 土木工事をコンセッション受託者に関連する企業に委託するある種の慣習に懸念が示されている。 55 この収支比率の定義は、 各年に実際に徴収した料金収入の額を使用しており、 発生主義会計で一般的に使用されている定義 とは若干異なる。 56 この簡易な手法は効率化の状況を明確に表してはいるものの、あらゆる状況に当てはまる訳ではない。収支比率の伸びが実 質料金水準の平均の伸びを上回ったとしても効率化が全く起こらなかったという意味ではない。特に当初の料金が完全費用 回収に遠く及ばない水準であったり、料金の大部分が投資の資金調達に充てられたりした場合は状況が異なる。 79 がセネガルより遥かに悪かったために、伸びも大きかった。どちらのケースでも実質上の平均料金が下がっ たことから、削減分の大半が使用者に還元されたことが示唆される。その他のサハラ砂漠以南のアフリカ におけるアフェルマージュ契約のデータを見ると様相は様々である。コートジボアールの国営水道事業の 経営効率は、先進国の最も優良な事業に並ぶ水準に達し、近年の社会不安にあっても業績の回復は極め て早かった。ニジェールでは、セネガルと同様のインセンティブを含めた契約の設計が行われ、初期にか なりの改善が見られた。これに対して、ギニアの業績は初期に改善があったものの全体的に思わしくなく、 マプート(モザンビーク)では官民連携の実施に影響するような問題が多数発生した。特に、管路更生計 画の実施が遅れたことで、今のところ経営効率の改善は殆ど実現できていない。 図 3.18 カルタヘナ 、セネガルのリース・アフェルマージュの効率改善 (コロンビア) (a) カルタヘナ(コロンビア) (b) セネガル 出所 : 著者の算定による 注:料金指標は、官民連携事業開始時の水準を 100%とした、実質上の(インフレ調整済み)平均料金水準の推移を示している。 図 3.19 12 件のマネジメント契約における全体効率指標の改善 出所 : 各種資料に基づく著者の算定による(付録 A 参照) 注:効率は、料金徴収が行われた水量を配水量で除して算定した。 事業年数は( )内に示した。 80 マネジメント契約における経営効率の影響   マネジメント契約のもとでは民間事業者が経営効率に与える影響を評価するのは困難である。民間事 業者は個々の契約の設計に従い、一般的に事業費を管理できる範囲は限られている。調査したすべてのマ ネジメント契約において要員配置と給与水準の責任は政府が維持していた。  全体効率指標(料金徴収が行われた水量を配水量で除した値 *)の推移 は図 3.19 に示した通りである。 この比率は本章で既に検討した 2 個の指標−無収水率と料金徴収率−を組み合わせたものである。この 図では、無収水率と料金徴収率のデータが入手できた 12 件のマネジメント契約について水道事業の包括 効率指標を民間事業者の参入以前と契約終了時の値とで比較分析した 57。  この 12 件はマネジメント契約の設計が大きく異なっていたにも関わらず、ある一定のパターンが現れて 正味効率指標にかなりの改善が見られ、 いる。10 件で民間の運営により、 多くは 10%から 20%の範囲だっ た。モザンビーク(ベイラ、その他の都市)とカンパラ(ウガンダ)でも、程度は小さいものの向上が見ら れた。すべてのケースにおいて、このような効率の改善が大きな要因となって事業に関わる財務状況が好 転した。  マネジメント契約における経営効率の推移を見るうえで、リース・アフェルマージュ契約で使用した手法 を適用することもできる。それは運営比率の推移を実質上の平均料金の推移との対比で分析する方法であ る。図 3.20 はアンマン(ヨルダン)とヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)の例を示している。この 2 例 については本報告の一部として詳細なデータを入手することができ、かなりの改善が達成されていた。  図 3.20 アンマン 、ヨハネスブルグ (ヨルダン) (南アフリカ)のマネジメント契約での効率改善例 (a) アンマン、ヨルダン (b) ヨハネスブルグ、南アフリカ 出所 : 著者の算定による 注:料金指標は、官民連携事業開始時の水準を 100%とした、実質上の(インフレ調整済み)平均料金水準の推移を示している。  アンマンでは、5 年間の民間による運営で全体効率指標が 16%向上した。その要因は、無収水率 の削減と料金徴収率の向上の両方が実現できたことによる。事業費のその他の部分にも改善が見られ た結果、マネジメント契約は財務面で大規模な事業建て直しに成功した。大アンマン行政区水道事業 は、2000 年と 2001 年の赤字の状況から、2005 年には 16%、2007 年には 23%の黒字に転換した。 57 この分析では、全体の改善率が低く見積もられている。薬品や電力使用など、経営効率を改善し得るその他の側面を捕捉し ていないからである。 81 このマネジメント契約は、同時並行して政府による巨額の資本投下計画が実施されていた。すなわち、 プロジェクトの成功は官民双方の当事者が何を行おうとするかに掛っていることをこのケースは明ら かに示している。  * NRW の場合、配水量と料金請求水量の差を比較したが、本指標(全体効率指標)では配水量と実際の料金徴    収水量とを比較しており、効率を比べるうえでより厳格な指標といえる(訳者注)  ヨハネスブルグでは、マネジメント契約が経営効率と資金力に与えた影響は極めて良好だった。事 業は、2001 年にキャッシュフローがマイナスだったが、2004 年にはプラスに転じ、マネジメント契 約の最終年である 2006 年には純利益で黒字を計上した。契約の最後の 2 年間、独立国営協議会(An Independent National Panel)はヨハネスブルグ ・ ウォター社を南アフリカ共和国の大都市の水道事業 の中で、最良の業績を残した事業と位置付けた。民間による運営が、経営効率の様々な側面にどのよ うな影響を与えたかを財務面から詳細に分析した調査では、無収水率の水準は変わらず、人件費は上 昇し、新たな環境基準に適合するため追加的な費用(汚泥処理など)が発生したと報告している。改 善の主な要因は料金徴収率の上昇であり、その次に下水処理場で電力や薬品の使用を効率化したこと 。 が考えられる(マリーン、マス、パーマー 2009*)  * 企業化された公営水道事業に民間事業者を活用   5) 水道料金  料金水準は、これまで見てきた 3 個の業績の側面と同様には語ることができない。普及率、給水サービ スのレベル、経営効率などの場合に「向上 ・ 改善」を定義するのは簡単だが、料金水準を判断するのは難 しい。なぜなら、これは政府が策定する料金政策や投資資金がどのように調達されるかによって大きく左 右されるからである。さらに、様々な水道使用者の分類がある中で料金が統一されていることは殆どない ため、それが複雑な要素として加わる。  水道料金が低廉だと一見貧困層が水道に近づき易いと考えがちだが、実際の途上国における経験に照 らすと、既に接続している中流階級がメリットを受ける場合が殆どである 。料金を (コミヴズ他、2005**) コスト回収のレベルより低く設定した場合、理論的には定期的な政府移転支出によってそれを補填し、各 水道事業は、それによって生じた資金の一部を事業費や管路の更生、投資に振り向けることが考えられる。 しかし実際にそうできることは稀であって、その理由は、予算上の決定は政治によって覆されることがある からである。結果として、途上国の水道事業の多くは、都市周辺に住む貧困世帯に向けて管網を拡張し、 給水を普及させるために必要な資源を十分に得ることができない。多くのケースで、低廉な水道料金はま だ接続のない都市の貧困層にとってマイナスに働く。事業が財政的に不健全だと貧困層へ接続を拡大する ための投資に資金を投下することができず、結局住民は不衛生な水を使用し続けるか、もっと高い料金で 水を入手するしか他に手段がなくなってしまうからである。  ** 水道、電力と貧困者:公的補助によって利益を得るものは誰か    この問題の核心は、水道料金を低額にすることが必ずしも良いとは限らないことにある。良いサービス には、究極のところ費用が掛かるからである。給水サービスのレベルや給水普及率が低く、水道料金が低 すぎて費用をまかなえず継続的なサービスも続けられない場合、民間事業者が参入したか否かに関わらず、 82 料金の値上げは事業改革に不可欠な要素である。官民連携に関連して料金値上げが起こった場合、それ は必ずしも民間事業者が原因というわけではない。それは、ガイアナのマネジメント契約の例がよく物語っ ている 。 (コラム 3.8)  調査した官民連携事業における料金の変化を詳細に分析するのは、本報告の範囲を超えるものと思わ れる。以下に述べる議論は、より一般的なレベルで料金水準に影響する重要な事実とそれが官民連携の 状況の中でどのような役割を果たすのかについて、主要なプロジェクトから得たデータを適宜用いて、ポイ ントを示しながら概略を示した。  コラム 3.8 ガイアナにおいて官民連携を導入した際の水道料金の値上げ   ガイアナの官民連携は、民間事業者の参入と料金値上げを関連付けることが、なぜ誤 りにつながるかをよく表した事例である。マネジメント契約は 2003 年の 1 月に始まり、 2003 年 3 月に政府により 37%の値上げが認められた。表面的には民間の関与と値上げが 関連しているように見えたが、実際は水道事業はその時、破綻状態だった。料金収入では 運転管理(O&M)費用がまかなえず、国営の電力事業への電力費も払えなかった。政府 は電力事業への滞納料金を徴収しないことで水道事業への補助金とし、毎年予算の移転に よって従業員や供給業者への支払いが行われていた。37%の値上げをもってしてもすべ ての運転管理費用をまかなうには程遠く、最初の一歩に過ぎなかった。つまり料金値上 げは、民間事業者への委託を含め、事業を財政的に存続可能にするための大きな計画の 1 要素に過ぎなかった。  2003 年にマネジメント契約が開始されたとき、ガイアナで水道を使用できる住民は 45%であり、従って管網に接続していない殆どの貧困層は、この巨額の補助金による料 金の恩恵を受けていなかった。その点では、管網に接続していた水道使用者も恩恵を受け ていたとはいえない。なぜなら給水は平均で 1 日 2.5 時間に過ぎず、料金値上げは給水サー ビスを実行し、持続可能にするために、いかなる改革の提案においても(公営か民営かを 問わず)不可避だったのである。 理論と証拠  (1)官民  民間事業者への業務の移行が料金に及ぼす影響は、以下の三つの要因によって左右される。 連携のもとで政府が選択した料金政策。これによりどの位の事業費(コスト)が料金収入によってまかな (2)プロジェクト開始前の料金とコスト回収レベルの乖離。 われるかが決まる。 (3)効率改善によって民 間事業者がなし得るコスト削減の水準。コンセッションの場合、民間による資金調達の費用(およびこの 費用を投資効率を上げることで相殺できるか)が大きな役割を果たす。  (2)と  途上国の状況の中で、 (3)の要素がどう絡み合うかを予測することは難しい。双方が相反する影 響力を持っており、その程度も非常に大きい。当初の料金水準は多くの場合極めて低く 58、料金が上がるか 下がるかは、最初のうちは元々の料金水準がコスト回収のレベルにどの位近いかに掛かっている。しかし 58 コミヴズ他(2005)によると、 中東と北アフリカの事業では、 58%が料金設定が低過ぎて、基本的な運転維持管理費用をま かなえていない。 2004 年に EU の Global Water Initiative により世界中で 132 件の事業を調査した別の報告によると、 39% が同じく料金で費用回収ができていない。 公営事業で投資部分を料金でカバーできている割合はもっと低い。 83 その一方で、最も運営状態の悪い事業でもかなりの範囲の効率改善を提示している。本章で前述した通り、 最も成果を挙げた官民連携事業では経営効率に大きな改善が見られたが、コストの削減を料金の引き下 げに転換するためには経済面での効果的な規制を導入する必要があった。   水道料金と官民連携のつながりを分析するのはそもそも困難であるため、文献から明確な証拠が得られ ないことは驚くには及ばない。アンドレ、グアッシュ他(2008*)による報告によると、ラテン・アメリカで は官民連携事業の実施に伴い、水道料金が大幅に上昇したとしているが、これは多くの場合で元々の料金 がコスト回収レベルより低く設定されていたという事実によるところが大きい。  官民連携事業の料金の記録を評価するその他の方法として、公営と民間事業の料金を比較する方法が あるが、同じ枠組みで事業が運営されることがまずないため、それは非常に難しい。従って、ガッシュナー、 ポポフ、プシュク(2008a**)によって得られた結論 — この調査では数多くの外部要因を十分にコントロー ルできるよう、多くの水道事業の事例を活用した— は、極めて重要である。先述した通り、彼らは官民連 携事業と企業化された公営事業 — その場合、事業は財務面での持続可能性を育て、完全費用回収を目 指す枠組みのもとで運営されることが多い— について、比較が可能なものについてこれを比較しようと試 みた。その結果、官民連携は料金水準全般に対して大きな影響を及ぼしていないことが分かった。事業 に民間が参入したことによる水道料金の推移は、類似の公営事業と統計上何ら違いがなかったのである。 その他公表されている各国それぞれのデータについても、こうした報告と一致している。なぜなら、大半 の報告は中立の立場か、または結論を出していないからである。  * ラテン・アメリカのインフラにおける民営化の挑戦と成果  ** 官民連携は電力と水道の業績を改善したか 数件の官民連携における水道料金の推移   水道の官民連携事業と料金水準の関連を評価するためには、総合的な財政的、経済的な分析が必要で あるが、それは本報告の範囲を超えている。ここでは適切なデータが入手できた主に西アフリカとラテン・ 3 のケー アメリカの 2、 マニラ スについて採り上げる。また、 (フィリピン)についても詳述したい。ここでは、 規制当局が民間事業者の効率性とその効率が料金水準に与える影響について興味深い分析を行っている。 西アフリカ  過去 15 年間に西アフリカで実施された官民連携事業では、途上国の水準に照らすと比較的高い料金表 コスト回収レベルに極めて近いものも多かった 59。コートジボアール、 を引き継いでおり、 ニジェール(アフェ 、セネガル、ガボン、マリ ルマージュ) (コンセッション)における官民連携事業の平均水道料金の推移を 図 3.21 に示した。1 番目のグラフは民間事業者参入以後の実質ベースの料金(インフレ調整した平均料金 水準)の推移を表したもので、2 番目では官民連携事業間の料金水準を比較することができる。   5 件の官民連携事業のうちの 4 件で、民間による運営で実質ベースの平均料金が下落した。特に下落 が大きかったのはガボン(2006 年までにコンセッション以前の半分になった)とコートジボアール(2000 年までに、1990 年の水準の 70%に下落)だった。この 2 国の水道使用者は、現在西アフリカで最も安 い料金と良質な給水サービスを受けている国に数えられる。セネガルでは、2006 年の料金改正までは実 59 ギニアのアフェルマージュは、 開始時に料金がコスト回収より遥かに低く設定してあったため、 例外的なケースである。 10 年間の実施期間に料金は大幅に上昇したが、 図 3.21 に含めるための年毎のデータは入手できなかった。 84 質ベースの平均料金が下がったが、この改正で 15%引き上げられ、官民連携以前の水準に戻った。しかし、 セネガルの社会的料金についてはそのままにされた。改革によって給水を接続できた貧困世帯は、水使用 量を社会的最低ラインの 1 か月当り 6㎥に制限されたが、それでも 2007 年現在で官民連携以前より安い 料金を支払っている。  ニジェールでは、緩やかではあるが平均料金が上昇した。料金は公営の資産保有会社の収入を増やし、 公共セクターの自己投資能力を上げるために契約 4 年目に値上げされた。民間事業者の報酬は変わらな かった 60 。セネガル同様、この値上げは社会的料金には波及せず、貧困世帯が支払う料金は官民連携以 前の水準以下に抑えられた 。 (フォール他、2009*)  * 西・中央アフリカにおける官民連携の経験  図 3.21 西アフリカにおける民間事業者参入以後の水道料金の推移 (a) 実質ベースの料金指標 (b) 平均水道料金の推移 出所 : フォール他 、政府の情報に基づく (2009) 注 : ブルキナファソの水道事業は、近年企業体となった国営の事業体の下で行われている。これも、財政面で事業継続を支援する制度の下で 運営している公営事業についての参考とするため、数値に含まれている。首都のワガドゥグーの給水コストは極めて高く、これが料金の 高さの一因になっている。 60 ニジェールのアフェルマージュでは、 料金収入は事業者と公営の資産保有会社(Societe de Patrimoine des Eaux du Niger: SPEN)の間で分配されている。 SPEN へ渡る料金収入の部分が増加した一方、 民間事業者の従量料金は変わらなかった。   85 ラテン・アメリカ   ラテン・アメリカは、過去 15 年間に最も多くの官民連携事業が行われた地域だが、料金への影響を評 価するのは困難である。1990 年代初頭、数か国が深刻な経済危機の影響を受け、ハイパーインフレに見 舞われた時期があったり、為替が大幅に変動したりしたことで、このような国々の事業の財務状況を評価し、 平常時にコスト回収に必要な料金水準がどのくらいかを算定するのは極めて難しい。  ラテン・アメリカで実施された官民連携の大半が、水道料金の値上げを伴うものだった。この地域では、 長期間にわたり水道料金をコスト回収水準より遥かに低く設定していたので、この状況は当然だった。し かし、いくつかのコンセッションでは、民間からの投資を最大限にしようとして財務計画がお粗末になって 状況が悪化したものもあった。その結果、大幅な料金値上げを招き、多くの人々が不満を抱くこととなっ たのである 61。 コラム 3.9 複数回にわたる料金交渉と水道使用者に対する急激な値上げ : アルゼンチン ・ 大ブエノス アイレスにおけるコンセッション  ブエノスアイレスの水道コンセッション事業は、1993 年の入札において平均 27%の料金値 下げを提案したアグアス・アルヘンチーナス社(AA 社)のコンソーシアムが受託した。運営初 年度に新たなコンセッション受託者は平均料金について交渉を行い、その値上げ幅は 13%だっ た。その後 1997 年に大幅な値上げ交渉が起こり、料金体系の改正と共にさらに 19%の値上 げが行なわれた。さらに、未接続地区への拡大と下水道処理の資金をまかなうために定額付 加料金(a fixed surcharge)が採用された。これは、給水区域の拡大に伴う資金を未接続の 貧困世帯に負わせない方向へ変える動きによるもので、接続済みの水道使用者すべてが支払 うこととなった。オルドキー - ユルセレー(2007*)は、民間事業者への移管から 2002 年まで の間に一般世帯向けの水道料金請求額は平均で 88%跳ね上がったと指摘している。 2001 年 〜 2002 年の経済危機の後、水道料金は凍結された。  ブエノスアイレスにおいて、コンセッション受託者が事業を引き継いだ後、世帯平均の水道 規制当局の弱さを示す典型的なケー 料金は大幅に上昇した。このような大幅な負担の増加は、 スとしてたびたび批判されてきた。 有力な意見の一つは、定額付加料金の導入はコンセッショ ンにおいての財政上の均衡を修正する目的ではなく、コンセッション受託者が 1998 年以降普 及率や下水処理の面(新たな料金付加金徴収による資金を優先的に投下するとした部分)で殆 ど進展できなかったためであり、料金付加金は結果として民間事業者の実質的な報酬額を大 幅に上昇させた可能性があると主張している。  * ブエノスアイレス市の上下水道サービス:持続可能性と業績の決定要因  アルゼンチンは 2006 年まで民間事業者の最大の水市場だったが、コンセッション事業による水道料 金の推移については、特に追跡が難しい。メータ計量の割合が低いため、水道使用者への料金請求の多 くは推定水量(複雑な計算式によって算出される)に基づいており、実際の使用水量を反映していない。 2001 年に経済危機に対応する政府の緊急命令により、料金は凍結となった。最も良く知られているケー 61 これは例えば、コチャバンバ(ボリビア)のケースである。そこでは、完全費用回収よりも高いレベルで料金値上げが設定 された。一般家庭の水道使用者に対する料金値上げ分は莫大なインフラの資金に投入されたが、その恩恵を受けたのは農民 だった。 86 スが大ブエノスアイレスのコンセッションである。8 年間の運営後に料金は凍結された。その後規制当局 は大幅な料金値上げを認めたが、そのレベルはインフレ率よりずっと高く、また当初契約で計画していた 額よりも高かった。事実何人かの研究者が、アルゼンチンでは全体にコンセッション受託者に対する規制 が不十分で、料金改正が認められた経緯も不透明だと強調している。アルゼンチンで現在、民間のコンセッ ション受託者に対する反感があるのはこのためだろう。  チリでは状況が大きく異なる。1999 年に地域の水道事業が民間に移管される前に、中央政府が大掛か りな企業化改革を 10 年近くにわたって実施した。殆どの公営水道事業が移管時には既にかなりの効率化 を実施しており、そのうえ、十分な能力を持った国営の規制機関も確立していた。実質ベースでの水道料 金は、民間事業者への移管が起こる前の 10 年間に 2 倍以上になっており、移管後も上昇を続けた。この ような値上げは、多くの場合下水処理場に対して多額の投資が必要であることによるもので、住民にも受 62 容れられていた(ドウッチ、メデル 2007*) 。  * チリにおける水道事業官民連携の経験  コロンビアにおいては、本報告の事例中、カルタヘナの事業だけが民間事業者への移行後、実質ベース 実際のところ、 で平均料金が下降した。 コロンビアの水道官民連携事業は官による経営が最悪の状況で起っ ていることが多く、料金水準はコスト回収に程遠かった。これはすなわち、多くの場合で料金の値上げが 不可避であることを意味する。2007 年の全国世帯調査に基づく 2 件の計量経済学的調査では、料金に対 する官民連携事業の影響について最終的な結論を出していない(バレラ、オリベラ 2007*; ゴメス - ロボ、 。 メレンズ 2007**)  ラパス - エルアルト(ボリビア)の事例は、官民連携事業が料金に与える影響を評価することの難しさを 物語っている。コンセッションには、大規模な料金体系の再構築が付いて回る。ラパス - エルアルトの料 金は、1997 年の民間事業者の参入により平均で 20%上昇したが、使用量の少ない水道使用者を悩ませ ていた定額料金も廃止された 。実際は、貧困世帯の多くは毎月の使 (フォスター、イリュースタ 2003***) 用量が少ないことから月々の請求額が下がり、その一方でそれ以外の水道使用者については大幅な値上げ となった。平均料金の 20%の値上げが適正だったかどうか、判断するのは難しい。ラパス - エルアルトの コンセッション事業において 2003 年の平均水道料金はコチャバンバやサンタクルスに比べると著しく低く 、ボリビアのその他の 2 件の大規模事業よりも低かった。しかし、それは (それぞれ約 21%、31%低い) むしろコストを左右する地域要因(水源の利用可能性など)によるところが大きいと考えられる。  * 社会は民営化によって勝敗のいずれを得たか  **  社会政策、規制、民間参入—コロンビアのケース  *** インフラ改革は貧困者のために役立つか マニラ(フィリピン)  マニラの 2 件のコンセッションは、特に注目に値する。途上国の中で民間事業者による最大の給水人口 を擁し、効率化全般と料金への影響について規制当局から分析データを入手できる。分析によると、この 62 下水道料金は全面的な改革の結果、水道料金よりも大幅な値上げが起こった。サンチャゴの民間事業において 1990 年には 1㎥当たり 0.09US ドルだったが、2006 年には 0.45US ドルまで値上がりした(Empresa Metropolitana de Obras Sanitarias S.A. または EMOS)。 87 2 件のコンセッションは事実上大きく異なる様相を呈した 。入札は 1990 年代半ばに行 (ナヴァロ 2007*) われ、当時、民間の投資家は途上国の水道の官民連携事業について見通しは明るいと考えていた。最低 料金を提示したところに落札者が決まり、その落札額は多くの楽観論者ですら驚く金額だった。コンセッ ションは、大幅な料金値下げを提示した事業者が受託し、それぞれ入札前の 26.4%と 56.6%という低 。コンセッション受託者は 1997 年 8 月に事業を引き継ぎ(アジア 水準だった(デュモール 2000**) 、1998 年末にはフィリピン ・ ペソの価値は半分になった。西部地区のコン 金融危機の僅か 1 か月後) セッション受託者は元の公営水道事業に関わる外貨建ての債務の大半を抱えており、財政上の均衡の 点で深刻な影響を受けた。  数回にわたってコンセッション受託者が料金値上げを求めたものの、規制当局は 2000 年にインフレが 始まるまで認めなかった。その後 2002 年から 2003 年にかけて、契約に記された 5 年後の料金見直し 条項の結果として再度大幅な値上げを行った。2006 年末までに西部地区の料金は官民連携以前の 250% の水準に達したが、東部地区は 23%増に留まった 。 (図 3.22a)   図 3.22 マニラにおけるコンセッション(東・西部地区)の 10 年間の水道料金の推移 (a) 実質ベースの水道料金の推移 (b) 平均水道料金の推移 出所 : ナヴァロ(2007)およびマニラ首都圏上下水道局 (Metropoiltan Waterworks and Sewerage Systems, MWSS)  図 3.22b では、実際の料金とマニラの水道が公営事業に留まった場合の料金を比較している。この仮定 の料金設定は規制当局が算定したもので、公営管理のもとの事業の経営効率に基づき、実際にコンセッショ ン受託者が行った投資による料金の影響を同様に受けることを考慮に入れて弾き出された。その結果によ 88 ると、良好な運営を行っている東部地区のコンセッション受託者は、2000 年に料金の調整を行った後でも、 恐らく公営で行ったよりも低い料金が実現できたと見られる。しかし、西部地区では逆の結果が出た。  このような結果は、もちろん事実ではないことを仮定する手法(すなわち、公営に留まった場合に実現 し得る効率性をどうやって判断するか)によって左右されるが、まさに根本的な点を物語っている。究極 的には、官民連携事業が水道料金に及ぼす長期的な影響は民間事業者の経営の巧拙によるのである。東 部地区では、マニラ ・ ウォターが大幅な経営効率化を実現し、これが(多少の)料金値上げはあったとし ても住民に対して低い水道料金を提供できた結果につながったと見られる。これに対して、西部地区では コンセッション受託者が大幅な効率の改善に失敗した。メーニラッドが料金の大幅値上げを許されたのは、 コンセッション受託者が以前の事業から引き継いだ債務の費用が高騰したことによるとはいえ、水道使用 者は結局、公営が続いた場合よりも高い料金を払わされることとなった。  * マニラにおける二つのコンセッションの経験:ケース・スタデイ  ** マニラ水道事業コンセッション:世界最大の水道民営化に関する政府高官の日記 6) 水道の官民連携事業における全体的業績   本章のこれまでの項で、途上国と移行国の水道の官民連携事業の数多くの業績を見てきた。プロジェ クトの背景やデータが多岐にわたっているにも関わらず、ある共通の図式が現れている。多くのケースで民 間事業者は経営効率、給水サービスのレベル、上下水道事業の普及率などを改善している。結論を大ま かにまとめると以下の通りである。   ・普及率の向上  多くの官民連携事業において水道の普及は拡大したが、実際の業績には様々な違いがある。普及拡大 に関する官民連携事業の業績は、個々の財政上の計画策定に大きく左右されてきた。未接続地区へ給 水を拡大するためには、配水管網の拡大に多額の投資が必要であり、資金を調達する条件は契約によっ て大きく異なるからである。民間の投資のみに依存したプロジェクトのいくつかは失敗に終わっている。  ・給水サービスのレベルの向上  多くの途上国において断続給水は大きな課題である。コロンビアと西アフリカの双方から得られた官 民連携事業の業績に関するデータでは、時間給水の状態で始まった数件の事業において、官民連携は 低劣な配水管網を改善させる効果的な手法になり得ると述べている。   ・経営効率の改善  損失水の低減、料金徴収と労働生産性の改善について官民連携事業の業績に関して入手できたデータ では、一貫して民間事業者が最も良い成果を残した分野は経営効率であることを示唆している。   ・料金水準への影響  民間事業者の導入による料金への影響を測定することは、特に途上国の状況において困難が伴う。公 表されている報告では、公営事業と民間事業の間に料金水準に大きな相違を見出せていない。官民連 携の実施に伴って料金が値上がりしたケースは多いが、民間事業者の参入が直接的な原因であったこ とは殆どない。  従って、本報告の分析においては業績の様々な側面を個別に取扱った。多くのプロジェクトでは、いく つかの側面で良好な成績が挙がっており、全体として成功と認めてよいと考えられるが、一方で、改善 が見られたのはほんの少しの指標のみという事業もあった。これまでの業績の検討について、ここで 89 統合して考える必要がある。最も成功した連携事業を特定するのは、水道の官民連携事業が途上国で 機能することを示すために意味があるが、それのみならず、次世代の契約の道筋を示すためにもさらに 重要である。  もちろん、官民連携の結果全体を評価するためには、いくつかの判断材料が必要である。1991 年以 降に締結された 260 件を超える契約の結果全体を概観するために、本報告では官民連携事業を下記 の六つのカテゴリー(カッコ内に番号を表示)に分類した。   ・2007 年末まで有効に続いている契約のうち民間による運営期間が 4 年超で、十分な業績データが入 手できる官民連携事業:これを二つの分類に分ける。 カテゴリー 1:全体として成功している契約、 カテゴリー 2:様々な結果が入り交じっていて(業績が様々で、それほど伸びなかったか、または当事 者同士が業務上の協力関係の構築に困難を抱え続けているもの)成功とはいえない契約  ・2007 年末まで有効に続いている契約のうち本報告において業績データが入手できなかったか、または 判断を下せなかった官民連携事業:これも二つの分類に分ける。 カテゴリー 3:2003 年以降に受託し た契約(判断を下すには時期尚早)、 カテゴリー 4:それ以前に受託した契約(分析時期は適正だが データ不足)  ・2007 年末までに無効となっている官民連携事業:カテゴリー 5:満了時に更新されなかった契約、カテ ゴリー 6:利害対立が発生し、期限前解除となった契約  それぞれのカテゴリーの総給水人口に基づいて、この分類の結果を図 3.23 に示した 。 (数字は概算) 1990 年以降、途上国と移行国において、合計で約 2 億 5,000 万人がいずれかの場所で水道の官民連携 事業による給水を受けた。そのうち、約 1 億 6,000 万人が 2007 年時点で民間事業者による給水を受け ており、公営に戻った水道事業によってサービスを受けているのは約 4,500 万人である。それぞれのカテ ゴリーについては次で論じる。    終了、または解除された官民連携事業の 4,500 万人という数字は、過去 15 年間に一度は民間事業者が 運営していたものの、その後公営に戻った事業が約 1 /4 あることを意味する。 1990 年以降だけでも、水道の官民連携事業を試みた後に公営に戻った事業があるのは 24 か国に達する。 これは、特にこのような事業の整備に当たって、国際金融機関が開発や資金援助に尽力したことを考えると、 大きな数字である。どちらかといえば、途上国で官民連携を導入するに当たり、変動の大きな経済環境と、 制度上の整備が十分でないことが多い状況の中で、それに伴うリスクと課題を浮き彫りにしている。  単純に判断を下すことはできない。  最終的に公営に戻った官民連携事業について、 ダルエスサラー しかし、 ム 、 (タンザニア)コチャバンバ(ボリビア) 、ブエノスアイレス州(アルゼンチン)などいくつかの期限前に解 確かに失敗だったと見なすことができる。 除された契約については、 ブエノスア 解除になった契約の中でも、 イレス やラパス- エルアルト (アルゼンチン) など、 (ボリビア) 水道使用者にそれなりの便益をもたらしたもの もあったが、時間が経つにつれて当事者間の関係が悪化し、継続できなくなった。マネジメント契約の場合 ヨハネスブルグ は、 (マリーン、 (南アフリカ共和国) パーマー 2009*) マス、 やガザ市(西岸およびガザ)のよ うに、民間事業者が政府との契約を十分に満たす結果を挙げていても、公営に戻る事業があった 63。  63 マネジメント契約の業績を判断するのは困難である。 なぜなら、 得られるものの多くは知識の移転や組織改革など無形のも のというケースがよくあるからである。 このようなメリットは業績指標で捉えることはできず、 その影響は短期の官民連携 事業の期間を超えたところに現れるのが普通である。 90  それとは正反対に、合わせて 5,000 万人の給水人口に対する水道の官民連携事業は広い意味で成功と いえる 。その中には、ラテン・アメリカ (コラム 3.10) (アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビアやガイ ヤキル ) 〈エクアドル〉、西アフリカ 、モロッコ、アジア (コートジボアール、ガボン、セネガル) (マニラ東 部地区〈フィリピン〉やマカオ )などの数多くの官民連携事業が含まれる。重要なのは完璧な官民 〈中国〉 連携事業は一つもないということである。すべてのプロジェクトが何らかの困難に直面した。しかし、全体 的には時間経過と共に連携がうまく機能し、住民や関係する地方自治体にとって明確、かつ継続性のある メリットがもたらされるようになり、改革のために官民連携の採用を決めたことの妥当性を確認する結果と なった。何より大事なこととして、このようなケースのすべてにプラスの結果が現れたことについて、官民の 双方はきちんと評価されるべきである。   * 企業化した公営水道を設立するための民間事業者の活用  図 3.23 1992 年から 2007 年の官民連携水道事業の全体的業績(給水人口に基づく) 出所 : 著者の算定による 注:給水人口は ( )内に概算で百万人単位で示した。  長い年月を経た後も持続しているものの、結果は様々だったと分類された官民連携事業の給水人口を合 わせると、約 2,000 万人である 。この中には、マニラ西部地区、ジャカルタ、マプートな ( 図 3.23 参照) どの事例が含まれており、業績は良い結果と悪い結果が混在するか、今のところ思わしくないかのどちら かである。原因の多くは実施上の困難に直面したことによる。慎重を期するため、本報告ではデータが限 られているプロジェクトで、プラスの成果が示されてはいるものの、総合的に判断するには足りないケース もこのカテゴリーに含めた(カンポグランデ 、ジョホール州 〈ブラジル〉 ) 〈マレーシア〉。 注目すべき点は、 マニラ東部地区プロジェクトのような成功した官民連携事業も僅か 2、3 年前だったら 「結果が混在する」 というカテゴリーに分類されていた。 改革が成功するには時間が掛かるため、今そのカテゴリーに入って いるいくつかの官民連携事業も近い将来、成功のカテゴリーに転じる可能性がある。   官民連携事業の中には、業績データ不足のため評価することができなかった事業がかなりの割合で含ま れる。2003 年以降に委託された官民連携事業の対象人口の合計は 6,000 万人で、2007 年時点で総人口 の 35%が民間事業者による給水を受けている。その契約の多くは、時期尚早のため判断を下すことがで きないが、その中には中国の大半 、 (給水人口 2,600 万人超)マレーシア(700 万人) 、 ロシア 、 (1,000 万人) 91 アルジェリア(650 万人)が含まれる。このカテゴリーには、5 年を超えて続いているが業績データが集 められていない官民連携事業も入っており、EU の新たな加盟国(約 1,500 万人:ブカレスト、ブダペスト、 グダニスク、プラハ、ソフィア、タリンなどの大都市を含む)のすべての事業 64、メキシコ(アグアスカリエ 、アルゼンチン ンテス、カンクン、サルティーヨ) 、ホンジュラス (メンドーサ州) 、南ア (サンペドロスーラ) コラム 3.10 途上国と移行国において成功した都市水道の官民連携事業の概略   ラテン・アメリカでは、コロンビアが水道の官民連携事業が全体的に大きな成果を挙げ た国として突出している。給水普及率、給水サービスの継続性、経営効率について多くの 大中小都市で改善が見られ、しかも貧困率が高くインフラが劣悪な場所でもそれは達成さ れた(バランキーア、カルタヘナ、モンテリア、ソレダード)。ガイヤキル(エクアドル) では、水道の普及拡大に大きな進展があった。給水普及率と給水サービスのレベルの改善 については、アルゼンチンとブラジルの全国規模の事業者が良好な結果を得た。  西アフリカは、期限前の解除率が高かったにも関わらず、官民連携が極めてうまくいっ た(コートジボアール、ガボン、セネガル)地域の一つであり、セネガルの成功につい てはよく知られている。この地域で最も高い戸別接続による給水普及率を達成し、ダカー ルでは連続給水が可能となった。実質ベースでの平均水道料金は値下がりし、都市部の水 道では自己資金で費用をまかなうことができるようになった。これは、貧しい国において は突出した成果である。コートジボアールでは、民間事業者が過去 40 年間運営に成功し ており、給水人口は、10 年間で 350 万人から約 700 万人に倍増した。政府からの直接の 資金援助はなく、しかも一方で実質ベースでの平均水道料金は低下した。    アジアでは、マニラ東部地区(フィリピン)のコンセッションが 2002 年の料金改定以 来成功に転じた。マカオ(中国)のコンセッションも長期にわたって良好である。モロッ コでは、民間事業者による給水人口が都市人口の半分に迫っており、全般に成功とみなさ れている。経営効率と給水サービスのレベルで大きな改善が達成され、民間水道事業者の 導入が全国規模における水道分野の改革に弾みをつけて、さらにすべての水道事業者に責 任感を醸成することとなった。  まったく異なる状況下で起こったことだが、チリは民間への完全事業移行で大きな成果 を挙げたもう一つのケースである。ここでは、他の途上国で起こっていたことと異なり、 公営事業が効率化を図り、きちんとした規制機関を整備した後に、水道事業を民間事業者 へ移行した。この移行は政府にとって大きな財政上のメリットを生み出した。国庫への 現金収入は 23 億 US ドルとなり、それに加えて地域の水道事業会社が支払う所得税と付 加価値税による年間の収入が倍増したのである(ドウッチ、メデル 2007*)。1996 年から 2006 年の間に下水処理に対して民間が投資した合計は 12 億 US ドルに達し、現在チリは 世界中(北米とヨーロッパを含めて)で唯一、都市の下水道すべてを政府の資金援助に頼 らず民間投資家による資金のみで達成した国である。  * チリにおける水道事業官民連携の経験 64 新たな EU 加盟国の水道の官民連携事業の業績については本報告では検討していない。 しかし、 IBNET データベース(http:// www.ib-net.org)から得られる僅かな証拠によると、 経営効率の改善でプラスの効果が見られる。 例えば、 プラハ(チェコ 共和国)では、 110 万人の給水人口に対して民間による運営の最初の 5 年間に、 無収水率が 17%から 12%に低下し、 料金 徴収率は 95%から 98%に上昇した。 労働生産性は 1,000 給水接続数当たり従業員 8 名~ 12 名だったが、 約 8 名に改善さ れた。 92 フリカ共和国 、キューバ (ネルスプロイト) (ハバナ、ここでは 2000 年以降、共同所有会社の形式で海外 の民間事業者が水道事業を行っている)などの大規模な契約に加えて、数多くの中小都市の契約(特にコ ロンビアとブラジル)が含まている。  途上国の水道の官民連携事業の実績を全体的に検証すると、良好なもの、成果の挙がらなかったもの、 双方が混在するものとその結果は多様であることが分かった。この多様性をよく表しているのがラテン・ア メリカとサハラ砂漠以南のアフリカの実例である。この 2 地域では、成功したプロジェクトの給水人口が それぞれ約 2,000 万人と 2,500 万人だったのに対し、期限前解除、または終了したプロジェクトによる給 水人口は 1,600 万人と 2,000 万人であった。明らかに成功した事例(セネガル、カルタヘナ ) 〈コロンビア〉 と完全な失敗(ダルエスサラーム 、コチャバンバ 〈タンザニア〉 )が混在している。契約解除は、 〈ボリビア〉 関与した政府と事業者の関係が崩壊したことの証明であることが多いが、一方で 5,000 万人の人々が官民 連携事業の成功によって恩恵を受けたという事実は、このパートナーシップがうまくいけば、途上国におい て官民連携が機能し得る選択肢であることを示している。業績の極めて悪い水道事業を変革するうえで、 政府は様々な手法を採り得るが、中でも官民連携は官の運営に頼りきるよりも、「リスクは高いが効果も大 きい」 選択肢であると考えるべきである。 93 94                                  第4章 より持続可能な官民連携に向けて   本章では、前章で提示した結論や報告から導いた一般的な教訓をいくつかまとめた。この調査結果 をもとに、実際に何がうまく機能し、何が機能しなかったかを検討すると 1990 年代に途上国の上下 水道官民連携の発展を導く根拠となった従来の想定、特に水インフラに関する民間の資金調達につい ては疑問があることが分かる。ここでは調査対象となったプロジェクトから得られたすべての教訓に ついて包括的な考察を述べようとしているわけではない。引き出された教訓の多くはさらなる調査が 必要だろう。だが、この考察には官民連携が途上国の上下水道事業の質を高め、普及率を向上させて いくために、今後も続き得る選択肢となるよう、どのようにして強化したらよいかという点で重要な 洞察が含まれている。 1) より効率的で持続可能な水道事業官民連携の教訓   途上国の水道事業の官民連携はプロジェクトから得られた結果が多岐にわたっており、個別のプロ ジェクトが成功、または失敗した主な要因を特定するのは困難と思われる。しかし、この調査で明確 (a)事業改革を支えるために民間事業者を導入する場合の なパターンが見えたものもある。それは、 適正な理論的根拠、(b)プロジェクトを計画する際、より現実的に考え、適切に法を整備し、社会 問題に対して然るべき配慮を行う必要性、についてである。  民間水道事業者の役割と貢献   この調査は、1990 年代に巨額の民間資金の流入を狙って水道事業の官民連携の実施に力を入れた のは誤算だったことを示している。民間事業者が最も大きく貢献したのは、給水サービスと経営効率 の改善の面だった。殆どのケースで、民間事業者からの直接投資は期待外れの結果に終わった。効率 的な経営を行う民間事業者は確かに財務面の貢献を果たしたが、それは事業の信用度を高め、それに より投資の資金をより良い条件で確保し易くするという間接的な方法が殆どだった。  民間事業者は給水サービスのレベル向上と経営効率を改善することができる  この調査では、数多くの官民連携事業を通じて最も民間事業者が功績を挙げたのは、一貫して給水 サービスと経営効率の改善という 2 側面であることを強調する結果が出た。 しかし、実際には契約 毎にその結果は極めて多様である。どの程度改善が実現できたかは、責任とリスクの配分によるとこ ろが大きく、それはすなわち複数の要因に左右された。特に(a)インセンティブの構造、(b)政府 が土木工事の投資資金の調達に責任を持つ場合に民間事業者との間でその実施について取り決めた内 95 容、の二つの要素は重要である。  コンセッションでは、経営効率に対するインセンティブを民間事業者が効率化によって得られた利 益の増加分から直接得ることができる。ただし、このような効率の改善が得られるかどうかは事業者 が相対する規制当局の持つ能力に大きく依存する。もし、規制が不適切な場合は、事業者は効率化に よってインセンティブを得ることは殆どできず、恐らくその代わりに最も簡単に利益を得る方法、す なわち、料金値上げを交渉することになるだろう。  リース・アフェルマージュ 64 とマネジメント契約の場合、効率化に対するインセンティブ * は契約 の中で詳細に規定されているのが一般的である。従って、効率化に進展があれば、それぞれ規定され た報酬とインセンティブが直接に関わってくる。リース・アフェルマージュでは一般的に、事業者は すべての事業費に責任を持つ代わりに配水量に対応する一定の料金を報酬として受け取る。 これは、 効率化に対する直接的なインセンティブとなる。なぜなら効率の改善がそのまま利益に置き換わるか らである。このようなシンプルな方法は、コートジボアールではうまく働いたが、ギニアでは十分な 成果を挙げられなかった。ニジェールとセネガルで進められた官民連携では、効率化に対して通常の リース ・ アフェルマージュ契約より大きなインセンティブを導入し、さらに無収水率と料金徴収率に ついて、契約上の目標を達成しなかった場合には違約金が設定された。   マネジメント契約では、報酬は一般的に固定額プラス契約上の目標を達成した場合に追加される変 動額で構成される。重要な要素は効率化の進展を計測するための指標の選択、基準ラインの信頼性、 合意した目標を達成したかどうかを検証するメカニズムである。ガイアナでは、基準ラインへの信頼 性と契約上の指標を算定する手法が明確でなかったため、当事者間で対立が起こり、これが期限前に 契約解除された原因の一つとなった。  投資計画がどのように実行されたかも、非常に重要である。民間事業者が低劣な水道システムを引 き継ぐ場合、給水サービスのレベルと経営効率の改善は、通常、管網の更生工事に多額の投資をしな い限り達成できない。 つまり、期待された業績の改善を達成するためには、効率的でタイムリーな 土木工事の実施が何より重要である。コンセッションでは民間事業者が資金を調達し、直接投資計画 を実行するが、リース ・ アフェルマージュやマネジメント契約では、投資の大部分が民間からではな く、投資計画実行の責任は官側に残ることが多い。しかし、これは、運営と投資の機能が分離してい ることについて潜在的なリスクが存在するということである。調整上の問題が発生する可能性があり、 官民連携プロジェクトの成果は最終的に担当行政機関が遅滞なく土木工事を実施する能力があるかど うかによって大きく左右される。実際、公的資金による投資の実行には多種多様な仕組みが活用され た(本章内で後述)。   * 動機、誘因、奨励などを意味するが、金銭的誘因と解する場面が多い(訳者注) 民間事業者による直接投資は期待を下回った  1990 年代、都市の水道事業には多額の民間資金が流れ込み、それによってドナーや途上国の政府 が限られた援助資金をその他の社会資本分野に回せると期待されていた。しかし、それは実現しなかっ た。その他のインフラ分野に比べて、上下水道分野の民間資金の比率は非常に低かった。都市の水道 64 新たに設立した民間事業が、 官が所有するシステムを運営し、 料金を徴収してそれを官の所有者と配分する。 官側は投資の 責任を負う。 96 事業の資金需要に対してその大部分を民間の資本家がまかなうことになるという期待は、西欧や北米 など水道事業のリスクが極めて低い場所の事業をもとにしていた。こういった地域では、水道事業は 安定しており、キャッシュフローもあらかじめ予想できる。また、資産の状況もその後の投資の必要 性も、通常よく分かっている。給水普及率は問題にならず、料金も大抵コストを回収できる水準に設 定されており、事前に調整の方法も決まっている。このような理由により、水道事業は官であれ民で あれ、民間の資金を好条件で借りることができる。  途上国の状況はこれと全く異なる。水道事業は不安定でリスクが高い。多くの場合、低劣な水道シ ステムの更生工事や急速な都市化の影響による普及拡大のために多額の投資が必要だが、必要とされ る給水水準には不確定要素が多い。料金は通常、コスト回収の水準よりかなり低く設定されており、 将来的な規制の枠組みも不確実である。さらに、支払い能力のある水道使用者は既に自ら投資して水 不足に対処しており(私設の井戸、屋根のタンク、濾過器など)、そのため料金の値上げには抵抗する。 そのうえ、水道料金をきちんと払うことのできない多くの貧困層がいる。  現実に基づいた結果として、民間の投資家は大半の途上国において水道のコンセッション事業への 投資はリスクが大きいと考えるようになる。これは、1990 年代の終わりに、多国籍企業が新たに受 託した大規模なコンセッションに資金を調達している時でさえ明白だった。民間の銀行は、非償還プ ロジェクト・ファイナンスをリスクの高いものと見なしており、民間水道事業者にバランスシートに よる保証を求めたが、そのことによって水道事業に投資できる資金は限定されることになった。それ に加え、1990 年代、殆どの国で地元金融市場の不足を補うために、外貨建ての借入という方法を採っ ていたが、これが経済危機と金融市場の混乱により裏目に出る結果となった。結局のところ、水道事 業の民間投資は高くつくことになり(多くの投資家がリスクの見返りに年間 20-30% のリターンを期 待した)、債権者が追加保証を得られない限り、民間の債務も負担が重くなった。この状況は、多く の途上国の水道コンセッションにおいて深刻な制約条件となった。株主や債権者へ高いリターンを出 すことと、料金を低額に保ち、投資を長期で回収しなければならない状況は、両立が困難だからである。 民間事業者の投資に対する貢献は殆どが間接的だった   より良い経営は、給水サービスの改善だけではなく、最終的に投資の増加にもつながる。より効率 的な運営という中にはコスト管理も含まれており、結果としてキャッシュフローが豊かになり投資が 可能となる。より良いサービスによって水道使用者が進んで料金を支払うようになり、容易に徴収率 は上昇する。やがて料金値上げが行われれば、それによって投資の大半をまかなえるようになる。こ のすべてが好循環を生むのである。効率化の進んだ事業者は、普及拡大のための資金(政府、ドナー、 または商業銀行から)の獲得が容易になる。これが次第に水道使用者の基盤を拡大し、キャッシュフ ローを増やすのである。モス他(2003*)が述べている通り、良好な経営は投資の増加につながる。 非効率な経営は給水サービスの費用を押し上げ、必要な投資の資金を得難くする。民間か政府系かを 問わず、投資家、ドナー、水道使用者、納税者のいずれもサービスを提供する事業者の経営を信頼し ていなければ金銭の支払いを躊躇する。  * 優れた企業統治で水道事業の価値を上昇させる−対話を促進し社会、環境、経済的価値の調和を図る  良好な経営と投資の増加の関連は、本報告で検証した様々なケースを通して見て取ることができる。 97 民間の直接投資による官民連携で水道が普及した約 2,400 万人の一部ではあるが、民間事業者の効 率性の向上は事業を建て直し、その結果を達成するに当たって多くの場合不可欠だった。例えば、コー トジボアールやガボンでは効率的な運営によって、10 年以上にわたり投資の大半は借入なしで、直 接の収入によるキャッシュフローで調達することができ、実質的、平均的な料金水準も下降した。普 及の拡大は直接水道使用者による資金で行われたが、これは事業者が効率的な経営をしていなければ 達成できなかった。セネガルでは、良好な経営を行う事業者がいることで、投資が住民へのサービス 改善のために使われ、資産も適切に管理されるとして、ドナーに対し安心感をもたらした。セネガル では、事業運営の効率化で得られたコスト低減分が、公営の資産管理会社へ移転させるキャッシュフ ローの額を徐々に押し上げ、料金値上げを伴うことなく、自己資金で運営をまかなうことができる水 準に到達した。 セネガルの公営の資産管理会社は、今や政府保証なしに投資資金を調達することが 可能である。    より現実的な官民連携の計画と実施の必要性   事例を検証すると、官民連携水道事業はそれに関わる住民や政府に目に見える恩恵をもたらすこと が示されている。 しかし、同時に、数十年に及ぶ運営の失敗を踏まえ、外部から民間事業者を入れ ることが、経営難の事業が抱えるすべての問題を解決する万能の図式ではないことも示している。今 後の官民連携の契約においては、官民連携がどのような利益をもたらすかについての理解、およびリ スクと責任の適正な配分を盛り込まなければならない。契約上の目標を設定する際にも、委託する政 府側にどのような責任を残すかを検討する際にも、現実に立脚した予測は欠かせない。   成功した官民連携事業は適切な計画のもとにおける水分野全体の改革の一部  官民連携は、明確に計画された広範な水分野改革の一環として実施されない限り、経営難に陥って いる水道事業の経営効率を改善し、財政を建て直すことはできない。都市の上下水道事業を存続させ ていくうえで必要不可欠な要素の多くは、官民を問わず事業者の手の及ぶ範囲の外に置かれている。 このような見方に立って、チリ、コロンビア、コートジボアール、モロッコ、セネガルなどの様々な 成功事例から、重要な教訓を導くことができる。このようなケースのすべてにおいて、官民連携の導 入は中央政府による大きな改革の一環とされ、財政上の継続性や業績の責任について、水セクターの 枠組みが確立されていた。これらの国々では、様々な範囲の官民連携スキームを採用していたが、そ のすべてにおいて持続可能で社会的に受容し得る方法でコスト回収が可能な料金設定に向かうという 明確な方針があった。さらに、普及拡大と管網更新のための投資資金が十分に得られるよう徹底した 財政上の計画が策定されていた。これは、住民に対して目に見える便益をもたらし、官民の連携を持 続可能にするために欠くことのできない条件である。官と民の事業者が混在する国(コロンビアやモ ロッコ)では、全国レベルでベンチマーク * の設定を促進し、事業者間の競争意識を高めた。このよ うなケースのすべてで、政府は官民連携事業を最終的に成功に導くために最も重要な役割を果たし、 官と民のパートナーの双方が良好な結果に貢献したと考えられている。  これに対して、契約解除や結果の分かれた官民連携では財政上の継続性や結果責任という重要な問 題を解決できなかった。失敗に終わったコンセッションは計画に無理があったり(コチャバンバの例)、 入札参加者が事業機会に乗じる目的で入札したりしたことで、当初から継続の見込みは薄かった。コ 98 ンセッションにおいて信頼できる規制の枠組みを確立するのは、それは官民連携の継続に欠かせない と分かっていても難しいことが多かった。アルゼンチンは契約の解除数が最も多い国だったが、殆ど のコンセッションで規制が弱く、経済上 ・ 政治上の危機に対応するには不十分だったことが明らかに なっている。  * 建築物などの位置、高さなどの水準点または基準点を表す用語(訳者注)   契約は現実的な目標によって策定されなければならない   水道事業の官民連携で繰り返し起こっていた問題は、多くの契約に非現実的な目標が盛り込まれて いたことである。官民連携を継続させるためには、もし民間事業者が責任を負うのであれば、契約上 の目標は現実に即したものである必要がある。このような目標を立てるに当たって、政府やそのアド バイザーは、途上国の都市水道事業が厳しい環境の中で運営されていることを忘れてはならない。何 を現実として実現しうるかという予測をそれぞれの状況に応じて適宜調整することが必要である。  契約上の目標と密接に関連する問題として、経営効率の進展状況を測定するうえで対象業務の基準 値を設定することの難しさがある。官民連携の運営が始まって数か月経ってから、業績を測定するた めの元々の基準値が不正確なことが判明することもしばしばある。このような状況によって、多くの 契約で再交渉が必要となり、利害の対立が生まれた末に、最も重要な初年度の契約実施に深刻な影響 を及ぼすことが多々あった(アンマン〈ヨルダン〉の例など)。信頼できる基準値の設定は、根本的 な課題を示している。業績不振の事業では、損失水の水準や運転記録など業績指標を計測するために 必要な機器が十分でなく、水道使用者のデータベースは間違いだらけということが通例である。残念 ながら、この問題は入札前に経験を積んだコンサルタントの協力を得るだけでは解決せず、適正な基 準値を設定することもできない。  2、3 の官民連携事業では柔軟な手法を採用することでこのジレンマを解決した。そこでは信頼で きる基準値は契約締結時には設定が困難であることを認識し、民間事業者に必要な枠組みを整える仕 事を委ねた。基準値については独立した技術監査員の統制下で、運営の初年度に合意された。この手 法は、成果の挙がったヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)のマネジメント契約で採用され(マリー ン、マス、パーマー 2009*)、ニジェールのアフェルマージュでも無収水率の基準値を設定するのに 使用された(フォール他 2009**)65。  * 民間事業者を活用して企業化された公営水道を設立  ** 西・中央アフリカの都市水道事業の改革—官民連携の経験から 連携がうまく機能し、目に見える結果を得られるまでには時間が必要   官民連携が成功したと考えられるプロジェクトでも、目に見える結果が得られるまでには時間がか かっている。例えば、セネガルでは成功するまでに 10 年かかった。ニジェールでは、同じ試みを何 度も繰り返しつつ、良好な結果が現れ始めたのは実施から 5 年後だった。マニラ東部地区(フィリピン) 65 ニジェールとセネガルで整備された無収水率に使用される基準値は、 アフェルマージュの設計上最も重要である。 なぜなら、 それが民間事業者の報酬を算定する数式の一部に使われているからである。 セネガルでは、 当初契約に使用された基準値が 大まかな推定に基づくもので、 実際の数値と異なることが分かり、 これが早期の難しい再交渉につながった。 この教訓はニ ジェールの契約に生かされ、 実際の無収水率の基準値は契約初年度に、 民間事業者と政府の共同監視のもと、 独立の技術監 査員の支援を得て算定されることとなった。 99 のコンセッションでは、長期にわたって財政が逼迫し、ようやく業績が好転したのは 2002 年に料金 改定が行われてからだった。それはプロジェクトを受託してから 6 年以上経過していた。途上国で 経営困難に陥った都市水道事業を建て直すには時間がかかるのである。  官民連携の成果は、官と民の間に強固な協力関係を構築することができたかどうかによって大きく 左右されるが、これもまた時間のかかる営みである。官民連携は多くの場合、政府側にとってお役所 的な文化を抜本的に変える必要に迫られるものである。 政府の役人は、水道事業を直接管理するこ とを手放し、運営に介入するこれまでの習慣を捨てなければならず、契約条項を基本にした独立の関 係を築かなければならない。この変革は、民間事業者の相手方としての役割を任された役人が以前の 公営事業の管理職だった場合、とりわけ難しい。新しく作られる規制機関にとっても、その機関とし ての役割を理解し、能力を築くには時間が必要である。官民連携の中でうまくいった事業は、例外な く委託元の政府から継続的な支援が約束されており、協力関係が機能するようなお膳立てができてい た。その中には、環境の変化に適応していく準備や監督と規制に関わる重要な業務従事者を任命する 際の適正な人選も含まれていた。  外部から来た民間事業者にとっても、それがたとえ経験を積んだ会社であっても、個々の水道事業 の状況を把握し、必要な方策に優先順位を付けるには時間が必要である。インフラが低劣な状態であっ たり、記録が殆ど入手できなかったりする場合はなおさらである。外部の者にとって状態の極めて悪 い広範囲の水道管網(図面や記録がないものが大半)の水理全体を知り尽くすことが、どれほど難し いかは過小評価され易い。すぐに改善できそうな部分がいくつかあったとしても、住民に対して目に 見える成果を挙げるには、大抵の場合、更生工事や改良工事に対する多額の投資が必要である。これ は長期にわたるプロセスであり、まずは投資額を特定し、資金を調達した後に、ようやく土木工事の 実施に漕ぎ付けることができるのである。   途上国も自国の民間水道事業者を抱えることができる   1990 年代、水道事業の官民連携は過去に都市水道事業の運営実績をかなり積んだ民間事業者に対 してのみに委託すべしとする考え方が一般的だった。これは、それまで民間事業者による水道事業の 運営が僅かな国のみに限られていたためで、この保守的な考え方ゆえに、実際の市場の大半を数少な い多国籍巨大企業が占めることとなった。  本報告の調査結果の重要な点として、近年各地域において地元の民間事業者が相当数育ちつつあり、 2007 年までにその割合は 40% を超えるほどになって、中には高い業績を達成しているものもある ことが挙げられる。広い意味で成功と分類されている官民連携事業の多くは、水道事業の経験が全く ないか、殆どない地元の民間投資家と共に実施されている。マニラ東部地区(フィリピン)やサルタ(ア ルゼンチン)では、経験豊富な民間事業者との連携によって運営のノウハウが移転され、地元の民間 事業者に欠けている専門ノウハウのギャップを 2、3 年のうちに埋めていくことができた。その他の ケースでは、建設、エンジニアリング、またはコンサルティングを通じて水セクターの経験を持って いる投資家が、水道事業運営もできることが分かった(ブラジル、コロンビア、マレーシアの例)。通常、 このような新しい民間事業者は技術面で必要な能力を備えるために、以前に公営事業で管理職やエン ジニアとして従事していた人をそのまま雇用する。  これは投資家には水道事業の運営実績が必要ということが、過大に捉えられていたことを示唆して 100 いる。事業が改善され、商業ベースに乗ることで得られる利益は、投資家が多国籍企業か地元企業か に関わらず同様に達成することができる。そして、地元企業の方が、その土地のニーズや文化をより 理解しているという点で有利である。重視すべき点は、地元の投資家が過去に水道事業運営にどれほ ど関わっていたかどうかではなく、事業を運営するために経験を積んだ人材を確実に事業内に確保す ることができるかどうかである。   官民連携水道事業の規制  水道事業のような自然独占の事業には、市場原理が働かないことを補い、民間事業者がその独占的 地位を濫用しないため、目に見える手法として経済的規制が必要である。この手法は、実際には簡単 ではない。水道事業の所有者が政府か否かに関わらず、行政当局と事業者の間には常に大きな情報格 差がある。民間事業者は、独占的地位を濫用して不当かつ過大な利益を手にすることが可能である。 また、公営水道事業では、特別な便益を得ることができるため、余剰人員、政治的任免の特権、ずさ んな業務処理、資材調達慣行、住民志向の欠如などにつながり易い。    民間水道事業は必ずしも公営事業に比べて規制が困難とはいえない   都市の官民連携事業に反対する意見の一つに、途上国の困難な状況の中で、民間事業者規制の難し さへの懸念がいわれてきた。確かに規制当局は、財務上の強い利害関係を持つ民間事業者に惹きつけ られ易い。官民連携水道事業の契約は複雑で、多くの場合、込み入った取引の経験を持たない地方政 府が、強力なノウハウを持つ多国籍企業と向き合うことになる。しかし、少なくとも民間事業者が責 任を担う枠組みのもとで事業運営を行うという一面を見ることもできる。詳細にわたる契約に業績目 標や定期的な報告の義務も記されている。料金設定の方法は、規制条項または契約に記載されており、 これは大抵の場合、以前より遥かに透明性が高い。民間事業者は規制を守らなければ罰金が科せられ、 契約を解除させられることもある。結局、官民連携の民間水道事業は市民社会によってより厳しく精 査される傾向が高く、さらにいえば、業績不振の公営事業よりも実際に厳しい社会の眼に曝されている。   実行可能な規制システムには様々な選択肢   途上国で官民連携水道事業を運営するに当たり、規制の枠組みには大きく分けて二つの種類がある。 契約毎にルールを定めて、すべての要素を契約に詳述し、地方政府に代って専任のチームを監視・監 督に充てる方法と、水セクター全体に広く法制上 ・ 規制上の枠組みを作り、規制のための機関を設置 して様々なレベルの裁量権を与える方法である。実際にはこの二つの方法は必ずしも明確に分かれる わけではなく、かつ、それがどの程度うまく機能したかを評価するのは本調査の範囲を超えている。 それでもなお、官民連携の実績についての本調査では、以下の結果を重視する。  契約を作成するに当たってはそれが明確かつ詳細であることは重要であり、それは規制のうえで根 本的な部分か、一要素に過ぎないかには関係ない。最新の文献(エアハルト他、2007*)では、本報 告同様、民間事業者に責任を課すための主な基準点を示す文書として、契約を用いてうまくいった事 例が西アフリカ、マカオ(中国)、コロンビア、チェコ共和国、モロッコなど様々な場所で見られる ことを示している。   包括的な枠組みの中で水道事業の官民連携についての規制が定められており、契約はあっても法令 101 による規制に重きが置かれている場合、プロジェクトの成果は様々だった。特に、新設された規制機 関に大きな裁量権が与えられている場合、その結果は分かれた。チリでは、規制の仕組みが十分機能 したが、規制機関は民間移行が始まる以前から長期にわたって設置されており、それまでの評価も高 く、信頼されつつ役割を務めていた。その他の場所では信頼のおける規制機関を確立するのは非常に 困難であることが分かり、そのことが最終的に多くの契約の実施に影響することとなった。  規制当局について発生した問題は、それ自体は驚くには当たらない。規制の枠組み全体を構築する には時間がかかり、そのプロセスが軌道を外れることもよくある。このような状況では、単独の契約 に基づいて特定された問題に対処する方が単純明快である。それでも、確固たる規制の枠組みを確立 することは価値ある取り組みである。一度その枠組みが整備されれば明確で統一された基準点を示し、 各当事者が個別の契約毎に交渉したり、修正したりできる裁量の幅が狭まる。結局のところ、契約重 視か規制の枠組み重視かという選択は各国の特性による。特に意思決定時の上下水道セクターを統制 する法制上、規制上の枠組み(もしあれば)、政府内の監督機関の能力レベル、その連携にどれだけ の緊急性があるかなどによって左右される。   * 都市の上下水道に対する経済的規制:若干の実際的教訓   透明性を規制の根幹に置かなければならない   官民連携は本来的に不完全性を伴う契約であり、途上国のような変化の激しい環境においては、環 境の変化に合わせて時間の経過と共に修正していくことが当然の姿である。しかし、契約の再交渉に ついてはしばしば議論を呼び起こしてきた。多くの場合、それが透明性を伴わず、閉ざされた場所で 行われてきたからである。ラテン ・ アメリカにおけるインフラ事業の官民連携の再交渉に関する総合 的な調査の中でグアッシュ(2004*)は、水道事業の官民連携では契約開始直後に再交渉に追い込ま れる割合が多いと述べている 66。 このような動きが民間事業者に対する批判を呼び、民間事業者は契 約上の修正事項を逆手にとって、経済的な利益を得ることができるとされた。これによって、いくつ かの国では次第に官民連携手法に対する信頼性が失われ、都市水道事業の業績を改善するための有効 な方法と見なされなくなった。  この部分については明らかに改善が必要である。現在行われている官民連携契約の規制と監督は体 系化され、完全に透明化された中で実行することが必要不可欠である。すべての官民連携契約は、基 本的な方針として市民が監視できるよう公開しなければならない。業績の監視と義務の報告について は厳格に実行することが必要であり、所定の手続きとして結果を市民に公開しなければならない。政 府もまた、各々の規制による決定の背後にある根拠や正当性を市民に知らせる義務を負う。これは特 に、料金改定に関わる事柄や官民連携の財政上の収支バランスに影響を及ぼす修正についてはすべて に対して重要である(たとえ既存の契約条項に基づく場合であっても)。契約の修正は途上国のよう な変化の激しい環境では大抵避けて通れないが、住民やその他の利害関係者にとって完全な透明性が 担保されなければ受容は期待できない。この部分は、特に統制が弱く制度が十分に機能していない国 66 調査では、 水分野では 1985 − 2000 年の期間に、 全体の 74%で再交渉が行われ、 これは他のインフラ分野に比べて非常に 高いとしている。 さらにグアッシュは、再交渉が起こった時期もその他の分野に比べて早く、 平均で契約受託から 1.6 年の 時期に起こり、(大半が)民間事業者によって起こされていると述べている。 注意しなければならないのは、 この調査では再 交渉の定義を広く取っており、 サンプルについても本調査で含んでいない新規処理施設の BOT(建設 ・ 運転 ・ 譲渡)やそれ に類する形態も含んでいる。 102 において、実施段階で国際金融機関を巻き込むことが大きな意味を持つ。   * インフラに関するコンセッションの契約と再交渉—正しい処理の仕方 社会的目標の織り込み   多くの水道事業の官民連携では、その社会的問題が論議の的となってきた。官民連携事業はさらに 多くのことを貧困層のために行わなければならない。そのためには、官民連携事業を計画する人々が、 社会的目標にかかる費用をはっきりと認識してそれを織り込み、同時に、貧困層への補助金や水道料 金と民間事業者への報酬を切り離す方法を検討する必要がある。加えて、官民連携事業が労働環境に 与える広範な影響についても、より正確な把握のためにさらなる調査が望まれる。    水道事業の官民連携はもっと貧困層支援を目指すべき   本報告では、官民連携事業は給水普及率と給水サービスのレベルにおいて、全体として住民に目に 見える成果をもたらしたと述べてきた。しかし、事業者から水道使用者の所得層別に得られたデータ は殆どないため 67、本報告では都市の貧困層に特定して官民連携プロジェクトが与えた影響を評価す ることはできなかった。  多数の官民連携事業で、給水普及率の向上や給水時間の延長により貧困世帯にかなりの恩恵をもた らした状況証拠は存在する。特に、貧困率が高い都市や管網の拡大によってこれまで未給水の貧困地 域に給水が拡大した場所では顕著である。例えば、コートジボアール、セネガル、カルタヘナ、バラ ンキーア、モンテリア(コロンビア)、ガイヤキル(エクアドル)、マニラ(フィリピン)、ラパス - エルアルト、ブエノスアイレス(アルゼンチン)などである。コロンビアでは、住民は社会的条件に よって異なる料金体系が適用されていたため、新たな接続によってどの階層が恩恵を受けたか追跡す ることができた。それによると、普及拡大による受益者の多くは貧困世帯だった。  しかし、官民連携事業が貧困層に対して大幅な改善をもたらしたという証拠は示されていない。 データの不足はあまりにも大きい。確かに急速に発展する多くの都市では、その周辺地域の集落が爆発 的な勢いで開発されており、そのことによってすべての水道事業において需要に対応することが困難 になっている。それでも、途上国の少なからぬニーズや数多くの官民連携事業に寄せられた国際金融機 関の大掛かりな支援を考えると、全体的に見てその成果は期待外れだったといえる。数少ない場所で の例外を除けば、水道事業の官民連携が都市部の貧困層にもたらした恩恵は全体として不十分である。  水道事業の官民連携は、全体として社会に大きな便益をもたらすことができるが、1990 年代初期に 暗に想定されていた自動的なトリクルダウン効果 * は現れなかった。民間事業者が委託元の政府に成り 代わり、契約に記載されたインセンティブと義務一式のもとで(一層の効率化が期待され)活動する代 理人となることはまずない。民間事業者の動きは、究極のところプロジェクトの計画に支配されている。 効率化によって得られた利益を確実に水道使用者に還元するかどうか、社会のすべての階層に便益が均 等に行き渡るように徹底するかどうかはそれぞれの政府に任されている。政府はまた、悪影響が出た場 合、十分な計画と資金によってそれを軽減する方法を取り、しっかりと取り組まなければならない。  67 例えば、 貧困層への普及水準に関するデータが入手できるのはわずかにコロンビアとジャカルタ(インドネシア)だけであ り、 そこでは所得水準によって異なる料金体系に基づいて水道料金が請求される。 その他 2、3 のケースで世帯調査の結果 が入手できるが、 本報告で検討している事業の区分の仕方と一致していないため、 解釈が困難である。 103  * 大企業や富裕層の経済活動を活性化させることによって、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、国民全体   の利益となるとする理論(訳者注) 官民連携事業の計画策定には社会的目標達成の費用を認識すべきである   本報告から得られた一つの重要な調査結果として、水道事業の官民連携における計画策定の仕方が 1990 年代に多く採用されたものと根本的に異なっているのは、最貧層により良い上下水道サービス を提供できるということが挙げられる。政府は、官民連携を官の財政負担を軽減し、事業実施から解 放されるための方法と見るのではなく、水分野はその後の長い年月にわたって継続的な支援を必要と する公共サービスと認識する必要がある。遠大な社会的目標を達成するためには、間違いなく費用が かかる。それは、専門家による経営の効率化によって利益が挙がったとしても、料金収入だけでは十 分ではない可能性がある。   正しい方法は、計画策定のプロセスにおいて、まず社会的な問題の優先順位を付け、その費用を見 積もることから始めることだ。事業に投入したキャッシュフローが、この社会的目標を達成するため に十分でない場合(効率化による費用削減を計算に入れたうえで)、政府が追加的な資金をもって介 入する。貧困層に恩恵をもたらしたという点で最も成功した官民連携事業は、政府が料金収入を補う ために公的資金を投入し、進展を図ったプロジェクトである。それを非常によく表しているのが、コ ロンビア政府によって事業近代化計画(PME)のもとで展開された官民連携のケースである。この 計画では劣悪な社会インフラに悩む貧しい都市の事業建て直しを支援するために公的援助を与えた。 他にも、ガイヤキル(エクアドル)やコルドバ(アルゼンチン)のコンセッションやセネガルのアフェ ルマージュなどの好例がある。   貧困層への給水拡大のための助成も考慮すべきである   多くの途上国で、貧困世帯は上下水道料金を払えずにいる。しかし、上下水道はすべての人に適切 に普及されるべき必需の公共サービスである。社会的公正を進める意味合いだけでなく、都市の密集 地区に住む貧困層に上下水道を普及させることは、公衆衛生や環境保護の点ですべての住民にとって 大きな利益となる。これは、実際にかかった費用すべてを支払うことができない貧困世帯がどこにい ようと、接続のための(時には利用のための)助成を行う理由として十分である。  注目すべきことは、成功した官民連携事業の大半は何らかの形で貧困層への助成プログラムを実施 し、貧困世帯が接続費用を支払えるよう様々なメカニズムを持っていた。ブエノスアイレス(アルゼ ンチン)、ラパス - エルアルト(ボリビア)、バランキーアとカルタヘナ(コロンビア)、マニラ(フィ リピン)では、民間事業者が無利子の融資を準備し、分割で新たな接続費用を支払えるようにした。 その他、コートジボアール、ガイヤキル(エクアドル)、セネガルでは事業の責任として大規模な接 続助成計画を持っていた。貧困層への接続助成計画の必要性は次第に知られるようになり、最近では カメルーン、モロッコ、マニラ(フィリピン)などで、既存の官民連携事業に対して世界銀行の信託 基金(GPOBA)を通じてドナーからの支援金を提供する数件のプロジェクトを立ち上げた 68。  68 GPOBA は、 世界銀行による多国ドナー信託基金で、 貧困層への基本的なインフラ普及を促進するために、 成果に基づく援助 を行う仕組みである。 援助資金は、 受益世帯に接続が行われた後にサービス提供者に支払われる(詳細は http://www.gpoba. org 参照)。 104 水道料金と事業者の報酬の分離が効果を挙げる可能性   水道事業の改革を実施するうえで大きな課題となるのが、運転管理(O&M)費用すら回収できな いほど低い料金をどのようにしてコストの回収ができる水準にまで引き上げるかということである。 問題の難しさの根底は、官民連携事業が持続するためには事業者の財政上の収支バランスを保証する 必要があるにも関わらず、水道使用者側は通常実感でき、目に見える改善が図られないと料金値上げ に応じようとしないことにある。社会インフラが荒廃した状態で始まった場合、そのような改善が図 られるまでには時間がかかる。この状況が官民連携事業の財政上の計画を策定するうえで大きなジレ ンマとなる。  給水サービスが低劣なため水道使用者は料金支払いの意思を持てない、その結果水道事業者は十分 な収入が得られない、などの悪循環を断ち切るために、官民連携事業の計画の中には民間事業者への 報酬と水道使用者が支払う水道料金を切り離したものがある。この方法であれば、政府や行政当局は 料金を段階的に値上げすることができ、給水サービスのレベルが向上し、水道使用者の支払意思が発 生するペースに値上げを合わせることができる。料金水準が費用を完全に回収できる水準になるまで の間、料金収入に加えて、政府が民間事業者に不足分を支払うのである。この方法のメリットは、水 道使用者に対して給水サービスの改善を見せてから、その分に対する料金支払いを求めることができ る点である。ただし、限界もあり、これは誰か(政府、またはドナー)が収入のギャップを埋める資 金を提供できる間しか続けることができない。  この方法は、西アフリカ(ギニア、ニジェール、セネガル)のアフェルマージュ契約で採用された。 このような契約では、民間事業者は配水に対する料金によって報酬を得ているが、この場合、運転維 持管理費用は完全にまかなえるものの、政府が責任を負う投資費用についてはカバーできない。事業 者の委託料は契約に定められ、水道料金とは異なっている。水道料金については、政府がすべて管轄 する。その根拠は、官民連携事業の初期においては、水道使用者から徴収した料金の殆どが事業者へ の報酬に充てられるので、財政上の差額を資産保有会社が吸収しなければならないため、としている。 効率化や普及拡大により事業者のキャッシュフローが改善されたら、料金収入から資産保有会社へ廻 す額を増やすことができ、やがて(セネガルに見られるように)運転管理に加えて投資の費用もすべ て十分カバーできるようになる 69。  料金水準を民間事業者への報酬と切り離す方法は、リース・アフェルマージュでは比較的簡単だが、 事業者が運転管理費用だけでなく投資費用の責任を負うコンセッションの場合、事情は複雑である。 コンセッションの中には間接的な方法を採ったものもあり、政府が投資の資金援助を行って、料金の 影響を低減するようにしたものもある。本報告で調査した官民連携事業の中では、ジャカルタ(イン ドネシア)の事業がコンセッションで明確に水道料金と事業者の報酬を切り離した唯一の事例である。 そこでは、コンセッション受託者は配水量に基づいた報酬(アフェルマージュによくある)を受け取 る。これは契約に記載されており、政府は水道使用者の水道料金を自由に改定することができる。こ れは、インドネシアがアジアの金融危機の際、深刻な影響を受けたからであり、政府側も一定期間料 金をインフレに合わせて調整することを避けたかったためである。水道料金は何度か改定され、かな 69 この方法が実際にどのように適用されたかは、ケースによって様々である。セネガルでは、 官民連携が始まったときの料金 水準が運転維持管理すべてと投資の一部をまかなえる水準であったが、ニジェールでは、 かろうじて運転維持管理をカバー する程度だった。ギニアでは、 当初の料金水準では運転維持管理の総額すらまかなえなかった(世界銀行の融資は、財務上 の不足分を埋めたり事業者への報酬を払ったりするために使用された)。 105 り高い水準となった。この柔軟な方法を採ったことで、政府は社会的・経済的な変化に合わせて料金 政策を調整することができ、恐らくこれが厳しい見通しの中で実施されたにも関わらず、2 件のジャ カルタのコンセッションが生き残った理由といえるだろう。 官民連携が労働力に与える広範な影響について取り組む必要性   都市水道事業の民間参入に対する批判材料の一つに、そこで働く人々に悪影響が及ぶ可能性を挙げ ることがよくある。第 3 章で論じた通り、多くの事例で労働生産性の向上は確かに労働力の削減に 伴うものだった。人員過剰が慢性化していた事業では、官民連携事業によって大がかりな人員削減が 行われた。技術上、効率上の根拠によって正当化されたとはいえ、深刻な社会不安を呼び起こしたこ とは疑いようがない。  従業員は資産であり、従って官民連携による事業の変革においても重要な利害関係者である。どの ようなタイミングで人員削減が必要になるとしても、適正な退職手当を用意し、対象となる家庭の社 会的な影響を抑えなければならない。経済全体から見て、たとえ水道事業の従業員の変動は小さくて も、このことは必要不可欠である。大規模な人員削減を行ったブエノスアイレス(アルゼンチン)、チリ、 マニラ(フィリピン)のケースなどでは、相当額の退職手当を交渉することができたが、本報告では その他の官民連携の多くの事業で同じようなことがあったかどうかを調査することはできなかった。 官民連携事業の中には、急激な人員の減少を避け、自然減や希望退職を勧めることで過剰人員を徐々 に減らす方法を採ったものもある。  官民連携と労働力の問題は、生産性と要員の点に絞られがちである。民間事業者の参入は、各事業 の従業員にとって様々な意味合いを持つが、一般的には自分たちが公務員の地位を失い、それに伴う 便益をも失うということになる。同時に、職場環境の変化によって、研修を受けたり、昇進の道が開 けたり、最終的にはより熟練し(希望的観測だが)高い給与を得られたりと新たなチャンスも生まれ る。残念ながら、このような重要な点はまだ十分な理解ができておらず、労働力に対する官民連携の すべての影響について今後の調査が必要である。 2) 都市水道事業の官民連携の新たな世代   官民連携は複雑な仕組みであり、途上国や新興国の状況は国によって大きく異なる。本報告の調査 結果では、途上国の水道事業の官民連携についてのより良い理論的枠組みに向けてカギとなる要素を いくつか示している。これは、都市水道事業において政府が民間主導をより十分に生かすための一助 となるだろう。    経営効率と給水サービスのレベル向上への着目   1990 年代、民間事業者に都市水道事業を引き継がせることの魅力は、民間資金の供給にあると広 く予測されていた。経験を積むにつれて、この期待が誤りであることが分かった。民間水道事業者が 最も大きな貢献ができるのは、経営効率と給水サービスのレベル向上を通してだった。この利点が、 やがて事業の信用度を高め、投資のための資金を得易くしていく。  経営効率と給水サービスのレベル向上を重点として官民連携を行うのであれば、この目標を達成す るために適切な条件を整えることにもっと力を注がなければならないことは明白である。その意味で、 106 既に知られていることだが、本報告の結果として以下を再確認したい。重要な要素は、契約について 十分な検討のもとにこれを策定し、適切な監視を行うことであり、それには健全な方針と規制の枠組 みを備える必要がある 70。しかし結果を見ると、二つの重要な要素が見過ごされていることが多いこ とも明らかになった。  第一に、民間事業者によるメリットは自動的に得られるわけではなく、民間事業者が必ず恩恵をも たらすとは限らない。うまくいくためには、契約策定の詳細にまで注意を払う必要がある。特に、イ ンセンティブを含む場合はなおさらである。契約については、その実施に十分な監視を行い、報告を 厳格に義務付けなければならない。可能であれば、業績を監視するために、独立の信頼できる技術監 査員を配置する。民間事業者と委託元の地方政府の間に真のパートナーシップを醸成し、時間の経過 とともに発生する不可避の問題について解決策を発見し易くしていく必要がある。この意味で大きな 課題となるのが、政府内に制度としての能力(省庁と規制当局)を構築していくことであり、これに より民間事業者と官側の当局との連携が同等の立場で形作られる。ここでは、アンマン(ヨルダン) で見られたように、国際金融機関が重要な役割を果たす 71。  第二に、官民連携の形式が異なれば、同じ成果を挙げることはできない。改善の及ぶ範囲は、どの ような責任が実際に民間事業者に移行したかということや、実際の契約の継続期間に大きく左右され る。この見地から、官民連携事業は大きく二つのグループに分かれる。マネジメント契約は、本来的 に効力の低い手段である。民間事業者は短い期間で限定されたリスクと責任を負う。コンセッション、 リース・アフェルマージュ、共同所有会社は、より効力の高い手段と考えられる。長期間でより多く のリスクと責任を民間事業者が負うためである。   官民双方の出資を合わせ、長期の資金を確保する選択肢  1990 年代、民間事業者に高い期待が寄せられたものの、全体として失敗に終わったことを考える と、都市水道事業の投資ニーズに対する資金調達の代替方法を見つけることが非常に重要である。実 際に、様々な官民の資金を組み合わせたいくつかの融資の選択肢が出現してきた。  大規模な水道事業の投資において、外貨建ての民間融資は問題をはらむことが証明されたものの、か といって民間融資を完全に排除するのも間違いであろう。チリ、中国、コロンビア、マレーシア、モ ロッコなど中所得国の金融市場はかなり成熟しており、進んだ途上国の中には、民間の水道会社が中 期のみならず長期の資金を自国通貨によって、合理的な金利で調達できているところもある 72。この ことによって、多くの先進国では水道のコンセッションが実行可能な提案とされている。  しかし、多くの途上国では国内の金融市場が十分に発展しておらず、水道事業の官民連携の資金の 少なくとも一部は、政府やドナー資金を活用していた。これは、リース・アフェルマージュ、マネジ 70 官民連携の設計と実施に関する良好な事例の包括的な検討については、PPIAF と世界銀行(2006)の報告を参照のこと。 71 アンマンのマネジメント契約では、実施の 2 年後にいくつかの点で官と民のパートナーシップが暗礁に乗り上げ、困難な状 況に陥った。政府の要請で国際金融機関が支援して(援助および技術的専門ノウハウを通じて)プロジェクトを管理する特 別ユニットを立ち上げ、専門家チームが専任となり、政府がマネジメント契約の中でより効果的な役割を果たすことができ るよう徹底した。 72 モロッコでは、 2007 年に期間が 16 年を超える融資をコンセッション受託者が利用できるようになり、これにより 1997 年 以降約 3 億 US ドルにのぼる現地通貨での借入れが可能となった。マニラ(フィリピン)では、 2005 年 3 月にマニラ・ウォ ターの株式の一部が新規に公開され、大成功を果たした。これは、1997 年の金融危機以降のフィリピン証券取引所におい て、国内と海外の投資家に同時に売り出した、初めての国内企業の上場であった。募集枠の 15 倍の申し込みがあり、9600 万 US ドルの資金が集まった。 107 メント契約と大半の共同所有会社で採用された方法である。この場合、民間事業者の投資に対する貢 献は間接的であるが、非常に重要ともいえる。経営効率と給水サービスのレベルを向上させることで、 事業者が投資のためのキャッシュフローを生む能力を引き上げ、信用力を高めることで、融資を受け 易く(ドナーか金融市場かに関わらず)、より良い条件で借入ができるのである。   混成型長期官民連携の資金調達で利用可能な様々な選択肢   本調査から得られた一つの話題として、マネジメント契約、リース・アフェルマージュ、コンセッ ションという従来の官民連携事業の分類方法は、すでに時代の情勢に合っていないということが挙げ られる。時間の経過を経て最終的に持続可能であることが示されたプロジェクトの多くは、特に投資 資金の出所を考えた時に、この分類のどれか一つにぴったりと当てはめることは難しい。ガボンとコー トジボアールが良い例である。ガボンでは契約上の仕組みはコンセッションであり、コートジボアー ルの場合は通常アフェルマージュに分類される。しかし、どちらのケースも投資の大半が水道使用者 から集めた料金の再投資であり、公的資金も民間からの借入れも利用していない。  実際、途上国の水道事業の官民連携において成功した資金調達モデルの多くは、基本的に混成型の スキームである。実際の契約上の仕組みは様々だが、基本方針は必ず共通している。すべての営業上・ 運営上のリスクを民間事業者に移転し、投資については政府と民間の資金を様々な形で組み合わせ、 これに直接の料金収入を合わせる。一般的に、すべてのケースで民間の投資が必要となるが(少なく とも資本参加を通じて)、投資のニーズをまかなうというよりは、問題が発生した場合に民間事業者 が資金を確保する手段という方が多い。いくつかのスキームが下記の通り展開された。     ・大部分の投資資金の調達を水道使用者からの直接収入に依存したコンセッション  ガボンとマリにおける電力と水道事業の統合コンセッションでは、徴収した料金収入からのキャッ シュフローの一部を毎年再投資する投資計画により、大きな負債を抱えることなく資金の大半をま かなった。モロッコでは、料金収入の不足を基金に割り当てられた特別な料金付加金と、新たに接 続された水道使用者が支払った巨額の拠出金(実際の接続費用よりかなり高額)でまかなった。コー トジボアールの官民連携では、過去 15 年間水道管網の拡大はすべて水道料金プラス付加金によっ て資金調達し、政府の出資はなかった。これは、本来のアフェルマージュやこの分類に該当する事 業に比べると、混成型の官民連携といえる。  ・ 西アフリカのアフェルマージュモデル : キャッシュを生み出す公的資金から自己資金調達へ  これは、フランス型の標準的なアフェルマージュ方式から進化した特殊なモデルであり、民間事業 者に対してより効率的な経営を促すために、追加的な目標と違約金を盛り込んだものである。これ は、資産保有会社を通じて公的資金の借入れに大きく依存しているが、移行期間後は水道使用者か らの料金によって自ら資金を調達するようになり、運転管理費(事業者への報酬として表わされて いる)と政府への債務の返済をまかなう 73。投資の一部は民間事業者の出資として残り、民間事業 73 セネガルでは、 資産保有会社の資金は当初政府を通じドナーからの借り入れによって、コンセッションの金利で調達した。 収入のうち、事業者への報酬を支払った後に残った額は、債務の返済をまかなうには不十分だった。しかし、事業の再建が 徐々に進むにつれ、資産保有会社に割り当てられる料金収入の額が増え、ついには債務の返済分をカバーできるようになった。 財政が健全になったため、資産保有会社は現在、ソブリン保証なしで直接借り入れを行うことができる。 108 者による投資が実施されることもある。  ・ 共同所有会社の資金調達の枠組みはケースにより様々である  この枠組みは、スペインの官民連携の手法から着想を得て展開されたものである。民間事業者は、 最初に事業の資金を拠出し、それは(保証付きまたは保証なしによる)主要な株主からの借り入れ を通じて投資の資金となる 74。共同所有会社は、コロンビア(バランキーア、カルタヘナ、パルミラ、 サンタマルタ)、ハバナ(キューバ)、サルティーヨ(メキシコ)といった大都市の事業で採用され、 成功した。 EU に新規に加盟した国々の中にも共通の例が見られる(チェコ共和国、ハンガリー)。 ・ 投資の一部を政府からの支援で調達したコンセッション  この方法は、資金源となり得る三つ(公的資金、民間資金、水道使用者からの料金)をすべて組み 合わせたものである。これは、コロンビアの数多くの水道事業の官民連携が実証している。ここでは、 事業近代化計画のもとで、料金の影響を抑えつつ、管網更生・拡大工事をリードするための政府の 助成を得て事業が展開された。この手法は、ガイヤキル(エクアドル)、コルドバ、およびサルタ(ア ルゼンチン)でも活用された。ガイヤキルでは、接続助成金と管網拡大の部分について、電話税か ら転換された資金が政府によって充当された。コルドバのコンセッションでは、市が管網拡大の資 金調達を行い、サルタでは政府が下水道の資金を援助した。 公的資金による土木工事の実施にはいくつかのメカニズムが存在   投資計画についての官と民との間の取り決めは、官民連携プロジェクトの最終的な成果にとって重 要な役割を果たす。投資の大半を公的資金に支えられているケースでは、実際は様々なスキームが採 用されている。本報告の調査では、官民のパートナー間で微妙なバランスが必要であることを示して いる。このような投資は事業者が扱うべきか、公的機関が扱うべきかという問題にまだ結論は出てい ない。  サハラ砂漠以南のアフリカでは、アフェルマージュ契約の場合、一般的に公営の資産保有会社の設 立を伴い、そこがシステムを所有し殆どの土木工事に責任を持つ。その実績は様々である。ギニアで は投資計画に大幅な遅れが生じ、官民連携プロジェクトの成果にマイナスの影響を与えた。セネガル では資産保有会社(SONES)が投資計画を予定通り効率的に行った。これは官民連携プロジェクトの 業績全体に有益であることの証明になった。  マネジメント契約でも、官側の責任で大規模な設備工事を予定しつつ、投資の実施に重大な遅れを きたしたケースがあった。アンマン(ヨルダン)では、公的機関が投資計画を完遂できるようマネジ メント契約が 2 度延長された。官の投資機関で遅れが生じた原因の一つは、煩雑な公共調達規則と 事業者と官の相手方との間の調整上の問題にあった。  成功した多くの官民連携事業では、少なくとも一部の投資の責任を民間事業者に移管することに よって、土木工事の遅れのリスクを低減することができた。コートジボアールのアフェルマージュで 74 この手法は、他のタイプ(例えば、 カルタヘナのリース契約やバランキーアのコンセッション契約のケース)に比べて、事 業者と主要な官側の株主との間で交わされる契約の性質や、事業の信用度、国内の金融市場の状況に左右される。それにより、 事業者が直接借り入れできるか、また、官側か民間のパートナーからの保証が必要かが決まる。 109 は、民間事業者が直接投資を行った(基本的には管網の拡大に注力した)。カルタヘナに見られるよ うな共同所有会社では、事実上、民間事業者がすべての投資計画を取り仕切っており、同じようなこ とは、投資計画の実施を民間に任せたマネジメント契約(ヨハネスブルグの例)でも起こっていた。 セネガルやニジェールでは、事業者が直接行う毎年の管網更新工事の資金の一部を、自身の収入によっ て手当てすることがアフェルマージュ契約に含まれていた。この考え方はニジェールやカメルーンの アフェルマージュでさらに進んで、ドナー資金による投資計画の実施の一部を民間事業者に委託し、 官民連携プロジェクト初期の(最も重要な)時期に資産保有会社の能力に頼り過ぎないようにした 75。 コラム 4.1 セネガルとニジェールのアフェルマージュにおいて、民間事業者はどのようにして効率的 な公共投資の進展に貢献したか    セネガルとニジェールのアフェルマージュの枠組みは、政府が資金の調達のみならず、 資産保有会社を通じて投資の実施の殆どを行っている場合でも、効率化の進んだ民間事業 者が重要な役割を果たせることを物語っている。こうした責任を政府任せにすると、政府 が投資の機能を効率的に実施する保証がないため、アフェルマージュの根本部分が弱体化 すると考えられがちである。セネガルとニジェールのアフェルマージュ契約では、このリ スクを低減するいくつかの特徴を備えていた。  どちらの契約も、管網更生工事のための投資の一部を、毎年民間事業者が直接行うとい う内容を盛り込んでいた。運営に直接支障をきたす場合に事業者が緊急工事を実施できる よう柔軟性を持てただけではなく、この取り決めによって現状の調達コストのベンチマー クを得ることができた。民間事業者が一部の投資に責任を持ったことで、民間事業者と公 的機関が購入した水道管など多くの品目で有意の比較対照ができるようになったためで ある。最近のニジェールの報告では、民間事業者が購入する水道管や水道メータは、ア フェルマージュ以前の公営事業が支払った価格より 30 〜 75%廉価であることが分かって いる。  セネガルの民間事業者は、投資計画の実施の大部分に責任を負っていないにも関わら ず、計画を規定するうえでも重要な役割を果たしている。契約では、事業者の報告をもと に、政府の投資計画を 3 年ごとに見直すことになっている。この方法によって、住民へ の給水サービスに本当に影響のある運営上の優先順位に沿って資金が使われていること を確認し、意義の疑わしい無駄なものに使用されるのを防いでいる。投資の決断の意思形 成から離れていても、事業者は日常的にすべての土木工事の監督業務に関わっているので ある。加えて、このような工事が適切に実行されることに強いインセンティブ(動機)が 働いている。工事後にこの施設を運転しなければならないからである。最も重要なことは、 政府によってあらゆる土木工事が承認され、対価が支払われる以前に、事業者自身が承認 しなければならないことである。その際、資産保有会社の社員には、業者が行う業務を適 切に監督することについて、大きなインセンティブ(金銭的誘因)を与える。 75 ニジェールでは、 初期の数年間民間事業者が International Development Association(IDA) が資金提供した管網拡大工事と助 成を受けた接続計画を担当した。カメルーンでは最初の 3 年間に、民間事業者が実施するアフェルマージュ 契約とともに、 2000 万 US ドルの緊急更生工事の建設契約が一緒に入札にかけられた。 110  一見、民間事業者に土木工事の実施(官が資金を出資)を委託することが、投資と実施の分離から 発生する問題の解決策となりそうであるが、実例を見ると、問題はもっと複雑である。ギニアでは、 官の資産保有会社が十分機能していないことに不満を持っていたことから、事業者が徐々にドナー出 資の計画について(直接建設会社として)実施する部分を拡大していった。しかし、このことによっ て実施に対する責任の軸がぶれ、インセンティブの枠組みが歪んでしまった。結局、官民連携プロジェ クトの業績に悪影響が出た。マプート(モザンビーク)では、民間事業者がドナー出資の計画の大半 を実施するようにリース契約を計画したが、この仕組みは実際に十分な成果が挙がらなかった。事業 者にドナー出資の投資プロジェクトの経験がなかったのが一因だった 76。   セネガルの官民連携プロジェクトの成功例は、土木工事の多くを公営の資産保有会社に残し、管網 の拡張や更生工事など一部を事業者の責任に移管することが有効な方法ではないかと示している。ド ナー出資の緊急工事の実施を民間事業者へ委託すること(新たに設立したばかりの公営の資産保有会 社のリスクを減らす方法として)も一つの選択肢として考えられるが、注意が必要であろう。本報告 の調査結果では、公的資金をどのような経路で生かすのが最も効果的かという問題に対し、結論には 至らなかった。恐らく最善の解決策はケース・バイ・ケースであろう。  3) バランスのとれた議論を始める時   振り返れば、都市水道事業の官民連携が様々な議論を呼んできたことは特に驚くには当たらない。 1990 年代、水道分野には難問が山積していた。多くの国で大きな構造改革が必要だったが、そのよ うな改革は難しく、既得権者からの激しい抵抗に遭うことは避けられなかった。多くの国で官民連携 が改革のために望ましい(時には唯一の)選択肢であると考えられ、利害関係者はこれに過度な期待 を寄せ、達成が難しい内容を契約上の義務に盛り込んだ。しかし、結果は失望に終わることが多かった。  本報告では、健全な計画策定が行われ実施された官民連携事業は、途上国で業績不振に陥っている 水道事業の運営と財政を改善するために、実行可能な選択肢になりうることを示している。しかし、 当初の期待とは裏腹に、水道分野の長期の官民連携事業は、普及率の格差を狭め、不振に喘ぐ事業を 建て直すのに必要な海外からの巨額の資金流入を起こすことはなかった。民間事業者が貢献したのは、 主に給水サービスのレベルと経営効率の改善であり、それも数多くのプロジェクトの間で成果の度合 いは様々だった。本報告が水道の官民連携に関する様々な問題についての最終結論ではないことは確 かであり、分析という点でもまだやるべきことがある。特に、貧困層への影響の点で詳細な分析がで きなかった。  このような教訓が市場に取り込まれていくにつれて、官と民との間でよりバランスのとれたリスク 配分を行うことに立脚した水道事業の官民連携に、新たな世代が徐々に出現した。このような新世代 の官民連携事業では、民間事業者を民間資金の呼び込みのためというよりは、給水サービスのレベル と経営効率を高めるために活用する。政府が主に長期の資金調達の責任を負うものの、民間セクター からの資金拠出を一部含めた混成型など、その他の資金調達の選択肢が現れ始めている。近年途上国 から新たな民間事業者が続々と出現しているのも大きな発展といえる。これによって、多くの国で官 76 マプートでは、 契約で事業者が実施する土木工事を二つに分類した。(1) 設備工事プロジェクト(主管、ポンプ場の更生、処 理場の能力増強など) :事業者は、入札に応じ、受託し、国とドナーの規則に従うよう監督する。(2) 配水管網の更生と延長 に関する委託工事プロジェクト:事業者は、自身で実施しても、柔軟な方法で外部に委託しても良い。 111 民連携水道事業の可能性とそれを受け容れることの容易さがますます高まるだろう。  本報告は、途上国の都市水道事業を改善させるために、官民連携事業が実行可能な選択肢になり得 ることを示している。しかし、これはそれだけが選択肢であるという意味ではない。途上国には、行 き届いた管理がなされている公営事業も見られるが、この事実は 1990 年代の官民連携の時流の中で 見過ごされてきた。過去 10 年間、世界銀行やその他のドナーによる支援を受け、官による改革が成 功している事例がある。それは、ブルキナファソ(ウガンダ)やカンボジアの首都プノンペンなど非 常に貧しい地域でもうまくいったのである。多くの国で公営水道事業が立派に運営されており、水道 分野で実際に運営する人々は、どうしたら水道事業の改革を成功させられるかについて徐々に理解を 深めている(バイエッティ、キングダム、フアン・ギンネケン 2006*)。立派に機能している公営事 業とは、料金が費用を回収できる水準に設定され、労働生産性が十分に高く、水道使用者が請求され た料金を支払い、この社会インフラがきちんと維持管理され、効率的に運営されているものである。 これを達成するためには、関与する政府は様々な選択を行う必要がある。それには、健全な料金設定 方針を実施し、運営の障害を除去し、結果に責任を持つプロフェッショナルとしての管理を行うこと などが含まれる。  * 業績良好な公営水道事業の特徴  水道事業改革の様々な選択肢の中で、官民連携は政府にとってハイリスク・ハイリターンな性格を 持った提案といっていいだろう。官民連携の領域の中でも、マネジメント契約がリスク・リターンと もに低く、リース・アフェルマージュ、コンセッションとなるにつれて、ハイリスク・ハイリターン となる。官民連携事業は複雑な仕組みから成っており、途上国の制度的な弱さ、変動の大きな経済と いった状況の中で実施するのは難しく、取引には巨額の費用がかかる。残念なことに、特に契約の初 期、まだ住民が目に見える改善を実感していない時期には、既得権を持った人々からの攻撃にも遭い 易く、機会に便乗する政治家のターゲットにもなり易い。加えて、民間事業者が必ずしも成果をもた らすとは限らないという事実も、見過ごしてはならない。  公営事業のみの改革の場合、比較すると改善のスピードはゆっくりであるが、政治的なリスクは少 ない。しかし、公営事業の成功例に見られるように、そのような改革においてもなお、政府には大変 な努力が必要である。目に見える成果を得るためには、官民連携事業と同様、水道分野全体、特に事 業を統括する部分においての構造改革が必要である。既得権を有する人々が改革に抵抗することにも 対応しなければならない。給水サービスが財政面で確実に持続できるようにするためには、健全な商 業的管理の実践が必要である。  本報告では、都市の水道分野に民間が参入したことで、多くの国で数千万人が恩恵を受けたことを 示しているが、官民連携によってもたらされた恩恵は、このように成功したプロジェクトの給水人口 を遥かに凌ぐと考えられる。官民連携プロジェクトによる水道の利用者が僅かしかいない国において も、公営水道事業と並んでいくつかの民間事業者がいることで、昔ながらの独占を享受してきた分野 に競争の感覚を持ち込むことができ、官側の事業者に対して、業績を改善し、よりよい給水サービス を提供するようプレッシャーを掛けることができたのである。この状況は、ブラジル、コロンビア、 モロッコなどの国々で、近年都市の水分野が良い方向に進展していることに現れている。また民間事 業者が、都市周辺の地域への普及拡大について、契約目標達成において困難に陥っていると広く報じ 112 られているが、このことが一つのきっかけとなって、ドナーが課題としている数々の項目の中で、ど のようにして都市の貧困層に上下水道サービスを普及させるかという重要な問題が、第一の優先項目 として置かれることになったと考えられる。  そろそろ、官か民かという不毛な論争から脱却すべきだろう。民間の多国籍巨大企業が 2000 年か らハバナ(キューバ)の水道事業を運営し続けているという事実は、いかにして経営困難な都市水道 事業を建て直すかという問題が、イデオロギーだけでは解決できないことを示している。途上国にお いて公営水道事業がうまくいっている場合、効率的な民間事業者と共通する点が多い。それぞれの国 が望む上下水道事業の形式や、そのサービスにどの位の対価を(料金や税金の移転を通じて)支払う 準備があるかは基本的な部分でそれぞれの政府が必ず直面する決断である。1990 年代、官民連携は 複雑に絡んだ問題を見事に解決してくれるように見えて、それが魅力の一部だった。しかし、水分野 の難問の裏に潜む要因は、技術的 ・ 経済的な問題と同じくらい社会的 ・ 政治的要素をはらんでおり、 しかもその事実は当時あまり重視されていなかった。料金水準を設定し、給水サービスの提供者に責 任を負わせ、社会 ・ 環境面から見て相矛盾する目標を達成するために経済面でトレードオフ * を行う といったことは官側の問題であって、このことは事業をどのように運営するかとは別個の問題である と同時に、官側が当局として避けて通ることのできない課題でもある。民間事業者は活力を与え、効 率を改善し、給水サービスと責任を担う文化を創り上げることはできるが、政府によって重大な、時 には困難な選択が必要であることは揺るがない。根本の部分で、多くの国が今も 1992 年のダブリン 水サミットで採択された宣言、「水は社会的、経済的な財である」 と格闘している。この財を社会的、 経済的に持続できる方法で供給するための、体制上のモデルを発見することは非常に難しく、それが すなわち、利害関係者の間でまだ解決できない問題が深く横たわっていることを浮き彫りにしている。 この難題を各国がいかにして解決するかは、単に水道事業を官が運営するか、民が運営するかという ことを遥かに超える問題である。   * 同時に満足できない諸条件の間の取捨選択 (訳者注) (調整)  上下水道の官民連携事業において、以前より優れた契約の仕組み(より適切なリスク配分、健全な 財政計画の策定、より大規模で多様な事業者への委託)が現れてはいるものの、都市の上下水道サー ビスを民間事業者に委託することは、今なお困難を伴い、現時点でこの分野に有力なモデルが出来上 がったとはいい難い。これは、民間セクターが関与する幅が広がっているということでもある。今も 公営で行われている水道事業で、運営の責任を委譲せずに民間に門戸を開いているものが多数ある。 ボゴタ(コロンビア)の公営事業では、地元の民間企業に管網管理のすべてを委託している。メキシ コシティでは、民間事業者が 10 年を超えて検針と料金請求業務を行っている。北ヨーロッパでは、 効率化が進んだ実践例を受けて、ますます多くの水道事業で給水サービスの柔軟性を拡げ、コストを 抑制するために再委託を活用している。  民間事業者自身ではなく民間投資家を通じてではあるが、民間融資も新たな前進を見せている。こ れは、業績の好調な公営事業に、中央政府の保証なしで直接融資することに興味を寄せる投資家が増 えているのである。この方法は、各国の金融市場が整備され、公営事業の業績が好転し信用度が上が るにつれて、徐々に多くの国で可能になっている。浄水処理施設の建設 ・ 運転 ・ 譲渡(BOT)契約 を 通じて民間資金を獲得するのに加えて、公営事業でも少数株主の株式を売却したり(サンパウロ〈ブ 113 ラジル〉の例)、直接自国の民間銀行から借り入れたり(コロンビア、メキシコ、モロッコの例)して、 民間の資金を手にするところが増えている。多くの国々で、ソブリン保証なしの市場ベースでの融資 の可能性が増え、公営水道事業に対し、財政上 ・ 経営上の業績向上へ向けてインセンティブを与えて いる。それが一助となり、徐々に民間が運営する事業と同じ条件で競争することができるようになっ ている。  民間セクターが提供できるものは多くあり、また様々な形で存在する。純粋な公営水道事業という ものは既になく、なぜなら殆どの公営水道事業において、日常的に様々な形で民間が関わっているか らである(土木工事、委託業者、商業銀行などの場面で)。同様に、純粋な民間水道事業(チリの例) は官民連携の中でもほんの少数で、セネガルの官民連携のような仕組みでは、民間セクターと同じく らい政府機関が関わっている。近年、先進国でも途上国でも、公営事業が自らの所管区域外の契約を 求めて活動を始めており、そこでは法的に民間事業として役割を果たしている。従来の官と民の境界 は曖昧になってきており、政府の意思決定者は水道事業の業績を向上させるために、自らの裁量で数 多くの選択肢から最適なものを選ぶことができる。途上国において都市の水道セクターが直面する多 くの課題と取り組むために、政策立案者は活用しうるあらゆる手段を必要とする。今がまさに、幅広 いパートナーシップを創り上げる時であり、一切を排除せずすべての可能性を追及すべきであろう。    114                                  付録 A 本報告が対象とした業績調査の官民連携事業 115 116 付録 表 A.1 本報告が対象とした業績調査の官民連携事業 117 118 出所 : 著者 契約期間が゙少なくとも 5 年間(マネジメント契約は 3 年)で経営効率を判定したため、大規模な官民連携が行われたコチャバ ンバ 、ダルエスサラーム (ボリビア) (タンザニア)、タクマン(アルゼンチン)は期間 1-2 年で終わったため本調査には含まれていない。 給水人口は普及率から推定した。 (契約)年数欄に終期がないのは調査実施の 2007 年時点で契約が進行中であることを示す。 119 120 附録 B 大規模な 36 官民連携プロジェクトの新規接続数と 給水人口増加数 121 122 附録 表 B.1 大規模な 36 官民連携プロジェクトの新規接続数と給水人口増加数 出所:著者の計算による数字はラウンドした 123 124 参考文献 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 都市水道事業の官民連携 途上国における経験を検証する 世界銀行 THE WORLD BANK 民活インフラ助言ファシリティ PPIAP 定価(本体 2,200 円+税) 平成 24 年 5 月 30 日 発行    著 者 フィリップ・マリン    訳 者 齋藤 博康    発 行 株式会社 日本水道新聞社    〒 105-0001 東京都千代田区九段南 4-8-9                  日本水道会館    TEL 03-3264-6721  FAX 03-3264-6725 ISBN978-4-930941-45-9 C2036 ¥2200